祭りの後の感想戦?
「グルーワルドさん」
「フカさん。
どうしました?」
「ここは神話の国ですか?」
「え?」
「ここは神話の国だったのですか?」
「待って待って……えーっと。
落ち着いてね」
「落ち着いています」
「急にどうしたの?」
「ドラゴンが……いっぱいでした」
「いっぱいだったね」
「腕相撲したり、綱引き? でしたか? それをやったりしてました」
「楽しかったわね」
「はい。
楽しかったです。
そして、食事が素晴らしく美味しい。
つまりここは神話の国!」
「あはは……限りなく近いかもしれないけど、違うからね」
「グルーワルドさん。
私も大きくなったら武闘会に出たいと思います。
まずは一般の部に出て勝利を」
「あはは。
そのためには、頑張って身体を大きくしないとね」
「はい。
頑張ります」
獣人族のガルフと、リザードマンのダガが体操をしながら昨日の試合を振り返っていた。
「キアービットさんとの戦いは、もう少し形になると思ったんだけどな」
「天使族との戦いは研究不足だったな」
「むう。
手合わせの機会がないからな。
事前に何試合かやってれば……」
「それは向こうにも言えることだろ。
お前のクセが見抜かれて終わりじゃないか?」
「クセって攻撃のパターン化のことか?
それなら派生を増やして対処したぞ」
「派生を増やしても根幹が同じだろ。
派生前に潰される。
キアービット殿に負けたのはそれだろ?」
「あれは向こうが槍を囮に蹴り技で来るなんて思わなかったからで……」
「事前にキアービット殿は天使族にしては珍しく格闘戦もできると教えただろう」
「そうだけど……はぁ、全ては実力不足か」
「まあまあ。
よし、身体も温まってきた。
やるか」
「おう。
まずはキアービットさんの所だな」
「うむ、話は通してある。
ボコボコにされようか」
「一本は取る」
「今年も凄かったな」
「そうですね。
貴方も……もう少しでした」
魔王国四天王のランダンとビーゼルが宿のテーブルで食事をしながら呟く。
「組み合わせがなぁ……って、組み合わせでどうこうなるレベルじゃないよな」
「そんなことはないでしょう」
「いやいや、全員が連戦前提の体力温存。
俺は勝つために全力だ。
一回は勝てても、二回は無理。
その結果だ」
「個人戦なら、貴方は魔王国でも有数なのに」
「そんなプライドと自信は砕け散ってるよ。
それよりあのガルフっての、なんとか魔王国に引き込めないか?」
「無理です。
彼は少し前にこの大樹の村に移住しました」
「手遅れだったか……シャシャートの街で会った時に多少強引にでも引き込むべきだったか」
「見たところ、彼は武人気質です。
魔王国の将軍や教官を引き受けてもらえるとは思えませんよ」
「むう……。
じゃあ、ラミア族や巨人族は?」
「可能性はありますが……ラミア族や巨人族が部隊を率いたり、技術を教えたりできると思いますか?」
「やってみなければわからないだろ?」
「一応、打診はしてみますが期待しないでくださいよ」
「打診できるだけ凄いよ」
「娘がラミア族とは懇意にしているみたいでして。
そういえば、貴方の妹さんの件は上手くいったようですね」
「おっ、その話する?
長くなるぞ」
「宗主様。
鎮静の祈りは終わりました」
「ご苦労様です。
昨日は盛り上がりましたからね」
「はい。
まさか世界一決定戦を観ることになるとは」
「ははは。
世界一決定戦ならドース君やギラル君も参加したがったでしょう。
魔王はどうかな?
一応は意地を見せるかな」
「その方々が不参加でも……出場者が凄かったですから。
身が引き締まる思いです」
「血が騒ぐかい?」
「多少は。
ただ、今の私では一般の部はなんとかなっても……戦士の部では勝てませんね」
「だろうね」
「当面は、私の部下を。
将来的には私の息子をそこまで押し上げたいかと」
「ははは。
部下はともかく、息子さんの人生を勝手に決めちゃ可哀想だよ」
「大丈夫です。
私の息子ですから。
あの武闘会を観せればきっと目指すでしょう」
「家庭内のことに口は出さないけど、後で家出したって泣きつかないでよ」
「承知しました。
ただ、息子が強くなりたいと言った時は、協力をお願いします」
「その辺りは惜しまないよ」
「ありがとうございます。
では、宗主様。
そろそろ……」
「そうだね。
七箇所あるから覚悟してよ」
「はい。
とても楽しみにしています。
あ、行く前に質問が?」
「なにかな?」
「頂いた予定表の中に、温泉休憩が入っているのですが……」
「タオルはあるから安心して良いよ」
「そうではなく、一箇所行く度に温泉に行く必要があるのでしょうか?」
「何を言っているんだフーシュ君。
礼拝の前には身を清めるのは当然の行為だろう」
「確かに。
大変、失礼しました」
「わかればよろしい。
お弁当は用意してもらったかな?」
「はい。
ここに」
「では、出発しよう。
ああ、死霊騎士を温泉に戻さないといけないから、まずは温泉に行くからね」
ドースとギラルは昼から風呂に入っていた。
「グラルはどうするつもりだ?」
「ここに置いておこうと思う」
「村長が許可すればそれは構わんが……お主が頻繁に来るのは駄目だぞ」
「俺もここに住もうと考えているのだが?」
「許可できるか。
自分の縄張りはどうする気だ?」
「お前に任せる」
「任せるって……お主があの場所に拘るからずっと争っていたと思うのだが?」
「そうなのだが……
なぜあの地に拘っていたのか自分でもわからん」
「何かあったのか?」
「それもわからん。
急に頭の中がすーっと明るくなってな。
それ以降、イライラもしないし健康そのもの。
太陽なんか見るのも嫌だったが、最近の日課は日向ぼっこだ」
「属性が変わったのか?」
「いや、闇のままだ」
「そうか。
まあ、なんにせよここに住むのも縄張りを捨てるのも許さん」
「俺だけ楽するのが許せんと?」
「うむ」
「お前も引退したらどうだ?」
「前にそれをライメイレンに言ったらメチャクチャ怒られた」
「はははっ」
「笑い話じゃないぞ。
引退するなら命はいらんだろうと言われたんだ。
本気で死を覚悟したからな」
「お前よりもライメイレンの方が竜王に相応しそうだな」
「そう思うが……竜王って男しか駄目だからな」
「お前らが勝手に決めたルールだろ?」
「そうだが、長く守っているとなかなか破れん」
「確かにな。
いっそ、ここの村長にでも竜王を任せたらどうだ?
ハクレンの夫なら竜王の資格ありだろ」
「冗談は……意外と良いアイディアかもしれんな」
「お?」
「今度、ライメイレンに相談してみよう。
発案者はお主な」
「ちょ、やめろよ。
俺が狙われるだろ」
「いやいや、村長が継げばその次はヒイチロウにと考えられる。
ライメイレンも受け入れやすい」
「ヒイチロウが竜王?
考えたくないが、そこにグラルが嫁いで子ができれば……竜王、暗黒竜の血統と称号が一つになるな」
「暗黒竜王は駄目だぞ。
なんかダサい」
「竜暗黒王とかは?」
「間に入れるな」
「竜王暗黒竜って変じゃないか?」
「初めてのことだからな。
よく考えよう」
「うむ。
あ、でも他の者たちは大丈夫なのか?
ドライムとかドマイムとか」
「常日頃から、絶対に嫌だと言われている……スイレンの夫にも言ってみたことがあるが笑いながら拒絶された」
「……風呂から出たら、呑もう。
うん、呑もう」
「魔王様、今、凄い会話が……」
「グラッツ。
我らは何も聞いていない。
聞いていないんだ」
「……ははは。
そうですね。
幻聴でした。
さあ、しっかり身体を洗いましょう。
お背中、お流ししますよ」
「お、すまんな」
マイケルさんと文官娘衆が共に台帳を抱えながら困っていた。
「このままの取引が続きますと、魔王国中の金貨がここに集まってしまいます」
「それなりに消費をしているつもりですが……」
「全然足りません。
言葉は悪いですが、現状はお金を溜め込む貴族のようなものです。
収入に見合った支出をしないと普通は経済が死にます」
「普通は?」
「ええ、この村は自給自足できていますから……被害は魔王国が受け持つことになりますね」
「それは本意ではありませんね。
対策としてはどういったものが?」
「何かを大量に買って頂くのが一番ありがたいのですが……現状でもそれなりに買って頂いていますし、村では限界があります。
提案としては……お金を使うための施設を村以外に建設されることをお薦めします」
「お金を使うための施設?」
「はい。
たとえば私の店があるシャシャートの街に、食品工場や娯楽施設を作るなどです」
「食品工場……前々から言われているフローラ様の調味料関連ですね。
それを作ると貴方のお店のライバルにならない?」
「それ以外で十分に儲けていますので大丈夫です。
もちろん、販路が必要であれば提供させて頂きます」
「貴方のところが良いって言うなら気にしないけど……
娯楽施設とはどういった施設を?」
「競技場、舞台、見世物小屋、話小屋などです。
女性の方に言うのもなんですが、風俗店などもありだと思います。
ああ、娯楽施設に拘らず、普通に飲食店などでも構いませんね」
「そういった施設だと、お金を使う施設というか使わせる施設じゃない?
安くすると周辺のお店が潰れるわよ」
「お値段はある程度、お考え頂きますが……飲食店はともかく、他は安売りだけで商売が成り立つワケではありませんから」
「んー……素人商売なら損する可能性が高いけど、資金があるからなかなか潰れない……貴方のいうお金を使う施設になるわけね」
「はい」
「でも、それだと村が一方的に損するだけよね。
村にメリットはあるかしら?」
「村の作物、商品の紹介ですが……一番は評判ですね」
「評判?」
「はい。
現状、大樹の村の評判はゼロ。
知っている者だけが知っている状態です」
「村長が特に評判を必要としていませんからね」
「それはそれで構わないのですが……
いずれ知られるでしょう。
そうなると、悪意ある方が風評を流した時に対処ができません」
「悪意ある?」
「現在は例え話ですが……お金をたくさん持っているだけで人は恨まれます」
「悪い評判を打ち消すために、事前にポイントを稼いでおくと」
「いいえ。
いずれ知られることがないように、大樹の村を隠すための組織を作るとお考えください」
「……なるほど。
村に一番迷惑の掛からない方法ね」
「はい。
他にも情報収集拠点として使えます。
現状、私や魔王様、竜王様、ドライム様、コーリン教宗主様……自分で言ってなんですが凄い面子から情報収集できてますね。
失礼。
私を含め、現在の情報収集は速度面で問題があると思いますが?」
「シャシャートの街なら、貴方の協力も得られると?」
「全面的に協力させていただきます」
「わかりました。
こちらでまとめ、村長に提案させていただきます。
その際、貴方からの要望ということをお伝えしても?」
「構いません。
よろしくお願いします」
「では、そのように。
後は……当面の消費ですね」
「今回持ってきた海産物で、冬の間は大丈夫ですよね」
「ええ。
あ、村長がエビを大量に欲しがっていたわ」
「エビですか?」
「そうエビ。
小さいのじゃなくて大きいヤツね。
縁起物とか言ってたわ」
「わかりました。
仕入れて冬前には届けさせます。
後は……」
「うーん……」
「頑張ってください。
なんとか今回、金貨を持って帰らないとシャシャートの街が危ないんです。
お願いします」
「最悪、無利子無担保で貸すから」
「信頼は嬉しいですが、商会の会頭として許諾できません。
お願いします。
何か買ってください。
なんでも仕入れますよ」
「うーん」
クロの子供たちは、珍しく集団行動をしていた。
村の周囲を全力で走っている。
朝から今まで……もうすぐ日が暮れるが……大丈夫か?
「村長。
そろそろこっちもお願いします」
「ん、了解」
俺はフローラと共に小屋に篭っていた。
武闘会で治癒魔法を連発させ、苦労させたのでそれを労わるためだ。
マッサージとか、好きな料理を作ってやろうとかを考えていたのだが、俺は【万能農具】のシャモジで発酵を促がし続けていた。
「これで前に村長が言っていた納豆なるものが……ふふふ」
「俺、納豆苦手なんだけど」
「好きな人は好きなんですよね?」
「そうだけど……チーズをメインにやろうよ」
「チーズはすでにあります。
それよりもこれまでに見たことのない食べ物……ふふふ」
「フローラが気に入るとは限らないからな」
俺はそう言いながらも、納豆の完成を予感する。
……
臭いを抑える食べ方って、どんなのがあったかなぁ。