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セブンス  作者: 三嶋 与夢
最終章 ここまで来たぞ 十八代目
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最終章 エピローグ 後編

セブンスについて自分なりの感想などは、明日にでも活動報告に掲載させて頂きます。

要望のありました登場人物の紹介や設定などは、別で投稿させて頂きます。

外伝や幕間をまとめたものはそちらで投稿予定です。

 ――新都。


 基礎工事が終わり、各国の代表――連合参加国の代表が集められたのは、冬が過ぎて春になろうとしている時だった。


 新都の開発計画はまだ道半ば、というところだった。しかし、これ以上は先延ばしにも出来ないために代表を集め、ライエルが正式に即位し帝国の建国を宣言する事になった。


 元から既に統治は開始されている。バンセイム王家の直轄地。加えて、ライエルが潰してきた領主たちの領地。加えてルフェンスにベイム。それらはライエルが忙しいからと、統治しないでいいという事はない。


 バンセイム王国を打倒した瞬間から、既にライエルは責任を負う立場だった。それを、正式に宣言するだけだ。


 新都の中央に位置する城は完成しており、城塞都市が一般的な世界で新しい作りだった。朱色の柱に支えられている城は、高くそして大きかった。それだけの重量を支えるために使用された柱の材料は、レジェンドドラゴンの角などだ。赤い角を使用しており、赤く染まった柱が巨大な城を支えていた。


 大広間に集められた各国の代表たちは、その広さもそうだが壮大さに息をのんでいた。単純に戦うための城としては作られていないが、それでもこれだけのものを用意する技術力――他にも、国力などを考えれば立ち向かうなど困難だった。


 そう思わせることに成功していた。


 ベイムの商人を代表して広間に立っているのは、フィデル・トレースだ。娘がライエルの側室入りをしたので、この場に招かれている。


 式典開始はまだであり、今は各国の代表たちが話をしていた。ピリピリとした空気ではないが、和やかでもない。そんな場所で式典の開始を待っているのだ。


 ライエルが無名の頃から支援したと、周りに思われているため商人だが各国の代表と肩を並べるのを許されていた。


(ギルドの幹部。それに各国の代表――どこも疲弊しているから、小僧と事を構えるつもりはなさそうだな。まぁ、周辺国の姫や女王が側室入りしている状況では、下手に争うのも馬鹿らしい、か。いや、待て! あの小僧のことだ。どこかの馬鹿が暴発するのを待っている可能性もある! 汚いやり方でヴェラを手に入れた奴のことだ。きっと汚いことを考えているに違いない)


 一人、表情を変えずにそんな事を考えているフィデルだが、周囲からはライエルを支援し続けてきた事もあって娘を差し出したと思われていた。


 それだけライエルに協力的だと思われている。それも、フィデルを腹立たせる。


(悔しい! ヴェラを差し出したなどと思われ、しかもそれを口に出せないのが悔しい! やり返してやる。あの小僧に嫌がらせをしてやる!)


 商人としては優秀だが、娘のことになると駄目になるフィデル。早く式典が開始され、終われば良いのに、などと思っていた――。






 ――式典前の準備をしている部屋では、ノウェムを始め女性陣がヴァルキリーズの手伝いを受けながら服装を整えていた。


 質素な服などで参加も出来ず、この日のためにあつらえた豪華な装飾されたドレスを着る面々。しかし、そこは戦場だった。


 ノウェムが椅子に座り、髪を整えられている。その隣にはミランダが座っており。


「私も数多くの失敗をしてきましたが、その中でも一番の失敗はあなたをライエル様の側室に加えたことでした。今でも後悔していますよ」


 ピリピリとした空気を出すノウェムに、ミランダは鏡の前で爪の手入れをしていた。


「そうね。私もあの時にあんたを見捨てれば良かったわ。死にます~、とか一人で騒いでいる馬鹿を助けて後悔しているわよ」


 笑い合う二人を見てオドオドしているのはシャノンだった。ドレスは着ているが、動き回ったので乱れていた。ヴァルキリーズが服を整えている。


「うわ、怖い。私、女同士の争いがここまで醜いとは思わなかったわ」


 シャノンの近くには、下着姿のエリザがいた。ドレスの補正が大急ぎでモニカの手によって実行されている。


「そうだな。私もこれには参加できない」


「そんな事はどうでも良いので、これを着てください。私は忙しいんですよ。チキン野郎のところに言って、身だしなみを整えてあげないと。きっと、寂しくて震えていますよ」


 シャノンはモニカに呆れながら。


「あいつ、今頃は演説とかの確認でそれどころじゃないんじゃない? それに、最近近付くと凄く驚くんだけど?」


 エリザも頷く。モニカからドレスを受け取ると、ヴァルキリーズがエリザに集まって着用の手伝いをする。


「私の時もそうだったな。何かトラウマでもできたんじゃないか? あ、サイズがピッタリだ」


 すると、何かが倒れる音がした。ルドミラとグレイシアだ。ドレスのことで問題が起きていた。二人とも、下着姿である。


「どうして色かぶりなんだ! 濃い紫は私が使用する。お前は別のドレスにしろ!」


「私だって落ち着いた色がいいんだ! お前こそ替えろ!」


 そんな争っている二人を見ながら、上半身裸のエヴァが呆れてみていた。ピンクブロンドの髪で、大事なところは隠れている。


「飽きないわね、あいつら」


 すると、ドレスを着用したクラーラは準備が終わっているので本を読んでいた。エヴァの発言に対して。


「そうですね。というか、早くドレスを着たらどうですか? 私たちの参加はまだですが、もう各国の代表たちは大広間に来ているんですけど?」


 エヴァは髪をかき上げ。


「知らないわよ。それに、私のドレスは手直し中。もっと派手なのが良かったのに……」


 違う場所では、メイとマリーナが窮屈そうにしていた。


「この服、動きにくい。しかも熱い」


「なんで私がここに……」


 初代の妻に気に入られたマリーナは、そのまま側室入りを果たしていた。マリーナの近くには、マリアーヌまで立っている。


「私の方が聞きたいですよ。なんで私がここに……。私はトレース商会に呼び出されて、そのままギルドの幹部におめでとう、なんて言われて」


 すると、体のラインがハッキリするような服を着たセルマが、手を組んで喜んでいた。


「良かったじゃない。……そうやって危機感がない間に結婚できて。私、ここで滑り込まなかったらたぶん一生結婚できなかったのよ」


 ただし、最後の方は切実そうだった。そんなセルマを見ているのは、ザインの聖女であるアウラだ。


「私、セルマ様が結婚するならこの場にいなくていいと思うんですけど?」


 しかし、セルマは頬に手を当てながら。


「あ、それは駄目よ。だって、ザインとしてはアウラが正式な聖女だもの。世襲になるから、アウラの子供も大事なのよね。ガストーネがこれでザインも安泰だ、って喜んでいたわよ」


 色々と問題のある面子だが、そんな面子を見ていたのはヴェラだった。ヴァルキリーズがやたら多くヴェラを囲んでいる。


「嫌ならちゃんと断りなさいよ。というか、お父様……増やさない方向で話を進めるとか言って、こんなに増やしてどうするつもりなのかしら? というか、なんで私はこの子たちに囲まれているの?」


 ドレスの着用も終わっているのに、ヴァルキリーズに囲まれているヴェラ。同じように囲まれているのは、ノウェムやミランダ、それにアリアだ。


 アリアの方では、ヴァルキリーズが丁寧にドレスを着せていた。アリアが困った顔をしている。


「ちょ、ちょっと! なんでそんなに構うのよ。というか、少しお腹周り緩いんだけど。もっと絞って貰った方が――」


「いけません」


「却下」


 ヴァルキリーズに即答され、アリアが肩を落とした。いつもの外ハネした髪は、今日は整えられストレートだ。着慣れていないためか落ち着かないアリアに、ヴァルキリーズが付き添って文句を言っている。


「ほら、大股で歩かない」


「急な動きをしない!」


 そんな様子を、ヴァルキリー七十一号を傍に置くリアーヌが見ていた。どうやら気付いたようで、七十一号にたずねる。


「ねぇ、もしかしてだけど、あの四人は――」


「正解です。リアーヌさん、急いだ方がよろしいかと」


 リアーヌは椅子に座って、扇子を広げて口元を隠していた。


「意外ですね。ノウェムとミランダは襲ってもおかしくないと思っていましたが、アリアとヴェラですか。私も少し積極的にいきますね」


 ――何を? とは周りの誰も聞かなかった。


「あ、クリームがついた」


「シャノン、急いで着替えなさい。それから、エリザももう食べない」


 お菓子をこぼしてドレスを汚したシャノンが、ミランダに叱られる。ついでに一緒にお菓子を食べていたエリザも怒られていた。


 ノウェムはアリアに向かって。


「アリアさん、落ち着いて座っていられませんか?」


「だって……なんか落ち着かなくて。ドレスとか着てみたかったけど、なんとなく恥ずかしいのよね」


 メイやマリーナは。


「はぁ、お肉食べたい」


「同感だな。誰か、肉持ってきて」


 ヴェラが二人を見ながら。


「駄目に決まっているでしょう。今日は式典が終わるまであんまり食べられないわよ。いい、夜のパーティーでも同じだからね」


 二人が本当に驚いたような顔をすると、他の面子――各国から押しつけられた側室たちが、この濃い面子を前に声が出ていなかった――。






「お前、ふざけんなよ!」


 普段タンクトップを着ているエアハルトが、正装して俺の部屋にいた。泣きながら俺に文句を言ってくるのだが、その理由を聞いて逆に俺が驚きだ。


「知るかよ! 今聞いたぞ、そんな事! 俺だってこれ以上、人数が増えると大変なんだぞ! 今ですら大変なんだぞ! 怖いんだぞ! みんな……みんな……怖くて。アリアが慰めてくれなかったら、俺……」


 泣きそうになるのを我慢していると、エアハルトが慌て出す。きっと、俺と同じ経験がある、もしくはこれから他人事ではなくなると分かっているのだろう。やはり、仲間を増やしておいて正解だった。


 こんな気持ちを分かち合える友人が欲しかったから、俺はエアハルトに色々と押しつけてきたのだ。女とか、名誉とか。


 ただ、エアハルトが怒るのも理解できる。まさか、当日になってマリアーヌさんが俺の側室に押し込まれるとか思ってもいなかった。


 フィデルの野郎、俺に笑顔を向けてきた理由はマリアーヌさんだった。断る方向で話が進んでいると思ったのに、ギルドからも側室を取る事になるなんて。


「す、すまん。でも、だからってマリアーヌさんがなんで!」


 それでも初恋の人が側室入りを許せないエアハルト。しかし、同じ部屋にいたマクシムさんが、首を傾げている。ダミアンも同様だ。


「何故だ? そのマリアーヌ殿は元から相手がいなかったのだろう? それに、お前には結構な女性が好意を寄せているらしいじゃないか」


「しかも告白は断られたんだよね? なら、君が関わる問題でもないと思うよ」


 バッサリ切り捨てるような発言をする二人を前に、エアハルトが膝から崩れ落ちた。


「エアハルトォォォ!」


「俺……駄目だったけど。それでも、マリアーヌさんには幸せに……ちくしょうぉぉぉ!!」


 すると、バルドアが俺たちを見て溜息を吐いた。


「何をしているんですか、四人とも。それより、マクシム殿はアデーレ殿との間に進展はあったのですか? 告白は成功したと聞きましたが?」


 すると、照れたマクシムさんが鼻の下を指でこする。


「馬鹿だな。成功はした。だが、キス以上の関係ではない。ほら、俺はもっと新婚生活を“二人だけ”で楽しみたいから」


 俺への当て付けか、それとも俺やエアハルト、そしてバルドアへの当て付けなのか。ダミアンがお茶を飲みながら。


「羨ましいね。僕も研究所がもうすぐ完成するから、理想の女性を創る事に専念できるけど」


 エアハルトが俺たちを見ながら。


「……お前ら、絶対におかしい。頭のネジ、吹っ飛んでるんじゃないの?」


 俺はそんなエアハルトを見ながら、今日は割と見られる恰好だと思いながら。


「……お前、良い度胸だ。分かった。そんな傷心中の自由騎士エアハルトには、自由騎士に任命した俺が女性を紹介してやろう。アンネリーネ王女殿下とかどう? 可愛い人だよ」


 すると、エアハルトは立ち上がって俺を指差した。バルドアが「不敬ですよ」などと言っているが、俺に文句を言う貴重な存在だ。このままにしておこう。でないと、からかって遊んでもつまらない。


「ふざけんなよ! 自由騎士とかフワフワした立場のせいで、俺がどれだけ苦労していると思っていやがる! この前なんか、ドラゴン退治を依頼されて本当に迷惑だったんだからな!」


 聞けば、ランドドラゴンを倒したらしい。素晴らしい。才能はあると思ったが、流石はエアハルトだ。


「その働きに応えて、今度は表彰してやるよ。フワフワした立場で、ハーレムを楽しむがいいさ」


 俺の笑顔にエアハルトが両手で頭を押さえていた。こいつ、出会った時は現実が見えていなかったが、現実が見えた時には望んでいたハーレムが手に入ったのだ。


 願いが叶って良かったね、って言ってやりたい。


「そんなフワフワした立場で何人も抱えきれるか! 俺、このままだと本当に襲われそうなんだが! 襲われてしまいそうなんだが!」


 ……それを襲われた俺に言わないで欲しい。いっそ、お前も襲われてこっち側に来いよ。そう言ってやりたかった。くそっ、癒し枠がまさかのタンクトップ野郎や、嫁の親父になろうとは思いもしなかった。


 腹が立ってきたので、フィデルの野郎をからかってやる。


 すると、バルドアが懐中時計で時間を確認していた。どうやら、時間が迫っているらしい。


「ライエル様――いえ、陛下。そろそろお時間です」


 俺は軽く深呼吸をすると、意識を切り替える。


「分かった。広間へ行く」


 マクシムさんもダミアンも立ち上がると、エアハルトが「雰囲気変わりすぎだろうが」などと文句を言いながらついてきた。五人でそのまま広間の裏へと回ると、護衛をしていたラウノさんが立っていた。


「準備は出来ております、陛下」


 無精髭でもなければ、今日は服装も整っている。そんな家臣の言葉に頷くと、俺は広間を目指す。






 整列した各国の代表や、組織の代表者たちを見下ろす位置。


 広間の奥には高い場所が用意され、階段があった。その上には玉座が置かれている。威厳を見せるために豪華な作りをしていた。


 俺が登場すると、控えていた楽団が演奏を開始した。厳かな雰囲気の中で、全員が頭を下げると俺は玉座に座るために階段を上る。


 一歩。一歩――そして、その玉座を登る階段には、赤い絨毯が敷かれていた。


 積み上げられた屍の上にある玉座が見えた。


 赤い絨毯は血に見える。


 そんな場所に登る俺は、きっと大悪党なのだろう。世間から見れば、セレスを利用して俺がバンセイム王国を追い落としたように見られてもおかしくない。


 同じウォルト家の人間が起こした不始末を、ウォルト家出身の俺が収めたに過ぎない。


 本来なら、英雄らしく全てが終わった後に去って行くのが恰好いいのかも知れない。


 でも、ソレは出来なかった。


 約束もあった。


 そして、殺してきた責任から逃げることも出来ない。


 一杯殺して、ここまで上り詰めたのだ。


 最低限の責任というものもある。


 登り切り、椅子が見えた。玉座だ。そこまで歩き、座るために振り返ると全員を見下ろす形になっていた。


 きっと、これからの人生全てを統治に捧げるのだろう。自分でも、よくこんな決断をしたと思う。


 重責に押しつぶされそうだったが、どこかで歴代当主たちが見ている気がした。そうなると、恥ずかしい真似は出来ない。


 着席して全員に顔を上げるように言うと、俺は正式に帝位に就くことを宣言。同時に、大陸の統一を宣言した。ほとんどの国が帝国の支配下に入る事を認めている。それに、疲弊したのは大陸全体だ。


 特にバンセイム王国――大陸中央部の疲弊は大きいが、それでも帝国は戦争で武力を示した。


 しばらくは大丈夫だろう。後は、内政や外交で頑張るしかない。まぁ、戦争をするよりもいいだろう。


 今でも時折、神の英雄が出てこないものかと思う。そうすれば、俺は自分がなんとかしようとは思わなかった。それに、誰もいなかった。動こうとする人間がいなかった。


 いてもセレスに対抗できたかどうか……。


 だから俺がやると決めた。


 式典が進む中、俺は理想の皇帝を演じる。思い出すのは歴代当主たちだ。


 初代なら皇帝と聞いても「ふ~ん」という態度を取りそうだ。


 二代目もちょっと困った顔をするかも知れない。


 三代目は、自分の子孫が皇帝というのを面白がるだろう。


 四代目なら統治方法やお金のことに五月蝿そうだ。


 五代目は……あまり語らないが「無理はするな」くらい言ってくれそうだ。


 六代目はそうだな。きっと、嫁の多さを心配してくれるはずだ。


 七代目は、嬉しがって泣くかも知れない。


 八代目は――父は、俺にどんな言葉をかけてくれるのか? 十歳以前の記憶が少なく、そしてそれ以降の記憶は冷たい態度を取る姿しかない。最後に謝罪してくれたが、なんというのか分からなかった。


 濃い。とても濃い二年間だったと思う。家を追い出され、冒険者になった。目標もなくただ冒険者になり、アリアに出会ってミランダたちとも……。


 セレスに再会したのが、本当の始まりだったのかも知れない。雪の降るセントラルで敗北し、狂気に染まる都を支配するセレスを見た時から――俺は、本当に目的を持ったのだ。


 だから、こうしてここにいる。


 こんな場所でふんぞり返っている。


 ミレイアさんの言うとおりだ。屍の山を積み上げ、玉座に座っていた。


 式典が進み、俺への忠誠を口にする各国の代表たち。


「我ら帝国の支配下に入り、皇帝陛下への忠誠を誓います」


 代表者の言葉に全員が跪く。


 この中で、何人が腹の中で俺の首を狙っているのかと思うとゾクゾクするな。いずれは衰退すると分かっていても、それがいつまで続くのか考えてしまう。たった数年で疲弊した大陸。


 少しくらい平和が続いても良いだろう。


 残りの人生全てを捧げる。対価としては少ないかも知れないが、一時だけでも。


「その忠誠嬉しく思う。皆の良き君主となるよう、若輩の身ではあるが励もうと思う。これからも俺と帝国を支えて欲しい」


 そんな事、思ってもいない――というのは流石に嘘だが、せめてお前らもっと頑張れよ、とは言っても良いだろう。


 何しろ、死んだ魚の目をしていたような俺が、大陸の統一を決意するほどに追い込まれていたのだから。もっと周りが頑張っていれば、俺なんか一人の兵士や冒険者として協力できたのだ。


 まぁ、今更遅いのだろうが。


 いつかきっとこの地位を次の世代に渡す。そして色んな物を押しつけることになるのだ。そう思うと申し訳なく思う。せめて、俺に出来ることは片付けておかないといけない。


 俺もいつか、みんなのように何かを託す事が出来るのか不安もあるが。


 それでも、一歩ずつ前に進もう。


 歩いて、歩いて、立ち止まる時には、次の世代――誰かの背中を押してやれるような。そんな存在になりたい。




 あの七人のように。


 俺を支え、導いてくれた歴代当主たちのように。






 ――三百年もの間、分割されていた大陸を再統一した帝国の誕生。


 長きにわたる統治で全盛期を迎えたのは建国から百年を過ぎた辺りだ。そこから時代の変化や数々の騒乱を経験し、五百年は大陸を統治していた。


 しかし、栄枯衰退の流れからは逃れられず、時代の流れもあって帝国は崩壊する。その後、戦国時代の到来が訪れるのだが、大陸が再び再統一されるまでかなりの時間を有するのだった――。




 ――教室の黒板には、帝国時代の大陸の歴史が書かれていた。


 そんな教室で授業を受けている少年の首には、銀色のペンダントが下がっている。青い玉が埋め込まれており、随分と古いものだ。


 教卓の前で、黒板を拳で軽く叩く教師は言う。


「まぁ、この辺の歴史は、次に来る戦国時代の前座みたいなものだ。ここからの歴史の方が人気はあるからな。だが、この時代の帝国を知っておくと面白いぞ。ぶつかり合った英雄が、実は初代皇帝の子孫同士だった、なんてのもある。ただ、自らの正当性を示すために、初代皇帝の子孫だと名乗った奴も多い。ウォルト性が多いのはこのせいだ。この教室にもいるだろ」


 少年にクラスの視線が集まると、クスクスと笑われていた。少年は気が弱いために俯いてしまう。


 すると、歴史の教師は自慢気に語り始める。歴史が好きなのか、独自で調べており自分なりの考えを持っている様子だった。


「ただ、この初代皇帝が神帝と名乗り実に胡散臭い。しかも、だ。大陸支配の切っ掛けになった国には、実は初代皇帝の妹が嫁いでいたんだ。ウォルト家のマッチポンプだと先生は考えている。何しろ、調べると非常に胡散臭いからね。家を追い出されて、今で言うハンターの真似事をしているからな」


 ペラペラとしゃべり出す教師は、自慢気に話しているだけあり色々と調べている様子だ。初代皇帝は女癖が悪い、しかも支援をされた商業都市の救出に間に合わなかった。


 他にも色々と知識を披露し、独自の解釈を述べていく。そして、結論として、などと前置きをしてから。


「初代皇帝は神帝などではなく、ただのヒモ体質だな。調べれば調べる程に嘘くさいんだ。映画とかドラマで人気のシャノンがいるだろ? ドロドロした後宮での生活の原因も初代皇帝だし、先生は最低な奴だと思うね。同じ時代に活躍した自由騎士エアハルトの方がまだ英雄だよ」


 笑顔で言う教師。すると、ウォルト性である少年に視線が集まり柄の悪い生徒たちが指を指して笑っていた。


 授業の終了を知らせる鐘の音がなると、教師は時計を見て道具を整理し始めた。


「黒板は消しておけよ。さて、日直」


 日直である生徒が「起立、礼」というと、全員が立ち上がって頭を下げる。教師が教室から出て行くと、少年は椅子に座った。


 今の授業が最後の授業だったので、担任が来るまでに机の教科書やノートを鞄に詰め込んでいた。


 すると、柄の悪い数人が少年のところに来た。


「おい、お前の家って最低だな」


「最低! 最低!」


 そう言ってからかわれるが、少年は黙って俯いていた。担任が来るまで耐えて、そして放課後になると急いで学校から逃げるように出て行く。


 学校にいたくなかった。何故なら……。


 誰もいないのを確認して、少年が言うのだ。


「あの、余り騒がないでください。最近疲れが酷くて……」


 すると、ライエルの声が宝玉から――輝きを取り戻した宝玉から聞こえるのだった。


『あの教師、ぶっ飛ばしてやる! 何が最低だ! 何がヒモ体質だ! 後宮がドロドロしたのは俺のせいじゃねぇ!』


 すると、粗暴な声が聞こえてきた。初代だ。


『ふ~ん、皇帝も大変だな。しかし、九代目が皇帝ね。あんま実感わかないな』


 記録がリセットされ、ライエルとの記憶がない一同。ただ、少年からすれば八人が騒いでいると魔力が減って大変だ。


「あの、静かに……」


 二代目の声が聞こえてくる。


『それにしても、あの教師は許せないな。俺たちの直系の子孫にあんな事を……あれ、嫌がらせだよな』


 三代目は笑いながら発言するが、怒っているようだ。発言が怖い。


『やっちゃう? なんか殺人が罪で重く罰せられるけど、社会的には簡単に潰せそうだよね。二度と立ち上がれなくしようよ』


 四代目は嫌そうにしている。仕返しをするのが嫌なのではない。


『そんな事をすればこちらもリスクがありますからね。こういう場合、匿名で学校ですか? その管理している組織に報告しましょう。……証拠付きでね』


 五代目は口数が少ないが。


『……あの悪そうなガキ共にどっちが上かハッキリさせようぜ。あの手のガキが一番嫌いなんだよ。まずはあいつらの家庭から調べ上げるぞ』


 六代目が笑っていた。少年はか細い声で。


「し、静かに……」


『フハハハ、ちょっとスキルで強化して、拳で語らえばすぐに理解します。というわけで、喧嘩の仕方を教えてやる。まずは目を狙え!』


 七代目は呆れたような声を出す。


『そんな事をしなくても潰せるでしょうに。まぁ、あの教師が気に入らないのは事実ですね。ウォルト家を馬鹿にした事を泣いて後悔させてやりましょう!』


 ライエルは祖父である七代目の言葉に同意する。


『あの程度のガキにいいように言われたままで終われるか! 俺は……俺は悪くないのに! 煽ってやる。フィデルのように煽り続けてやるから覚えてやがれ! ……まぁ、やり返すのはお前だけどな。頑張れ。俺たちは協力を惜しまないぞ。まぁ、協力しても口を出すか、スキルの使い方を教えるだけだが』


 少年に頑張って仕返しをするように言う歴代の当主たち。そんな歴代当主たちが記録された宝玉を受け継いだ少年は項垂れる。


 少年はトボトボと歩きながら呟くのだ。青い宝石を受け継いだその日から、聞こえるようになった声。


 それがまさか、自分の先祖だとは思いもしなかった。


「もうヤダよ、このご先祖様たち。モニカさん、僕どうしたらいいの?」


 家の使用人であるモニカの名前を呟く少年は、涙目だった。


 宝玉内から楽しそうな笑い声が聞こえ、少年は教師や同級生たちに同情するのだった。


『楽しくなって参りましたぁぁぁ!!』


 少年にしか聞こえない声たちは、今日も楽しそうだった――。


オクトー(;・∀・)「……」

オクトー(・∀・;)「……え!?」

オクトー( ・∀・;)「……まさかのガンスルーだと」


オクトー(;・∀・)「書籍版で登場する事を信じて宣伝しよう。セブンスはヒーロー文庫様より2015年12月28日に第一巻が発売だ。……わ、私の出番はあるのだろうか?」












ヒヨコ様ヽ(´ー`)ノ「おしまい♪ 書籍版と、外伝や幕間もよろしくね」

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― 新着の感想 ―
久しぶりに最後まで楽しく読みました。 本当にありがとう~!
面白すぎて一気読みしました!
屍の上の帝王 ライエル ウォルト 爆誕!
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