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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

孫馬鹿な七代目

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取引

 不思議な感覚だった。

 目の前に麒麟のメイがいて、俺は周囲を見渡す。

 同時に、メイも少し困惑しているようだった。

 メイは麒麟の姿でジャンプをすると、着地をするときには腕の布をふわりと揺らして着地をする。

 人の姿をしており、左手で頭を押さえている。

「ふ~ん、面白いスキルだね。十個目に見えたのは、まったく違うスキルだったからかな?」

 俺がスキルで得られている情報を、多分だがメイも共有している。

 繋がるというのは、こういう感覚だと理解した。

 俺の持つ情報――スキルで得られた周囲の地図、そして敵味方の反応などを共有している。

 他に言えば、メイの見ている視界までが、俺にも見えていた。

「……頭が痛くなりそうだ。情報量が一気に増えた」

 俺が頭を押さえると、メイの視界の中で、俺が頭を押さえている。自分の視界とメイの視界を両方見ているという、とんでもない状況だった。

 宝玉からは、七代目が助言をしてくれる。

『ライエル、情報量を制限するんだ。できるか? 視界――五感まで共有するな。今はスキルの情報も、相手に与えなくていい』

 すると、メイは目を見開く。

「驚いたね。本当に会話をしているんだ」

 どうやら、メイにも声が聞こえたようだ。俺はスキルを直感で操作し、何とか情報量を減らしていく。

 相手の視界を見なくてすむようになると、首を横に振った。

 五代目が、メイに声をかける。

『そうだな。こうやって、俺たちとライエルは会話をしている。他に声は届かないんだが……お前には気付かれたな』

 優しい五代目の声に、メイは両手を胸に持って行くと涙を流し始める。

「フレドリクス……ごめん、僕……約束を守れなかったよ」

 目の前で少女が泣いているというのは、なんとも気分的に悪い気がしてくる。

 五代目は優しい声で。

『いいんだ。俺も嘘をついた。多分、もう会えないと分かっていたからな』

 メイは涙を指でぬぐい、笑顔で答える。

「でも、こうしてまた会話出来る。僕はそれが嬉しいよ、フレドリクス」

 だが、五代目は――。

『……悪いな、メイ。本当の俺はもう死んでいる。この宝玉に残っているのは、俺という――フレドリクス・ウォルトのスキルとその記憶や心だ。記録された模造品みたいなものなんだよ』

 悲しそうに言うと、メイはオロオロとする。

 それだけ、宝玉内の五代目の気配がそっくりだったのだろう。俺が封じ込めたと思うほどに。

『約束を果たせなかったのは俺の責任だ。もう気にするな』

「でも……でも!」

 メイが手を伸ばし、俺の首に下がった宝玉に触れる。すると、急に景色が一変する。

(この感覚……引き込まれている?)





 そこは五代目の記憶に多く登場する小屋だった。

 周囲には、様々な動物たちが飼育されており、俺はメイとともにそこに立っていた。

「ミケル、アンジェロ、それにマーヤ……なんで。だって、みんなもう死んだはずなのに」

 驚いているメイは、名前を呼んだ馬や他の動物たちに触れようとする。だが、触れる事は出来ず、すり抜けてしまった。

 そして、メイがかつての自分が住んでいた部屋を見る。

 そこからは、白いワンピースを着た少女が、部屋から出てくると動物たちに話しかけていた。

 動物たちもそれに答えているのか、少女に近づいていた。

 大型犬がメイに近づき、顔を舐めるとメイは嬉しそうにしている。

「……ゼルート」

 名前を呼ぶと、メイは悲しそうな表情をして俯いてしまった。そこに、足音が聞こえてくる。

 振り返ると、小屋の入口から五代目が現われた。

『……こんな事が可能だとは思わなかった』

 俺は確信する。

「記憶の部屋、ですか? でも、どうしてメイまで」

 五代目は頭を押さえると首を横に振る。

『知るか。お前のスキルを通して、俺たちとも繋がったとしか思えない。だが、こうして会うのは久しぶりだな、メイ』

 泣き出したメイが、そのまま五代目に飛びつく。その姿は、麒麟の姿だった。

「フレドリクス! 僕、大きくなったよ。もう一人前だから、自分の群れを作れるようになったんだ!」

 五代目は、大きな麒麟の首に抱きつき、そして手をさする。

『立派になったな。そうか、お前も一人前か……本当に良かった。やっぱり、気になっていたんだ。だけど、これで理解出来た。俺は最後にお前に会えなかったんだな。まぁ、お前が立派になってくれて良かったが』

 首をかしげる麒麟に、五代目は説明する。

『……俺たちの記憶は、今は宝玉になったこの青い玉を手放すまでしかないんだ。それ以降は記憶がない。だから、最後がどうなったのか分からない』

 メイは、額を五代目に向けると撫でて貰っていた。

 それでもいいと、まるでメイは行動で示しているようだった。

『なぁ、メイ。俺の頼みを聞いてくれないか』

「頼み?」

 メイは五代目の顔を覗き込む。

『……ライエルを助けてやってくれ』

 五代目は、メイに俺の事を頼むのだった。





 森の中。

 俺は、意識が戻ると村へと戻ることにした。

 メイが集まった魔物たちを雷で吹き飛ばしてしまったので、もう仕事もほとんど終わりである。

 スキルで周囲の状況を確認しながら、俺は三人の少年たちが逃げ出した場所を確認するように進んでいた。

「これか。まったく、放り投げるにしても、バラバラにするなよ。集める俺が大変なのに」

 最後の銀貨を一枚拾い上げ、袋に入れると枚数は全部で五十枚だった。

 これで全部か、残りは少年たちが持っているところだろう。

 溜息を吐いて後ろを振り返ると、俺はメイを見る。

 人の姿。

 そして、明らかに森に入るには不適切な衣装を着ているというのに、メイは綺麗な状態でその場に立っていた。

 木の枝や草で衣服に傷が入る、引っかかるといった事がない。地面が泥だらけでも、サンダルのような履き物をしているのに何ともないようだった。

 森の中なのに平気な顔をして、俺の後ろをついてくる。

「本当についてくるつもりなのか?」

 メイは俺を見ながら、不思議そうに。

「そうだよ。だって、フレドリクスの頼みだからね。僕、フレドリクスには助けて貰ってばかりで、恩なんか返せなかったし。ま、僕の目的は魔物を倒す事でもあるからね。人間視点で仕事をしても問題ないよ」

 俺は回収したお金を確認し、懐にしまうとメイに向かって。

「あのさ、俺と一緒に来る、っていうことは、冒険者になる、って意味なんだけど?」

 メイは俺を呆れた様子で見ながら。

「別にいいよ。だって、僕の仲間だって、同じように冒険者をしている連中がいるからね。別に僕だけが好奇心旺盛じゃないし」

 意外な事実に驚いていると、メイは俺を見て笑顔で。

「あ、でも見分けなんかつかないよ。だってほら」

 耳の斜め後ろから生える角に手を触れると、そのまま角が小さくなって見えなくなった。

「これで外見は一緒。たまに見えるスキルを持つ人間もいるけど……何かするようなら、僕たちは反撃するからね」

 俺は驚きながらも。

「スキルで判断出来るだろうが」

「意外とバレないものだよ。実際、見分けがついても見て見ぬフリをする人間が多いよね。時々馬鹿もいるけどさ」

 そういった馬鹿がどうなるのかは、聞かなくても理解出来る。

(バレたら逃げ出す、っていう事か)

 下手な実力では、聖獣を捕獲など出来ないだろう。そして、捕獲出来るだけの実力を持っている場合、無理して捕獲しなくても食べていける実力があるはずだ。

 メイは少しだけ俯く。

「それに、フレドリクスの話が本当なら、僕たちも無関係ではいられないからね。君たちで言うと三百年くらい前かな。その時は僕たちも数を大きく減らしたらしいよ。一人の人間のためにね」

 アグリッサ――。

 祖母の血筋は、元を辿れば傾国の美女と言われたアグリッサに行き着く。

 その血筋であるセレスが、同様に大きく国を動かそうとしていた。

「そんなに減ったのか?」

 メイは詳しくは知らないけどね、などと言いながら俺に教えてくれる。

「侮った同族がいた。そして捕まったんだ。見事に剥製やら、角や鱗を使った人間の道具にされ、血肉は食べられたらしいね。人間は食べるのに困っていないだろうに、よくするよ」

 メイには理解出来ない感情のようだ。

「俺を助ける理由はそれだけか?」

 すると、メイはアゴに手を当てて俺を真剣な表情で爪先から頭の天辺までを見ると。

「フレドリクスはいないから、その子孫である君に頼もうかな。ねぇ、僕と子供を作ろうか。出来れば二人くらい。本当は五人くらい欲しいんだけど」

 俺は噴き出すと、宝玉内から五代目が。

『メイィィィ!! そういうのは、もっと大事にして!! そんな風に言わない!』

 何やら騒いでいるが、六代目がグチグチと。

『動物にはこの対応で、俺たちには早く作れ、や産めと言っていたのに……納得出来ないんだよなぁ』

 俺は首をかしげているメイを見て。

「お前、意味分かってるの? というか、同族のオスに頼めよ」

 メイは俺を鼻で笑いながら。

「君こそ大丈夫なのかな? 君たちが聖獣と呼ぶ僕たちには、オスはいないんだよ。それに、子作りくらい知ってるよ。だから僕は人の姿になれるんじゃないか。あ、でも……流石に麒麟の姿のままがいいと言われると、僕も困るね。そういう特殊な趣味は、今まで聞いたことがなかったし」

 顔を赤くして頭をかくメイを見て、俺は怒鳴りつける。

「アホか! 誰がそんな事を言うかよ!」

「ならいいね。いや~、長寿だとどうしても数が少なくなっていけないね。なんだか最近は魔物が増えたから、今のままだとバランスが崩れそうだったんだよ。じゃあ、戻ったら子供を作ろうか」

 俺は首を大きく横に振る。

「なんでさ? つがいがいるの? そう言えば、女の子が多かったけど……あ、もしかしてハーレム的な奴? でも、おかしいな。人間でハーレムはそこまで作らない、って聞いたのに。あ! 分かった!」

 メイは自分の中で納得したようだ。

「フレドリクスもハーレムだったから、君たちはハーレムを作る種類か何かなんだね。うんうん、確かにハーレムを作る人間のオスはいるし、間違いない!」

「間違いだらけだよ! お前、そんな認識で人の社会で生きていけるのか!」

 俺が間違いを訂正するのだが――。

「でも、周りのメスは君に好意を寄せていたよね? 人間は理解出来ないな。でも、僕は君の種が欲しいからついていくよ。僕は君に力を貸し、君は僕に種をまく。それでいいよね?」

「良くないよ! 色々と駄目過ぎて、何を訂正すれば良いのか……とにかく、そういうのは好き同士でないと駄目だろうが!」

 すると、宝玉内から声がする。

 三代目から順番に。

『どうしよう、ライエルの価値観に賛成できないや』
『というか、それで麒麟の力を借りられるなら、それで良くないですかね?』
『あんなに可愛かったメイが……というか、ライエルの価値観おかしくね?』
『七代目……お前、教育間違えたんじゃないか?』
『まぁ、わしとゼノアは夫婦として完璧でしたので。ライエルが羨ましく思うのは仕方がないかと』

 七代目が何気に自慢してきたのに腹が立つが、俺は祖母が七代目の駄目出しをしているのを聞いたことがある。

 ライエルは気を付けなさい、などと優しく教えてくれた。

(もう貴族でもないのに、政略結婚も何もないだろうが! それに、子供だけ作りましょうとか……それを誰が仲間に説明するんだよ!)

 帰り道で、とんでもないメイの要求を聞いた俺はつかれた顔をしながら村に戻るのだった。

「いいか、絶対に子作りの話はするなよ。本当にするなよ! 特に、ノウェムの前では絶対にするな」

 すると、メイは思い出したように。

「ノウェム? あぁ、あの髪をしばった子だよね。あの子、とっても不思議に思っていたんだ。君のハーレムは、変わり種が多そうだけど、あの子は特にそうだよね。なんだろう……昔から知っているような気がするよ」

 何を言っているんだ? そう思って聞き返そうとすると、森の入口付近で仲間が――ノウェムたちが、俺を探しに突入してきたので聞くのを止めた。





 森から戻った俺は、村長の家に出向くと今回の報告をする。

 汗をダラダラとかいていた村長は、俺の話を聞くと深く溜息を吐いた。

「つまり、麒麟がこの村を滅ぼす、なんて事はないんだな?」

「えぇ、俺の方で話は付けました。麒麟の方も、これ以上森のバランスを崩さないなら、脅し程度で留めておくと」

 メイがその麒麟である、などとは教える事はできない。

 三人組は、村の倉庫に閉じ込められているようだ。

 なんでも、戻ってきた三人組が、麒麟を怒らせた話をして村は混乱してしまったらしい。

 そして、当然のように村長が責められた。

 対応を考えているときに、俺が戻ってきたので話をしているわけだ。

「助かった。だが、どうやって村の連中にそれを理解させるか……中には、あの三人を殺して森に捧げろとか言いだす馬鹿もいるからな」

 そんな事をしても意味がない、というのを説明しても、恐慌状態の村人たちを止める手立てが、今の村長にはなかった。

 俺は、テーブルの上に置かれた村のお金に視線を向ける。

 すると、宝玉内から三代目が。

『あ、良いことを思いついた』

 絶対に良いことではないと思いながらも、俺は宝玉を触って三代目に説明を求める。

『ライエルにも、そして村長にも一番の方法だよ。メイに協力して貰うんだけど、まずは村長と取引をしようか、ライエル』

 六代目も面白いと思ったのか、三代目に賛同する。

『良いですね。報酬は、ギルドへの試験結果の報告ですか』

 四代目も。

『後で依頼料を受け取らない代わりに、俺もその手段は考えていましたけど……確かに、これだけまずい状況なら、村長もこちらに力を貸しそうですね。しかも、恩まで売れる!』

 五代目が。

『メイをお前の黒い話に関わらせたくないんだけど、まぁ仕方ないか』

 七代目が。

『どちらもメリットがある。ライエル……これは人助けだ。村長は村に認められ、お前は迷宮に挑めるような評価を得られる。どちらも幸せな取引だ』

 こいつら、俺の目の前で必死に考え込んでいる村長に対して、いったい何を考えているのだろう……。

 だが、俺もこの場を切り抜ける方法が思いつかないので。

「村長、少しお話が」

「なんだ?」

 こうして、俺は村長と取引を行なうのだった。
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