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セブンス 作者:わい/三嶋 与夢

孫馬鹿な七代目

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麒麟のメイ

 呼吸を整え、左手に持った短剣を相手に向ける。

 スキルが知らせているのは、目の前の少女が敵であるということだ。周辺のマップには、赤い光点が俺の前に一つだけ輝いている。

 周囲にいた魔物たちは消えており、黄色い光点である村の少年たちは急いでこの場を離れていた。

 露出の多い服装をした少女は、二本の角が特徴的である。

 五代目の記憶から、その少女が麒麟のメイである事が想像出来た。

「何をしていた」

 威嚇するような俺の声に、メイは短い髪を触って興味なさそうにしている。ただ、俺と俺の首に下げている青い宝玉を交互に見ていた。

「別に? 脅しかな? 威勢の良いのに限って、強者に出会うと萎縮して縮こまるから。少し脅せば、しばらくは大人しくなるからね。それに、これは僕たちの仕事だからね」

 仕事。

 メイはそう言うと、肩を上下させて自重気味に笑う。

「いや、本当だよ。何も食べようとか殺そうなんて思ってないし。これでも、僕は仲間内では温厚な方なんだ」

 温厚と言いながら、俺に敵意を向けてくるメイは俺が武器を向けても気にも留めていない。

 右手を胸に当てると、少し胸を張る。

 左手を腰に持って行き、まるで自慢しているようだ。

「これでも僕は人間の味方だからね。何しろ、恩もあるんだ。……さて、何か知っているなら答えて貰おうか。大事な恩人の気配が、どうしてその首に下げた青い玉からするのか。同時に、君からも僅かだけどフレドリクスの気配がする」

 両手を下げ、俺を睨んでくるメイは目を細くする。

 こちらの動きを見逃さないようにと、真剣な表情だった。

 俺は、自己紹介をする。

「俺はライエル・ウォルト……フレドリクス・ウォルトの子孫だよ。そして、この玉には五代目のスキルが記憶されている」

 メイは俺の返答に納得がいかないのか、足を広げて少し屈むとお腹から声を出す。

 叫んだだけなのに、俺の体はビクリと反応した。

「嘘を言うな! それは【(ギョク)】じゃない! そんな精巧な気配を発する玉があるわけないんだ。そうだ、お前が……お前たちがフレドリクスを閉じ込めているんだ」

 何を言っても通じそうにないので、俺は宝玉を握りしめる。

 五代目が。

『メイ、俺は閉じ込められている訳じゃない。俺はもう死んだんだ。お前だって分かっているだろうに……』

 五代目の悲痛な声は、メイに届いたようだ。

 だが――。

「ほら、やっぱりフレドリクスだ。悲しんでる。だから、今度は僕が助ける番だ」

 右手を横に上げると、服からメイの手が現われる。同時に、麒麟の角が彼女の掌から生えていた。

「おい! 声が聞こえたんじゃないのか! 五代目の話が聞こえたんじゃ――」

「へぇ、話せるんだ。じゃあ、余計にそれが欲しくなるね。フレドリクスと話すのは、もう何十年と前になるから……あの時は、人間の寿命が五十年から六十年だなんて知らなかった。また会えると思ったのに……でも」

 メイが一瞬にして俺の目の前から姿を消すと、俺はすぐに身をかがめた。

 頭上をメイの右足が横に振るわれ、そのまま空中で身を翻すと今度は左足でかかとを落としてくる。

 転がるようにその場から逃げると、すぐに立ち上がって短剣を構える。

 スキルで能力を向上させ、力は上がっているのに強い衝撃に吹き飛ばされそうになった。

 麒麟の角を右手から生やしたメイが、もう俺の目の前にいて俺を斬り伏せようと角を振り下ろしていたのだ。

(こいつの戦いかた……俺たちに似ている)

 短剣が火花を散らし、嫌な感触があったので後ろに飛び退くとメイは右手を横に振った。

「うん、フレドリクスの子孫を名乗るだけはあるね。体の動かし方が似ているよ」

 左手に持った短剣を見ると、受け止めた部分が欠けてひびが入っている。

 あのまま受け止めていれば、先に短剣が駄目になって斬り伏せられていただろう。

 宝玉内から、三代目が。

『ねぇ、この動き、って……僕たちと似てない?』

 四代目は、五代目に。

『まさか、お前……』

 五代目がハッキリと。

『俺が教えた。ちなみに、俺がどんなスキルを持っていたかも知っている。初代、二代目、三代目、そして四代目のスキルも初期段階は、俺も使っていたからな』

 六代目は、溜息を吐いている。

『俺にだってまともに教えたこともないのに……』

 七代目は呆れるが、俺に注意を促す。

『ライエル、あれだ……ノウェムたちを連れてこなく良かったな』

 連れてきていれば、絶対にまた蒸し返された。しかも、メイが勘違いをしているので、変な方に話が行ったかも知れない。

 俺は短剣を腰の鞘にしまい、予備のサーベルを引き抜く。

 二本のサーベルを構え、ゆっくりと場所を移動して森の中という条件を最大限利用することを考えた。

(力は向こうが上か? 初代のフルバーストなら、一時的にでも相手の能力は超えられそうだけど……)

 目の前の少女を倒してしまえば、五代目は怒り狂うだろう。いや、仕方がないというか? どちらになるか分からない。

 それに、俺も神獣と言われる麒麟を倒すなどごめんだ。

 魔石はなくとも、その血肉に角や鱗はとんでもない値がつく代物だ。

 メイが飛び込んでくると、動きを先読みしてサーベルで角を受け流す。

(いける!)

 スピードもパワーも、俺以上だ。だが、メイはセレスよりも弱い。

 やりようによっては、いくらでも相手が出来る範囲だった。

 俺に受け流された事に腹を立てた様子もなく、またも突撃してくるメイ。

 受け流そうとすると、メイは俺の目の前で急停止をすると屈んでそのまま左手一本で逆立ちをする。

 広げた足を回転させ、俺は呆気にとられて腕で防御をすると吹き飛ばされた。

「面白かったかな? フレドリクスにやったときは、簡単に避けられたのに……君、弱いね」

 立ち上がり、腕にしびれを感じながらも、俺はサーベルを構える。

「子供と少し成長した姿とは、手足のリーチもスピードも違うだろうが!」

 反論すると、メイは俺を見る。

「……ふ~ん、僕がフレドリクスと出会ったときの姿を知っているんだ。話を聞いたのかな? それはないか」

 それはない、と言い張るメイは俺に飛びかかり、今度は木々を利用して枝を飛び回っていく。

「あのさ~、僕って麒麟なんだよ。君よりも、森に慣れていると思わなかったの?」

 振り返り、サーベルを十字に構えてメイの突きを防ぎ、逸らした。

 後ろに回り込んで、そのまま心臓を狙って突きを放ってきたのだ。俺に対して、手加減をするつもりなどなさそうだ。

「反応も早いね。力も底上げしている。スキルは……九つ? いや、十個かな? 本当にどうなっているんだい、その玉もどきは」

 距離を取ったメイが、森の中に入ると俺はスキルでメイの居場所を確認する。

 俺の周囲を動き回り、隙があれば突撃してこようとしている。

 宝玉内からは。

『おい、さっさと麒麟の弱点を教えるんだ』

 三代目が五代目を問い詰めるのだが。

『……弱点? あると思うのか? セレスほどではないにしても、相手は麒麟だぞ。これでも向こうは手加減しているくらいだ』

 手加減をしている? どうして手加減を?

 そう思った俺は、右手に持ったサーベルを地面に突き刺し手放すと宝玉を握る。

 スキルで追跡しているメイの動きが、急激に鈍くなる。

(やっぱり、宝玉狙いか。奪ったところでどうにもならないのに)

 それを相手に伝えても、相手がそうは思わないから面倒なのだ。

 どうにかして伝える手段を考えていると、四代目が。

『ライエル、ここはお前のスキルを使うべきじゃないか?』

 俺は首を横に振る。

(アホか! スキルの使用条件がディープキスなんだぞ! できるか、そんなの!)

 すると、五代目も。

『あ、それいいな。ライエル、試したこともないし、やってみる価値はあると思うぞ』

 なんでこいつら余裕なんだ。

 確かに相手は、宝玉を奪うために壊せない。だから、こちらに対して手加減をしているのだろう。

 しかし、それは俺も同じだ。倒す事が出来ず、ついでに誤解を解く必要がある。

 七代目が。

『人の姿に抵抗があるのか? なら、麒麟の姿になって貰えばどうだ?』

 五代目が同意する。

『そうだな! 相手が動物なら、ただの挨拶みたいなものだからな!』

 その程度、みたいに言わないで欲しい。

 だが、可能性としては一番高いような気もする。

「聞こえているか? 少し話をしないか」

 メイは、木の枝から飛び降りてくると、そのまま俺を見る。

「渡してくれるなら、見逃しても良いよ。ただ、その前に色々と聞くことになるだろうけどね」

 俺は――。

「よし、少し聞いてくれ。まず、麒麟の姿になって、それでキスをしよう。……ちょっと待て! 不純な気持ちとか一切ない! これは必要な事なんだ! ちょっと粘膜的な接触だけだから! 少し舌を入れれば終わりだから!」

 ――メイに、とんでもなく冷たい視線を向けられた。

 あの少年三人組み以上に、冷たい目を向けられる俺。

「……フレドリクスの子孫が、まさかこんなに酷いとは思わなかったよ。本当にイライラするね」

 宝玉からは四代目が。

『馬鹿! なんで怒らせたんだよ!』

 そうは言っても、キスをする流れが想像出来ない。戦っている最中で、少し焦りもあって大事な部分を説明しなかったのもまずかった。

「違う! いいか、これは俺のスキルだ。キスをすれば、取りあえずラインが出来て……」

「はぁ、それで? なんで僕が、君の言うとおりに動かないといけないの? だまし討ちをするなら、もっとマシな嘘をついて欲しいね」

(嘘じゃないけど! 嘘じゃないけど、確かに俺でも疑うな)

 相手との間にラインを作り、意思疎通を行なうコネクション。

 前提条件が酷すぎないだろうか?

 七代目が。

『ライエル、流石に今の言動は、わしでもフォロー出来ない。最低だ。だが、ベストライエル的に言えばなかなかだったぞ』

 三代目も。

『時と場所を選びなよ。まったく……今回は麒麟の姿になってキスをしよう、で決まりかな。それでは、再開と行こうか。ほら、来るよ!』

 飄々とした三代目が、声を大きくすると俺は宝玉を手放して地面に突き刺したサーベルを手にとってメイの拳を斬りつけた。

「角じゃない?」

 拳には布がまかれ、俺のサーベルの刃を通さない。普通の服とは違うと思っていたのだが、やはり何かしら特別な力でもあるのだろう。

「角で突き刺されるのが好みなのかな? だったら……」

 右肘を俺の脇腹に叩き込もうとするメイに、飛び退いて避けようとすると、五代目が叫ぶ。

『もっと後ろに跳べ!』

 言われてギリギリではなく、大きく飛び退くと服が斬れていた。

 メイの肘からは、布を突き破って大きな角が生えている。

 しまい込まれると、布は破れていなかった。

 不思議な布であるのは理解したが、俺は脇腹を触ると斬れていないのに安心する。

「手加減している場合でもない、か」

 そう言うと、メイの眉がピクリと反応した。

「ふざけないで貰えるかな? 手加減をしているのはこっちだよ。消えて貰うだけなら、一瞬で終わる、って分かっているのかい?」

 俺はサーベル二本を地面に突き刺すと、宝玉を右手に握りしめて鎖を引きちぎるように首から外すと、鎖が右腕に巻き付いて銀色の装飾部分が膨れあがった大剣の形をとる。

 それを見たメイが。

「やっぱり、ただの玉じゃない。また人間は色んなものを作って……でも!」

 飛び込んでくるメイ。

 だが、今度は俺の方からも飛び込んで互いにぶつかり合う。

 大剣が、メイの左手から突き出た角とぶつかって火花を散らす。今度は刃は欠けず、そして大剣は折れることなく耐えてくれている。

 こちらから攻めるように攻撃を繰り出していくと、メイは後ろに下がりながら俺の攻撃を受け流していた。

 一時的に能力を何倍にもするスキル。

 【フルバースト】を使用し、俺はメイを押していた。

 先程とは立場が変わり、そしてメイとの距離を開けないようにする。飛び退けば踏み込み、踏み込めば下がる。

 一定の距離で互いに得物を振るい、そしてまたしても刃同士をぶつけ合い、向かい合う。

「やっぱり、似ている。五代目から教わったな。俺もだよ!」

 相手が俺の動きを知っているように、俺も相手の動きが分かる。

 同門のような関係であり、相手の武器の特徴を掴めば後は普段通りだ。

 メイはパワーとスピードがあっても、俺と同じで歴代当主には及ばなかった。たぶん、それがメイの人型としての限界なのだ。

 焦ったメイは、体から青白い光の線。

 雷を発すると、無理矢理俺との距離を開けた。

 後ろに飛び退く。

 目の前には、麒麟の姿になったメイがいた。

 地面を踏みしめ、そしてこちらを睨み付けてくる。

「……あんまりさ、時間をかけたくないんだ。もう終わらせてあげるよ。その玉もどきさえ手に入れば、僕には時間は沢山あるんだ。もう……消えなよ」

 メイが狭い森の中で駆け出すと、俺は大剣をしまって森の中を走り始めた。

 ジグザグに森の中を走るが、メイは巨体なのに木々を気にせず走っている。森に慣れている、と言うだけあってぶつかりもせず、そして速かった。

 俺は宝玉を握りしめたまま走ると。

「五代目!」

 五代目を呼び、そして巨木を見つけるとそれを背にして振り返る。

 右手に握りしめた宝玉を、メイの方に向けると五代目が。

『メイ……待て!』

 メイは言葉が通じていないはずなのに、ビクリと体を震わせて急に止まる。地面が抉れ、そして俺の数メートル前で止まると首をかしげていた。

「……なんだ、こんな事も出来るんじゃないですか」

 すると、五代目が言う。

『止まらなかったらどうするつもりだ! 大体、前もって何か打ち合わせをするとか、色々と頭を使え!』

 犬が餌を前にして、我慢しているような今のメイは、呼吸を乱して俺を睨んでいる。だが、同時に少しだけ落ち着きを取り戻したようだ。

「ハハ、世話になった期間を、律儀に覚えていたのか。何十年前の話だよ」

 すると、メイが。

「……僕にとっては、楽しかった記憶だよ。馬鹿にしないで貰えるかな? でも、そうか。フレドリクスは、君を守ろうとしているんだね。僕はそれなのに」

(俺を守ろうとする五代目の気持ちを察したのか?)

 メイは歩き出すと、俺が突きだした拳に頬を寄せる。

 正確には、宝玉に頬を寄せたいのだろう。手を開き、宝玉を見せると目を細めていた。

 五代目が。

『メイ、もうライエルを攻撃するな。こいつは俺の子孫だ。だから……もう……』

「ごめんね、フレドリクス。何か言っているのは分かるんだ。でも、僕には声が届かないよ。ごめんね。また声を聞きたかったんだ。また、頭を撫でて欲しかったんだ。だから……ごめんね」

 角をしまい込み、額を宝玉に寄せるメイに向かって俺は。

「……さっきの続きだ。俺にはスキルがある。【コネクション】……相手と意思疎通をするスキルだ。そのための条件がキスだった。俺を通してなら、五代目と会話が出来るかも知れない」

 メイは頷くと、口を俺の方に向けてきた。

 動物相手にキスをするというか、口を舐められたのは飼い犬だけだ。少しためらいもあったが、俺はキスをする。

(サードキッスは、まさかの動物……いや、そう言えばモニカに取られていたな。フォースキッスか)

 そんな事を考えていた。
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