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レベルリセッター ~クリスと迷宮の秘密~  作者: ブロッコリーライオン
3章 飛躍 十歳冒険者見習い編
53/70

53 注意喚起

 いつも通り、日が昇る前に起きた僕は、訓練の前に冒険者ギルドへとやってきていた。

 さすがに早かったのか、冒険者は一人もいなかった。


「マリアンさん、おはようございます」

「おはよう、クリス君。昨日の依頼の案件かしら?」

 今日のマリアンさんはなんだか少し明るい感じがするし、何かいいことでもあったのかもしれないな。


 僕はそう思いながら、ローブの中で 背嚢(はいのう)を【排出】して、カウンターへと乗せた。

「はい。それと魔石も持ってきました」


「……えっと、魔石はあとで見させてもらうわね。先に依頼書の方を見せてもらえるかしら?」

 僕はマリアンさんにそう言われて、普通であれば、確かに背嚢に入れたままだとぐちゃぐちゃになってしまうことに気がついた。

 失敗したなぁと思いながら、背嚢の入り口を開いて見せる。


「あ、背嚢に全部まとめてあります。上に依頼書が入っているんですよ」

「分かったわ……依頼は全部完了しているわね。それでこの魔石の量……無理はしていないのよね?」

 マリアンさんは依頼書の全てにサインがあることを確認した後に、魔石を見てそう口にした。


 やっぱり他の冒険者と比べると多いのかなぁ。そんなこと思いつつ、僕はしっかりと頷いた。

「はい。初日も昨日も日が暮れてしまう前には迷宮から出ていますし、無理はしてないですよ」

「そう……まずは冒険者カードをお願い出来るかしら?」

「はい」

 僕は冒険者カードをマリアンさんへ手渡すと、マリアンさんは操作をして一度溜息を吐いた後、冒険者カードを返却してくれた。


 そこには、Hランク〔15/15/10〕 Gランク[20/20/20] Fランク[5/5/40]と表示されていた。

 やっぱりFランクになってしまったか……するとマリアンさんは周りに誰もいないのに小さな声で訪ねてくる。

「クリス君、Eランクの昇格試験は受けるの?」

「いえ、特に問題がなければ受ける予定はまだありません。成人前にランクを上げる必要はないって師匠達からも言われてますし」

 僕も小さな声で返答することにした。


「そう……ねぇクリス君、もし良かったらレベルを表記させて、冒険者カードをもう一度見せてもらえないかしら?」

「レベルをですか?」

「ええ」

 マリアンさんは真剣な表情をして頷いた。


 現在のレベルは十八で……登録した時はレベル二だったから、普通ではないレベルの上がり方が示されてしまう。

 それでも僕は少し考えてから、レベルを表記させて再度マリアンさんへ冒険者カードを渡した。


 すると驚いた顔の後、どこか安堵したような表情をして冒険者カードを僕に返してくれた。


「そのレベルの上がり方は、無茶していない人のレベルの上がり方ではないわ」

 マリアンさんが僕のレベルを見て、少し呆れたようにそう言ってきた。


「本当に無理はしていませんよ。まだ六階層ですし、フォレストウルフの連携に慣れるまで、先へ進むのは止めておこうと思っていますから」

「冒険者登録して二日目の冒険者が、一人で六階層まで下りて戦っているのは、かなり無茶なことだと思うのだけど?」


 マリアンさんはさっきまで少しだけ笑顔があったけど、六階層へ進んでいたことが分かると、本当に呆れてしまったみたいだ。

 まるでお酒飲み過ぎたゴロリーさんを見るエリザさんのような顔にさせてしまった。


「まだ一度もまともな攻撃を受けていないので問題はないと思いますけど、心配してくれてありがとう御座います」

「クリス君の師匠さん達はとても優れた人達なのかしら?」

 ゴロリーさんやシュナイデルさんがとても強いことに間違いはない。

 僕は自信を持って頷く。


「はい。僕では一撃も入れることが出来ないぐらい強いですし、色々なことを知っています。それにとっても優しいんですよ」

「そう。それは良かったわ」

 少しは分かってもらえたのか、ようやくマリアンさんは微笑んでくれた。


 そこで僕はレベルを見たいと言ったマリアンさんが気になったので、聞いてみることにした。

「ところで何故レベルを?」

「それは……ちょっと言えないわ」

「噂になっている、迷宮に現れる冒険者集団のことですか?」

「……知っているの?」

 どうやらマリアンさんも迷宮に居る集団のことを知っているみたいだった。

 でもカリフさんが噂になっているって言っていたぐらいだから、知っていて当然なのかもしれない……。


「はい。その冒険者集団なら昨日見ています。師匠達に伝えたら、その集団には近づくなと言われましたけど……」

「……クリス君がある程度の実力を持っているというのは分かったわ。それでもクリス君の師匠さん達が言う通り、出来れば近づかない方がいいわ」

 マリアンさんは真剣な顔をして、ゴロリーさん達の考えに同意した。


「そのつもりです。もしかすると冒険者ギルドにも、その集団の関係者がいるらしいとの見立てですから、極力マリアンさんがいる時にだけくることにします」

「……クリス君の師匠さん達は凄いわね。でも私に話して良かったの?」

 マリアンさんは一瞬、言葉に詰まるようにして、窺うように聞いてきたけど、僕の答えは最初から決まっていた。


「マリアンさんは僕の恩人ですし、仮にマリアンさんがその集団の仲間だったら、僕には人を見る目がなかったということです」

「恩人って、そこまでのことはしていないわ」

 マリアンさんは首を振って答えるけど、信じられる人がいるってことがどれだけ大切なことなのか、僕に気づかせてくれたのは、ゴロリーさん、メルルさん、そしてマリアンさんだった。

 だからマリアンさんが恩人であることは僕の中では絶対だった。


「それでも僕にとっては恩人です。それにマリアンさんは僕のお世話になった人達と一緒で、仕事に誇りを持っている人です。そんな人が不正をするようなことはないと信じています」

「クリス君……あれ、おかしいわ、何で?」

 マリアンさんの目からは涙が流れ落ちていた。


 僕はマリアンさんが落ち着くまで、じっと待っていた。

「ごめんなさいね。とても嬉しかったわ」

「僕は正直に思ったことを口にしただけですから」

「それでもありがとう」

 マリアンさんがお礼を言ってくれると、僕の心が温かくなっていくのを感じた。


 そして徐々に恥ずかしくなってきてしまったので、話題を冒険者集団のことへ戻すことにした。

「いえ、あ、そうだ。出来ればアイネ達にもその集団と関わらないように伝えてもらえますか?」

「分かったわ。それで今日は依頼を受けないのかしら?」

「はい。三日に一度は武具のメンテナンスと勉強をする日に決めましたから」

 レベルを上げる為に朝と夕方は少しだけ迷宮へ潜るけど、本当に少しの時間だけだ。


「そう……それがいいわ。あまり迷宮へ潜り過ぎていると、戦いばかりで気が休まらなくなることもあるみたいだから」

 ……迷宮で寝ていたことは言わない方がいいよね。


「そうなんですね。あ、そういえばマリアンさんのお休みはいつなんですか?」

「一応、闇の日がお休みにはなっているけど、闇の日も今の時間帯はいるわよ」

「えっと、お休みがないんですか?」

 それだと体調が悪くなった時とか大変だと思う。

 やっぱり冒険者ギルドでも、色々と問題があるのかな?


「ちょっと訳があってね。もう少しの間はそうすることになると思うから」

「そうなんですね……もし元気になりたかったら“エドガー食堂”へ来て下さいね。元は“ゴロリー食堂”だったんですけど、とっても料理が美味しいところですから。それに僕の師匠が悩みを解決してくれると思いますよ」

「もしかしてクリス君の師匠さん達って双竜の顎のゴロリーさんとエリザさんなの?」

 マリアンさんは少しだけ目を大きく開くと、カウンターに身を乗り出して聞いてきた。


「そうですけど、ゴロリーさん達を知っているんですか? 一応、騎士団の団長になったシュナイデルさんと部下のジュリスさんも僕の師匠ですよ」

「はぁ~納得したわ。道理で……近いうちに必ず顔を出させてもらうわね」

 何だか分からないけど、マリアンさんからは迷っていた雰囲気が一切なくなって、とても優し気に笑ってくれた。

 やっぱりマリアンさんには笑顔が似合うし、とても安心するなぁ。


 僕はそう思いながら、少しお腹も空いて来たので帰ることにした。

「はい。じゃあこれから訓練があるので、今日は帰りますね」

「ええ、またねクリス君」

 こうして冒険者ギルドを出た僕は、迷宮へ入りスライムを一匹だけ倒すと、ゴロリーさんの家へと戻り、いつもよりも短い訓練を始めた。

 そしてエリザさんの作ってくれた朝食を食べ終えると、三年ぶりとなる能力鑑定を始めた。


「じゃあ始めますね」

 一度能力鑑定球へ魔力を通し、その後に改めて手を乗せると、能力鑑定球は光り出した。

 そして空中に浮かび上がった文字には能力が(しる)されていた。


 名前:クリストファー

 年齢:十歳 

 種族:人族

 レベル:十八


 [統合スキル]

 全身体能力上昇率増加Ⅲ 索敵Ⅳ 総魔操術Ⅲ 心眼― 危険予知Ⅰ 総気操術Ⅰ

 地図作製Ⅰ 奇跡の息吹Ⅰ


 [身体能力補助スキル]

 空中制御Ⅲ 姿勢制御Ⅲ 夜目Ⅲ 体力回復Ⅲ 魔力回復Ⅲ


 [武術スキル]

 剣術Ⅳ 槍術Ⅲ 格闘術Ⅲ 弓術Ⅱ 短剣術Ⅱ 大剣術Ⅱ 棒術Ⅱ 斧術Ⅱ 

 槌術Ⅱ 盾術Ⅳ 鎌術Ⅱ 細剣術Ⅱ 回避術Ⅲ 歩行術Ⅲ 双剣術Ⅱ 投擲術Ⅱ  


 [魔法スキル]


 [技能スキル]

 交渉Ⅳ 抽出Ⅴ 料理Ⅲ 裁縫Ⅱ 目利きⅣ 速読Ⅴ 研磨Ⅲ 細工Ⅱ

 採寸Ⅱ 統率Ⅱ 筆記Ⅲ 絵画Ⅱ 歌唱Ⅲ 騎乗Ⅰ 操縦Ⅰ 調合Ⅲ

 隠密Ⅳ 潜伏Ⅳ


 [耐状態異常スキル]

 毒耐性Ⅲ 麻痺耐性Ⅱ 睡眠耐性Ⅱ 石化耐性Ⅱ 魅了耐性Ⅲ

 呪い耐性Ⅱ 虚弱耐性Ⅳ 病気耐性Ⅳ  


 [センススキル]

 平衡感覚Ⅲ 集中Ⅳ 罠感知Ⅰ 罠探知Ⅰ 不屈Ⅲ 意思疎通Ⅳ

 魔力遮断Ⅳ 気配遮断Ⅳ 


 [特殊スキル] 

 隠蔽Ⅳ 幸運― 癒しの導き― 武人の嗜み― 武人の心― 癒しの輝き―


[固有スキル]

 シークレットスペース エクスチェンジ


 能力鑑定の結果を見ながら、少しだけスキルが少なくなっているように感じた。

 それはスキルを統合したからだと思うけど、何故か少しだけ悲しく感じてしまった。


【総魔操術】は【体内魔力感知】【魔力操作】【魔力循環】【魔力制御】【魔力纏】の五つのスキルがまとまったスキルだ。

 同じように【総気操術】は【闘気解放】【闘気操作】【闘気循環】【闘気制御】【闘気纏】の五つのスキルがまとまっている。

 この二つは七歳の終わりと八歳の終わりに交換したのだけど、【総気操術】は未だに一度も使用したことがない。


【心眼】は【五感強化】【直感】【危険察知】の三つのスキルがまとまったもので、何故か【危険予知】というスキルも一緒に覚えることが出来たとてもお得なスキルだった。

 これは八歳になってから、どうしても優先したいと僕が初めてお願いをして交換したスキルでもあった。


【心眼】はまだよく分かってはいないけど、僕に対する気配や魔力が全方位隈なく見えるような感覚のスキルで【危険予知】と合わさると、攻撃の来るタイミングが掴めるとても凄いスキルだった。

 ただ最初はまったく距離間が掴めなくて、孤児院の子供達を相手に、目に布を当て逃げる遊びをして、ようやく使えるようになったスキルだった。


【奇跡の息吹】は【祈祷】【瞑想】【集気呼吸】【魔呼吸】がまとまったスキルで、深く呼吸することで、体力と魔力を同時にそして今まで以上に回復を早めるスキルだった。

 これはエリザさんが勧めてくれたスキルだった。

 なんでも伝説の騎士と一緒に戦っていた賢者が持っていたスキルみたいで、僕もゴロリーさんも、その勢いに負けてしまい、交換したスキルだった。


 イルムさんから教えてもらった【地図作製】スキルは、迷宮探索を始める少し前に交換したスキルで【方向感覚】【空間把握】が統合されたものだ。


 そしてその他に特殊スキルの【武人の心】【癒しの輝き】と交換はしたけど、そこまで多くのスキルと交換してきたわけではなかった。

 どちらかといえば訓練に時間を掛ける割合が多かったからだ。


 ただ僕は自分の能力を見ても、凄いのかどうなのかが分からないでいた。


「だいぶよく育っている。ただ【剣術】と【盾術】が他の武術スキルより高いことや、何より【抽出】のスキルが一番高いことが気に入らないが……」

 ゴロリーさんは腕を組んで少しつまらなそうにしていた。


「まだ指導出来ないことが多すぎるからね。魔力に関しては最初よりずっとよく育って来ているし、レベルがリセットされても基礎値は上がっているみたいだから、訓練にもあまり支障にならなかったからね」

 エリザさんは逆にいつも以上に機嫌が良さそうで笑っていた。


「くっ、クリス、早く大きくなって【闘気】を使った闘い方を教えさせてくれ」

「いっぱい食べて、いっぱい寝ますね」

 身体を大きくするにはたくさんの睡眠と食事、そしてある程度の運動だったよね。


「本当にクリス君は素直でいい子ね。今日はグランとマリエナさんのところでの仕事が終わったら家で魔法訓練をするからね」

「はい」

「今日は弓の訓練じゃなかったのか?」

「貴方、弓を教えられないじゃない」

 実は何度か弓の指導をしてもらってはいたけど、ゴロリーさんやジュリスさんは弓が上手くなくて、唯一シュナイデルさんが基本の構えを知っていたので教えてもらい、それからは一人で練習することが多い。


「くっ、クリス、今日は斧の戦い方を教えるからな」

「えっと、よろしくお願いします」

「基本的に大剣と扱い方はそんなに変わらないじゃない」

 いつもこの後に口喧嘩へ発展して、結局はエリザさんが圧勝するので、さすがに僕はゴロリーさんが可哀想で見ていられなかった。


「じゃ、じゃあ、僕はグランさんのところへ行ってきますね」

「行ってらっしゃい」

「……色々と訓練メニューを考えておく」

「ははっ、行ってきます」

 こうして僕の探索の休みはいつものように過ぎていく。


 グランさんのところで【抽出】作業に没頭して、マリエナさんのところでも【抽出】作業と【調合】をして過ごしていく。

 マリアンさんに帰り際、冒険者集団のことは話さずに、アイネ達が帰って来たら今度情報交換をしようと伝えてもらえるようにお願いすると、マリエナさんは笑って“もう 一端(いっぱし)の冒険者ね”と言って笑っていた。


 その後、ゴロリーさんの家に戻りゴロリーさんとエリザさんとの訓練を終え、あっという間に一日が過ぎていった。


 そして翌日、冒険者ギルドで五件の生ゴミ処理の案件を受けた僕は“イルムの宿”へと赴いた時に、昨日アイネ達が戻って来ていないという事実を知ることとなった。


お読みいただきありがとう御座います。

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