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レベルリセッター ~クリスと迷宮の秘密~  作者: ブロッコリーライオン
3章 飛躍 十歳冒険者見習い編
50/70

50 懐かしき顔ぶれと不安な顔ぶれ

 早い時間帯だけど、今日の受付はマリアンさんしかいないという訳じゃないのに……。

 そう思いながら僕はマリアンさんの方へ移動していくと、向こうもこちらに気づいたようで飛び掛かってきた。


「クリス~って、何で避けるのよ」

「アイネがいきなり飛びついて来るからだよ。あ、皆も久しぶり」

 マリアンさんと話していたのは、二年前に孤児院を出たアイネ達だった。


「ああ」「おう」「うん」

「何を和やかに挨拶を交わしているのよ」

 昔よりも格段に増したスピードで飛び掛かられたら、さすがに怪我をしてしまいそうだったから避けたのだけど、アイネにはその理屈は通用しなそうだと感じた僕は、アイネとパーティーを組んでいる三人に声を掛けることにしたのだ。


 恰好は既に冒険者のそれで、皆の身長もドワーフであるグランさんと同じぐらいで、僕が見上げるぐらい大きくなっていた。


「えっと、それでマリアンさんの受付で何をしてたの?」

「クリスが冒険者登録したかを確認しに来たのよ。教えてくれなかったけどさ」

 アイネはマリアンさんを見て頬を膨らませた。


「それはそうだよ。アイネ達と僕の接点が分からないのに、登録したばかりの新人冒険者の素性は教えないよ」

 アイネは僕の言葉を聞いて納得したのか、マリアンさんに少しだけ頭を下げた。

 皆は後ろからそれを見て笑いを堪えていたけど、アイネの暴走は今も止められていないようだ。


 そんなアイネ達を見てマリアンさんは笑っていたから、きっとアイネ達もマリアンさんの噂なんか気にしていないのだと感じた。


「……まぁクリスに会えたから、そのことはもうどうでもいいわ。この二年で私達は装備品を整えて、順調に冒険者ランクを上げたのよ。もうすぐ見習いの期間が終わるEランクの試験だって受けられるんだから」

 アイネは気を取り直すと、自分達の二年間の成果を誇るように教えてくれた。


「おめでとう」

「えっと、ありがとう……って、そうじゃないわ。クリス、登録したばかりじゃ仕事をしたってお金は直ぐに貯まらないから、パーティーに入れて迷宮で一緒に戦ってあげてもいいわよ」

 どうやらパーティーへ誘ってくれているみたいだ。

 確かにアイネ達と組むのは楽しそうだけど、僕はこの申し出を断ることにした。


「アイネ、ありがとう。でもアイネ達は僕の目標だから、先で待っていて欲しいな。それにライバルから借りを作るのは、どうしてもの時だけだって、ゴロリーさんにも言われているから」

「ふ、ふん。あとで“力を貸してくれ”って、頼んで来ても、直ぐには手伝ってあげないからね」

 遠回しに僕が困ったら力を貸してくれるって言ってくれていることが分かって、アイネの優しさについ笑ってしまう。


「うん。ありがとう」

「皆、行くわよ」

 僕がお礼言うとそれに満足したのか、アイネは笑顔で冒険者ギルドの出入り口へ向かって歩き出した。


「またな、クリス」

「頑張れよ」

「何かあったら頼れよ」

「うん、ありがとう。皆も色々大変だと思うけど、頑張ってね」

 僕の言葉に二年前と変わらず困った笑みを浮かべて、三人はアイネの後を追って冒険者ギルドから出て行き、僕は皆を見送った。


 そして振り返ると、受付カウンターからこちらを不安そうな顔で見つめるマリアンさんがいた。

「おはようございます、マリアンさん。どうしたんですか?」

「おはよう、クリス君。あの子達の誘いを断って良かったの?」

 どうやら心配してくれていたみたいだ。


「はい。師匠達と相談してどうしても組みたい相手でない限り、当面は一人で活動することになりました。あ、これお願いします」

「ええって、生ゴミ処理を五件……とても大変だと思うけど、大丈夫なの?」

「はい。僕がこうして冒険者になれたのは、この五件のお店のおかげですから」

 今ので顔見知りだということは分かってもらえてかな。


「そう……分かったわ。冒険者カードを出してもらえる?」

「はい」

「冒険者カードの表面には受けた依頼の内容を表示させる義務があるの。そしてこれが依頼書よ」

 僕は冒険者カードと羊皮紙を五枚受け取った。


「この羊皮紙は?」

「依頼が終わったら、これにサインを貰ってきてね。サインがもらえないと依頼は受けたままになっちゃうから、しっかりともらってね」

 一回一回サインをもらわなくちゃいけなかったのか……。


「分かりました。あ、それと昨日迷宮へ潜ってきたので、魔石の買い取りをお願いできますか?」

「……一人で潜ったのね。危ないことはしていない?」


「はい、攻撃は一度も受けませんでしたから」

 僕はローブの中でシークレットスペースから背嚢を【排出】して、受付カウンターへ置いた。


 この背嚢は昨日エリザさんが、僕が迷宮から持ち帰った魔石の多さを見て“これごと渡すことにした方がいいわ”と、この背嚢をくれたのだった。

「この背嚢は?……クリス君!?」

 背嚢の中を見て、マリアンさんは驚いた表情のまま僕に確認してきた。


「無理はしていませんよ。昨日は三階層までしか進んでいませんし、師匠達にも無理はするなと言われていますから」

 それにしても“きっと受付は驚くから、冷静な判断が出来る受付だといいわね”とエリザさんが言っていたから、やっぱりマリアンさんは優秀な受付さんなんだと思う。


「一日で三階層……その師匠達というのはどういう人達なのかしら?」

「五歳から食事提供してくれて、七歳から武術訓練をずっとしてくれている人ですよ」

「……もう一度冒険者カードを貸してくれるかしら」

「はい」

 マリアンさんは僕から冒険者カードを受け取ると、背嚢に入っている魔石を取り出して、何か操作を始めた。直ぐに冒険者カードは返ってきたのだけど、次に驚いたのは僕だった。

 Hランク〔15/10/10〕 Gランク[15/15/20] 


 たぶんこれってランクが上がったということなのだと思う。

 だけどランクが上がってしまったことにはさすがに戸惑いを覚えた。

 確かに魔石でポイントが付くとは聞いていたけど、こんな簡単にランクが上がるものなのかな?


 僕は冒険者カードからマリアンさんへ視線を移すと、マリアンさんも僕の顔をじっと見つめていた。

「本当に無理はしていないのね? その師匠達に言われて迷宮へ潜っているとかではないのね?」

「はい。迷宮を踏破することが僕の最初の目標ですから。それよりもこれって?」

 僕としては無理をしたと感じていないし、実際迷宮で戦っても問題はなかった。


「冒険者ギルドでは常時、魔石回収の依頼を出しているの。低級の魔石でもHランクなら五個、Gランクなら十個でそのランクの依頼を一つ達成した扱いになるの……一応Fランクには二十個よ」

 それだと簡単に冒険者のランクが上がる気がするけど、それで大丈夫なのかな?


「じゃあ直ぐにランクはFランクまで上がることになるんですか?」

「クリス君、普通登録したばかりの冒険者はパーティーを組むものなの。そして装備を整えたとしても、これだけ多くの魔物は普通なら倒せないわ。ちなみにパーティーの場合は、人数毎にさっきの魔石数でようやく一緒にランクを上げられるのよ」

 どうやら通常より魔石の数が多かったみたいだ。

 それにしてもパーティーを組むのはいいことばかりではないって、このことも関係しているのかな? あ、でもそうすると、どれぐらいが平均的なんだろう?


「どれぐらいが一般的なんでしょうか?」

「そうね……さっきのアイネちゃん達が、怪我をしないように戦って一日三十~四十個でいい方なのよ」

 随分少なく感じるけど、それでもそれならアイネ達はEランクの試験を受けていてもいい筈だと思うんだけどなぁ~。


「そうなんですか……」

「納得していない顔ね。でも見習いの冒険者期間はまずレベルを上げること、そして武具の新調、しっかりと暮らしていけるようになることが大切なの。その上で徐々に強くなっていくものなのよ」

「あ、分かりました」

 僕はずっとゴロリーさんやエリザさん、それにシュナイデルさんやジュリスさんと訓練してきたから、その段階を飛ばすことが出来たんだ。


 でもそうなると、魔石をあまり持って来ない方がいいのかな?

 ゴロリーさんが“成人するまでは、冒険者ギルドのランクにそこまで縛られることはない”って、言っていたし……。

 目立つのは構わないけど、またいろんな人に追いかけられるのは嫌だしな。

「この調子で魔石を持って来ない方がいいですか?」

「冒険者ギルドとしては持って来て欲しいわ。でも出来るならもう少し早い時間帯の方がいいと思うわ」

「分かりました」 

 とりあえずEランクの試験を受けなければ大丈夫かな?


「じゃあ低級の魔石が二百六個で、銀貨六枚と銅板一枚、銅貨八枚よ。この背嚢へ入れておくわね」

「ありがとう御座います」

 本当にマリアンさんは気の利く人だな。

 何で変な噂を流す人がいるんだろう?


「大金だから、くれぐれも気をつけてね」

「はい。じゃあ依頼を受けた仕事に行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 僕はこうして冒険者ギルドを後にした。


 冒険者ギルドを出て直ぐに【索敵】【隠密】【魔力遮断】【気配遮断】を発動させてまずは“エドガー食堂”へ向かった。

 誰もついて来る人がいなかったことに安堵して、冒険者ギルドで依頼を受けた生ゴミ処理の仕事をしていく。

 “エドガー食堂”や“イルムの宿”を含め、五件の生ゴミ処理の依頼を済ませると、口々に僕が本当に冒険者なったことを喜んでくれた。

 そして依頼完了のサインと持ち運べるお昼を五件が五件とも用意してくれていた。


 五件も回ったのに、昨日よりも早く迷宮へ潜れるな。

 そう思った矢先、昨日と同じく見張りの騎士さんに止められ、騎士にならない事を伝えると残念がられたけど、とても好意的に見送ってくれた。


「今度ジュリスさんと会ったら、しっかりと話を聞かないといけないな」

 僕は騎士の皆さんにジュリスさんが何を言っていたのかを確かめるんだと決意して、迷宮へと潜り始めた。


 迷宮へ入って直ぐに【索敵】【隠密】【魔力遮断】【気配遮断】を念じると、昨日とは違って、素早く二階層へ下り、三階層へと急ぐ。

 どうやら今日は三階層への階段の前を占領する人達はいなかったので、僕はそのまま三階層へと下りていく。


 すると数人の冒険者がジャイアントバットと戦っている反応があったので、様子を詳しく探ることにした。


 最初はアイネ達かもしれないと思っていたけど、アイネ達は四人のパーティーで、今ジャイアントバットと戦っているのは六人のパーティーだったから、あまり関わらないことに決めた。


 戦っている冒険者達へ向かって、次々とジャイアントバットが押し寄せていくのが分かる。


「本当にジャイアントバットって、冒険者を攻撃するんだ」

 僕はそんな感想を呟きながらも、自分の周りにジャイアントバットがいないことを確かめてから、もう一度冒険者達の反応を探る。


 すると戦闘しながらも四階層への階段がある方へゆっくりと進んで行くのが分かる。


 ジャイアントバットは全部で二十匹ぐらいいて、とても苦戦しているように思えた。

 だけど冒険達達は四階層が近くになると、走って四階層への階段を下っていった


 そこでジャイアントバット達は今までの戦闘が嘘だったかのように、同じところで反応が止まっていた。

「昨日みたいにぶら下がっているんだろうな」


 僕はシークレットスペースから槍を取り出し、近くにいたジャイアントバットを倒してレベルを上げると、少しドキドキしながら、四階層前のジャイアントバットを槍で突き刺して倒した。


 そして襲い掛かってくるかと身構えたけど、僕を攻撃しようとするジャイアントバットはおらず、昨日と同じように全てを倒して、ドキドキは直ぐに治まっていった。


「じゃあ四階へ行こうかな」

 僕はそう呟き四階層へ下りようとすると、ジャイアントバットと戦っていた冒険者達はまだ下にいるみたいで、休憩しているみたいだった。


「おいお前ら、さっさと持ち場へ戻れ。今日ノルマを達成出来なかったら、迷宮へは連れて来てやらないからな」

 そんな何処かで聞いた声が聞こえてきた。


 すると、先程四階層へ下りていた六人の内五人の冒険者達が、こちらへと引き返してきたので、僕は急いで隠れて、三階層へ上がって来た冒険者達の様子を窺う、僕より少し大きいぐらいの子供達だった。

 驚くことに武器は持っているけど服装はボロボロで、とても三階層へくる恰好ではない気がした。

 それに皆ところどころ怪我をしているようだった。

「あ、ジャイアントバットがいない」

「おい、今のうちに早く二階層へ上がろうぜ」

 そう言って彼らは二階層への階段目掛けて走り出した。


「一体なんなんだろう?」

 僕は少し不安になりながら四階層へと下りていくと、先程の子供達へ指示を出していた人がちょうど迷宮の角を曲がっていくところだった。

 反応は十人以上の集団みたいだった。

 ただ僕は曲がっていく時の冒険者達の顔ぶれが気になって仕方がなかった。

 何故なら僕が見た冒険者達は、昔お兄がパーティーを組んでいた冒険者達だったからだ。

 僕は迷宮へ来て、強い不安を感じることになるのだった。


お読みいただきありがとう御座います。

早いもので、もう五十話です。

本来は迷宮を踏破している予定が……頑張ります。


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