48 迷宮探索開始
迷宮へと向かって歩く僕は、とても幸せな気分だった。
鎧は動きやすい皮鎧だし、ブーツもとても履き心地がいいのに外部からの衝撃に強い。
フード付きのローブは羽織るタイプで、ローブの中でシークレットスペースが使えるように作ってくれていた。
皆が僕の為に作ってくれた武具を装備して冒険者を始められるなんて、本当に幸せだと思う。
そして多くの冒険者が入る迷宮の奥へ僕も今日足をようやく踏み入れることになる。
迷宮の前ではいつものように見張りの騎士が立っていた。
他の冒険者は素通りするように迷宮へ入って行くので、僕もそれに倣い一緒に入ろうとすると、道を塞がれた。
「おい小僧、一応冒険者カードを提示をしてくれ」
「はい」
子供だけ制限しているみたいだね。
「クリストファー、十歳って……もしかして団長とじゃじゃ馬の教え子か?」
「団長はシュナイデルさんのことですか?」
じゃじゃ馬の方は分からないけど……騎士団長はシュナイデルさんだけだし……。
「ああ。じゃじゃ馬とはジュリスのことだ」
ジュリスさんは身体を動かすのが好きだけど、じっと座っているのが嫌いだからなのかな? 僕はおかしくて笑ってしまう。
「それにしても騎士にはならないのか? せっかくいい名前なのに」
見張りの騎士の人は残念そうに言ってくれた。
シュナイデルさんとジュリスさんは僕のことを騎士団の人達に話しているのかな?
「はい。今度は伝説の冒険者としてクリストファーの名前を憶えてもらえるように頑張るつもりです」
騎士になる人達のうち五人に一人は、伝説の騎士の物語を小さい頃に読んで、そのまま騎士を目指すらしい。
だからこの手の話題はここ一年多かった。
「かぁ~若いね~。一応言っておくけど、迷宮は少しの油断が命取りになるから、気をつけるんだぞ? 同じ冒険者達にもだぞ」
今までゴロリーさんやイルムさんが教えてくれたことを言ってくれるこの騎士さんはいい人だということが分かる。
「はい。ありがとう御座います」
「じゃあ通っていいぞ」
「じゃあ行ってきます」
僕はいつものように迷宮へと入り、いつものようにまずは一階の安全エリアを目指すことにした。
途中でスライムと遭遇したので、五年間変わらずに続けた倒し方でスライムを撃破すると、三レベルになった。
冒険者登録の為レベル二で止めて、この三日間はレベル二のままで過ごしていたから、この身体に力が漲る感じも久しぶりな感じがする。
安全エリアへと来た理由は、しっかりと準備する為と、ホーちゃんをシークレットスペースから出してあげる為だった。
「おはよう。魔力ね」
ホーちゃんはこの一年で少しだけ大きくなった。
その分、魔力供給をする量も少し多くなったのだけど、今みたいにレベルが低いと一度では満腹にしてあげることが出来ない。
食事が少ないと怒るだけじゃなくて、凶暴になる魔物もいるらしい。
ホーちゃんはそんなことなく、小刻みに魔力供給してあげていれば満足してくれるので、僕としてはとても助かっている。
基本的には寝てばかりだけど、僕が急に寂しくなったり、悲しくなったりした時は、シークレットスペースから出てきて慰めてくれる僕の友達だ。
「ホーちゃん。迷宮の中は聞いたことしか分からないから、知らないことだらけなんだ。だからもう少しだけシークレットスペースの中でいい子にしていてね」
ホーちゃんはしっかりと頷いて、シークレットスペースへと【収容】させてくれた。
「もう僕の言葉は理解しているみたいだし、本当にホーちゃんは凄いな」
“ホーちゃんと話せればいいなぁ”僕がそう願っていたからなのか【意思疎通】のおかげなのか、ホーちゃんは僕の言葉が分かるようになってきていた。
ゴロリーさんやエリザさんは、ニール君やミレーヌちゃんに対抗したんじゃないかと笑っていたけど……。
「まずはホーちゃんの為にもレベルを上げないとね」
僕は装備の着心地と動きやすさを確認して、最後にグランさんから貰った剣で素振りをしてみた。
少し長い気がしたけど、とても手に馴染んで、問題なく振ることが出来た。
そのことに感謝しなから、ようやく僕は迷宮の探索を開始することにした。
いつものように【索敵】【隠密】【魔力遮断】【気配遮断】を発動してから、今日はいつもと違う二階層への階段を下りていく。
少しドキドキしながら降りて行くと幾つもの反応が頭に浮かぶ。
ほとんどが同じ反応だったけど、違う反応もあったので、僕は違う反応がない方向へと進んでみることにした。
たぶん他の反応は冒険者だろうと思ったからだ。
二階層も一階層と変わらずに明るくて、誰かが造ったようにも感じられる所だった。
のんびりそんな感想を持っていると、接近してくる反応があったので構えると、そこには僕の腰ぐらいの大きさの魔物が、身体を伸び縮みしながら接近してくる。
「動きはスライムと似てるのに、ちょっと気持ち悪い」
思わず呟いてしまいながら、僕は事前にゴロリーさん達から聞いていたように、素早くワームの横へ移動して、ワームの中心へ剣を突き刺し、そのまま頭の方へ向けて刃を滑らせた。
するとワームは最初からいなかったかのように消え、ワームのいた場所には魔石が落ちていた。
今の戦闘でレベルがまた上がったけど、それよりも事前に情報がなかったら、ワームにもっと苦戦していたかもしれないと思った。
きっと正面から戦っていたら、力で押されていたかもしれない。
スライムよりも早くて、もし囲まれたら焦らないようにしないといけないな。
“同じ敵と戦うのなら、直ぐに戦い方を頭に入れて、攻撃を受けないように考えて戦いなさい”
ジュリスさんの言葉を実践して、よく考えて動けるようにイメージしていく。
それにしても事前に知らべたり、聞いたりして情報を得ておくことは重要なんだと今更だけどよく分かるな。
僕は魔石を拾って【回収】と念じて魔石をシークレットスペースへ送った。
「この調子で頑張ろう」
僕はそれから頭に浮かぶ反応と、自分の目で見た状況を確認して、二階層を歩き続ける。
ワームの反応があったらしっかりと観察し、進んでくる方向を見極めてから、タイミングよくワームの横へ移動して、直ぐに剣を突き刺して切る。
ワームが複数いても、慌てずに一匹一匹同じ要領で倒すことは可能で、慣れればスライムよりも楽に倒せる気がする。
そんなことを思いながら、先程から気になっていることがある。
たぶん他の冒険者だと思うけど、その数が少し多い。
……少なくとも、僕の索敵に入るパーティーが三組はいるのだ。
それも縄張り争いをするように、同じ場所から動かない。
この人数なら下の階層へ降りた方がいいと思うけど、ずっとワームを探しているようだった。
どうしようかな? 今日は諦めて三階に行くか、それとも……。
せっかくエクスチェンジで統合して覚えた【地図制作】が使えないのもなぁ……。
僕は暫く悩んだけど、三階を目指すことに決めた。
ただ三階層へ向かう階段の前に一つのパーティーがいたので、反応が僕のいる逆の方向を向いた時を狙って三階層への階段を下った。
「魔物と戦うよりも疲れちゃうよ」
そう呟いて三階層へやってきたのだけど、何故二階層にいた冒険者達が三階層へ来なかったのかは直ぐに分かった。
三階層はジャイアントバットと呼ばれている魔物で、特徴は僕の頭ぐらいの大きさで、いつも飛んでいるか、天井に張り付いてるらしい。
そして飛行している時は噛みついてくるし、天井に張り付いている時には、頭が痛くなる音を出してくるから倒すのが大変だと聞いたことがある。
それに比べればワームを倒す方が楽だと思う。
まぁエリザさんだけは“倒すには魔法が一番よ”なんて言っていたけど、さすがに今の時点で魔力をそんなに使いたくないしな。
僕は【索敵】【隠密】【魔力遮断】【気配遮断】念じて、一度だけ戦ってみることにした。
頭に浮かぶ反応はジャイアントバットだけで、冒険者の反応がなかったらというのもあるけど。
そして僕はジャイアントバットへ近づいていくのだけど、ジャイアントバットは天井に張り付いたまま動こうとしなかった。
それどころか攻撃してくる感じも一切なかった。
寝ているのかな? これって倒してもいいんだよね? 僕は迷いながらもシークレットスペースから槍を取り出すと、動かないジャイアントバットと目掛けて槍を突き出した。
すると槍はジャイアントバットに見事なくらい刺さってしまった。
するとジャイアントバットが消え、スライムやワームと同じく魔石を残して消えた。
ただ天井に張り付いてた分、魔石が落下してきたのには驚くことになったけど……。
「もしかして魔力や気配で判断しているのかな? もっと試してみよう」
僕はさっきまでの嫌な気分がなくなると、また頑張ろうという気持ちになっていくのを感じた。
それから僕はジャイアントバットを倒しながら、三階層を歩き続けて、ちょうど休憩が出来そうな場所を見つけたので、お昼休憩とホーちゃんへ魔力供給することにした。
お読みいただきありがとう御座います。
白雛は当面の間、ホワイトでいくことにしました。
たくさんのご提案、ご意見ありがとう御座いました。
皆様から頂きましたご意見はどこかで作品に反映させて頂こうと思います。
今後もよろしくお願い致します。