31 スラムの事情
迷宮へとやってきた僕は、早速スライムを探す。
徐々に慣れてきたスキルの【索敵】、僕はそれを念じると、視界に映る範囲に何かがいるということが頭の中に浮かぶ。
早速、一つの反応があった方向へ進んでみると、スライムがこちらへ少しずつ進んでいることが分かる。
「スライムさん、僕のお友達になりませんか?」
【意思疎通】念じながら、スライムへとそう告げてみる。
だけど今日もやっぱり、スライムは僕の呼び掛けには答えてくれなかった……。
「さっき卵と【意思疎通】出来たと感じたのは、やっぱり勘違いだったのかな……残念」
僕はいつものように生ゴミを【排出】させると、スライムが吸収したのを確認して、グランさんから貰った最初の武器で、スライムの核を叩く。
そのまま地面に刃の部分が当たり、手には以前と同じように衝撃が走ったけど、最近はゴロリーさんとの特訓で何度も手が痺れる経験を重ねてきたから、今では武器から手を放してしまうようなことはなくなった。
木の棒は冬に折れちゃったから、もうしょうがないよね……。
折れてしまった木の棒はゴロリーさんに相談したら“スライムに吸収させるか、迷宮に還すのがいい”って、言っていたから、迷宮の地面に置いて、消えて無くなるまで見ていたっけ。
そんなことを唐突に思い出した僕は、少しだけ懐かしい気分になったけど、その直後に身体の中から力が漲るのを感じて、レベルが上がったことを確信した。
これで四レベルになったね。
僕はスライムが落とした魔石を拾って直ぐに魔石を【回収】すると、【索敵】を使ってからまた歩き出した。
それからスライムを順調に倒して続け、レベルが五に上がったところで【索敵】していた僕の頭の中にスライムではない何かが浮かんだ。
僕は直ぐに【隠密】【気配遮断】【魔力遮断】と三つのスキルを念じて発動させ、ゆっくりとその何かから遠ざかる。
そして頭に浮かんだ数を確認すると、数は三つだということが分かった。
スライムじゃないから人だよね? でもゴロリーさんやエリザさんの感じはしない。
むしろ……。
僕は慎重に距離を取りながら、まずはスライムから突然襲われないように、何度も確認して動く。
【索敵】は確かに便利なスキルだけど、急に迷宮から魔物が生まれた場合、スキルレベルが低いと見落とすことがあると、エリザさんが教えてくれていた。
ゴロリーさんはそれを僕に教えていなくて、エリザさんに怒られていたけど“本当に大事なことだからちゃんと覚えておくんだぞ”と言っていたから守っている。
そして三つの何かが徐々に近寄ってきたけど、スライムがいるところで三つの反応も止まり、それから少しだけ騒ぐ声が聞こえた。
それから少ししてスライムの反応が消えると、三つの反応はその場から遠ざかっていく。
もしかしてスライムを倒しにきたのかな?
僕は誰がスライムを倒しに来たのかを見たくて近寄って行くと、凄い数の石や瓶、砂が撒いてあった。
それから少しして【索敵】にある三つの反応は新たなスライムと会ったみたいだ。
「えっ!? どうしよう」
僕は突然引き返して来る三つの反応に、戸惑いながらも近くの曲がり角に隠れた。
念のため【隠密】【気配遮断】【魔力遮断】スキル念じて発動させ、その近づく三つの反応の様子を窺っていると、やって来たのは僕よりも背が高くて痩せているスラムの人達だった。
たぶんお兄ぐらいの歳だから、成人はしていないように見える。
「今日はついてないな。何で二匹も出て来るんだよ」
じっと耳を澄ませていたからか、三人の声がしっかりと聞き取れる。
「なぁトーマス、本当にこんなことをしていて、レベルが上がるのか?」
「ああ、ナルサスさんが言っていたんだ。それにさっきスライムを倒したらなんか石を落としたろ? あれを銅貨一枚と交換してくれるんだぜ」
“ナルサスさん”って、言ったよね? 僕はレベルアップで力が漲っていた筈なのに、急に身体が冷えたみたいに固くなったの感じながら、三人の話を聴くことにした。
「じゃあこれを繰り返してたら、俺達も冒険者になれるのか?」
「ああ、十歳から冒険者になれる」
「えっ? じゃあ俺達だって直ぐに冒険者になれるじゃないか」
「おい、手が止まってるぞ。早く石を拾って迷宮から出るぞ」
トーマスって人がリーダーなのかな? 他の二人に指示しているみたいだ。
「あ、ごめん。でもトーマス、それだったら何で冒険者にならないんだ?」
「冒険者になるためには推薦者が必要なんだってさ。十五歳になればいらないらしいけど……それでナルサスさんがこの方法で、魔石を百個集めたら、冒険者に推薦してくれるって約束してくれたんだ」
マリアンさんはそんなこと言っていなかった気がするけど……ゴロリーさんに聞いて確認してみよう。
「え~お前だけかよ」
「俺がお前達を推薦したら、皆で冒険者になれるだろ?」
「そうか! さすがトーマス。あの孤児院の餓鬼がいなくなったから、張り合いが無くなって大人しくなると思ったのに、そんなことはなかったな」
えっ!? それって……フェルのこと? フェルとも知り合いだったのかな? でも、友達って訳じゃないみたいだ。
「チィ、あれは関係ねえだろ」
「そういえば迷宮に逃げ込んだ餓鬼って、まだ見つかってないんでしょ?」
僕の胸はドックンドックンと早くそして強く鳴り出した。
この音が三人に届かないように、必死に胸を押さえる。
「ああ、それっぽい奴はいたけど、それはあの怖い顔のジジィの子か孫だったらしいぜ。つ~か、餓鬼一人で残飯を全部食える訳ないのに、何で餓鬼を追わせてんのか、理解に苦しむね」
「まぁな。暇があったらスライム倒してる方が金持ちになれるって、何で気づかねえんだろうな?」
「二人とも、それはあの人達の前で言っちゃ駄目だよ」
「分かってるよ。よしこれだけ投げつければ倒せるだろ」
「「ああ(うん)」」
それから三人はまた出口の方へ向かって歩いて行った。
「ふぅ~バレなくて良かった。それに僕の事も完全にバレていた訳じゃなかったんだ……」
ホッとした僕は、スラムの三人が迷宮の外へ出るまで見ていた僕は、少し疲れてしまったので、安全エリアへと向かった。
そして食堂でもらったパンを食べながら、さっきの人達のことを考えていた。
僕のことを見つけるように、誰かに命令されているみたいだったし、その人達がスラムを仕切っている人達なのかな?
さっきの人達はスラムから出て、冒険者になりたいみたいだし、スラムから出ることを望んでいるみたいだった。
「僕にも何か出来ることはないのかな……あ、そうだ」
僕は迷宮に入る前に【収容】した卵をシークレットスペースから出してみると、卵は真っ黒な色をしていた。
そして……ちょっと臭かった。
「真っ黒だったんだね。僕の声が聞こえるかい? ちょっと汚れているようだから綺麗にするね」
僕は【クリーン】の杖を使って、卵と僕自身に【クリーン】を発動した。
すると卵が少し光った気がしたけど、相変わらず色は真っ黒なものだった。
卵からは何も聞こえないし、感じなかったので、とりあえずまたしまうことにした。
「じゃあ、またね」
声を出してまたシークレットスペースに入れようと【回収】【収納】と念じたけど、卵はそのままで、シークレットスペースに入っていくことはなかった。
僕はもしかしてと【収容】したいと念じてみた。
すると黒い霧は卵を【収容】してくれた。
……もしかして【回収】【収納】【収容】って、全部違う能力なのかな? 僕は今まで気づかなかったシークレットスペースの可能性にとってもワクワクしてきた。
それからスライムを数匹倒して倒してレベルが六になってから少し経った頃、優しく力強い魔力を感じた僕は、入り口へと走って向かった。
「どう、今日も怪我はなかった?」
迷宮の入り口まで戻ると、エリザさんが待っていてくれた。
「はい。でも、話したいことが出来ました」
「そう。それじゃあ今日はもう遅いから、明日の朝にゴロリーと一緒に聞くけどそれでもいい?」
「はい」
エリザさんはこちらに手を差し出してくれたので、僕もエリザさんへ手を差し出して、手を繋ぎ、ゴロリーさんとエリザさんのお家へ向かうのだった。
お読みいただきありがとう御座います。
あれこれ考えると何も書けないので、妄想して楽しいと思える物語を書くことにします。
作者はご感想やご意見でインスピレーションが湧くタイプなので、よろしくお願いします。