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21 褒め上手

 グランさんは僕の頭を撫で回した後で、何かを考えるようなしぐさを見せたかと思うと、何故か僕の身体の大きさを測りだした。

 僕は吃驚(びっくり)したけど、強い力で固定されたかのように、全く動くことが出来なかった。


「おいグラン、何でクリスの採寸なんて始めたんだ?」

 そこへゴロリーさんがグランさんに声を掛けてくれて行動を止めてくれた。


「ゴロリー、儂に内緒でこの小僧……クリスを鍛えようとしているんだろ? 弟子なら弟子と言えば良いではないか」

 少しだけ怒った? いや、呆れたようにグランさんはゴロリーさんへ告げた。


「いや、まだだ。身体が出来ていないから無理をさせる訳にはいかないし、エリザが七歳から魔法を教えるようなことを言っていたから、俺もそれぐらいから武術の基礎だけは教えようと思っているがな」

 どうしよう……エリザさんが魔法を教えてくれるだけじゃなくて、ゴロリーさんが武術の基礎を教えてくれるみたいだ。 

 もの凄く嬉しい。


「そうなのか? それにしては結構な筋力があると思うんだが……本当に鍛えていないんだな?」

 グランさんはきっと僕のレベルが上がっていることを見抜いているんだろうな。

 これが職人さんっていうことなのかも知れないな。


 僕はそう一人で納得しながら、ゴロリーさんとグランさんの会話を見つめるだけだった。


「ああ。あと数年は適度に身体を動かして、しっかり食べて、しっかり寝させて強い身体を作らせるさ」

「なるほどな……じゃあ子供でも訓練が出来る軽い武器でも作ってやろうか?」

 僕はグランさんの顔を見上げると、また頭を撫でられた。


「まだまだ先の話だが、その時には頼む」

「おいクリス、俺が作る装備が見合うだけの(おとこ)になれよ」

「はい」

 グランさんの顔はちょっと怖かったけど、とっても優しい人だってことが分かった。


「それで今回の目的は顔合わせだけか?」

「ああ。本当は鍛冶をしている姿を見せようと思ったんだが、まさか今日が休業日だとは思わなかったからな」

「さっきも言ったが、いい材料がない時に目的もなく鎚を振るいたくないのだ。クリスの装備を作るなら炉に火を灯すぞ」

「えっと、僕はお金を持っていないので、お金が貯まったら買いに来ます」

「そうだな。それに今から炉に火を灯していたら、本当にカリフの一日が終わってしまうだろう?」


「気を遣って頂きありがとう御座います。でも私のことは気にしないでください。色々な職人を見てきましたけど、親方のような優れた職人が一つの作品にのめり込んで物を作るところは、見るのも勉強になりますから、大歓迎なんですよ」

 あれ? そういえばさっきカリフお兄さんは商人って名乗っていたような?


「……カリフお兄さんは商人って言っていたけど、職人さんではないんですか?」

「うん、私は商人だよ。親方の仕事を間近で見せてもらうことで、本物の作品であるのかどうかとか、物の良し悪しが分かるように勉強させてもらっているんだ。いつか私がお店を持った時に粗悪品を掴まされることが無い様にね。それとは別に本物の職人との人脈づくりも兼ねているんだけどね」

 職人さんの仕事を見るのも商人さんの経験になるのかな? でも人脈ってことは、毎回職人さんのところで働くってことではないよね? 


「あの、その人脈づくりって?」

「あ~まだ難しかったかな? クリス君はゴロリーさんが困っていたら助けたいと思うよね?」

「うん」

「きっとゴロリーさんもクリス君が困っていたら助けたいと思ってくれると思うんだ」

「うん。いつも助けてくれるよ」

 本当に頼りになる存在だ。


「僕はそのクリス君とゴロリーさんの関係を、ここにいるグランさんや職人さん達と築きたいと思っているんだ」

 職人さん達と仲良くなるってことでいいんだよね。


「そっか~、うん、カリフお兄さんならきっと大丈夫だと思うよ。だって嫌な感じが全くしなかったもの」

「そうかい? それは嬉しいな。いつも子供には胡散臭いって言われるんだけどね」

「……そうだったんだ」

 それはずっと笑顔だからじゃないかなって僕は思ったけど、ゴロリーさんやグランさんが何も言わないので、僕もこれ以上は言わないことにした。


 でも、職人さんと知り合いならメルルさんのことも知っているのかな? 明日メルルさんに会った時に聞いてみよう。

 一応メルルさんは人見知りだから、先に確認しておいた方がいいだろうし。


「それでクリス、鍛冶をするところを見て行くか? どうしたい?」

「う~ん、見たい気はするけど、今日はゴロリーさんに付き合うって決めたから」

 きっとゴロリーさんは見ても見なくてもいいんだろうし、僕に付き合ってもらうのは悪いからね。 


「そうか。じゃあ昼までグランの鍛冶をしているところを見て、それから昼食をどこかで食べよう。グラン、そういう訳だから、クリスに鍛冶の工程を少しだけ見学させてやってくれないか?」

「ああ。どうせ何かを作ろうとは思っていたからな」

「カリフ、炉の石炭を焼いてくれ」

「はい」

 こうしてグランさんは僕に鍛冶というものを見せてくれることになった。



 工房にある炉と呼ばれるところは、とても近づくことが出来ないぐらい熱くなっていた。

「クリス、大丈夫か? 熱いなら俺の後ろから見ているといい」

「うん」

 僕は直ぐにゴロリーさんの後ろに隠れてまた炉を見ようとすると、グランさんは工房の外に転がっている剣を数本持って来て、持ち手と刃の部分を分解してしまい、真っ赤に燃える炉の中へ刃の部分を入れた。


「痛ッ……あれは幾つかの鉱石が混ざり合っているんですね」

「クリス、どうして分かった?」

 グランさんには僕が呟いた声が聞こえていたらしい。


「えっと、何となく?」

 頭に痛みが走った時に、何となくそう感じたんだけど、詳しいことは僕にも分からない。


「何だそうか。鍛冶師の才能もあれば、それはそれで面白そうだったんだがな」

 グランさんはそう言って笑った後に、説明してくれた。


 本来であれば、鋼と呼ばれる鋼鉄を叩いて武器を作るみたいだけど、グランさんは鉱石一つだけで作ると屑鉄と呼ばれるものに、幾つかの種類を混ぜて[錬成]することで、鋼鉄に近い鉄を作り出すことが出来るらしい。

 強度も切れ味もそこら辺のお店で売っているよりずっと凄いって、途中からグランさんの説明を受け継いだカリフさんが嬉しそうに語っていた。


 グランさんは炉に入れられた刃の部分が真っ赤になったことを確認すると、炉から取り出しつつ刃と刃の部分を重ねたところを鎚で鋭く叩いた。

 その時、カンッという音が工房内に響いた。

 それは僕の頭の中にも響くような凄い音で、両手で両耳を塞いでしまう。


 グランさんとゴロリーさんはチラッとこちらを見て笑い、グランさんはそれからもずっと鎚を振るい続けた。

 あんなに熱い炉のところに居たら倒れちゃうよと思っても、グランさんは笑って鎚を振っていたから、僕はただ見ているだけしか出来なかった。


 全ての刃が一つになると、今度は刃の厚みを均一にするためにまたそれを叩く、そして全てを終えたところで、いつの間にか運ばれていた水の中へと刃を沈めていく。


「本来はまた炉に入れて、叩いて、水の中に入れて鉄の中の不純物を取り除いて、切れ味を鋭くする鋼を混ぜ合わせるんだが、これからこれを研いでいかなくてはいけないからな」


 するとグランさんは隣の部屋へと移動して行き、苦笑するカリフさんに僕とゴロリーさんは案内されついて行くと、既にグランさんはさっきの合成した刃を水に濡らして研ぎ石を使って研いでいた。


「まずは荒く削って厚みを均一にする。最後は仕上げ用の砥ぎ石で細かく出来た傷が残らないように丁寧に研いでいくんだ」

 僕達はそれからもずっとグランさんの動きを見ていた。

 それから暫くしてグランさんの動きがようやく止まった。


「これで後は、持ち手をつければ完成だ」

 そう言ってグランさんは誇らしげに笑った。


 再び炉のある工房へと戻り、刃に持ち手をつけると、それは不思議な形をしていた。

「これは棒の先端に刃を突けたものだ。刃は斬れないが強度はある。クリスがもう少し大きくなって、ゴロリーが使ってもいいと判断したら訓練にでも使ってくれ」

「いいんですか?」

 僕の武器を作っていてくれたのだと、とても吃驚した。


「ああ。クリスとは縁がありそうな気がするからな」

「グランさん、ありがとう御座います」

 グランさんから僕が一度受け取り、ゴロリーさんへ渡した。


 木の棒と同じぐらいの重さだったけど、当分はゴロリーさんに預かってもらおう。

 きっと僕が持っていたら使いたくなっちゃうし。


「軽いな……預からせてもらう」

「ああ、クリス、たまには遊びに来いよ」

「はい」

 グランさんのところには、ゴロリーさんの許可が下りたら来ることにしようと僕は決めた。


「最近は治安も悪いから、当分は俺と一緒になると思うがな」

「そうだな。儂の店に一人で来られるように早く鍛えてくれ」

「無茶を言うな」

 ゴロリーさんとグランさんのそんなやりとり見て、きっと二人はずっと前からの友達なんだろうな~と、そんな風に感じていた。


 “グラン鍛冶屋”から出たところで、僕のお腹がグルルと鳴った。

「今から美味しい料理を出す店に連れて行くぞ」

 ゴロリーさんは僕の頭を撫でながら笑うと、来た道を帰るように進んで行く。

 僕はゴロリーさんが作る料理よりも美味しい料理なんて無いと思っているけど、ゴロリーさんが美味しいと言う料理はとても楽しみだな。

 そう思いながら、ゴロリーさんの後について歩くのだった。


 そしてゴロリーさんが連れて来てくれたところは、“エヴァンス”という高級な宿屋さんだった。 

「ゴロリーさん、きっとここのお店は高いよ?」

「ははっ、支払いは心配しなくていい。ここは知り合いが経営しているから安心していっぱい食べていいぞ」

 僕は躊躇いながらも、ゴロリーさんと一緒に入った。


 “エヴァンス高級宿”の中はとっても広くてきれいだった。

 中には美味しい食事が出るからか、お客さんもいたけど、皆がとても高そうな服や装備を身に纏っているようだった。

 すると、一人の青年が近寄ってきた。

「これはこれはゴロリー様。よくいらっしゃいました」

「ああ。今日は連れもいるがいいか?」

「もちろんですとも。さぁこちらへどうぞ」

 どうやら本当にゴロリーさんの知り合いのお店みたいだ。

 僕は安堵しながら、ゴロリーさんについていく。


 途中でチラチラ見られている気もしたけど、ゴロリーさんの側にいれば大丈夫だと思った僕は、既に美味しい料理が頭の中に浮かんでいて、そちらのことは全く気にならなかった。

 席に案内されると、僕でもテーブルで食事が出来るように、子供用の席を直ぐに用意してくれた。

「ありがとう御座います」

「いえ、当然のことですから」

 案内してくれた人はそう言って微笑んだ。


 ゴロリーさんが僕の分も一緒に料理を注文をしてくれたら、案内をしてくれた人は僕達の席から離れて行った。

「何だか凄いね」

「ああ。この宿は皆がちゃんと教育されていて、高級の名に恥じない店なんだ」

 ゴロリーさんはそう言って笑った。


「でも、ここって高そうだよね?」

「ああ、実際に高い。食事無しの宿泊で銀貨二枚~だったと思うぞ」

「ぎ、銀貨?」

 泊まるだけでゴロリーさんの食事二十回分。

 僕には勿体なくて、ここには泊まれないな~。


「ああ。それでも繁盛しているみたいだけどな」

「そうなんだ。でも、いつかは自分のお金で泊まってみたいな」

「ふっ、クリスなら、大人になれば泊まれるようになるさ」

「うん。そうだといいな」

 それから暫くすると、色々な料理が運ばれてきた。


 僕はゴロリーさんと話しながらも、一つ一つ料理を食べていく。

 そしてやっぱりゴロリーさんの料理の方が美味しいと思ったけど、この料理はゴロリーさんの味に似ていると感じた。

 限界まで食べきって、ポッコリとお腹が膨れた。


「美味しかった……でも僕はゴロリーさんの料理の方が好きだよ」

「そうか? それは嬉しいな」

 ゴロリーさんは嬉しそうに笑ってくれた。


「でも、何となくゴロリーさんの料理に似ていたんだよね」

「クリスはとっても味に対して敏感なんだな」

「?」

 ゴロリーさんの言っている意味が分からなかったので、その意味を聞こうとした時だった。

「父さん、今日の出来はどうだった?」

 すると大柄な男性が一人、僕達のテーブルに話し掛けてきた。


「もう俺が教えることはないな。しっかり素材の味も出ているぞ。ただクリスの舌では、まだ俺の料理の方がうまいらしいぞ」

 ゴロリーさんは大柄な男性をとても褒めていた。


「クリス? ああ、君が……父さんのところに来ている子供か」

 とてもでかいけど、何となくゴロリーさんに似ていたので、そこまで怖くなかった。


「えっとクリストファーです。いつもゴロリーさんとエリザお姉さんにお世話になっています」

「げっ、母さんも絡んでいるのか……しかもお姉さんだと……。僕はエドガー、その二人の息子さ。それで何で父さんの方が美味しいと感じたんだ?」

 エリザさんって怖がるぐらい怖くないと思うんだけどな。

 でも何故か優しくなったのを感じたから、別にいいか。


「う~ん、ゴロリーさんの料理の方が安心する味がするんだ。何だか僕に合わせてくれているみたいな……だからだと思います」

「……なるほど。じゃあ料理は満足してもらえたかな?」

「はい。ゴロリーさんの料理と出会ってなければ一番美味しい料理でした」

「……君は人を褒めるのがうまいな。そうか、じゃあまた食べに来るといい」

 エドガーさんはそう言い残して奥の部屋へと消えていった。


「忙しい奴だな。まぁ今は食事時だからな」

「エドガーさんは、こんなに大きなお店で料理を作っているなんて凄いんだね」

「今度会う時があったら、直接本人に言ってやってくれ」

 ゴロリーさんはとても嬉しそうに頷いて言った。


「分かりました」

「じゃあ行くか」

「はい」

 そして席を立った時に、一人の女の子がキョロキョロと辺りを見回して泣きそうな顔をしているのが見えた。

「ゴロリーさん、あの子困っているみたいだから、話を聞いてきてもいい?」

「ああ、その場から離れないようにな」

「はい」

僕は返事をしてから女の子に近づいていき、声を掛けた。


「こんにちは、僕の名前はクリストファー、伝説の騎士だよ。困っていたら助けるよ」

「えっと、ティアリスだよ。いつも一緒にいてくれるアニタがいなくなっちゃったの」

キョトンとした後に、僕よりも少し背の大きな金色の髪の女の子も自己紹介をしてくれて、迷子だということが分かった。


「そっか~、でも大丈夫だよ。このお店の人達は凄く優秀だから、直ぐにティアリスの探している人を見つけてくれるよ」

「本当?」

「本当だよ。ね、お兄さん?」

後ろに魔力を感じたから話しかけてみると、本当に最初に案内してくれたお兄さんがいた。

お兄さんは少し驚いた顔をした後で、直ぐにまた笑顔になった。


「はい、お客様。お連れの方は女性の騎士の恰好をされた方でよろしかったですか?」

「えっと、はい」

「現在お連れ様を探して参りますので、しばらくお待ちください。それと従業員も側におりますので、お困りの時は……こちらのお子様か、従業員までお話しください」

「はい」

女の子が僕の服を掴んでいるのを見て、お兄さんは僕に頭を下げてから行ってしまった。


「ところでゴロリーさん、何で頭をこっちに向けているの?」

「いや……子供が俺の顔を見ると泣くこともあるからな」

確かにゴロリーさんを見た時は少し怖かったかもしれない。


「……確かにそうですけど、僕は格好いいと思いますよ。でもティアリスは女の子だからね」

「くっ……お嬢ちゃん。探し人が表れるまでは、クリスが側にいてくれるから、安心するんだぞ」

「フフッ、面白い。クリストファー君、一緒に待っててくれる?」

「うん、今は伝説の騎士だからね」

「ありがとう」

それから少しすると案内のお兄さんと、鎧を着たお姉さんがやって来て、僕とゴロリーさんに何度もお礼を言ってくれた。

どうやらこの街には用があったから寄っただけみたいで、昨日はこの“エヴァンス高級宿”に宿泊して、今日この街を離れるらしい。

そのことをアニタさんがゴロリーさんに説明していると、ティアリスも残念そうにしていた。


だから僕はティアリスと友達になることにした。

「僕はクリストファー、友達はクリストファーって呼ぶけど、親しい人はクリスって呼ぶから、今度また会った時はそう呼んでね」

「分かった。ティアリスのことも、今度会った時にはティアって呼んでね」

「うん。またどこかで」

「ええ、またどこかで」

こうして“エヴァンス高級宿”で別れを済ませた僕とゴロリーさんは“ゴロリー食堂”へと向かって歩き出した。

「クリス、軟派な男だけにはなるなよ」

「えっと、うん。分かりました」

ゴロリーさんの顔が少しだけ怖かったから、僕は素直に頷いた。

でも軟派ってなんだろう? そんなことを思いながら、ゴロリーさんと休日を満喫するのだった。


お読みいただきありがとう御座います。

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