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レベルリセッター ~クリスと迷宮の秘密~ 作者:ブロッコリーライオン

1章 目覚め 五歳編

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20 ボロボロの鍛冶屋

 ゴロリーさんのスープを受け取りに来たついでに、僕を迎えに来てくれたメルルさんだったが、ゴロリーさんが今日は僕を鍛冶師の人のところへ連れていきたいと告げると、少しだけ困った顔をした。
「どうかしたんですか?」
 僕に何か用があったんだろうか?

「えっと、最近物騒だから、出来たらスープを持って歩きたくなくて……」
 なるほど。
 僕はメルルさんの言うことはもっともだと思った。
 スラムではきっとお腹を空かせた人達がいるだろうし、それこそゴロリーさんの美味しいスープ……その美味しそうな匂いに釣られる人がいてもおかしくない。

「じゃあ、鍛治師さんの所へ行くのはメルルお姉さんを送ってからでいいですよね?」
 僕はゴロリーさんにそう聞くと頷いてくれた。
「ああ。どうせそんなに離れている訳でもないしな」
「メルルちゃんは魔法もそんなに得意ではないから、そうしてあげて」
「えっ、本当に? 助かるわクリス君、ありがとう御座います、ゴロリーさん、エリザさん」
 僕の手を握り、上下に振って喜ぶメルルさんを見て、何だか朝からいいことをした気分になった。

「良かったですね」
「うん」
 安心した顔を浮かべたメルルさんに、エリザさんが何かを思い出したように話し始めた。

「あ、そうそうメルルちゃん、喜ぶのはいいけど、クリス君に【クリーン】が使える魔導具を渡していたでしょう?」
「はい。お礼を込めて」
「そう。でも、クリス君にちゃんとした使い方を教えていなかったでしょ?」
「あれ? そうだったっけ?」
 困った顔をしてメルルさんに訊ねられてしまった。

「えっと、魔石を杖の先端に装着すると【クリーン】が使えるようになるなんて知らなかったです」
「あれ? それってそんな魔術回路組んでいたっけ?」
 魔道具を作ったメルルさん本人が、商品の使用方法を忘れていたようだ。

 僕とゴロリーさんは苦笑いを浮かべ、エリザさんは頭を抱えていた。
「まさか魔術回路を組んでいて忘れるなんて、そそっかし過ぎるわ」
「た、たまたまですよ」
「ふぅ~ん、そう」
「……気をつけます」
 慌てるメルルさんにエリザさんは窺うような視線を向けると、メルルさんはそそっかしいことを認めた。

「クリス君の前で恰好つけても、もう駄目よ。クリス君も薄々気づいているもの」
 エリザさんの言葉に吃驚した僕は、メルルさんが涙目になっていたことに気が付き、メルルさんに対して思っていることを伝える。
「えっと、それでも頼りになるお姉さんですよ」
「クリス君、ありがとう~」
 何故か泣きながら抱き着かれてしまった。

「はぁ~優しいわね。でもその優しさが将来を不安にさせるわ」
 そんなエリザさんの声が届いたけど、メルルさんは僕をなかなか離してくれそうにない。

 ゴロリーさんがスープの入ったお鍋を持ってくるまで抱きしめられた僕は、ここでようやく離してもらえた。
「じゃあクリス、これを頼むぞ」
「はい」
 僕はスープが入ったお鍋を黒い霧に【収納】した。

「じゃあ戸締りをするか」
「そうね」
「えっと、もしかして僕がいたからお店を開いてくれたんですか?」
 そう思ったら、とても悪い気がしてきた。

「別に何処かの街へ旅行に行くわけではないし、気にしなくていいわ。結局メルルちゃんのスープはずっと作っているし変わらないわよ」
「ああ、クリスは気にするな。甘えられるのは子供の特権だ。もし将来同じようなことがあれば、同じように手を差し伸べてやってくれ」
 エリザさんとゴロリーさんはそう言って笑い、その後“ゴロリー食堂”でエリザさんと別れ、"魔導具専門店メルル”へとメルルさんを送り届けると、奥のキッチンまでスープの入ったお鍋を運んだ。


「本当にありがとうね。クリス君、それにゴロリーさん」
「メルルお姉さんには、いつもお世話になっていますから」
「それはさっきも十分やっただろ。クリス、ところで新しい[固有スキル]の説明はしなくていいのか?」
 また僕に抱きつこうとしたメルルさんを、ゴロリーさんが止めてそう言ってくれたので、まだエクスチェンジの内容で説明していなかった事を話した。

「あ~、もう一つの能力が分かったの?」
「はい。実はエクスチェンジは自分のレベルをスキルと交換出来るスキルで―――」
 僕は[魔力察知]と交換して、今度は[気配察知]のスキルと交換する予定であることを告げた。

 そして全てを聞き終えたメルルさんが最初に口にしたのは「何それ? 羨ましい」だった。
 やっぱり僕のレベルと交換が出来るスキルは、とても凄いスキルだったみたいだ。

「それでクリスの能力がレベルとスキルの交換だった訳だが、折角有能なスキルなのだから、それを最大限活かすためにメモを取ってもらうことにしたんだ」
「ゴロリーさんずる~い。そんなすごく面白そうなことをしようとしているなんて……」
 何が面白いのか僕には分からなかったけど、どうやらメルルさんも一緒になって取得するスキルを考えたいと思ってくれたみたいだった。

「だったら、メルルも協力すればいいだろう?」
「えっ? クリス君いいの?」
 僕の答えは最初から決まっていた。

「はい。スキルの数も多くて、僕では何と交換すればいいのか良く分からないから、本当に必要でレベルと交換したらいいスキルを教えてくれたら助かります」
「ちょうどスキルに関して調べた本があったと思うから探してみるね」
 そんな凄い本があるのか……。うまくいけばエクスチェンジじゃなくてもスキルを覚えられるかも知れないな。
 僕の胸が高鳴った気がした。

「メルル、それでクリスに羊皮紙とインクと羽ペンを頼む」
「あ、そうか。字の練習の時は結局、書かないでいたのよね?」
「はい。でも今回は頭に浮かんだ文字をそのまま書くだけなので。それでも、うまくは書けないかもしれないけど……」
「いいわ、待ってて」
 それからまず魔石を売って、そのお金で羊皮紙の束とインクと羽ペンを購入した。

「じゃあまた明日ね」
「はい。メルルさんまた明日」
 こうして僕とゴロリーさんは“魔導具専門店メルル”から、鍛冶師さんのお店へと向かうのだった。


 ゴロリーさんと歩いて向かった先は、大通りにあった鍛冶屋さんではなく、僕が死んだと思った商人に捨てられた場所の近くだった。
 僕は不安になって、身体が震えて硬くなっていく。

「ゴロリーさん、こっちにあるんですか?」
「ああ。ちょっと偏屈な奴だから、商売のこととかはあんまり考えていない奴なんだ。だが腕はこの街で一番なのは間違いない」
「凄い人なんですね」
「鍛冶の腕だけはな」
 ゴロリーさんは困ったような顔をして笑った。

 でも、やっぱり路地裏を進むことになるから、怖くて聞くことにした。
「でも、ここって路地裏ですけど、大丈夫なんですか?」
「ああ。ここの近くに孤児院があるから、スラムの奴らは滅多に近寄らないし、孤児達にも“グラン鍛冶店”は大事な場所だから、その客となる者に危害を加えようとする者もいない」
「そうなんですか~」
 スラムの人達がいないことを知った僕はホッとした。

 それにこの近くに孤児院があるなら、フェルノートとも会えるかも知れないしね。
 そう思うと、必要以上に力が入っていた身体から力が抜けていった。
 そしてあのゴミ捨て場から直ぐのところに“グラン鍛冶店”はあった。

 ゴロリーさんは“グラン鍛冶店”とボロボロになった看板が出ているお店の扉を開いて、声を掛けた。
「グランいるか?」
 しかし中から反応はなかった。

 ゴロリーさんがお店の中へ入るので、僕も続いて中へ入ったけど……お店の中にはお店なのに、何も置かれていなかった。
「驚いたか? 大抵はここを見て知らない奴らは帰っていくんだ」

 ゴロリーさんは笑いながら、中央にあるカウンターまで向かうと、カウンターの後ろの扉が開いた。
「いらっしゃいませ。あ、ゴロリー様、お待ちしていました」
 出て来たのは、メルルさんと同じくらいの歳の男の人だった。

「ああカリフか。グランはどうした?」
「いつも通り“今は忙しいから、勝手に工房に入ってくれ”だそうです」
「毎回それだな」
「まぁそれが親方ですからね。それでゴロリー様、そちらの少年は?」
 ゴロリーさんと話していたお兄さんが、僕のことをゴロリーさんに聞いた。

「クリストファーという。きっと大きくなればこの店に貢献してくれると思うぞ」
「へぇ~それは凄いですね。クリストファー様、私はカリフという商人をしています。以後、お見知りおきを」
 僕みたいな子供なのに、微笑みながら挨拶をしてくれた。
 そのカリフさんからは、嫌な感じが全くしなかった。

「えっと、クリストファーです。クリスでいいです。カリフお兄さんよろしくお願いします」
「……ゴロリーさん、クリス君はいずれ大物になる気がします」
「だろ?」
 二人は笑い合った。

「では、工房へどうぞ」
 そう言ってカリフさんが出て来た扉へと皆で入っていくと、入った場所から剣や槍、鎧が、所狭しと置かれていた。
 それには目もくれずに店の奥へ進むと、今度は下へと続くはしごの階段が出てきた。

「クリス、降りられるか?」
「……たぶん大丈夫です」
 はしごの足を掛ける場所がそこまで離れていなかったので、無事に下りることが出来た。
 そして下りた場所にもたくさんの武器が落ちていた。

「何でこんなに雑になっているんですか?」
「これらはグラン親方にとってゴミみたいなものですからね」
 カリフさんは苦笑いを浮かべて、僕の質問に答えてくれた。
 でもこれがゴミだなんて、僕には信じられなかった。
 それぐらい僕には輝いて見えていた。

 そして奥にある重そうな扉を開くとそこには、怖い顔をした顎鬚がとても長い、まるでゴロリーさんを小さくしたような人がいた。

「おうグラン、約束の物は出来上がったか?」
「ああ。だが、最近は良い鋼鉄が中々手に入らなくてな……悪いがイマイチだ。[錬成]スキルを持っている奴は多いが[抽出]スキルを持っている奴なんて、そうそういないしな……ところでその小僧は何だ? まさか孫か? それともエリザとの子か?」
「どちらでもない……が、将来を見たいと思わせてくれる子供だ。クリス、こっちはこの“グラン鍛冶店”のグランだ。自己紹介は自分でな」
「はい。グランさん初めまして、クリストファーです。クリスと呼んでくれればうれしいです。よろしくお願いします」
「ほぅ。その歳でしっかりと挨拶が出来るとはな……グランだ。大人になったら武器でも包丁でも作ってやろう」
「お願いします」
 自己紹介が終わると、先程まで怖い顔をしていたグランさんは笑っていた。
 それでも少し怖い顔だったけど……。

 ゴロリーさんはグランさんから、何かを受け取ったところで、カリフさんが口を開いた。
「それにしても親方の顔を見て泣かない子供は久しぶりですね」
「煩いわ。それにしてもカリフ、今日は工房が休みだって言っているのに、どうして工房に来たんだ?」
「親方を放っておくと、何も飲み食いしないから、工房の仲間で見張……見守る人をつけることになったじゃないですか」
「ちっ、若い者なら休みの日ぐらい、出会いを探しに出かけろ」
「ははっ、でも親方に倒れられて困るのは私達ですからね」
「勝手にしろ」

 グランさんとカリフさんのやりとりは、きっといつも通りなんだろうな。
 それにしてもグランさんは困っているみたいだった。
 ゴロリーさんの知り合いみたいだし、何とか力になって上げたいな……。

「ねぇグランさん、その[抽出]ってスキルがあれば、グランさんは困らないで済むの?」
「ああ。そうだ」
「そっかぁ~。じゃあ僕が覚えることが出来たら、グランさんを手伝うね」
「クリスっていったか? そのまま素直に育ってくれよ」
 グランさんはそう言って僕の頭を撫でてくれたのだけど、ゴツゴツとした手だったからか、少し痛かった。
 それでも嬉しそうな顔をして撫でてくれるグランさんに、結局最後まで痛いと言い出すことは出来なかった。

お読みいただきありがとう御座います。
i261163
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