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19 初めての魔法

 

 いつものように迷宮からゴロリー食堂へ向かっていた僕だったけど、ゴロリー食堂が近づくにつれ、小さな違和感があった。

 ゴロリー食堂からとても暖かい空気みたいなものが出ているように感じたのだ。


「これってもしかして魔力? でもスライムやここに来るまでに歩いていた人達には、こんなに暖かな魔力は感じなかったのに……」

 僕は少しだけゴロリー食堂に入るのを躊躇ったけど、ゴロリーさんやエリザさんが優しいことを知っているので、魔力を気にしないで中へと入っていく。


「おはよう御座います」

 すると魔力の陽だまりみたいな物が近づいてくるのを感じたのだけど、その正体はエリザさんだった。


「はい、おはようクリス君。今日も怪我はしていないわね?」

「はい。えっと、エリザさんは[魔力察知]という[センススキル]を知っていますか?」

「もちろん知っているわ。魔力に長けている魔法士が覚えるスキルだからね。当然私も持っているわよ」

 エリザさんはそう言って笑う。


「実は僕も昨日[魔力察知]の[センススキル]を取得したんですけど……」

「……何だか事情がありそうね……朝食を食べながら、ゴロリーと一緒に話を聞いてもいいかしら?」

「はい。もちろんです」

 それから間もなくしてこちらへゴロリーさんが顔を出し、いつも通りに生ゴミを【回収】してからの朝食となった。



 僕は[固有スキル]のエクスチェンジの能力を説明すると、二人とも固まってしまった。

「えっと、だから今回は[魔力察知]のスキルと交換したんだけど、やっぱり[気配察知]のスキルの方が良かったですか?」

 僕は自分の選んだスキルが間違いだったのかと不安になってきた。


「え、いや、クリス。[魔力察知]のスキルでも[気配察知]でも間違いではない。だが、その[固有スキル]の異常性に驚いただけだ」

「クリス君、その[固有スキル]も誰にも教えてはいけないわ」

 やっぱりこれも秘密にしないといけないみたいだ。


「あ、はい。でも僕はこのエクスチェンジが凄いのか、どうなのかが良く分からないんですけど……」

 だって、レベルが一になるってことは、せっかく大きくなった器がまた小さくなるってことだもん。


「クリス、スキルっていうのは開花した才能だと前に教えたな? そのスキルを数日で覚えられるようになるスキルなんて、まして[センススキル]の察知系スキルを覚えられる奴なんていないんだぞ」

「それに普通は、十歳になるまでレベルを上げるなんて経験をしないわ。それこそ旅でもして魔物と戦わない限りわね。クリス君がこのままスライムを倒し続けたら、十歳になる頃にはたくさんのスキルを所持することになるわ」

 ゴロリーさんとエリザさんは、黒い霧や専用装備の話をしていた時よりとても真剣な顔をしていた。


「えっと、つまりこのエクスチェンジは使った方がいいってことですか?」

「「ああ(ええ)」」

 ……二人ともエクスチェンジについて、凄いと思ってくれているみたいだった。


「それならまたスキルが交換出来るようになったら、新しいスキルと交換しますね」

「……クリスのエクスチェンジについては分かった。またエクスチェンジが使えるようになったら、交換出来るスキルを羊皮紙に書いて見せてくれないか?」

 ゴロリーさんの要求が僕にはあまり良く分からなかった。役に立ちそうなスキルを教えてもらえるだけだと思っていたからだ。


「ゴロリー慌て過ぎよ。まだ五歳で完璧な文字の読み書き出来る訳ないでしょ」

 やっぱり普通の五歳児では読み書きなんて出来ないんだな……。いつか僕が読み書き出来るようになった理由も分かる日が来るのかな?


「あ、えっと、まだ書く方はあまり自信がないけど、読むことは出来ます……それよりもどうしてですか?」

「スキルには習得しやすいスキルとそうじゃないスキルがあるんだ。だからクリスには普通だったら取得し難い有用なスキルをエクスチェンジで交換させた方がいいと思ったんだ」

「えっと、じゃあゴロリーさんが詳しく相談に乗ってくれるんですか?」

 ゴロリーさんが一緒に考えてくれるなんて、とても心強い。


「当たり前じゃない。それにしても[魔力察知]を覚えられるってことは、クリス君には魔法の才能もありそうね。魔力が安定するとされている七歳になったら、私が指導してあげるわ」

 どうやらエリザさんも一緒に相談に乗ってくれるみたいだ。

 僕が一人で考えるよりもずっと凄いことになりそうで、とてもワクワクしてきた。


 でもそれ以上に、魔法の才能があるかもしれないということが、とても嬉しかった。

「えっ、いいんですか? じゃあ七歳になったらお願いします」

 当分約束は先だけど、それでも僕が魔法を使える可能性があるなんて、とても嬉しかった。

 せっかくメルルさんがくれた【クリーン】の魔法が使える魔導具も結局、一度も使えていないし、僕には魔法の才能がないと思い始めていたから……。


「それで昨日からスライムにも魔力? みたいなものがうっすらと出ているのを感じるようになったんですけど、今日、ゴロリー食堂に近づくにつれて、スライムとかと違って、暖かくて包み込むような魔力を感じたんです……」

「やっぱりクリス君はいい子ね」

 エリザさんは急に褒めてくれたけど、どうしてなのかが分からなかった。


「[魔法察知]や[気配察知]といったスキルは、その相手をどう思っているかで感じ方が違うんだ。もちろん魔力量でその伝わってくる強さは異なるけどな……」

 ゴロリーさんは喜ぶエリザさんに、少しだけ困ったように笑う。


「だからクリス君は、私達のことを優しくて包んでくれる人だって思ってくれているってことなのよ」

「そうだったんですね。確かに僕はエリザさんが優しくて好きだし、ゴロリーさんはとっても頼りになる僕の目標だから……この[魔力察知]を覚えて良かったです」

 きっと[気配察知]のスキルも同じようなものなんだろうな。

 こうして僕の中で次にレベルと交換するスキルが決まった。


 そしてちょうど魔力の話になっているので、僕は【クリーン】が使える魔導具の杖を出した。

「あの、この魔導具なんですけど、実はまだ使えたことがなくて……」


「あ、それがメルルちゃんが作った【クリーン】の魔法が使用できる魔導具ね……[魔力操作]が使えないと使用出来ない魔導具なんて、あまり買う人もいないでしょうし……ん? ねぇクリス君、メルルちゃんは使い方を教えてくれたかしら?」


「えっと、はい。杖に魔力を流して【クリーン】と唱えるだけだって……」

「はぁ~やっぱり。昔からそそっかしいから、ちゃんとした説明をしていなかったのね。クリス君、スライムの魔石を一つもらえるかしら」


「はい」

 エリザさんはどこか呆れた表情をしながら魔石を求めてきたので、僕は黒い霧から魔石を【排出】して渡すと、エリザさんはその魔石を杖の先端に填めた。

 どうやら魔石を填め込むことが出来るものだったらしい。


「これで文言だけで、魔石から魔力が流れて魔法が使えるわよ。これで試してみて」

 エリザさんは笑って杖の魔導具を渡してくれた。


 僕は少し緊張しながら、【クリーン】と呟いてみせた。

 すると先端の魔石が少しだけ光ったと思ったら、キラキラした何かが食事の終わった食器に当たると、とても綺麗になった。


「わ~僕にも使えた」

「良かったわね。メルルちゃんはそそっかしいところがあるから、次に魔導具を貰ったり、買ったりすることがあったら、ちゃんと詳しい使い方を聞いた方がいいわよ」


「はい、そうします」

 さっきもエリザさんは同じことを言っていたけれど、メルルさんがそそっかしいのは昔からなんだな。

 僕はメルルさんを思い浮かべながら笑ってしまった。

 でもこれで僕にも魔導具を使ってだけど、魔法が使えるようになったのだと、とても感動したのだった。


「それで今日もこれからメルルの所か?」

「はい。メルルさんはたくさんの本を持っているので、文字の勉強も楽しくて」

「そうか……今日は前に言っていたように店が定休日だから、顔馴染の鍛冶師を紹介しようと思っていたんだが……」

 ゴロリーさんは困った顔になってしまった。


「そういうことは決まったら直ぐに知らせなさいっていつも言っているでしょ。相手がすごく困るわよ」

 エリザさんはそんなゴロリーさんを叱っているようで、何だか悪いことをしたような気分になってしまった。


「……すまない。それでどうだ?」

「鍛冶師って、物を作り出す人のことだよね?」

「ああ」

「僕、見てみたいです」

 きっとゴロリーさんが紹介してくれる人ならいい人だろうし、将来きっとお世話になると思うから。


「じゃあメルルが来たら説明は俺がするから、今日は一日俺に付き合ってくれ」

「はい」

 僕はこうして初めて鍛冶師と出会うことになる。


お読みいただきありがとうございます。

主人公の年齢を五歳に引き上げる予定でいます。

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