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お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

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 恭介が美化委員会ではなく、図書委員会に入ったことは女子生徒達に大きな衝撃を与えたようで、美化委員会に入った女子生徒達はこぞって肩を落としていた。
 ここまで影響があるとは、と椿は噂を流してくれた杏奈と蓮見に感謝するしかない。
 さて、この先どうなるのかと椿は思いつつ、委員会の顔合わせと打ち合わせの日がやってきた。

 放課後に各学年の図書委員達が図書室に集まり、顧問の教師によって当番グループが発表されていくのだが、最初の当番グループのところで恭介と椿と透子のクラスが同じ当番グループだと発表され、他のクラスの女子生徒から悲鳴にも似た声が上がった。
 椿はまさか同じ当番グループになれるとは思ってもいなかったので、驚いたと同時にラッキーという気持ちになる。
 他のクラスの女子生徒達は恭介と同じ当番グループでないことに一様にガッカリしていたが、椿と同じではないことに安心している様子も同時に見せていた。
 八組の女子生徒など、透子の肩を叩いて「ご愁傷様」と呟いていたくらいである。
 今の会話はバッチリ椿の耳に聞こえていたのだが、顔合わせの時間が延びるのは面倒なので聞こえないふりをして流した。
 椿は前方斜め前に居る恭介の方へと視線を向けると、横顔からしか判断出来なかったが、透子と同じ当番グループになれたことでどことなく嬉しそうな様子を見せている。

 この組み合わせだが、単純に恭介目当ての女子生徒が図書室に押しかけるのを予想した顧問が椿と組ませることで混乱を回避したいということと、恭介と同じ当番グループになりたい! と言ってこなかった女子生徒が透子だけだったから、という理由であった。

 こうして、顔合わせと話し合いが終わり、椿は透子に話し掛けたそうにしている恭介を引っ張って玄関まで連れて行く。

「人前で話し掛けるなと申し上げましたでしょう?」
「まだ話し掛けてないだろう」
「チラチラと見ていらっしゃったではないですか。来週から当番で一緒なのですから、いくらでも話す機会はございます」

 恭介が積極的に透子に話し掛けているということが女子生徒達の間に広まってしまうと、邪魔をしてくる生徒や彼女を攻撃する生徒が出てきてしまう。
 だからこそ、どうにかひっそりと仲を深めて貰いたいと椿は思っているのだ。

 取りあえず、来週の当番からは恭介と透子を椿の陣地であるカウンターに呼び込まねばならない。
 恭介と透子には、ひとまず友達になってもらわないと話が進まないのだ。
 椿は、よし! 頑張るぞ! と気合いを入れると同時に『恋花』の透子サイドである恭介関連のイベントを思い出していた。
 だが、特に同じ図書委員で仲良くなっていったというイベント、というか流れは無かったような気がする。
 どう仲良くなるのか、というのは恭介頼みになるので、彼には気持ちの押しつけにならない程度に頑張って貰いたい。


 そして、委員会の顔合わせから数日後、ついに最初の図書当番の日を迎えた放課後、椿は早足で図書室へと向かった。
 一番乗りで図書室へと向かった椿は司書達に挨拶をして、透子、もしくは恭介がやってくるのを本を読みながら待つ。

「あ、朝比奈様。早いんですね」

 カウンターの中で本を読んでいた椿は、図書室へとやってきた透子に声を掛けられて顔を上げる。

「夏目さんもお早いのね。お隣にどうぞ」
「はい。失礼します」

 椿は嬉しそうに顔を綻ばせる透子を自然に誘導し、自分の隣に座らせる。

「夏目さんは図書委員になったことはございますか?」
「いいえ、ありません。朝比奈様は図書委員の経験はありますか?」
「私は中等部の三年間ずっと図書委員でしたわ」
「じゃあ、図書委員のプロですね! あ、分からないこととか教えて下さいね。私が通ってた学校の図書室のシステムとは絶対に違うはずですから」

 図書委員のプロ、という言葉を椿は頭の中で反芻する。
 うん、なかなかに良い言葉である、と気を良くした椿は透子に図書委員の仕事の説明を始めた。

「図書委員の仕事の多くは貸し出しと返却の作業です。これは公立でも同じだと思いますわ。作業自体はそう難しくはありません。というか簡単です。貸し出しなら、生徒の学生証のコードを読み取った後に本のバーコードを読みとって終わりです。返却は本のバーコードを読み取って終わり。簡単でしょう?」
「……うちの中学、本の裏に入れてある貸し出しカードにクラスと名前を書いていましたよ? 鳳峰学園って凄いんですね。ハイテクですね」
「作業の効率化というものですわ。それと、カウンター作業の他には、返却された本を書架へ戻したりですとか、貸し出し期限が過ぎた本が無いかの確認ですとか、本の補強作業とバーコードを貼る、あたりでしょうか。カウンター作業が一番多いと思いますわ」
「へぇ」
「月に一度、選書作業もございますから、奇抜なものでない限り図書委員の特権でお好きな本を入れることも可能ですわよ? あと、図書室の前の掲示板に掲示するものの作成もございますわね。高等部は入荷した本の紹介くらいしかしておりませんから、簡単でしょう」
「さすが、図書委員のプロですね……」

 尊敬の眼差しで透子が椿を見つめていた。

「図書室は静かですから、落ち着きますのよ。ですので、入学してから何度か利用しておりますので、掲示されているものですとか、作業は拝見しておりますから存じ上げていた、というだけですわ」
「それでも、よく見てるんだなーって思います。私、まだ高等部の図書室を利用したことが無いので」
「鳳峰学園の蔵書数はかなりのものですから。夏目さんも美術関連の本など、興味がお有りでしたらどうかしら?」
「あれ? 私、美術に興味があるとかって朝比奈様に話しましたっけ?」

 あれ? と言いながら透子は首を傾げている。
 椿はしまった! その情報はまだ知らないことになっていたんだった! と気付き心臓が早鐘を打つ。

「あぁ、そういえば同じ美術部の八雲さんと親戚だって聞きましたから、八雲さんから聞いたんですか?」
「えぇそうです杏奈さんから伺いましたのよ」

 決して貴女のストーカーなどではございません、と思いながら椿は早口で杏奈に聞いたということにした。
 透子はなるほど、だからですか、と疑うことも無く納得してくれる。

「図書室が一階と二階にありますから、かなり数はありそうですね。美術関連の本を探すのが楽しみです。……それにしても、放課後になったばかりだからでしょうか? あまり利用する人はいないんですね」

 キョロキョロと透子が図書室内を見渡しているが、現在図書室には一般の生徒がほとんど居ない。
 このような状況なので、念のため小声ではあるが、椿は透子に積極的に話し掛けているわけである。

「借りにいらっしゃるのが目的の方がほとんどですからね。テスト前になると勉強のために利用される方は多くなるとは思いますが。ですので、通常の図書委員の仕事は暇ですわよ? 本を持ってきて読んでも良いと先程司書の方に伺いましたから、今度から当番の時には持ってくるとよろしいかと」
「そこら辺は公立とあまり変わらないんですね」
「座ってるだけでは暇を持て余しますからね」

 図書委員の仕事の説明が終わったことで話題が無くなり、しばらく無言の時間が続く。
 無言の時間が続くにつれ、徐々に透子がソワソワし始める。
 どうかしたのだろうかと思い、椿は話し掛けようとしたが、逆に透子の方から話し掛けられた。

「ところで、朝比奈様は部活動はしてないんですか?」
「私は中等部の頃からずっと帰宅部ですわ」
「そうなんですね。じゃあ、普段家では何をしてるんですか?」

 なぜか積極的に椿に話し掛けてくる透子に戸惑いつつも彼女は律儀に答える。

「勉強か読書ですわね。後はリビングで妹や弟とお話ししたりしておりますわ」
「あ、妹さん、確か菫ちゃんでしたっけ? 弟さんも居るんですよね。二人とも元気ですか?」
「えぇ、元気ですわ。その節は夏目さんにご迷惑をお掛けしました」
「いえ。私は大丈夫でしたから。それにしてもお母さんも美人さんでしたし、美形一家ですよね。羨ましいです」

 大好きな母親を褒められたことで椿の機嫌は急上昇する。
 カウンターの中で透子と話していると、やや息を切らせた恭介が図書室へと入ってくるのが椿の目に映った。
 キョロキョロしている恭介はすぐに椿と彼女の隣に居る透子を見つけて近づいてくる。

「SHRが長引いておりましたの?」
「まあな」

 言うなり恭介はカウンターの裏にある椅子に座る。
 カウンターは二人しか座れないので、仕方ない。

「夏目さん、入学式の時にもご挨拶しておりますが、私のイトコの水嶋恭介さんです」
「あ、はい。夏目透子です。朝比奈様とイトコ同士だったんですね。清香ちゃんから聞いて驚きました」
「水嶋恭介だ。そいつに迷惑を掛けられたらすぐに言ってくれ」
「むしろ私の方が迷惑を掛けてしまうかもしれませんけど」

 恭介を紹介した椿は気を利かせて彼に透子の隣を譲り、後ろの席へと移動する。

「……椿はちょっと、いやかなり変わってる奴だからな」
「そんなことないですよ。私のような一般家庭の人間にも普通に話してくれますから。むしろ私が迷惑をかけてしまうんじゃないかって不安です。すでに入学式の時に色々とご迷惑をお掛けしてますし……」
「貴女はちゃんと謝罪なさったし、私も気にしておりませんから大丈夫ですわ。それに、うっかりミスは誰にでもございますもの」
「石にでも躓いたんだろう。初めて間近で鳳峰学園の校舎を見たから驚いたかなんかで、足下が疎かになっていただけじゃないのか?」
「いえ、あの。……地面には何もありませんでした」

 下を向いた透子が消え入るような声で呟くと、椿と恭介は顔を見合わせて押し黙ってしまう。
 さすがにフォローの言葉が思い浮かばない。

「昔からこういうことがよくあるんです。そのたびに友達に突っ込まれたりして反論してたんですけど、今までは私だけが被害に遭ってて人に迷惑を掛けるようなことはなかったんです。さすがに今回のはおっちょこちょいという言葉では済まされませんから」

 透子はガックリと肩を落としている。
 大丈夫だと椿が透子に声を掛けようとするよりも早く、恭介の方が先に口を開いた。

「心配するな。そんなものはただの配分の問題だ」
「配分、ですか?」
「あぁ。多少……おっちょこちょい……なところがあるかもしれないが、それ以上か同じくらいに良いところもあるはずだからな」
「良いところ……あ、友達が多いところでしょうか?」

 だとしたら、バランスは取れてますよね、と透子は口にしている。

「僕は夏目の良いところは打算無く人に親切に出来る部分だと思ってる。去年、落とし物を拾ってくれたこともそうだ。本当に助かったよ。ありがとう」
「いえ! 私が勝手にしたことですから気にしないで下さい」

 透子は全力で手を横に振っている。本当に彼女は見返りを全く求めていないのだ。

「でも、水嶋様って意外とフレンドリーな人なんですね。驚きました」
「……話し掛けてくる人間の大半が面倒なタイプだから、対応がぶっきらぼうになるだけだ」
「そういえば移動する時いつも女子生徒に囲まれてますもんね。ああいうのって現実世界で実際にあるんだ、って感動してたんですけど、本人にしてみたら大変ですよね。いつもお疲れ様です」
「ははっ。ビジネスマンみたいな言い方だな」
「今まで敬語以上の丁寧な言葉遣いをする機会なんてほとんど無かったんですから、仕方ないじゃないですか」
「悪い悪い」
「誠意が感じられません」

 頬を膨らませた透子が恭介を軽く睨んでいるが、彼の方は非常に珍しく笑顔を見せていた。
 後ろから二人を見ていた椿は、これは自分が手を貸さずとも上手くいくのでは? と思い始める。
 何より、透子が非常にフレンドリーなのだ。
 恭介も恭介で透子の言葉をどれも好意的に受け取っている。
 これが椿であったなら、「お疲れ様」の言葉に返してくるのは「本当にな」ぐらいだっただろう。
 好意的に見ている相手でここまで対応に差が出るのか、と椿は驚いていた。

 けれど、今は図書委員の当番の真っ最中である。
 私語はできるだけ慎まなければならない、と椿が考えていると、徐々に女子生徒達が増えてきて、気付いたときには図書室は女子生徒達でいっぱいになっていた。
 目的は勿論、恭介である。
 椿がカウンターの後ろに居るのをいいことに、女子生徒達は適当な本を持って恭介のカウンターに並び始め、長蛇の列になっていた。
 隣の透子がこちらでどうぞ、と声を掛けてもガン無視である。
 バーコードを読み取っても読み取っても終わらない作業にだんだん恭介の機嫌が悪くなっていくのが後ろから見ていても分かった。
 多分、このような流れになるだろうと椿は思っていたので、スッと立ち上がり、恭介の肩をポンと叩く。

「恭介さん、お疲れでしょう? 私が変わりますわ。後ろで休憩なさったら?」
「……頼む」

 恭介が後ろに行き、椿がカウンターの椅子に座る。
 椿は目の前に居る女子生徒の学生証のコードを読み取った。

「あら、一年三組の方ですのね」

 一言椿が呟くと、目の前の女子生徒は一気に顔を強張らせる。

「や、やっぱり借りません! 失礼します!」
「そうですか。あぁ、それと貴女。図書室ではお静かに」
「はい!」

 そこそこ大きな声を出した女子生徒は急ぎ足で図書室から出て行ってしまう。

「次の方、どうぞ」
「あ、用事を思い出しましたので」
「私も」
「私もですわ」

 これ幸いと最初の女子生徒に乗った他の生徒達は蜘蛛の子を散らすようにいなくなってしまった。

「……すごいですね」

 恭介目当ての女子生徒達の群れを間近で見て驚いたのか透子がボソッと口にする。

「いつものことですわ。他の方の迷惑になるような行動は慎んでいただかないと困りますもの」
「あ、いえ。朝比奈様の鶴の一声がです」

 え? あ、そっち? と椿は思わず透子の方に顔を向ける。

「清香ちゃんから朝比奈様がどう思われているのかっていうのは聞いてたんですけど、想像以上で驚きました。実際に話してみた朝比奈様は清香ちゃんから聞いていたような人とは思えませんし、口調で損するなんて勿体ないですよ」
「……私をダシにして恭介さんに近寄ろうとなさる方が多くて。それで、好かれるよりは嫌われた方がマシだと思って訂正していないだけです」
「お金持ちって大変なんですね。あ、前も言ってましたもんね」
「「世間体と見栄」」

 言葉がハモってしまい、椿と透子は顔を見合わせて笑い合った。

「でも、その言葉の意味が入学してから分かりました」
「そう。面倒でしょう?」
「面倒、というか、お金持ちの人は払わなければならないものが多いんだなって思って。誰に見られてるか分からないからいつも気を張ってるなんて大変だと思います」
「贅沢できる代償、とでも申し上げればよろしいかしら」

 透子は「だからちょっとだけ、見る目が変わりました」と口にする。

「それは良い方に、という認識でよろしいのかしら?」
「勿論です」

 と言った透子は笑顔を浮かべていた。

 会話を終えた後は、二人は静かにカウンターで生徒が本を借りに来るのを待っていたのだが、相変わらず椿のところに借りに来る生徒はほとんど居ない。
 透子のところに行くか、二階のカウンターに行くかの二択だ。
 たまに椿のところに来てくれる他人に全く興味を持ってません、という生徒が神に見える。
 一人が使い物にならないせいで他の図書委員に負担をかけてしまい申し訳なく思うが、恭介に変わったらまた女子生徒の群れが押し寄せてくるので、椿は大人しく誰も来ないカウンターに座り続けた。

 こうして初めての図書委員当番は終わったのである。

 図書委員の当番グループは三学年合わせて計九グループになるので、大体月に二、三回ほど当番が回ってくるのだが、顧問や司書達は初日の恭介目当てで殺到した女子生徒達を見て、彼にはカウンター作業はしないようにと伝えていた。
 ついでに椿にも顧問から混乱を避けるため、恭介と同じカウンターに居てくれとも言われていた。
 当然、同じ当番グループの他の生徒達は椿と恭介と同じカウンターなど恐怖と緊張で嫌だということで、初日に同じカウンターに居た透子がその役目を押しつけられた訳である。
 そういう理由もあって、椿と恭介と透子が図書室の一階のカウンター担当となっていた。

 当番の時であるが、恭介は後ろで作業をしながらも透子に積極的に小声で話し掛けたりしている。
 全く健気である。
 時折、椿も会話に参加しては、透子と恭介の仲が良くなるようにと気を配っていた。

 恭介は図書委員の当番でしか透子と話せないので、話している時は非常に嬉しそうである。
 だが、椿が「夏目さんのこと好きなんでしょ?」と聞いても毎回全力で拒否してくるのはなぜなのか。
 傍目から見ても恭介は確実に透子に惚れているようにしか見えない。
 家柄を気にしているのかとも考えたが、あそこまで積極的に話し掛けておいてそれはない。
 椿は恭介の考えが全く読めなかった。
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