挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
お前みたいなヒロインがいてたまるか! 作者:白猫

本編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

111/177

99

先週、色々といじっていたところ、本編の話が入れ替わっていた時間がありました。その時間、ご覧になっていた方にはご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありませんでした。
教えて下さった皆様、本当に助かりました。ありがとうございました。
 入学式の翌日は、上級生との対面式などを終えて一年生は午前中で下校となった。
 椿も鞄を手に、さぁ、帰るかと迎えにきていた杏奈と共に玄関まで歩いていたところ、鳴海が誰かと歩いているところを見掛ける。
 鳴海の友達だったら相手を怖がらせてしまうし、声を掛けるのは止めておいた方がいいかもしれないと躊躇した椿であったが、近づくと彼女の隣に居る生徒が透子であることに気が付いた。

「鳴海さんと同じクラスなのかしら?」
「そういえば何組だったのか見てなかったわね」

 椿は杏奈と小声で話し合ったが、入学式の翌日でもう仲良くなったのか? と思った彼女は、鳴海の肩を手で軽く叩いて声を掛ける。

「鳴海さん」
「あ、朝比奈様。それに八雲さんも」
「もうお帰りですか?」
「はい。そうなんです。朝比奈様と八雲さんもですか?」
「えぇ、そうです。ところで、隣の方は高等部から入学された方ですわね。同じクラスなのですか?」

 先程からジッと椿を嬉しそうに見つめている透子の方を彼女は見ないようにしながら、鳴海に問い掛けた。

「そうですよ。透子とは出席番号が前後なので。その関係で仲良くなったのです。ね?」
「あ、はい! 清香ちゃんから話し掛けてきてくれたんです。友達なんて一人も居なくて心細かったので助かりました」

 二人の会話を聞いた椿は目を見開き、下を向いて小刻みに震え出した。
 異変を察知した杏奈は二人に断りを入れ、椿を人目につかない場所へと連れて行く。

「……私ですらまだ、鳴海さんのことを下の名前で呼んでないのに!」
「そんなことでショックを受けないでくれる!? 呼べばいいでしょうよ! 藤堂さんのことも名前で呼んでるんだから」
「あれは千弦さんが絶妙のトスを上げてくれたからだもん! 今更鳴海さんを下の名前で呼ぶなんて恐ろしくて出来ない! 下の名前で呼んで嫌な顔をされたら杏奈が責任とってくれる訳!?」
「あんた本当に面倒臭いわね! そんなこと知らないわよ!」

 もう! と言いながら杏奈は鳴海と透子の元へと戻って行ってしまう。
 置いて行かれた椿も慌てて杏奈の後を追いかける。

「朝比奈様、大丈夫でしたか?」
「いつも通りだから大丈夫よ。私の考えすぎだったみたい」
「そうですか」

 鳴海と杏奈の会話を聞きながら、椿はチラリと透子の方へ視線を向けてみる。
 彼女はキラキラした目をこちらに向けてきていた。

「……あの、私に何か?」
「え? あ、いえ。ごめんなさい。そんなに見てましたか?」
「えぇ。穴が空くかと思うくらい」
「ご、ごめんなさい!」

 ペコペコと頭を下げている透子であるが、周囲の生徒が小声で「早速、締められてる」「水嶋様と話すからああなるのよね」「水嶋様に興味を持たれたのが悪いのよ。いい気味だわ」などと囁いている。
 お前ら本当に性格悪いな、と椿は自分のことを棚に上げて考えていた。
 だが、今の状況のままだと、椿が透子を苛めているように見られてしまう。
 いや、それはそれで透子に多少なりとも同情票が入るので良いのかもしれないが、美緒だけは椿が直々に嫌がらせをしている彼女が恭介の本当の相手なのではと思って嫌がらせを始めるかもしれない。
 それを考えれば、透子とは積極的に関わりを持たない方が良い、と椿は考えた。

「夏目さん。頭を上げて下さい。別に責めている訳ではございませんから」
「はい。昨日の件も申し訳ないと思っているので尚更謝らなきゃいけないって思って」

 椿は申し訳なさそうにしている透子の上着の袖に目を向ける。
 昨日、透子が引き千切ったボタンはちゃんと綺麗に付け直されていた。

「ボタン、綺麗に直してありますわね」
「ありがとうございます!」

 椿に褒められて嬉しいのか透子ははちきれんばかりの笑顔を浮かべている。
 こうもあからさまに透子から好意を向けられると椿は戸惑ってしまう。
 透子は転生者ではないと椿は思っているが、『恋花』の透子とも若干性格が違っているような気がする。

「……慣れない学校生活で大変でしょうけれど、頑張って下さいね。私はこれで失礼致します。杏奈さん、帰りましょう」

 透子と鳴海に挨拶をした椿は杏奈と校門のところで別れて朝比奈家の送迎車に乗り込んだ。
 車が走り出してしばらくして、椿の携帯電話が震え出す。
 誰だろう? と思い椿が携帯電話を確認すると、恭介からメールが届いていた。

『帰ったら水嶋家の温室まで来い』

 たったそれだけのメール内容であったが、椿はすぐに彼が透子の話を聞きたがっていることに気付いた。
 椿は『了解』とだけ打ったメールを返信する。

 自宅に帰り、部屋で制服から着替えた椿は、母親に恭介の家に行くことを告げて志信を伴い水嶋家へと向かった。
 水嶋家で出迎えてくれた瀬川は、恭介から話を聞いていたのか、すぐに椿を温室へと案内してくれる。

「恭介様は人払いをしておりますので、私はここまでしかご案内できませんが」
「いいえ、大丈夫よ。温室内のことは良く知っているから」

 瀬川に告げた椿は温室の扉を開けて中へと入る。
 入ってすぐのテーブル席に恭介が座っており、中へ入ってきた椿をジッと見つめていた。

「遅い」
「来たんだからいいでしょ」
「……まぁ、いい。それで、どうなんだ?」

 夏目のことを聞いてきたんだろう? と恭介の目が語っていた。
 ハッキリ言ってしまえば椿は透子の情報を詳しく聞いたわけではない。
 ちょっと世間話をした程度だ。

「鳴海さんと同じクラスだって。早速仲良くなってたわ」
「七組か……。遠いな。それで他には?」
「ないわ」

 無いと聞いた恭介は「は?」と聞き返してくる。
 聞き返されても椿はそれ以上のことは聞いてないのだから答えられるはずがない。

「だからそれしか聞いてないって言ってるの」
「……役に立たないな」
「人のボランティア精神をなんだと思ってんのよ!」

 文句あるなら協力しないぞ! と恭介に詰め寄ると、彼は慌てて謝罪の言葉を口にした。
 透子のことになると恭介はとたんに弱くなる。

「言い方が悪かったのは謝る。すまない」
「まぁ、恭介だから仕方ないって流してやるわよ」
「言いたくないが、お前の言い方も大概だぞ」
「あんたに言われたくないんだけど」

 すぐに二人はにらみ合いになるが、本題はまったく別のことだとお互いに気付き、気持ちを落ち着かせる。

「で、何が知りたいのよ。昨日言ってた委員会のこと?」
「そうだな」
「ちょっと待って。今、鳴海さんにそれとなく聞いてみるから」

 椿は携帯を取りだして鳴海にメールをしようとしたが、書いている途中で誰かからメールが着てしまう。

「もう、書いてる途中なのに誰よ」

 文句を言いつつ、椿は途中のメールを保存し、新着メールを見る。
 メールを送ってきたのは、今しがた椿がメールを送ろうとしていた相手である鳴海であった。
 なんともタイミングが良い。
 内容はなんだろうかと思い、椿はメールを開いた。

『突然ですが、朝比奈様はどの委員会に入るかもう決めましたか?』

 聞く相手は違うものの椿も鳴海に透子が何の委員会になるのか聞こうと思っていたので、本当にちょうど良いタイミングである。

『私は今年も図書委員に立候補する予定です。ちなみに鳴海さんと夏目さんは何の委員会に入る予定なのですか? 夏目さんはまだ学校のことを御存じないでしょうから、大変そうな委員会を選ばないように気を付けてあげて下さいね』

 完璧だ。
 これなら、最初に鳴海の委員会を聞いて、外部生である夏目のことも気遣っている風を装える。

 椿はしばらく恭介と世間話をしながら鳴海からの返信を待っていると、三十分ほど経ってからメールが返ってきた。
 いつもであれは五分以内にメールが返ってきていたので、今日はやけに遅いな、と思いつつ椿は鳴海からのメールに目を通す。

『私は文化祭実行委員に立候補する予定です。透子は図書委員に立候補すると言ってました』

 透子が椿と同じ委員会に立候補予定だとは奇遇である。

「恭介、鳴海さんに聞いたら夏目さんは図書委員に入る予定だそうよ」
「ふーん」
「ちなみに私もだから」
「げっ」
「何よ、その顔。事前に恭介が図書委員に入るかもって噂流して女子を混乱に陥れてもいいんだからね!」

 嫌そうな顔をしている恭介に脅しを掛けると、彼は一言、悪かったと口にした。
 本当に透子のことになると彼は弱くなる。

「そうだ。噂で恭介が美化委員をやるって流したらいいんじゃない? そうしたら女子は美化委員に集まるだろうし、夏目さんも図書委員に入りやすくなるんじゃないかな。さすがに同じクラスなら無理だろうけど、違うクラスだし、すぐに恭介が図書委員になったっていう情報は出回らないんじゃない?」
「他の女子に聞かれたらどうするんだよ。嘘を言うのか?」
「途中で気が変わったとか言えばいいでしょ。競争率が高くなるよりも良いじゃないの」

 変なところで真面目な恭介は他人を騙すようなことをするのが引っかかっているようであるが、透子と仲良くなりたいのならばこういう駆け引きも重要なことに気付いて欲しいと椿は思う。
 それに男子の図書委員が複数名になった場合、相手が恭介だったらきっと相手は辞退するはずである。

「そうと決まれば、杏奈と蓮見さんに噂を流してもらうわ。あの二人なら明日の朝までに全ての女子生徒に噂が出回るようにしてくれるから」

 そう口にしながら椿は杏奈と蓮見に恭介が『美化委員をやりたい』と言っていたことを噂で流してくれるようにお願いをする。
 杏奈からは二つ返事でOKをもらえ、なぜですか? と聞いてきた蓮見には恭介が夏目と仲良くなりたいからだと正直に伝えた。
 蓮見は口が堅いし、喋ったとしても千弦だけにしか言わない。
 その千弦も口が堅く、椿が恭介と透子が仲良くなれるように働きかけているのだと察してくれるはずである。
 よって、ここで蓮見に恭介が透子を気に掛けていることを知られても何も問題はない。
 しばらくして蓮見から『分かりました』とだけ書かれたメールが届いたので、上手くやってくれるに違いない。

「これで明日の委員会を決める時間は美化委員に人が集まるわね」

 クククッと椿が笑っていると恭介が呆れたように彼女を見ている。

「お前今の顔、悪の組織のボスそのものだったぞ」
「ねぇ! それ、誰のために動いてるか知ってて言ってるの!?」

 お前のためだよ! お前の!

「分かってる。分かってるよ」

 失言したことに気付いた恭介はしまったなぁという表情をしている。
 一応、悪いとは思っているようなので、椿はそれ以上恭介を責めることは言わなかった。


 そんな話を恭介とした翌日。
 椿の予想通り、朝から学年の女子生徒達は恭介が美化委員になろうとしているという噂で盛り上がっていた。
 これなら恭介も透子も何事も無く図書委員になれるのではないだろうか、と椿は安心する。
 透子も図書委員を選んでくれて助かった。これなら何かあった時に椿が恭介をフォローしやすい。
 出来る限り気持ちの押しつけにならないように気をつけなければならない。
 その気持ちは椿が一番よく分かっている。
 などと椿が考えている間に担任が教室へとやってきて、委員会を決める時間が始まる。
 椿は予定通り図書委員に立候補し、他の立候補者が居なかったことからすぐに決まった。

 さて、恭介と透子は無事に図書委員になれたのだろうかと椿は心配になる。
 恭介と同じクラスの女子生徒を混乱させることになるが、こればかりは致し方ない。
 椿がそんなことを考えている間に他の生徒がどの委員会になるのかは順当に決まり、チャイムが鳴ったことで終わりとなる。
 どうなったのか気になった椿は席を立ち、鳴海のクラスへと急いだ。
 途中で女子生徒達が割と大きな声で「水嶋様、美化委員じゃなくて図書委員になったんですって!」「嘘! 私、美化委員になりましたのに!」「どうして図書委員に!?」と言っていたので、彼は無事に図書委員になれたようである。
 後は透子だけだ。

「失礼、鳴海さんはいらっしゃるかしら?」

 鳴海のクラスまで来た椿は近くにいた生徒に訊ねる。
 訊ねられた生徒は「っひぃ」と声を上げながらも鳴海を呼びに行ってくれた。

「朝比奈様、何かご用ですか?」
「えぇ。昨日のメールの件で気になりまして。無事に委員会は予定通り決まりましたか?」
「はい。何事もなく終わりました」
「そうですか。では、彼女が図書委員になられたのですね」

 ホッとした表情を浮かべながら椿が訊ねると、鳴海は少しだけ、ほんの少しだけだが眉を寄せた。
 ん? と思った椿であったが、鳴海はすぐに表情を戻したため聞くタイミングを逃してしまう。

「朝比奈様、お時間があればでよろしいのですが、休日に私とティーサロンに参りませんか?」
「え? えぇ。今月末か来月なら空いておりますが……。前に一緒に伺ったお店でよろしかったかしら?」
「はい。日にちや時間などは朝比奈様に合わせますので、都合のよろしい日を後で教えて下さい」
「えぇ。予定を見てからメール致しますわ」

 それでは、と言って鳴海は教室の中へと戻っていく。
 彼女から一緒にどこかへ出掛けようという誘いは珍しくはないが、何か椿の心に引っかかるものを感じた。
 だか、来月になれば用件も分かるし、それでいいかと思い直した椿は自分の教室へと戻っていく。

 何はともあれ、まずはあの二人の接点を作ることが出来たので椿としては一安心である。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ