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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
374/1275

信頼

「……」


 ん? 錬達が妙に静かだな。

 と、思ったら忘れていた。

 クソ女神が本気で挑んできているから、錬達が速度に全く追いつけていないんだ。

 要約するとコンマ以下の数字で動く世界になっているんだよな。


 しょうがないか。

 俺は再度力を使って、味方全員に魔法を唱える。


『精霊よ。世界よ。世界の代行者が命じ、力を請う。彼の者達に戦うべき力を授けよ!』

「アル・リベレイション・オーラ極!」


 極限まで高められる、最大限の能力アップの力が魔法となって形作られてる。


「え……あ」


 硬直から立ち直ったかのように、錬達は動き始めた。


「ここは……」

「ぶっちゃけると加速した世界だな。本気のクソ女神の速度にお前達を合わせた。これまでの鬱憤、晴らして戦ってほしい」

「い、良いのか?」


 ラフタリアがクソ女神の気を引きながら攻撃を受けている。

 その全てが俺に向かって行った事になる。

 そんな物は最初から受ける事を前提に戦っている。

 でなければ防御能力0のラフタリアと一緒に戦うなんてできるはずもない。


「当たり前だろ? なに、お前達は避けたり、防御する必要すらない。本気で……アイツに一番強い攻撃を放ち続けろ! 武器は精霊達が教えてくれる」

「わかりましたぞ!」


 初めに頷いてクソ女神に向かって突撃して行ったのは元康だ。

 槍が状況を理解し、精霊の力を経由して×0の槍へと変えてスキルを放つ。

 ああ、なるほど……そうすればいちいち×0のスキルを放つ必要も無く、むしろ別のスキルでクソ女神に向かって攻撃出来る。


「グングニルMAX!」


 元康がエネルギーで構築された槍を投げつける。

 しかし……槍のスキルは投擲するモノが多いな。ブリューナクだったかも似たようにエネルギー状の槍が飛んでいくスキルだったよな。

 MAXはスキルの強化の限界点、他に様々な呼び名があるが、これよりも先はアンリミテッドとかの無限単位に拡張して行く事になる。


「俺も行く! アトラ、見ててくれよ!」


 フォウルがクソ女神に近付いてスキルを放った。


「神魔滅殺撃MAX!」


 フォウルの全身が赤く彩られ、全ての魔力と気が小手に宿り、クソ女神に叩きつけられた。

 クソ女神の腹部に命中した攻撃の衝撃が、クソ女神の背中まで突き抜ける。


「なめるなぁあああ!」


 考えてみれば当たり前だよな。

 他に×0ではダメージを与えられない奴がいるのならスキルで放つ方が得だけど、ここには既に奴しかないんだ。

 飛んだ誤算だったな。


 まあ、転生者には癖のある異能力しかなかったみたいだし、妙な加護魔法も現状じゃ無効化出来るから、あくまでこの世界の理で戦う事になる。

 幾らLvが高いとか戦闘経験が豊富と言われてもそれはこちらも同じでしかも伝説の武器はこっちに味方しているんじゃ転生者やその取り巻きはお荷物にしかならない。


 元康の放った一撃がクソ女神の顔面を掠った。

 ツウッと頬に一筋の傷跡が出来、そこに手を触れたクソ女神がわなわなと震えだす。


「殺す! 何があろうとも、楽に死ねると思うな!」


 鬼の形相だが、俺には爽快な気持ちしか湧かないな。

 奴はヴィッチの本体なんだ。しかも世界を玩具のように遊び、数々の人間を不幸にしている元凶。

 考えてみれば転生者共もコイツに利用されただけの被害者でしか、無かったのだ。

 その後の行動に大きな問題がある訳だけどな。


「何ボサっとしているんだ!」


 俺の声に錬と樹が我に返る。


「ああ、じゃあ行かせてもらおう! バリアブルメサイアMAX!」


 ×0の剣に変えた錬が光り輝く剣をそのままクソ女神に向かって振り下ろす。

 クソ女神の動きはそりゃあもう早いが、俺の掛けた援護魔法と神の力を封じる結界によって、当てられない範囲では無くなっている。

 戦闘経験が物を言うなんて言葉もあるからな。


「く……死ね!」


 クソ女神が錬に向けて剣を振りかぶる。


「太刀筋が甘すぎる!」


 錬はクソ女神の剣線を、肌に触れるか触れないかの紙一重で避けながら、懐に入り込んだ。


「流星剣MAX!」


 そのまま零距離で流星剣を放ち、クソ女神に星が全て突き刺さる。


「ぎゃああああああ!」


 なんとも女らしくない声だな。

 ま、奴にはぴったりの悲鳴だ。

 ヴィッチも似た様な断末魔だった気もする。


「アルテミスMAX!」


 樹が錬を援護するようにクソ女神に向けて×0に変えた弓でスキルを放った。

 一筋の矢が綺麗な曲線を描いてクソ女神の胸元に突き刺さる。

 次の瞬間、大きな爆発が巻き起こった。

 おお……なんか派手だな。


「ラフタリアさん、元康さん、錬さん。下がって!」


 樹がそう言うと同時に、樹の弓の形状が変わる。

 ……銃の様な、弓の様な……引き金と弦がある変な弓だ。

 スキルを放つ時だけ形状が変わる武器……なのか? 扱いは×0の弓みたいだ。


「はい!」

「わかりましたぞ!」

「やれ! 樹!」

「ムーンライトバスターMAX!」


 樹の弓の先から極太のビームみたいな攻撃が飛びだし、クソ女神を焼き払う。


「ぐふぁあああああああああああああああああ!」


 まったく、このクソ女神はさっきから声が女らしくないな。

 だが、まあ……なんともタフな事で。

 錬達の攻撃を受けても、戦闘が継続不可能な程のダメージは受けていない。

 いや、受けると同時に回復していると言うのが正しいのかな?

 神としての力が少しずつ減少しているのを感じる。


「おのれぇえええ!」


 お? 激怒して本気で挑んでくるか?

 まあ、奴の必殺攻撃は全て俺が庇い、耐えきって見せるがな。

 と、思ったらクソ女神が、フッとあざ笑う。


「まあ、良いでしょう。今回はこれくらいにして上げましょうか。どうせ他にも世界はある。精々、自分達の世界が仮初の平和になった事を感謝する事ね」


 何を言うかと思えば……俺達に花を持たせて撤退?

 どうせ何処かで隙あらば命を狙って来ようとか頭の悪い事でも考えているんだろうな。

 クソ女神の奴、空間跳躍の能力を使おうとしている。


 だが、世界を覆う防壁と聖武器が繋ぐ楔によって、何者も入る事も出る事もできない。


「残念だがこの世界の楔がお前を射抜いているんだぞ? 逃げられる訳ないだろうが!」

「くそがぁああああ! そんなに死にたいか、貴様らぁああああああああ!」


 逃げられないと知るや、花を持たせようと上から目線で笑っていた目が、怒りに染まる。

 いい加減諦めろっての! お前は絶対に逃がさない。


「ごしゅじんさまフィーロも手を出していい?」

「何遠慮しているんだよ」

「だってー……」


 フィーロが困ったように俺の方を見て言う。

 そういや、さっきから大人しかったな。


「お姉ちゃんが戦っている時は凄く早くて追いつけなかったし、見えるようになったと思ったら槍の人達が先に攻撃するんだもん」


 あー……まあ、フィーロが便乗するには元康が苦手だもんなぁ。


「とにかく、全員でアイツを殺す気で挑め。対処方はわかるよな?」

「うん!」


 ふわりと浮かんだフィーロが×0の爪に変えてクソ女神に突撃する。


「えっとー……かいざーねいるーまっくすー!」


 フィーロがツメをクソ女神に向けて振りかざすと、ツメの軌跡が刃となってクソ女神を縛り上げつつ、切り裂いた。


「僕達もやるよ! グランドスマッシュMAX!」


 みどりが、クーとマリンに声を掛けてスキルを放つ。

 振りかざした斧の衝撃波が地面を通過してクソ女神を射抜く。

 色々とスキルが出ているな。

 必殺スキルのオンパレードになってきたぞ。


「く、邪魔をするな!」


 クソ女神が一番近くに居た元康とフィーロに向かって剣で切りつける。


「ドッペルミラーMAX!」


 そこをクーがスキルを放ち、元康とフィーロに当たる直前に鏡を出現させる。

 お? あのスキルは防御スキル……じゃないな反撃スキルだ。

 バキンと鏡が割れて、破片がクソ女神に突き刺さった。

 便利だよな。


「ぐはああああ!」


 だがその後、クソ女神に自身が放った剣とそっくりの太刀筋が刻まれる。

 なるほどな。鏡で写った自分を攻撃すると同等のー……って奴。

 中々危ないな。


「高等集団合成魔法『隕石』最大!」


 上空から隕石が――。


「少しは考えろ!」


 今まさに降り注がんとしている隕石に全員が退避する。

 もちろん、こんな攻撃をまともに受けるようなクソ女神じゃない。

 俺達と同様に逃げようとしていた。


「ディメンション・ウィップMAX!」

「キュアアアアアアアアアアアアア!」

『我等を忘れては困るでは無いか!』

「ラフー!」


 そこに谷子がクソ女神の足を鞭で止め、ガエリオンが隕石に向かって炎を吐いて威力を増し、フィトリアが戦車と化した馬車の大砲をクソ女神に放つ。

 同様にラフちゃんが上空から船で砲撃。


 そう、俺は味方全員に魔法を掛けた。

 それは何も錬達だけでは無い。

 俺が味方だと認識する全てにこの魔法は掛っている。


 同時にディフェンスリンクや流星壁もだ。

 世界がクソ女神を屠る為に力を貸している。

 ま、クソ女神の目線からしたら飛んだ不正行為だろうが、クソ女神が今までしてきた事に比べれば可愛いもんだろう。

 攻撃の雨あられだな。


「ふむ……ワシ達も協力すべきじゃな」

「メルティ! クズ!」


 クズとメルティが駆けつけて、状況に対応しようとしている。

 少しずつ集まってくるなんて熱い展開だなと、教皇戦で愚痴っていた自分を思い出す。

 クズがここにいるって事は、あっちは片付いたのか。


「お前の女の問題は……終わったのか?」

「……はい」

「そうか」


 例えどんな結末になろうとも、俺は女王の事はクズに任せたんだ。


「ワシは……とても罪深きクズじゃ! イワタニ殿にどんな罰を与えられようとも、この決断を後悔しておらん!」


 そう……クズの隣には、女王が静かに立っていた。

 操られている気配は無い。

 精霊が起こした奇跡だと、ここは片付けるべきかな?

 年甲斐も無く……それこそ物語に出てくる勇者みたいに最愛の妻を救って見せた。

 全部見ていたから、後でからかってやろう。


「既にこの世を去った身でありながら、人々に迷惑を掛けてしまいました。私も……世界の為に力を貸します。この命に代えても!」

「ならん! 多くを失い、多くを誤り、多くを見たワシだからこそ言える。己の命を使う事はワシが許さん!」

「ああ、そんな事をしなくても、俺とラフタリアが必ずどうにかする! お前等は自分のできる事を最大限すればいい」

「オルトクレイ、イワタニ様……敵に利用されていた私などに……」


 クズが女王の前に立ちながら魔法を唱え始める。


「ミレリア、こういう時は……こう、魔法を唱えるのじゃ!」


 早い!

 俺の援護魔法があるとはいえ、マリンが唱えるよりも遥かに早く、クズは魔法を完成させた。


「高等集団詠唱魔法『氷隕石』MAX! 妻よ……お主の得意な……炎と氷の境界線を奴にぶちかますのを見ておれ!」

「私だって負けないわ!」


 メルティがバイオリンみたいな楽器を弾き始める。


「魔力力場、最大!」


 結界の様な物が展開され辺りに高密度の魔力が充満する。

 これって……法則が伝わってくる。

 魔法の威力が何倍にもなる諸刃のスキルだ。

 まあ、俺がいる限り味方に被害なんて出させるつもりはないがな。


「この雑魚共がぁあああああ! 放せぇえええええ!」


 クソ女神が足を縛る鞭を無理矢理引き千切ろうと暴れ出す。

 させるか。

 俺が目で合図するよりも早くラフタリアが動いていた。


「グラビティ・ハンマー!」


 超重力の槌がクソ女神の上に振り下ろされる。

 直接的なダメージは小さいが、極限まで動きが阻害される範囲拘束スキルだ。


「ぐぬぬ……」


 ラフタリアの放った範囲拘束スキルに潰される形でクソ女神が押しつぶされる。

 その中でも一歩、また一歩と歩きながら逃亡を図るがもう遅い。

 魔法で作られた巨大な二つの隕石が、クソ女神に命中し、辺りに爆発が巻き起こる。


 クズとマリンが同時に魔法障壁を展開し、爆発の衝撃を閉じ込める。

 俺も味方にダメージが入らないように流星壁を強める。

 こりゃあクソ女神には大ダメージだろうな。

 ×0の武器で唱えた魔法だし。


「――!!」

「さすがです。英知の賢王……」


 女王が静かに答える。

 そういえば女王は英知の賢王であるクズに惚の字だったんだったか。


「うう……」


 クソ女神が、うっすらと涙を浮かべながらクズを見つめる。


「どうして……どうしてパパは私にこんな真似をするの?」


 うわ! まだ通じると思っているのか?

 往生際が悪いにも程がある。


「お前はワシの娘では無い! 人々を不幸に貶め、それをあざ笑う、ワシの娘の振りをした……悪魔だ!」


 強く、クズはヴィッチの顔をしたクソ女神に向けて拒絶の言葉を放つ。


「皆の者! 畳み掛けるのだ! ここが正念場じゃぞ!」


 さすがのクズも騙される事はない。

 例え親子であろうとも、許される領域はとっくに超えてしまっているんだ。

 ここで情が発生するのなら苦労しない。


「チッ! 後悔しても遅いわよ!」


 クズとマリン、メルティを中心に連合軍が合唱魔法に参加する。

 クソ女神に近付くのはさすがに兵士共には荷が重すぎるからな。

 こういう形で攻撃に参加してもらう。


「ナオフミさん!」

「待たせたな、イワタニ殿!」


 リーシアと女騎士が駆けつけてくる。

 そして――。


「ワシも……いますのじゃ!」


 クソ女神の洗脳が解け、筋肉の塊だった肉体が元に戻っている。

 そうか、リーシアと女騎士で救ったのか。

 本当……奇跡のオンパレードだな。

 打ち切りマンガかと、突っ込みたい衝動に駆られるぞ。

 いや、言わないけどさ。


「おのれぇえええええええええ!」


 鬼の様な形相のまま、剣を輝かせてクソ女神は横に凪ぐ。

 それだけで剣閃が生じて、俺たちを吹き飛ば……させない。

 俺が発動させた流星壁がそれを阻む。

 次の魔法が降り注ぐまでの間に、リーシアと女騎士、ババアがクソ女神に向かって駆け寄る。


「剛刀霞十字、最大!」


 クソ女神の体に十字の傷を与え、続けざまにリーシアがスキルを放つ。


「ドリッド・スラッシュ! スローインMAX!」


 クソ女神を切りつけ、距離を取ると同時に短剣を投げつける。


「変幻無双流、裏奥義、新月!」


 ババアの腕から黒い球体の気の固まりが放たれた。

 三人の放った攻撃がクソ女神の足を止めさせる。


「カトンボのようにわらわらと湧きやがって! そんなに私に殺されたいかぁああああああああああああああああ!」


 クソ女神は力を貯める。

 本来、楔を打たれていない状態だったら発動までの時間は掛らない攻撃なんだろうがな。


「く……煩わしい! この私を縛るこの力ごと、消し飛ばしてくれる!」


 剣を下に向け、力を使って防御膜を精製したようだ。


「次はお姉さん達の出番ね」

「そうだな。サディナ姉ちゃん!」

「私を忘れてもらっては困りますね」


 サディナとキール、グラスが駆けつけて来て、スキルを放った。


「白鯨・勇魚撃、最大!」


 サディナがスキルを放とうとすると、水で構築された巨大なクジラが上空に出現し、サディナが銛を投げると同時にクソ女神に降り注ぐ。


「魂夜霧散、最大!」


 サディナの攻撃が命中するよりも前に、タタンとステップを踏むかのようにけるべろす姿のキールがクソ女神の後ろに瞬間移動しては消え、黒い光を放つキールの鎌が何度も交差した。


「剣舞極ノ型・無、最大!」


 そのキールの踊りに合わせてグラスも連続で奥義をクソ女神に当てる。


「ぐ……う……くそがあああ! いい加減にしろぉおおおおおお!」


 サディナの攻撃が降り注ぐ直前にキールとグラスは後退。

 水しぶきを立てて、サディナの放ったスキルがクソ女神に降り注ぎ、×0のスキルの輝きを放って、サディナの手に銛が戻ってきた。


「ぐ……絶対に、お前等を……魂までも無残にして殺してくれる。もう後の事なんて考えはしないわ。こんな世界が存在したと言う記憶さえも……抹消してみせる」


 ここまで痛めつけても、生きているとは凄いな。


「高等集団詠唱魔法『陽』MAX! 最大!」


 クズとマリン、そしてこの戦いに参加している全ての兵士達の魔法が……太陽の如き魔法となってクソ女神に命中する。

 ま、本来だったら味方も巻き添えになりかねない程の攻撃だが、俺の力の影響で全員ダメージを受けない。

 当てさせるために他の勇者共が拘束スキルを何重にも掛けているしな。


「羽虫が何処までものさばりやがって!」


 クソ女神の奴もここまでボコボコにされて、何処まで戦意を喪失しないんだろうな。

 その点だけは評価したい。ヴィッチもそうだけど。


「ナオフミ様」

「尚文様」

「ああ」


 半透明のアトラが盾から出て来て頷く。

 ラフタリアも何をするかを俺に求めている。

 そうだな……やる事は決めなきゃな。


『精霊よ。世界よ。世界の代行者が命じ、力を請う。神なき世界を私は望み、その為に力を行使する。楔よ、私に力を!』


 ラフタリアの手に光り輝く杭が出現し、槌に張り付く。


「一撃必殺! インフィニティ・バンカー!」


 ガツンと音を立てて、ラフタリアはクソ女神に向けて杭を穿つ。

 同時に大きな閃光が巻き起こる。


「ぐああああああああああああああああああああああああああ!」


 光が一際強まり、クソ女神の力が霧散して行くのを、肌で感じ取っていた。

 これで……死んでくれたら楽なんだがな。

 ラフタリアが攻撃を終えて、俺の方へ着地する。


「ふ……ふふ……雑魚の分際でよくもまあやってくれたわね」


 ……なんとも、タフな奴だ。


「いい加減、貴方達の顔を見るのもウンザリよ。ここで今、こんな姑息な手を全てなぎ払って魂までも滅する瞬間を後悔するが良い!」


 パキンと俺が唱えた楔を引っこ抜くような感覚が辺りを支配し、クソ女神は更に速度を速めている。

 この速度に対応できるのは俺とラフタリア、そしてアトラだけだ。


「もう、良いわ。ここまで虚仮にされたら手加減なんてしてやる必要は無いわ」


 手加減ね……ここまでボコボコにされて尚余裕があると言う事はホント底なしの生命力だな。

 倒すのにどれだけの時間が掛るんだろうな。

 だが――。


 俺は笑みをこぼす。

 クソ女神がこれまでに無いほどの力を解放しているからに他ならない。

 全身が光り輝き、禍々しい魔力を具現化した様な翼が、背中に展開されている。


「これで全てを終わらせてあげるわ!」


 俺は盾を前に向けて構える。


「絶対必中、絶対即死『インフィニティ・デストロイヤー』お前等は死。過去、現在、未来、並行世界、分岐世界、因果律、この世の全ての事情にも何者にも阻止出来ず、ただ、消滅あるのみ! 無限、永遠、亜光速でもたらされる死を思い知れ!」


 クソ女神の攻撃対象を感知、対象はこの場にいる全てと、楔となってクソ女神を縛る全て。

 そして……それに連なる因果律。


 それ等を全て無へ還す程の出力。

 これまでの攻撃とは何もかも違う。

 己の全てを出し切った本気の一撃。


 神と呼ばれる程の力。

 その絶対な力が、時間すらも超越して凝縮を繰り返し、放たれる。


 前とは違って、今は視覚する事ができる。

 赤く、黒い。

 糸……たった一本が死を運び、全ての可能性を消滅させる概念。

 そんな糸が何百、何千、何億……数える事ができない量を束ねている。


 過去も、現在も、未来も、平行世界も、分岐世界も、因果律も、全てを奪ってしまう概念。


 そんな一撃を――


「――その攻撃を待っていた!」


 俺は……神としての力を展開させ、クソ女神が放った必殺の概念攻撃に対して、全てを守り、一身に受け止める。

 死の糸が俺に絡まり始め、全ての時間、全ての世界、全ての可能性へ向かっていく。


「アハ、アハハハハ。何庇ってんの? これでアンタは死んだわ。次を撃てば、私の勝ちよ!」

「残念だが、次は無い」


 盾にクソ女神のインフィニティ・デストロイヤーという本気の概念攻撃の全てを一点に引き受ける。


「子供のやり取りはもうたくさんだ。神殺しとして、お前に最大限の反撃という物を教えてやる」


 この攻撃にはまだ名前は無い。

 ただ、一つ……俺はこの攻撃が来るのを待つ為にラフタリア達に協力してもらっていたに過ぎない。


 神対神の戦いは消耗戦でもある。

 無限とかいう不確かな力を行使するには、矛盾しているが世界の力が必要となり、目減りする。

 正直に言えば子供の理屈だ。


 死なないんだろうし、老いないのだろう。

 だけど、その死なない同士が戦ったら何処かで折り合い……もしくは結果が出る。


 そう、どちらかが結局は負けるんだ。

 俺はそんな子供の理屈に対して……一つの結末を与える。


「アトラ」

「はい。尚文様」

「ラフタリア」

「はい。これで終わりです」


 俺は頷いた。

 これで、全てに終わりがやってくる。


「――増幅反射!」


 死の概念が織り成す糸の性質を変換する。

 赤く、黒かった糸を、緑と白へ。

 全てを絡め殺そうとする方向を撃った本人唯一人へ。

 そして、変質した力を何倍にも、何十倍にも増幅させて、跳ね返す。 


「私が放ったインフィニティ・デストロイヤーをそのまま跳ね返してきた? 残念だったわね。私が出した攻撃は私に効くはずが無いじゃない!」

「何を言っているんだ? 俺は増幅反射と言ったぞ? お前の攻撃は増幅されて、お前に飛んで行っている」

「ぐ……」


 概念攻撃がクソ女神に命中する。

 さながら、カルミラ島でヴィッチに魔法を反射して打ち返した時と同じ状況だ。

 あの時とは跳ね返した物も威力も違うが、本質は変わらない。

 結局、俺とヴィッチのくだらない争いなんて、こんなもんだ。


「こんな、馬鹿な! だが、私にはこの程度の攻撃はかすりもしないし避けられる」

「お前、自分の攻撃に関して、物忘れも大概にしろよ? お前の攻撃は、絶対必中、絶対即死。過去、現在、未来、並行世界、分岐世界、因果律、この世の全ての事象にも何者にも阻止出来ず、ただ、消滅する。無限、永遠、亜光速でもたらされる死を思い知るんだろ?」


 コイツの言った事は全て事実だ。

 それを耐え切った上で跳ね返している。

 最後の締めだとばかりに言っている、この世の全ての事象にも何者にも阻止出来ず、という物も事実だ。

 よくわかっていない奴の言葉遊びみたいなものだが、要するに貫通の事だ。

 耐性や無効化といった能力を貫通するから絶対に死ぬと言っているんだ。


 だが、耐え切っている。

 耐え切ったという結果がある。


 そんなとんでも理屈を増幅して跳ね返しているんだ。

 コイツの大好きな無限とか永遠とやらも混ざってな。


「ふん。私はこの攻撃を避けられる力を持っているから効くはずが無――」

「ならやってみろ。子供の問答に付き合うつもりは無い」

「この私を倒しても本当の私がまだ外の世界にいるから――」

「また忘れてるのか? 並行世界、分岐世界、因果律、この世の全ての事情にも何者にも阻止出来ずって、分け身や本体も全て該当するに決まっているだろ。お前は、自分が放った全ての出来事への攻撃で……絶対的な死を与えるんだろ?」

「そんなのは私には該当しな――」

「絶対必中、絶対即死なんだろ? しかも俺は増幅反射と言ったよな? お前の攻撃であって、お前の攻撃じゃない。絶対命中で、絶対即死。逃れたければ結果を見せてみろ。まあ、生きていられるのならな」


 ○○菌タッチ! バリアー! ○○菌はバリアを貫くからー! その○○菌が貫けないバリアー! そのバリアーを貫く○○菌――


 と続く問答みたいなもんだ。

 付き合っていられない。

 ただ、結果だけがここにあるんだよ。

 効くか、効かないか、それだけだ。


「く、私の力はこの攻撃を無効化出来るだけの能力があって――」

「何処までもやっていろ。それに耐え切ったら相手をしてやる」


 ラフタリアがな。

 俺はあくまで防御に特化した防御役だ。

 増幅反射なんて仕掛けがバレたら攻撃されなくなるだけだからな。


 ラフタリアは攻撃に特化した攻撃役だ。

 防御役程度でぎゃーぎゃー騒いでいる様では話にならん。

 少なくともこのクソ女神が使える攻撃的な概念ならラフタリアも使えるだろう。

 世界を壊されない様、気付かれない様にするのが大変だっただけだ。


 俺はどこまでも盾。

 防御役……探知能力を防いでおいたんだ。

 全知とか予知とか、そういうの大好きだもんなコイツ。

 過去とか未来とか言ってやがるのはこういう意味も含まれているんだ。


「ぐ……更に強力な無限のエネルギーが――くああああ――」


 クソ女神の悲鳴が響く。

 その言葉を耳に入れて思い出した。


「……ああ、そうだ。ヴィッチ、お前は盾の勇者が弱いと思っていると同時に強化方法が劣っていると考えていたみたいだから教えてやるよ」


 俺は聞いている所では無いクソ女神に背を向けて続けた。


「盾の勇者の強化方法は、人々を信じる事――信頼を受ける事だったんだ」


 考えてみれば当然の事だった。

 誰かを守る事しかできない勇者は結局、誰かを頼らなければならない。

 共に戦ってくれる仲間を信じ、その仲間から信じてもらう。

 そうやって、やっとの事で盾の勇者は強くなれる。


 そして、この強化方法は知らず知らずのうちに、錬や元康、樹にも伝わっていた。


 誰かを憎んで、誰かを殺めて……いがみ合って来た俺達が言うのはおこがましい事なのかもしれない。

 だからこそ、隣にいる誰かを信じる事ができる。


 ラフタリアとアトラ、そして皆を眺める。


 盾から溢れる力が繋いでくれる。


 きっとこれからも誰かに騙されたり裏切られたりするだろう。

 その度に疑心に駆られて、誰かを傷付けるかもしれない。

 だけど、今この瞬間に感じる……皆を信じる事ができる心は本物だ。


 こんな事が考えられるのも、沢山傷付いて、その傷を癒してもらったからだ。

 あの日、あの時――世界で一人……ラフタリアが俺を信じてくれたから、ここまで来れた。


「もしもお前に少しでも理解する事ができるなら、きっと死なない」


 まあ、それができるとは思えないが。


「こんな……こんな馬鹿な事があって――やめ、ギャァアアアアアアアアアアアアアアア――!」


 やがてクソ女神は自分の力に一人相撲を始め……どれだけの時間を加速していたのだろうか。

 そうして……クソ女神は、自ら放った攻撃であり、増幅された力によって死を与えられ、全ての時空、並行世界、分岐世界、因果律にさえも干渉し、消滅したのだった。


 残ったクソ女神の膨大な力は俺が奪い取り、消え去った世界の為に使う事で、消費するとしよう。


 世界創造だって可能だ。

 この世界だって例え壊されたってそっくりそのまま再生させる事は出来る。


 ……だが、それは俺が守りたい世界ではない。

 アークが言ったのはそういう例えだ。

 最初の一個目が大事なんであって、再生した世界は同じ様で異なる。

 たった一つでもあんなクソ女神に壊されてたまるものか。


「ふう……」

「やっと終わりましたね」


 ラフタリアがそう呟く。


「そうですね」


 アトラも若干、呆れ気味に答えた。

 そりゃあそうか。

 こんだけ茶番を演じ、最後は自らの力で滅んだんだ。

 奴の間抜けさと子供染みた攻撃方法には、もううんざりだ。


 だが、こんな事をする奴が腐るほどいる事を俺は知っている。

 アイツは氷山の一角でしかない。


「それにしても、最初は異世界で俺の輝かしい冒険譚が始まる……なんてアホな事を考えていたのに、どうしてこうなったんだろうな」

「そんな事を考えていたんですか……」

「いや、来たばっかりの頃の話だぞ?」

「尚文様は今も昔も輝いていますわ」

「それはそれで嫌だな……」


 なんてアホな雑談をしながら加速した状態をやめて、この場にいた者達全ての速度を本来の状態に戻した。


「や、やったのか?」

「ああ。だがその言い方だと生存フラグが立つからやめておけ」


 錬が代表して尋ねた言葉にそう返した。

 あんなのとそう何度も戦いたくない。

 まあ気が付いたらクソ女神が消えているんだ。驚きもするだろうけどさ。


 奴がいたという因果律自体は楔に残されているから皆の記憶には残ったみたいだ。

 元々楔が効いていて、殆ど残っちゃいたけどさ。

 じゃなきゃ俺が存在する事すらも消え去るだろ。

 この世界が四聖の伝説がある事さえもな。


「あのクソ女神は、跡形も残らず消え去った。俺達の……勝利だ」


 俺の宣言に歓声が響く。

 人々は笑みを浮かべ、嬉涙を流し、声を張り上げた。

 そして精霊達が光を瞬かせて祝福した。


「「「ウォオオオオオオオオオオ!」」」」


 世界中から怪しげな気配が去った。

 その事は世界にいた全ての命が理解したらしい。


 長きに渡る戦いが終わり、光り輝く明日が来た事を世界中の生命が感じ取っていた。

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― 新着の感想 ―
タクト→女神の対決は全体的にやっつけ感が強い気がする 今の今まで名前すら出てなかったキャラが突然生えてきて主人公をなぶり殺し→復活って感じが同じでちょっと困惑したわ
こっから900話くらいあるのかw
[一言] ここで概念が消失したから槍直しで…なるほど。
感想一覧
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