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いつか見た虹の向こう側  作者: 宙埜ハルカ
第一章:再会編
43/100

#43:女子会

長らく、本当に長らくお待たせして、すいませんでした。

今回も、とても長いです。

どうぞ、よろしくお願いします。

 美鈴と電話で話してから、私の頭の中から消えない憂いがある。

 彼に別れの真実を告げる事はタブーなのか、と言う事。

 拓都の事も話さない方がいいのだろうか?

 真実を告げないと言う事になれば、私は心変わりをして別れを告げた事が真実になってしまう。

 そうすると、美鈴が言ったように、私は一度裏切った前科のある信用できない相手だと言う事になる。

 

 私は大きく溜息を吐いた。

 この事を考え出すと、後悔という泥沼の中にスパイラルのように潜り込んでしまいそうで、思考をシャットダウンした。


「ママ、クリスマス、楽しみだね? クリスマスまであと何日?」

 サンタへの手紙を書いてから、拓都はご機嫌で、あと何日? と毎日のように訊いてくる。

 この事も、頭の痛い問題だった。

 

「あと8日だよ。良い子にしてないと、サンタさん来てくれないぞ」

 こちらも笑顔でそう返しながら拓都を見ると、嬉しそうに「うん」と頷いた。

 クリスマスまでの日にちも、自分で数えてごらんと言っても、ママから聞きたいのと言って、毎日訊いてくる。それが最近の朝の習慣になっていた。

 

 問題のクリスマスプレゼントは、パパなんて用意できる訳もなく、一応、グローブとボールの予定だ。でも、拓都がいると内緒でプレゼントを買いに行く暇がなくてどうしようと思っていたら、西森さんが『お休みの日に拓都君預かるから、クリスマスプレゼント買いに行っといでよ』と言ってくれた。

 西森さんはどうしてこちらの困っているツボを上手くついてくるかな?

 西森さんと言う人の奥の深さを感じずにいられない。最初はミーハーなお母さんと言うイメージだったのに。


「今日はね、翔也君のお家にお泊りするんだよ。陸君と陸君のお兄ちゃんとママも来るよ」

 そう言った途端、拓都は破顔し「ホント!」と叫んだ。


「本当だよ。学校の帰りに直接翔也君のお家へ行くからね」

 今日は12月3週目の金曜日で、西森さんのご主人が忘年会のためお泊りらしい。それで、私たち母親も忘年会をしようと、子連れで西森家へお泊りする事になった。子供たちが寝てからが私たちの忘年会と言う名の女子会だ。

 偶然にも由香里さんのご主人が出張中で、明日の午後まで帰らないと言う事なので、丁度良かったらしい。もちろん私の家は、誰に気兼ねすることなくどこへでもお泊りできるのだが、拓都のパパ云々のせいで、何やら複雑な心境だ。


 その日、仕事を終えて拓都を迎えに行き、そのまま西森家へ行くと、すでに由香里さん達は来ていて、夕食の用意を始めていた。夕食はお好み焼きと言う事で、人数が多いのでリビングのこたつの上にホットプレートを置き、皆でワイワイ言いながらどんどんとお好み焼きを焼いて行く。お好み焼きはそれぞれの家庭で微妙に作り方が違うので、新しい発見があって面白い。私達はせっかくだからと、もうビールを持ちだした。

 子供達は食べ終わるとさっさとゲームをし始めた。私達は女子会の前哨戦とばかりに、気持ちよくビールを飲みながらお好み焼きをつつき、最近話題のドラマの話に花を咲かせる。


「ねぇねぇ、N●Kの朝の連続テレビドラマ見てる? 主人公の旦那役の俳優さん、ちょっと守谷先生に似てるのよね」

 西森さんの口から、また担任の名が出る。それだけで心臓がドキリと跳ねる。やっぱり重症だよねと心の中で自分に呆れる。

 西森さんの言うドラマは見ていないけれど、最近話題らしく雑誌やテレビでもよく取り上げられ、その主人公夫婦の顔は見覚えがある。確かに私もその男優さんの笑った顔を見た時、似てるなと思っていた。


「ドラマは見てないけど、その俳優さんならちょっと似てるかも」

 私が西森さんの言葉にそう返すと、由香里さんが「守谷先生ねぇ」と意味深な笑顔を私に向けた。

 ちょっと、由香里さん、やめてよ! 千裕さんにばれるじゃない!

 心の中で叫びながら由香里さんを睨んだ。それでも由香里さんは余裕の笑みを返してくる。

 西森さんが子供とお風呂へ行っている間に、私は由香里さんに抗議した。


「由香里さん、千裕さんの前で守谷先生の名前が出た時に、意味深な表情で私を見るの止めて! 勘の良い千裕さんにバレるでしょ」


「千裕ちゃんにならバレてもいいんじゃないの? いっその事、今日話してしまえば?」


「ダメよ! まだ役員を一緒にしなくちゃいけないのに、お互いに気を使うでしょう? それに、彼も関係する事だから勝手に話せないと思うし……」

 彼がどう思っているか分からないのに、彼に迷惑をかける事だけはしたくない。


「じゃあ、守谷先生だって言わなければ、美緒の事、話題に出してもいい? 千裕ちゃんも心配してるみたいだし……」

 由香里さんの提案を聞いて、私の心の憂いを相談するためにも、少しぐらいは話してみようかなと思い始めていた。


                *****



「それで、美緒ちゃんはクリスマスプレゼントどうするつもりなの?」

 子供達が寝た後、私達女三人は飲み会モードに突入していた。そして、お酒のせいで軽くなった口が、拓都のサンタさんへの手紙の事を話していた。 


「ん……とりあえず、グローブとボールにしようと思ってるんだけど……パパなんて言われてもねぇ」

 拓都にとって本当の父親の記憶は、もうほとんど無いのだろう。

 いつか……拓都とパパとママなんて言う、家族を築ける日が来るのだろうか?

 頭の中で想像するパパと拓都がキャッチボールしている姿……。

 そのパパは、誰?


「美緒には申し訳ないと思ってるのよ。ウチの陸がパパ自慢なんかするから……でも、ママに内緒でお願いするなんて、健気よねぇ。パパがどういう存在か分かっていないから、余計に叱れないし……ねぇ、いっその事、彼にパパになってって、言っちゃえば?」

 ニヤリと笑う由香里さんに、私は慌てた。


「な、な、なに言ってるの! 由香里さん!」


「あら、美緒ちゃん、パパ候補がいるの?」

 こういう話にすぐさま食付く西森さんは、嬉しそうに訊いた。


「パパ候補って……」

 私が返事に(きゅう)してる間に、由香里さんが嬉しそうに話し出した。


「そうなのよ。美緒ったら、初恋の元カレに3年ぶりに再会して、最近良い感じらしいのよ」


「なんだ美緒ちゃん、そういう人がいたんじゃないの。でも、元カレって言う事は、以前に付き合っていたって事でしょう? 3年ぶりに再会して焼け木杭(ぼっくい)に火が付いちゃったの?」 


「そうじゃないのよ。美緒はずーっと想い続けてきたの。本当はもう諦めてたんだと思うけど、忘れられなくて、もう誰も好きにならないとか誰とも結婚しないとか言ってたんだよ。まあ聞いてよ、美緒の悲恋の話」

 由香里さんは、まるでありふれた恋愛小説の話でもするみたいに、西森さんに語っている。

 

「ゆ、由香里さん。勝手に人の話しないでよ」


「まあまあ、千裕ちゃんだって美緒の事、いつも気にかけてくれているのに、聞きたいわよねぇ。美緒は自分の事だから話しにくいだろうから、私が大まかに話してあげるから、任せておきなさい。千裕ちゃんに話したら、これからいろいろ相談にも乗ってくれるわよ」


「そうよぉ~美緒ちゃん。私、口硬いから、誰にも言わないわよ。恋愛相談も任せてね」

 この二人にかかったら、私は太刀打ちできない。でも、いろいろ相談したい事もあったから、丁度いい機会かもしれない。でも、本当に彼の名前は言わないでしょうね?


 由香里さんは、私が彼と別れたいきさつと3年ぶりに再会した事を話した。約束通り、私が彼と担任と保護者として再会したとは言わず、仕事の関係で再会したと話してくれた。

 

「美緒ちゃん、辛い思いして来たんだね。それなのに、拓都君の子育て、良く頑張ったよね」

 西森さんは少し潤んだ目で私を見ると、(ねぎら)うように()めてくれた。


 彼と別れてからは必死に生きていたような気がする。生活と仕事と子育てで余裕の無い日々を送っていた。拓都にもずいぶん我慢をさせたと思う。だから、そんな風にに褒められると何処かくすぐったい。


「ううん。由香里さんや周りの人たちに助けてもらったから、ここまでやってこれたの。由香里さんと知り合う前は、拓都と共倒れになりそうだったもの。だから、由香里さんにはとても感謝してます」


「なあに? いきなり持ち上げても何も出ないわよ。お互いさまでしょ? 私も美緒に助けられてたんだから」

 由香里さんがお酒のせいか、目元を赤くしてフフッと笑った。私もそれに答えるように笑った。そんな私達を見て、西森さんが「なんだか二人の関係、(うらや)ましいなぁ」なんて言うから、私は慌てた。


「私、こっちへ帰ってきて、千裕さんに出会えた事が、一番幸運だったって思ってるんだよ。いろいろ助けてもらって、本当に感謝してます」


「そうそう、私だって、千裕ちゃんと友達になれて嬉しかったし、感謝してるんだよ」

 由香里さんまでがそう言うので、西森さんは照れたような顔で「やーねぇ、二人しておだてないでよ」と言うと、慌てたように話を変えた。


「ねぇ、ねぇ、その彼って、どんな人なの? 別れた時学生だったって言うから、年下だよね? 携帯に写真とか保存してないの?」

 

「そう……2つ下なんだけど……私よりしっかりしてると言うか……」

 徐々に核心に迫ろうとしている西森さんの問いかけに、私はどう答えていいか戸惑う。


「美緒ったらねぇ、別れた時に携帯に保存してた彼の写真や彼から送って来た写メールなんかの彼に関するデータの全てを消したんだよね。(いさぎよ)いと言うか、意地っ張りと言うか……あっ、一枚だけ残したんだっけ? 彼からの写メール。まだ待ち受けにしてるの?」

 由香里さんがボロボロとバラしていく事に、どこか不安を感じながら、その問いかけにも戸惑ってしまう。


「待ち受けって、あの虹の写真の事?」

 

「そうそう、千裕ちゃんも見たの? なんでもね、童話に出てくる虹の真似して、お互いに虹の写真を送り合ったらしいよ。ねぇ、美緒?」

 

「童話って……もしかして『にじのおうこく』とか?」

 西森さんがいきなりそんな事を訊くから、心の中がざわつく。私はとりあえず頷きながら「知ってるの?」と訊き返した。


「翔也がね、守谷先生が読んでくれた『にじのおうこく』の絵本が面白かったから、もう一度読んでほしいって珍しく言ったのよ。それで、図書館で借りて来たって訳。大切な人の元へ虹の橋を架ける魔法だっけ?」

 私はまた、彼の名が出てきてドキリとする。由香里さんが私の方を見て、意味ありげに笑った。


「う、うん。そう」


「ふ~ん、何かロマンチックだねぇ。……そう言えば、守谷先生の携帯の待ち受けも虹の写真だって噂だよね」

 西森さんの言葉に、由香里さんは驚いたように目を見開いた。そして、私を一瞥すると、「へぇ、守谷先生もその童話の真似して、恋人と虹の写真を送り合ったのかなぁ?」とのんびりと言った。

 由香里さんの言葉に、胸がきゅっと締め付けられた。やっぱり、そんな人がいるのだろうかと、頭の中で又嫌な考えが回りだす。


「そう言えばさ、その彼は拓都君の存在を知ってるの?」

 西森さんの問いかけに、私は固まった。なんて言えばいい? 私の職場で再会した事にした事になっているのだから、拓都の事は知る訳ないよね。どう答えたらいいの?


「美緒はまだ言えてないんだよね」

 由香里さんの突然のフォローに、私は(すが)るように頷いた。

 彼が知ってるとなれば、いろいろな疑問がわいてきて、誤魔化しきれないと由香里さんも思ったのだろうか……。

 私がチラリと由香里さんの方を見ると、彼女は安心のできる笑顔を返してきた。


「そっか……難しいよね。拓都君の事は別れた原因でもあるしね。……でも、先に自分の気持ちは伝えた方がいいんじゃない? もしかしたら彼、美緒ちゃんはまだ、心変わりした相手の事を好きなのかもとか、付き合ってるのかもって思ってるかもよ」

 あ……そうか……別の人を好きになったって言ったんだから、そう思うのが普通かもしれない。

 西森さんにそう言われて、初めてその可能性に気付いた。

 そして、美鈴に言われた『一度心変わりした人を、心底信用する事が出来ない』と言う言葉が、再び脳裏によみがえった。


「そうだよ。早く自分の気持ちを伝えないと、彼、誤解して、美緒の事諦めちゃうかも」


「由香里さん、それって、彼が私の事を想ってるって前提でしょう? まだわからないよ」

 私は由香里さんにそう返しながらも、頭の中は美鈴に言われた言葉がグルグルと渦巻いていた。


「美緒ちゃん、私もね、旦那と付き合う前、お互いに別の人が好きなんだと誤解してたのよ。私は結婚するまで旦那と同じ会社で同期だったんだけど……私達の同期は十数人いて結構同期同士仲が良くって、皆で飲みに行ったり遊びに行ったりしていたのよ。そんな中でも彼は同期で一番美人の子と仲が良くてね、二人は付き合ってるんじゃないかって噂になってたから、私は自分の気持ちは伝えるつもりはなかったの。そんな時に彼が転勤する事になって、もう諦めなきゃなって思ってたら、たまたま彼と二人きりで話す機会があったのよ。ちょうどいい機会だったし、最後だから今まで仲よくしてくれたお礼と、向うへ行っても頑張ってって、ただそれだけを言うつもりだったの。だから彼が、同じように笑顔でお礼を返してくれて、それで満足だったのよ。……だけど、その後で『梶川と仲良くな! 結婚する時は呼んでくれよ』って言われて、とてもショックだった。確かに同期の男性の中では梶川君と仲良かったけれど、このまま誤解されたまま別れてしまうなんて辛すぎるって、思わず『私の好きなのはあなたです』って言ってしまったの。そんなこと言ってしまった自分が信じられなくて、彼女がいるだろう彼に申し訳なくて、すぐに謝ったんだけど、そうしたら彼も私を好きだって言ってくれて……本当に信じられなかった。だからあの時、自分の気持ちを言って無かったら、彼とは結婚できなかっただろうなと思う。本当に運命ってちょっとしたタイミングで、どう変わるか分からないよね。だから、自分の気持ちに素直になって、気持ちを伝える事って大事だなって思うの。美緒ちゃんも、彼が誤解してるかもわからないんだから、早く自分の気持ちを伝えた方がいいよ」

 西森さんはいつにない真剣な表情で話すと、私の背中を押すような眼差しで見つめた。

 彼も私が他の人を好きだと思っているのだろうか?

 誤解されても仕方の無い別れ方をしたんだと思い直すと、又美鈴の言葉が脳裏によみがえった。


 『一度心変わりした人を、心底信用する事が出来ない』


 誤解してるなら、解かなければ。

 解くためには、どうしたらいい?


「私の場合、自分の気持ちを伝えようと思ったら、まず誤解を解かないといけないと思うの。心変わりしたんじゃないって事を……。でも、そのためには別れの真実を話さないと、分かってもらえないと思うんだけど……話してもいいと思う? 別れの真実について……」

 私の頭の中で、もう一つの美鈴の言葉が彷徨いだす。


 真実を告げる事は、『それこそ今更だし、余計に傷つけるだけだよ』


「良いも悪いも、本当の事を正直に話さないと、誤解が解けないんじゃないの?」


「でも……高校・大学と一緒だった友達に言われたの。私にとって一番大変な時に彼を頼らなかった上に、嘘までついて別れを告げたことが分かったら、彼を余計に傷つけるだけだって……」

 そして私は、彼女が10年近く付き合ってきた恋人に心変わりをされて振られた事、一度心変わりした相手を、心底信用する事が出来ないといわれた事、今更真実を言っても彼を傷つけるだけだから、もうすっぱりと諦めた方がいいと言われた事を話した。


「確かに、そのお友達の言う事も理解できる部分もあるけど……でもね、美緒、二人が再会した事に意味がある気がするの。チャンスだとも思うし、千裕ちゃんのような運命のタイミングが今なんじゃないかなって思うのよ。もう一度、あの別れた時からやり直すつもりで、すべてを正直に話せば、彼なら分かってくれるんじゃないかな?」

 

 由香里さんは何を根拠に彼なら分かってくれるって言うのだろうか?

 でも、今の彼なら、もしかして……?


「美緒ちゃん、私もそう思う。彼の事が好きなのなら、自分の気持ちと本当の事を誠意を持って正直に話した方がいいと思うよ。その方がたとえどんな結果になろうとも、悔いは残らないと思うの。そのお友達は今が一番つらい時だから、彼の辛い時の気持ちにリンクしてしまうんだと思うけど、実際のところ二人は3年以上の時間を経て、今なら別れた時の事も落ち着いて向きあえるんじゃないかな? 美緒ちゃんはこれを乗り越えないと、前に進めないと思うから、今が頑張り時じゃないのかな?」


 そうだ、あれから時間が経って、私達は再会した。

 お互いに落ち着いて向きあえるだけの時間が必要だったのかもしれない。

 だから今になって再会したのかも……。

 由香里さんの言うように、この再会には意味があるのかもしれない。

 もしかしたら空の上から両親や姉夫婦が私の気持ちに同情して再会させてくれたのかもしれない。

 でも、彼にしたらどうなんだろう?

 期待させるような態度を取るかと思えば、もう三週間近く、彼からの写メールは来ていない。

 今彼は、何を思ってるの?

 

「美緒、何考えてるの? どうせ美緒の事だから、自分から告白するなんてできないって思ってるでしょう?」

 由香里さんはいつも私の気持ちを読んでしまう。敵わないな、本当に。


「今はまだ……怖いよ。彼の気持ちも分からないし……こっちが勝手に期待して思い込んでるだけかもしれないし……」


「美緒ちゃんの気持ち分かるよ。私も本当は自分の気持ちを言うつもりなんて無かったんだから。彼が土壇場であんな事を言わなければ、きっと告白できなかったと思う。結局追い詰められないと、人間って動けないものなのかもね」

  

「まあ、これが美緒だものね。私達はいつでも応援してるから、聞いて欲しい事や協力してほしい事なんかがあったら、何でもいいから私達を頼ってね。絶対一人で抱え込んで自己完結しちゃダメだよ。それで、彼に告白する勇気が心に一杯になったら、私達が背中を押しまくってあげるからね」

 由香里さんは、いつまでたっても臆病な私に呆れながらも、笑顔で言ってくれた。


 美鈴の言葉も、由香里さんと西森さんの言葉も、たとえ相反していても、皆私の幸せを願っているからこその言葉。

 この3人に出会えた事は、不幸だと思っていた運命も、案外幸運だったのかもしれないと思った。

 そして、この3人の友情に恥じないように、今度こそ私はこの恋にけじめをつけようと決意した。


 まあ、今すぐに行動に移せる訳じゃないけど……。

 でも、彼からの写メールを待ってるだけじゃなく、こちらから送ってみようと思い直した。

 私は車検から返って来たばかりの愛車ミニクーペを携帯で撮ると、メッセージを添えて彼に送った。

 彼と一緒に選んだこの小さな車、ミニ。


 『私の大切な相棒は、あの頃と同じように今も現役でがんばってくれています。頼もしい奴です』


 私達が中距離恋愛をしていた時、彼と私の間を幾度となく往復したこの車は、まるであの虹の架け橋のようだったと、今更ながら思った。


「いっそ、七色に塗り替えちゃおかな?」

 私はひとりごちてクスリと笑った。



 




 


 

次話から6話分友達の西森さん、由香里さん、美鈴のそれぞれの視点の話が入ります。

他視点は後から読むほうがいい方は、美緒視点の#50話まで飛ばしてもらっても、話は繋がると思います。

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