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いつか見た虹の向こう側  作者: 宙埜ハルカ
第一章:再会編
29/100

#29:運動会

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

今回も、長くなってしまいました。

どうぞ、よろしくお願いします。

 2学期が始まり、9月26日の運動会目指して練習が始まった。体を動かすのが大好きな拓都は、家に帰ってからも、運動会でするダンスの練習に余念が無い。このダンス、今流行のアイドルグループが歌っている歌に振り付けをしたもので、いったい誰の趣味なんだ……と、初めて聞いた時に思ってしまった。


「ママ、あのね、守谷先生、すっごくダンス上手なんだよ」

 ニコニコ顔で話す拓都の言葉に、本当はあまり出して欲しくない話題だと思いながらも、想像して噴き出してしまった。

 ……あの、腰をフリフリするところとか、最後の決めポーズとか……信じられない……


「そっか……運動会、楽しみにしてるね」

 ニッコリ笑って、拓都の頭をなでてやると、拓都は嬉しそうに「うん」と言って笑った。



 2学期になって、もう一つ新たに始まったのは、週末の宿題に日記が出る様になった事。日記と言っても、「せんせい、あのね」で始まる、先生に話しかける様な数行の作文の事だった。こんな宿題は厄介なもので、何を書かせればいいのか……と悩んでいると、拓都の方があっさりと、「先生にね、お話する事を書けばいいんだって」と言う。しかし、日記と言えば、夏休みの絵日記のように、書くネタの為にお出かけするのが当然の様に言われてカルチャーショックを受けたばかりだ。

 週末毎に宿題の日記の為に、お出かけするなんて……無茶で本末転倒だと思う。しかし親として、ここは何か書くネタを提供しなければとか、こんな事を書けばとか、こんな風に書けばとか指導して、少しでも上手に内容良く書かせねばと意気込み、見栄を張ろうとするのは、親ゆえなのか……。

 ……いったい誰に見栄を張ろうとしてるのよ……読むのは担任だけなのに……。

 元カレに見栄を張りたかったのかな……。


 こんな事でも担任を意識して、悶々と一人悩みこんでしまう私など気にも留めずに、拓都は少し考えて、私の方を見てニコッと笑うと、「ボク、今日、お買い物に行った時、グミを買ってもらった事、書く」と言うと、ゆっくりと、それでいてためらいなく書き始めた。


「え? そんな事でいいの?」


「うん。守谷先生がね、嬉しかった事や楽しかった事や面白かった事や悲しかった事なんかを書いたらいいって言ってた」


「そうなんだ……でも、お買い物の事が嬉しかったり楽しかったりしたの?」


「うん。グミを買ってもらったの嬉しかった」

 そう言ってニコっと笑った。

 そんな事でいいのか……と私は拍子抜けしてしまった。それにしても、グミ一つで喜ぶって、普段全然買ってあげてないみたいで、なんだか恥ずかしいな……って、これも元カレに対する見栄なのかな……。


 *****


 9月26日日曜日は、快晴の運動会日和だった。残暑のせいで、日差しの下は暑いが、校庭をぐるりと取り囲む木々の下は、木陰のお陰で涼しかった。


 運動会と言えば、早朝からの場所取りが保護者達の間で熾烈(しれつ)なバトルとなる。それは保育園の頃も同じだったので、私はどうしようかと悩んでいた。見るのは私一人だから、どこでもいいような気もしたが、お昼は拓都と一緒に食べる事になっているから、それなりの場所の確保は必要だ。小学校の運動会の雰囲気が分からないので、西森さんに訊く事にした。


「運動会の場所取り? 朝6時からシートを置いていい事になってるから、場所取りする人は大変みたいね。でも、トラックの周りなんて暑くて座ってられないわよ。私達はね、毎年校庭の周りの木陰にキャンプの時のテーブルセットを持っていくの。そこからは運動会の様子はあまり見えないんだけどね。自分の子が出る時だけ、ビデオの撮りやすい位置に移動して、見るのよ。でも、最近は同じように木陰の場所取りも大変になって来ているんだけどね……」

 西森さんはさも当然と言わんばかりだけど、私はその話を聞いて、又カルチャーショックを受けた。

 ……運動会に、キャンプのテーブルセット? 自分の子供の時だけに見行くの?


「運動会なのに? テーブルセット? シートを引いて座るんじゃないの?」


「ハハハ、もちろんトラックの周りはシートだよ。私達は邪魔にならないフェンスの手前に場所をとるの。そう言えば、美緒ちゃんもウチが取った場所に来たらいいよ。美緒ちゃんと拓都君用の椅子も持って行くから……」


「いいの? 是非お願いしたい。私一人だから、どうしようかと思ってたの……」


「なんだ、早く言えば良かったね。私の中では、美緒ちゃんも一緒なのは決めてたんだけどね……そうそう、この前由香里さんからも訊かれて、当日一緒に場所取りする事になったの。と言っても、場所取りはお互い旦那なんだけどね」


 そう、運動会の一週間前の土曜日、西森さんが子供を連れて芝生公園へ行こうと言うので、ちょうどいい機会だからと由香里さんと子供達も誘った。由香里さんと西森さんの所の子供達は、上も下も同級生だから、これからいろいろ教えてもらうのにいいんじゃないかと思ったから……。

 でも、由香里さんには、西森さんに私と担任との関係だけは言わないでと釘をさす事は忘れなかった。それに、西森さんには拓都が姉の子供だと言ってある事と、彼女が担任のファンだと言う事も伝えておいた。

 西森さんはすぐに誰とでも仲良くなれる人だから、由香里さんともすぐに打ち解けたので安心した。こんな風に私にとって心強い味方がいてくれて、何とかこの1年を乗り越えられそうで、私は二人の友に心の中でよろしくお願いしますと頭を下げた。



 運動会当日、由香里さんのご主人に会うのは初めてで、「いつも由香里さんにはお世話になってます」と頭を下げると、彼は「いえいえ、こちらこそ。お噂は聞いていますよ」とニッコリと笑った。

 どんな噂をしているのと、由香里さんを軽く睨んだ。すると由香里さんは「美緒は若いのに頑張ってるんだよって言ってるのよ。ねぇ?」と言い、ご主人に同意を求めている。ご主人も笑って頷くだけで、余計な事は言わなかった。

 小学校での会話は、余計な気を使う。今までは本人以外、私と担任の関係を知っている人がいなかったから、私が話さない限りばれる心配はしなくても良かった。由香里さんの事は信頼しているけれど、彼女と話しているとつい油断して、自分から言ってしまわないとも限らない。西森さんも近くにいるから、気を引き締めなくては……。


 運動会が始まり、子供達が校庭に並んで準備体操を始めた。私達は1年生がよく見える場所へデジカメを持って移動する。その時、西森さんが、忘れていたと広報の腕章を私に差し出した。


「広報委員長から預かっていたの。この腕章をしていると、競技に邪魔にならない位置なら、トラック内に入ってもいいのよ。一応PTA新聞用の写真を撮ってると言う事で、広報の特権だよ」

 西森さんはそう言ってニッコリ笑った。

 へぇ~広報ってそんな特権があったのか……


「ねぇ、トラック内まで入って写真撮るなんて、目立ち過ぎじゃないの?」


「皆いかに自分ところの子供を綺麗に写すかに集中してるから、周りの目なんて気にならないのよ」

 また西森さんの、親なら当然発言に唖然とする。一歩間違えればモンスターと言われかねないのじゃないのかと思ったけれど、口にはしなかった。

 西森さんがモンスターペアレンツだとは思わないけど、こんな風な今時の親の様子を聞くと、モンスターが生まれる土壌があるんじゃないかと思ってしまう。

 ……先生も大変だな……

 そんな事を思って頭を(よぎ)るのは、担任の顔だったりして、また内心一人焦ってしまった。


「それにね、子供を撮るフリして、守谷先生の写真も近づいて撮れるしね……」

 フフフと笑って話す西森さんに、私は隠れて溜息を吐いた。



「今日も守谷先生はカッコイイねぇ~」

 隣で由香里さんが、子供達が並ぶ前に立って体操をしている担任の方を見て言った。そして、私の方を見て、フッと笑った。

 そんな意味深な笑い方は止めて欲しい。


「ホント、守谷先生って何着ても似合うんだから……」

 西森さんも由香里さんの言葉を受けて、ジャージ姿の担任の方を見て嬉しそうに言う。

 私はこの二人の言葉になんて返せばいいのか分からず、ただ視線だけ彼の方に向けた。


 それは……久しぶりに見る彼の姿だった。キャンプの時以来の彼の姿……姿を見てしまうと記憶が呼び覚まされそうになる。私は避ける様に視線を拓都の方へ向けた。


「あれ? 愛先生、髪を切ったんだね?」

 西森さんが、突然声をあげた。


「あっ、ホントだ。愛先生、髪を切ったら、益々美緒に似て来たよ」

 西森さんの声に反応して、由香里さんも愛先生の方を見て、こんな感想を言う。

 その発言、微妙なんだけど……。


「由香里さんもそう思う? 私も前から美緒ちゃんに似てるって思ってたのに、誰も賛同してくれなくて……守谷先生に言っても、そう思わないって冷たく言われちゃったし……よかった、私と同じ意見の人がいてくれて……本当に髪を切って髪形が似てきたから、今度は似てるって思う人が増えるかも……」

 西森さんは同士を見つけた様に、嬉しそうに由香里さんと話し出した。 

 ……別に似てるって思う人が増えなくても……

 私も愛先生のショートヘアーを確認した。でも自分では似てるかどうかなんて、よく分からなかった。



 1年生の競技が始まる前に、絶好の撮影ポイントを探す。しかし、考える事は皆同じで、人の頭をよけると、結局絶好とは言い難い場所から撮影する事になった。だからと言って、腕章を付けてトラックの中へ入る自信は無かった。密かに思ったのは、来年の運動会までに、デジカメをもっと望遠の倍率の高いものに買い換えようと言う事。ちょっと奮発して、一眼レフのデジカメでもいいかも……。

 そんな風に考えていたのに、いざ1年生の50m走が始まり、拓都がスタートラインに立つと、ファインダー越しよりも自分の生の目で見たくて、そのまま息を止める様に固唾を飲んで見守り、気付いたらゴールしていたと言うオマヌケぶり。結局1枚も撮れなかったのだ……。

 ……いいんだ。心のカメラに写したから……

 そんな負け惜しみの様な慰めで、自分の心を誤魔化した。


 競技の合間にトイレへ行った帰り、今行われている他の学年のダンスを見ながら歩いていると、「あいせんせ~」と言う声が聞こえた。

 え? 愛先生? どこにいるのだろうとキョロキョロしていると、女の子が走り込んで来て私に抱きついた。私が驚いてその子を見下ろすと、その子も驚いて飛び退いた。「ごめんなさい。間違えました」と頭を下げると走り去ってしまった。私は返事をする間もなく唖然としたままその子の後姿を見送った。

 ……もしかして……愛先生と間違えられた? やっぱり似てるの?


 皆のところへ戻って、先程の間違えられた事を言うと、西森さんと由香里さんは顔を見合わせて噴き出した。「やっぱり」と二人揃って言って笑い続けている。ちょうど西森さんの近所のママ友で同じく守谷ファンの綾さんが来ていて、「ホント! 髪を切った愛先生に似てる!」と驚きながら笑っていた。

 なんだか複雑……似てるって言われるのが、なんとなく面白くない……彼はどう思ってるのだろう? 愛先生が髪を切る前は似てると思わないって言ってたけど、髪を切ってからは彼にはどんなふうに見えてるんだろう……。

 


 午前の競技が全て終わり、昼食の時間になった。子供達は親の所で昼食を食べる事になっている。1年生は初めてなので、子供達の見学場所まで迎えに来てほしいと事前のプリントに書いてあった。

 私達が3人連なって子供達を迎えに行くと、他の保護者達も集まって来ていてごった返していた。自分の子供を見つけると名前を呼んで、次々と連れて行く保護者達。

 私は拓都はどこだろうとキョロキョロしていると、担任がいるのに気付いた。吸いつけられる様に彼を見つめていると、彼もこちらを振り返り眼が合った。私は思わず口角を上げ、目を細めてヘニャリと笑った。なんだか情けない笑い方になってしまったけれど、彼と眼が合ったら絶対に笑おうと決めていたから……私は大丈夫だよ、幸せだよとメッセージを込めて……。

 彼は一瞬眼を見開いたけれど、同じように小さく笑ってくれた。それは、他の人からは分からない程の笑顔だった。


「守谷先生。さっきのダンス、とっても良かったですよ。バッチリ写真撮りましたので、PTA新聞に載せてもいいですか?」

 西森さんは担任を見つけると、嬉々として近づいて行って声をかけた。

 ……さすが……千裕さん。

 守谷ファンと公言するだけあって、その行動力もさすがと言うしかない。


「ハハハ、僕なんかの写真より、子供達の写真を載せて下さい」

 担任が笑ってそう答えると、西森さんは「もちろん子供達のも載せますよ」と笑い返していた。

 ……どこまで本気で、どこまで冗談なんだか……



 昼食が済んで、子供達がまた戻ってしまうと、私達はのんびりとお喋りする事にした。そこに、西森さんの近所の綾さんも加わり、その後、PTA総会の時に前の席に座っていた西森さんの友達の3人のお母さん達も集まって来た。


「ねぇ、ねぇ、西森ちゃん、聞いた? モリケイと愛先生が付き合ってるって……」

 後から来たお母さんの内の一人が少し声を潜めて言う。

 あ……噂、広まってるんだ……。


「もちろん知ってるわよ。私なんか二人が仲良くしてる所見ちゃったもの。ねぇ、美緒ちゃん」

 西森さんは、キャンプでの事を自慢気に話しだした。私は、彼女が確認のために話を振るのを、作り笑いで曖昧に頷く事しかできない。でもそんな私の反応よりも、皆は西森さんの話を「私も行きたかったな、そのキャンプ」と羨ましげに聞いていた。


「それでも、去年みたいな不倫騒動より、愛先生の方が健全でいいよね」

 別のお母さんがそう言うと、皆は同意するように頷いた。愛先生と付き合う事は、お母さん達にも受けがいいみたいだ。


「ねぇ、ねぇ、髪を切った愛先生と美緒ちゃんって似てると思わない?」

 西森さんがまたその話題をぶり返した。私は内心またかと思いながらも、皆が私の方を見て来るので、ぎこちなく笑って見せた。


「あ―――! ホント、似てるかも……そう言えば、PTA総会の時も、そんな事言ってたっけ……」

 そうして、又ひとしきり、似てる、似てると騒がれてしまった。


「そうそう、去年の不倫騒動と言えば……その張本人の藤川さん、昨日、偶然にスーパーで会ってね。なんだかちょっと様子が変だったのよ」

 愛先生の話題がひと段落すると、また別のお母さんが、何かを思い出したように話し出した。


「えっ、藤川さんって、県外へ引っ越したんじゃなかった?」


「そうだけど、彼女もご主人も地元はこちらでしょ? たまたま実家へ帰って来てたのかなって思ったんだけど……向こうも私に気付いたから挨拶をしたのよ。そうしたらね、変な事を聞いて来るの……守谷先生は何か処分されたのかって……担任は降ろされたのかって……」


「え―――! 何それ?」


「そうなのよ。なんだか変でしょう? 去年の事で処分されるのなら、去年の内に処分されてただろうし……それでね、私が何も処分されてないし、担任も降ろされてないわよって言うと、顔をしかめたのよ。そして、それじゃあ守谷先生が保護者と不倫しているって噂は広まっていないのかって訊くから、それは藤川さんの事でしょって言いそうになったのを我慢して、今はそんな噂無いわよって答えると、彼女はそんなはず無いって怒って行ってしまったのよ。私、呆れたわ。彼女がここまで被害妄想が酷いとは思わなかったよ。やっぱりちょっと病的だと思わない?」

 私はこの話を聞いている最中に西森さんの方を見た。すると彼女は何も言うなと眼で合図して、綾さんにもそんな目線を送っている。

 

「藤川さんって、子供の事で悩んで、ちょっと精神的に参っているのかもしれないね。去年起こった不倫問題を他の人の事と思いたいのかもしれないね」

 話を聞いた後、西森さんはしんみりとそう答えた。皆もそれを聞いて口々に、少し同情的な感想を言い合った。やっぱり母親として、子育ての悩みは他人事ではないのかもしれない。


「それでも、守谷先生を巻き込むのは止めて欲しいわね。こんな事いろんな人に聞き回って、反対にまた守谷先生に不倫騒動が持ち上がったのかと噂されかねないよ。愛先生も可哀そうだよ」

 綾さんが、少し怒った口調で言うと、またみんな口々にそうだねと言い合った。


「もう、この事は、ここだけの話しにしておこうよ。誰かに話すと変なふうに変わって行くかもしれないし……噂って怖いよね」

 西森さんは、口止めする様に話を終わらせた。彼女はいつも、守谷先生の悪い噂は広まらない様に、ここだけの話にしようと言う。でも、結局、人の口には戸は立てられないんだよね……。

 ここにいる人たちも、私と拓都の関係の噂を聞いているかもしれない。でも、面と向かって言えないだけなのかもしれない。


 後から来た3人のお母さん達が去った後、私と西森さんと綾さんは顔を見合わせた。皆考えている事は、きっと同じだろうと思う。そんな時、ずっと黙って傍で聞いていた由香里さんが、口を開いた。


「さっきの話し、その藤川さんって人が写真を送りつけてきたんじゃないの?」

 皆が驚いて由香里さんの方を見た。それは、どうして由香里さんがその事を知ってるのと言う疑問の眼差しだ。

 

「ごめん。私が由香里さんにだけ言ったの。でも彼女は口が堅いから……」

 頭を下げる私に、西森さんも綾さんも気にしなくていいと言ってくれた。由香里さんは「余計な事、言っちゃったね」と苦笑している。


「由香里さんが知ってるのなら、遠慮なくこの話をするけど……ねぇ、さっき由香里さんが言った様に、夏休み前の不倫騒動を起こしたのって、やっぱり藤川さんじゃないかと私も思うのよ」

 西森さんがそう言うと、私も綾さんも同意する様に頷いた。


「恐らく、その藤川さんって人、守谷先生に対して、可愛さ余って憎さ100倍って感じなんじゃないの? 思い込みの激しそうな人だから、守谷先生は私を誘惑したのに、私ばかりが引っ越しさせられてと思っちゃって……それで、何か守谷先生の弱みを握ろうと思って、ストーカーの様に付け回してたのかもね」

 由香里さんが、もっともらしい推理を披露する。皆は一瞬驚いた顔をしたけれど、それが真実の様な気がして、また一様に頷く。


「そう考えると、彼女は守谷先生が何らかの処分される事を願って、わざわざ学校へ送りつけてきたと言う事だよね。それなのに処分も、担任を降ろされる事もなく、ましてや噂さえも広まらずにいるから、当て外れだった訳だ……」

 綾さんも、由香里さんの推理を引き継いで推理していく。それは、私が考えていた事と同じだった。恐らく全員が同じ事を考えているだろう。

 そうして、藤川さんが起こしたであろう騒動が、何の影響も無かった事を知って、彼女は又何か起こすのじゃないだろうか……。

 私はこの騒動の原因を作った当事者だ……それを今、何も知らない西森さんと綾さんに話す訳にはいかない。

 でも……この騒動を彼女がもっと大きな物にしたら……私の事もばれる日が来るのだろうか……。

 そんな事より、彼が窮地に追い込まれたら……私はどうやって彼に償えばいいんだろう……。


「ねぇ、もしかして、彼女又何かするんじゃないかな? この前の事が思う様な結果にならなかったから、前以上の事を……」

 私は心配になって、思わずその不安を口にした。


「そうだね……それはあり得る話しだと思う。でも、彼女が掴んでる守谷先生の弱みって、他にもあるのかな? この前の写真だけだったら……今度こそ、保護者の噂になる様に、大々的にバラまく可能性があるよね。真実は違っても、写真って言い訳できないじゃない? 去年の事があるから、今度そんな噂が流れたら、去年の事までやっぱり守谷先生にも非があるんだって、みんなは思うでしょうね」

 由香里さんの言う事は、いつものように私への同情を挟まない、冷静な真実の目だ。最悪、そんな風に噂や写真をバラまかれたら、きっと相手の母親は誰だと言う事になるだろう……。その相手の人は何の釈明もしないつもりかと、責め立てる人も出て来るに違いない。


「私、守谷先生にこの事を言おうかと思うんだけど……」

 さっきから黙って皆の推理を聞いていた西森さんが、やっと口を開いたと思ったら、こんな事を言いだした。


「でも……今回の不倫騒動は、私達は知らない事になってるし……」

 私は、全ての原因は私だと思うと余計に動揺してしまった。


「知ってるなんて言わないわよ。私達でさえ、今回の藤川さんの様子のおかしい話を聞いて、これだけ想像したんだから、守谷先生なら、藤川さんがこんな事を言っていたと話せば、自分で考えると思うのよ。去年の事は皆知ってるから、去年の事を恨んで何かしようとしてるかも知れないから、気を付けて下さいって話ならできると思うの」

 西森さんは冷静だ。私なんて、オロオロと動揺しまくりで、そんな風に考えられなかった。

 そうだ、こんな話を聞いたからと話せば、彼ならピンと来るはずだ。写真を送りつけてきた人が分かれば、対処のしようもあるだろうし……。


 皆は西森さんの考えに同意した。藤川さんが動き出す前に守谷先生に伝えなければと言う事になり、西森さんが、藤川さんの事で伝えたい事があると守谷先生にメールを送る事になった。


「もちろん、美緒ちゃんも一緒に話しに行ってくれるでしょう? 役員として……」

 西森さんにニッコリ笑って言われると、否とは言えなかった。

 



 

今回も又、守谷先生の登場が少なくて、すいません。

美緒との絡みも、ほとんどないですね……

ホント、申し訳ない……<(_ _)>

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