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いつか見た虹の向こう側  作者: 宙埜ハルカ
第一章:再会編
19/100

#19:噂の予感

お待たせしました。

なんだか、書いても書いても、自分の思った所へたどり着けなくて、

あまりに長くなってきたので、途中で分ける事にして、

前半部分を先にアップする事にしました。

どうぞ、よろしく。


サブタイトル変更しました。

 私と拓都が現在住む、両親の建てたこの家は、『虹ノ台ニュータウン』と言う分譲住宅団地の中にある。約20年前に、虹ヶ丘小学校の裏に広がる丘陵地に造成されたその住宅団地は、一丁目から五丁目まで5つ自治会に別れている。それぞれの自治会は、約10軒ずつの『組』と言う組織が、1組から10組までの10の組織で成り立っており、約100軒で構成されている。したがって、5つの自治会の総軒数は、(おおむ)ね500軒と言う大規模な住宅団地だった。

 20年前のこの辺りは、T市郊外の田園風景の広がる農家集落だったらしい。しかし、この『虹ノ台ニュータウン』が出来てから、徐々に宅地化が進み、いつの間にか田園風景が住宅地へと変わって行った、そんな少しのんびりとした郊外の住宅地域が、虹ヶ丘小学校の校区だった。


 約20年前に私がまだ小学校へ入る前の頃、私たち家族はこの新興住宅団地へと引っ越して来た。周りも同じような年頃の子どものいる若い家族ばかりで、昔からの地域に比べると、近所付き合いはずっと希薄なものだった。その頃は、この団地にも小学生が多く、私の同級生も同じ自治会に10人ぐらいはいたし、同じ組の中にも、小学生は沢山いた。けれど現在、この住宅団地の第二世代と言える我が家のように、あの頃小学生だった子供たちが、大人になって、家庭を持って、自分の育った家に住むパターンは、実は少ない。お隣のおばさんの家のように、息子も娘も県外で家庭を持ったり、地元で働いていても、同居はせずに近隣で住宅を建てたりと、ご近所の小学生率は、自分の時のピーク時には考えられないぐらい少なくなってしまっていた。

 私の住む虹ノ台一丁目の5組は、現在、お隣のように子供たちが外へ出て夫婦二人の世帯や、未婚の子供と同居している世帯、最近結婚した息子夫婦と同居して赤ちゃんがいる世帯、そして、夫婦のうち片方が亡くなって遠くに住む息子のところへ身を寄せたため空き家になった家など、結局のところ小学生は拓都一人だった。

 私が子供の頃は、同じ自治会内の同級生や年の近い子供達の家はだいたい分かっていた。しかし、今は世代が違う事も有り、自治会内のどこにどのぐらいの小学生がいるのか何も知らない上に、自分が昔知っていた同年代の人達の内、どのぐらいの人がこの自治会に残っているのかも分からなかった。

 考えてみれば、学生の頃は近所付き合いなんてしていなかったから、同じ組内の人とは挨拶を交わすぐらいで、なんとなく家と名前がわかっている程度だった。ましてや組外の人となると、子供の頃の記憶を元に、この辺に同級生の家があったと言うぐらいの認識で、就職してから4年間この街を離れていた事と、もともと希薄な近所付き合いのせいで、私と拓都の事が人々の噂に上るなんて考えもしなかったのだ。


 姉の同級生だと言った柴田葉月さんは、旧姓を山本さんと言うらしく、実家は同じ自治会らしい。そう言えば、姉の小学校の頃仲良くしていた同級生に、葉月ちゃんと言う子がいたなと思い出した。家は割合近くて、ウチの家にもよく遊びに来ていたような気がする。


「美那ちゃんがあんなに早く亡くなるなんて、本当にお気の毒で……私お葬式にもいかせて頂いたんですよ。まだ、小さな男の子を残して……さぞ無念だったでしょうね」

 この人は、こんな事を言うために、私を呼びとめたのだろうか? 私を見て、姉を思い出したから……ただそれだけ?


「その節は、参列頂き、ありがとうございました。子供の事は、姉も義兄も辛かったと思います」

 私はどうリアクションしていいのか迷いながら、彼女の言葉をそのまま受けて、言葉を返した。


「あの……実家で聞いたんだけど、美那ちゃんの子供を、妹さんが面倒を見ているって……お仕事の関係で遠くの街に行っていたけれど、この春から実家へ戻って来て小学校へ入ったって……私、まだ美那ちゃんがお元気だった頃、実家へ帰った時に、子供を連れて遊びに行った事があるの。その時に、小学校は同級生だねって話をしていたのよ」

 私は頭が真っ白になった。ただ、少し笑みを浮かべながら、親しげに話す彼女の口元を見つめていた。


 この人は、この事が私にとって大切な秘密なのだと言う事を知らないだけ……何も悪気が無いのよ。そう思うのに、なぜだか秘密を暴かれている様な気になった。

 怖い……ここまで積み上げて来たものが崩れて行く様な……恐怖。


「あの……その事を、誰かに言いました?」


「えっ?」


「ウチの子が姉の子供だと言う事を……誰かに話しましたか?」


「あ、あの……美那ちゃんが亡くなった時、同級生達と残された子供はどうなるんだろうって話していて、妹さんもまだ若いし、ご主人の方のご両親が引き取られるのかなって話していたんだけど……あの後、実家の母から妹さんが働いている街へ面倒をみるために連れて行ったって聞いて、同級生の誰かには話したと思う。でも、今回こちらへ帰って来たって言うのは、まだ私も聞いたばかりで……」

 私が真剣な言い方で訊いたせいか、彼女はちょっと(ひる)んで、言い訳の様に話した。

 私は今、どんな表情をしているのだろうか? 彼女を怯ませる様な顔をしていたんだろうか?


「そう……あの、この事は誰にも言わないで欲しいの」


「えっ?」


「だから、拓都が姉の子供だと、誰にも言わないで欲しいの」


「えっ? どうして?」


「私、学校には言って無いの。拓都と私は親子として生活しているし、学校にもそう報告しているのよ。それに、周りの人にも言っていないの。この事が噂で広まって、拓都が動揺したり、いじめの要因になったりしたら嫌だし……」


「………」


「ごめんなさい。姉の事を思い出して声をかけてくれたんだと思うけど……」


「ううん。私の方こそ、篠崎さんの事情も考えずに……篠崎さん若いのに一人で甥の面倒を見ているなんて、偉いなぁって思って……何か困った事とかあったら、また言って来て?」

 柴田さんは、申し訳なさそうな顔をした後、優しく微笑んだ。

 いい人だな……なのに、私の秘密を知っていると思うと、心を開く事が出来ない。


「ありがとう。……あの……、この学校の保護者の中に姉の同級生って、柴田さんの他にもいるのかな?」


「同級生? ん……私が知っているのは、2人だけど……他にもいるかも知れない。何年かしたら入学する子供がいる同級生は何人か知っているけど……小学校の時の同級生と言っても、女子は校区外へお嫁に行く人の方が多いし、男子も団地の人は、あまり同居していないからよく分からないのよ。でも、誰にも言わないから、安心してね」


「ごめんなさい。気を使わせて……その柴田さんが知っている同級生は、私の姉と姉の子供の事、知っていると思いますか?」


「う~ん、どうだろう? 二人の内一人は、篠崎さんと同じ一丁目だけど、男の人なのよ。美那ちゃんが亡くなった事は知っていると思うけど、その子供の事まで、男の人だとあまり気にかけないと思うけど……もう一人は、女の人だけど、団地の人じゃないし、美那ちゃんと親しかった訳じゃないから……どの程度知っているか、分からないな……保護者の間では、篠崎さんと子供の関係については聞いた事がないよ。それに、篠崎さんしばらく地元にいなかったから、近所の人以外、みんな知らないんじゃないかな? 私は実家が近所だし、母も美那ちゃんの事をよく知っていたから……」


「そうですか……いろいろすいません」


「いいのよ、それぞれ事情はあるだろうし……でも、学校には、言っておいた方がいいんじゃないの? 特に担任に分かってもらっていた方が、何かの時に相談もできるだろうし……」

 柴田さんの言葉は、もっともな意見だとは理解できる。でも……。

 理解しないのは私の心の方……。


 私は黙って首を左右に振った。

 一番担任には知られたくないのだと、心の中で繰り返す。そして、笑顔を浮かべて「心配かけてすいません。これからも、よろしくお願いします」と言うと、頭を下げた。



 去って行く柴田さんの後姿を見つめながら、この秘密は噂になるだろうか、と考えた。

 彼女が言わなくても、近所の人が誰かに言って、それが、回り回ってこの小学校の保護者の耳に入る事は、考えられない事は無い。保護者の耳に入れば、先生の耳にはいる事だってあり得る事で……。


 ―――――人の口には戸は立てられない。


 西森さんが言ったこの言葉が、今まさに真実味を持って私の胸に響いた。



 

 


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