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いつか見た虹の向こう側  作者: 宙埜ハルカ
第一章:再会編
15/100

#15:噂の行方

いつも読んでくださり、ありがとうございます。

大変申し訳ないのですが、「#14:家庭訪問」を大幅改稿いたしました。

少し内容の意味も変わってしまったので、

できましたら、もう一度読み直して頂きますよう、お願いします。

ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。


今回は、いつもより、ずいぶん短いです。

本当はもう一つエピソードを入れたかったのですが、

なかなか書けないので、ここでいったん切りました。

どうぞお楽しみください。

 一番の不安要素だった家庭訪問が終わり、私はやっと風薫る5月を肌で感じられるようになった。次に担任に会うのは、6月15日の学級役員の2回目の会議だ。それまでの約一ヶ月間は、呼吸が楽にできそうな気がする。

 最近拓都も、守谷先生の話ばかりではなくなり、お友達の話も出るようになった。西森さんの息子の翔也君の話が良く出てくるので、仲がいいのかも知れない。

 

 その日は、残業をしたため、学童が閉まる午後7時にギリギリ間に合った。やはり、拓都が最後だった。「遅くなってごめんね」と謝ると、「今日図書室で借りた本を読んでたから、大丈夫だよ。とっても面白かったんだ」と、ニコッと笑った。

 いつの間にか一人で本を読めるようになった事より、無意識かもしれないけど、私に心配をかけまいとして、大丈夫と言う拓都の優しさに、胸が一杯になる。

 これが、子育てのご褒美なんだろうな……と一人納得しながら、やっぱり私は、拓都と過ごす日常が、私にとっての幸せなんだと、自覚してかみ締めた。


 家に戻ると、拓都が私宛の封筒を持ってきた。学校から役員宛のお知らせらしい。その封筒には、5月20日の金曜日の第一回全委員会会合の詳細及び、今年度の委員会メンバーの一覧が掲載されたプリントが入っていた。あの、学級役員になってしまった学級懇談の日に、委員会の希望を第三希望まで書いて提出したっけ……

 メンバー一覧を見て、ホッとした。広報のところに、西森さんと私の名前があった。第一希望が通ったんだ……

 私はすぐに西森さんに、第一希望が通ってよかったと言う事と、広報の方でもよろしくとメールした。送ったと思ったら、すぐに返事が帰って来るのが西森さんだ。


『今年は、守谷先生のクラスになれたし、委員会も第一希望が通ったし、もしかして、すっごくついてる年かも……ラッキーV こちらこそよろしくね(^O^)/』

 西森さんらしいメールに、私はクスッと笑うと『宝くじでも買ってみる?』と返事をした。


 *****


 5月20日金曜日午後2時、全ての委員会の第一回目の会議がこの日行われ、広報委員会の会合場所は、家庭科教室だった。私はまだ小学校の教室の配置を覚えていなかったので、西森さんと校舎入り口で待ち合わせると事なった。午後2時なんて中途半端な時間だったので、仕事は午後から休みをもらい、ゆっくりと昼食を食べると、乾いた洗濯物を取り入れ、自転車で小学校へ向かった。

 校舎入り口の所で、すでに来ていた西森さんが他のお母さん2人と話をしていた。近づいて「こんにちは」と言うと、皆がこちらを向いて「こんにちは」と返し、西森さんだけがいつもの様に「お疲れ」と言ってくれた。


「彼女、私と同じ守谷先生のクラスの学級役員なんだけど、彼女も広報なんだよ」

 西森さんは、私にニッコリと笑った後、他の二人に紹介してもらった様だ。そして、私の方をもう一度見て「この二人も広報よ。上の子の同級生のお母さんなの」と教えてくれた。

 私は二人の方を見て「よろしくお願いします」と頭を下げた。


「やだぁ~私なんかに頭を下げないで……そんなに堅苦しくしなくてもいいのよ。こちらこそよろしく」

 一人のお母さんが、苦笑しながらそう言うと、もう一人のお母さんも「そうよ~」と笑った。


 会議の行われる家庭科教室へ向かいながら、西森さんと他のお母さん達が話しているのを、聞くとも無く聞きながら、彼女達の後ろからついて行った。他のお母さん達の内の一人が私を振り返り、ニコッと笑うと話しかけて来た。


「小学校は初めて?」

 彼女はそう訊きながら、私と並んで歩きだした。私は彼女の方を見て「そうです」と答えた。


「いきなり学級役員なんて、大変でしょう?」


「そうですね。分からない事だらけで……でも、西森さんが一緒なので、助かってます」


「やっぱりあなたも、守谷先生ファン?」

 いきなりそんな事を聞かれて驚いたが、きっと西森さんが、先程、自慢しまくったに違いない。


「いえ、私は、そんな事無いです。西森さんには内緒ですけど……」

 最後の方は小さな声で言うと、彼女は「ホントに、西森ちゃんには参るよね」と言ってクスクス笑った。

 西森さんは、知り合いが多いし、いろんな人に好かれていると思う。だから、守谷ファンだと公言していても、周りの皆も「またか」と思いながら、苦笑するしかないのだろう。

 それにしても、小学校へ来た途端、これだ……西森さんと一緒にいたら、守谷先生の話題からは、逃れられないのかもしれない。


 家庭科教室へ入り、すでに来ていた人達に「こんにちは」と声をかけると、振り返って挨拶を返してくれた。家庭科教室は、向い合せに3人ずつ座れるようになっている、6人掛けの大きな机が7つ並んでいる。黒板に向かって2つ並び、その後ろにもう2列、窓際の列だけもう一つ机が配置されていた。

 私達4人は、空いていた一番後ろの窓際の机の所へ座った。他の人達も、思い思いの所へ座って気楽なお喋りをしている。


「千裕ちゃん、ねぇ、ねぇ、聞いた? 守谷先生の噂」

 家庭科教室に入ってくるなり、西森さんの姿を見つけると走り寄って来たその人は、周りに気遣い、少し声を落として西森さんに問いかけた。

 彼女は、西森さんのご近所の仲良しのママ友らしい。今年度は学級役員ではなく、西森さんの住んでいる地区の地区役員なのだと言う。どうやら彼女も、守谷ファンのようだ。

 彼女の問いかけに、私と西森さんは思わず顔を見合わせた。

 ……もしかしたら、あの噂が広まっているの?

 西森さんもそう思ったようで、少し顔をしかめた。そして、笑顔を作り「えっ? どんな噂?」と聞き返している。


「守谷先生って、大学時代、すごいプレーボーイだったんだって、女性をとっかえひっかえ(もてあそ)んでいたんだって……なんだか、ショック!!」

 ああ……私はやっぱりと思った。そして、西森さんの方を見ると、彼女も同じように思ったのか、私にコクリと頷いて見せた。


「ねぇ、その噂、誰に聞いたの?」

 西森さんは彼女につられる事なく、冷静に問いかけている。彼女の方は、自分の話に乗ってくれると思っていたのか、西森さんの冷静な反応に少し肩透かしを食らったようだった。


「えっ? 誰って……本部役員をしている友達だけど……」


「そう……私ね、その噂の最初の出所知っているのよ。その話が出た時、一緒にいたから。でも、その時に本当かどうか分からない噂で、守谷先生の名誉を傷つけちゃいけないからって、その場にいた人達に、口止めしたんだけどな……やっぱり人の口には戸は立てられないか……」

 西森さん自身もこうなる事は多少予測していたようだったが、人の口を経る度に、微妙に噂の内容が変わっていくような気がする。

 人の口には戸は立てられない……その人は内緒の話のつもりでも、次の人に伝わる頃には好奇な噂でしかない。


「ねぇ、その噂は、嘘なの?」

 西森さんのママ友は、やけに冷静な西森さんに驚きつつ、最初の勢いはどこへやらで、余計に声をひそめてボソリと訊いた。


「真偽の程は、本人しか分からないけど、大学生の頃の話だって言うし、私は今の守谷先生を信じているから……ただ、守谷先生のあの容姿じゃ、信じちゃう人も多いでしょうね。みんな噂より、自分の目を信じればいいのに……」

 西森さんは少し寂しそうに言った。本当に西森さんの言う様に、自分の目で見た守谷先生を信じて欲しい。だけど、悲しいかな人は、噂に惑わされ易いものだから……


「そっか……そうだよね。千裕ちゃん、私も自分の目を信じるよ」


「うん。そうしてあげて。皆もこの噂、広めないようにしようね。誰かから聞いたら、今の守谷先生を信じた方がいいって、話してあげて欲しいの」

 西森さんの真剣な顔に、その机の所に座っていたお母さん達も、同じような表情で頷いたのだった。




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