第433話 結婚式パレード、直前
結婚式パレード、当日。
女性陣は早朝から起き出し、準備に取り掛かっている。
男性陣はというと、オレ自身、起きてすぐに簡単な朝食を摂り、準備にとりかかっていた。
風呂場で体や髪を洗う。
体や髪を綺麗にすると用意されている衣服――黒を基調にした礼服を身に纏い、腰からは儀式用の剣を下げる。
女性陣側が白を基調にしたウェディングドレスにするため、オレの衣服は彼女達と対比するように黒でデザインされている。
あくまで今回の結婚式は妻達が主役だ。
なのでオマケ扱いされても、別段問題ない。
むしろ、今から緊張感で指先が震えるほどである。
戦場とは違った緊張感に戸惑ってしまう。
そんなオレに旦那様が声をかけてきた。
「はははっははは! リュートよ! 今からそんなに緊張していたら体が持たぬぞ!」
現在、オレ達が私室として使っている客室のリビングには旦那様、ギギさん、スノー父のクーラさん、アムが集まっていた。
女性陣は朝から別室で準備中。
子供達も別室で護衛メイドが面倒を見ている。
旦那様の指摘はもっともだ。
今日の結婚式の流れは午前中、新・純潔乙女騎士団本部を出てパレード、天神教会で式を挙げ、街中に居る人々は昼食を摂る。
オレ達は外壁周囲に集まった人々に顔を見せるため、昼食も摂らずそのまま街外を一周しなければならない。
外壁を一周後、本部に再び戻ってくる。
戻った後は、街中、外関係なく祝福のための宴会をすることになっていた。
当然、費用はオレ達持ちである。
今から緊張していたら体が持たないと頭では分かっているのだが、そう簡単に緩ませられるものでもない。
ソファーに座るアムが前髪を掻き上げる。
「戦場では勇猛果敢に戦うミスター・リュートともあろう者が、自分の結婚式でこれほど緊張するとはね。その姿が見られただけでも来たかいがあったというものだよ!」
「言ってくれるじゃないかアム……。オマエの結婚式の時は、存分に――あれ? そういえばアムはアイスと結婚式を挙げているのか?」
ふと気付く。
二人とも子供は作っているが、結婚式をあげたという話は聞いていないし、呼ばれていないよな?
アムは再び髪を掻き上げる。
「当然しているさ! 北大陸は厳しい環境だからね。親族や極親しい者達しか呼ばないのが逆に美徳とされているのだよ!」
なるほど。
北大陸は年中雪が降る寒く厳しい環境である。
それ故にそういった習慣に落ち着いたのだろう。
「……準備が整ったようだな」
「ですね」
ギギさんの言葉にクーラさんが同意する。
二人の台詞後、扉がノックされた。
声を掛けると護衛メイドの一人が姿を現し、妻達の準備が整ったことを告げる。
どうやら二人は彼女の足音に気付き、台詞を口にしたらしい。
護衛メイドの案内で、女性陣が準備をしていた部屋の前まで移動する。
彼女がノックした後、ドアノブに手を掛けた。
ゆっくりと扉が開かれる。
一番最初にオレが部屋へと入った。
「!?」
部屋に入った一歩目で足が止まってしまう。
今日はパレードを祝福するような快晴で、窓からも陽光が惜しげもなく入り込む。
準備を終えた妻達が日差しをたっぷりと浴びて、待っていてくれた。
まず目に入ったのはスノー。
スノーは妻達のなかで最もシンプルなウェディングドレスを着ていた。
袖付きで腰はギュッと細く、丈の長いスカートが足下まで隠す。スカート表面には遠目では分からなかったが、目を凝らすと白い糸で刺繍が施されている。
全体的にウェディングドレスデザインはシンプルだが、スノーはスタイルがいいため逆に彼女の自然な美しさが全面に出ていた。
次はクリスだ。
スノーとは反対に、クリスの場合レースや布地を大量に使いウェディングドレスを飾っていた。まるでウェディングドレスのゴスロリ版である。しかし嫌味気はなく、まるでディ○ニー映画に出てくるお姫様のごとく可愛らしくて、豪華だった。
胸元や耳などを飾る宝石も衣装に合わせているため、身に纏ったクリス自身がひとつの芸術作品のように思えてしまう。
このまま部屋に飾り続けたいという誘惑に誘われてしまうほどだ。
続いてリース。
彼女の場合、前の二人とは違って肩を大きく露出している。結果、身長に対して大きな胸元を大胆に露出していた。男女関係なく、目を引かれる胸の谷間に、真っ白で滑らかな肌。
手袋も短く、腕をほとんど露出している。恐らく妻達のなかで肌色面積が一番大きいだろう。必然、ウェディングドレスデザインは上半身より、下半身に力が入っている。スカートは大きく広がり、布地で作った花が考えられて縫いつけられている。
その対比が見る者の目を自然と楽しませ、美しさに多くの溜息がこぼれる。
ココノは前者三人と大きく違うウェディングドレスに着替えていた。そのせいか皆とは大きく雰囲気が違う。
天神教の巫女服をアレンジしており、朱と白を基調とし上から透き通る羽衣のような衣服に袖を通している。透き通る羽衣のような衣服も、ただ透けているだけではない。同様の素材で細かいデザインが施され、ココノの美しさがより強調されている。
また美しいのもあるが、神社や大自然に抱くような神秘的な空気感が漂っていた。
しかし、オレの視線に気付いたココノが、照れくさそうに微笑む。途端に神秘的な空気が霧散し、いつもの可愛らしいココノの笑みにどこか安堵を覚える。
最後はメイヤだ。
彼女が妻達のなかで一番派手な衣装だった。
竜人大陸伝統のドラゴン・ドレス姿なのだが、真っ白な生地に黄金の糸で装飾を施しているのだ。普段のドラゴン・ドレスとの違いは、スリットがなく清流のごとく足下まで隠すように流れるスカート状になっている点だろう。
またドラゴン・ドレスを基本としているため、メイヤの体ラインがはっきりと分かるデザインになっていた。日本でいうマーメードドレス系に近い。
メイヤは背丈もあり、スタイルがいいため文句の付けようがなかった。
さらにメイヤもスノー達の影響か、普段の姿が偽りで今のが本性と言いたげに楚々と佇んでいる。
黙って佇んでいると本当に絶世の美人である。
「綺麗だ……」
妻達の美しさに見惚れてしまい、ただその一言しか出てこない。
ウェディングドレスは一部、オレが前世の知識を絞り出しアイデアを出していた。妻達もそのアイデアを気に入り、取り入れている部分は取り入れていた。そのため地球に似たウェディングドレスに近くなっている。
正直、何時間でも見ていて飽きないほど、普段とはまた違った美しい姿だった。
妻達にも万感の想いが伝わったのか、皆、嬉しそうに照れた笑いを浮かべる。
「はいはい、それじゃ皆さん準備が整ったところで各自移動してくださいね。リュートさん達はともかく、他の方はこれから式場に移動しなければならないのですから」
見惚れて動かなくなったオレを促すように、PEACEMAKER情報&外交部門担当のミューア・ヘッドが手を叩く。
彼女の指摘通り、エル先生達は結婚式パレードを見ることが出来ない。
彼女達はパレードの向かう先である式場内部に入ってもらわなければならないのだ。
街中は人、人、人で溢れ、歩くだけで非常に時間がかかる。
結婚式パレードを見ながら移動した場合、目的地の式場へ辿り着けない可能性があるのだ。
その代わり式場内部で結婚式に立ち会ってもらった後、希望者は外壁周囲を回るパレードを見てもらう予定である。
ミューアの言葉に各自が動き出す。
メインのオレと妻達は、グラウンドで準備が終わっている結婚式パレード本体と合流した。
「おぉ……」
眼前に広がる結婚式パレード本体は人数が居るのと、服装や装備品がしっかりしているためかなり迫力がある。
今回オレ達が乗る馬車は角馬が4頭立てで引く。
角馬が引く馬車は今回の結婚式パレード用に作られた特別製だ。
馬車本体の装飾も職人が気合いを入れているのが一目で分かるが、一番分かりやすいのは使用用途の違いだろう。
普通は馬車の内部に入って腰を下ろすものだが、より多くの人々に姿を見てもらうため天井が平らになっている。
さらに落下防止と振動からバランスをとるための手すりが、天井周囲を囲んでいた。
つまり、オレ達は今から馬車天辺に登り、式場や外壁を一周するのである。
馬車だけではない。
新・純潔乙女騎士団団員と楽団達が馬車を前後に挟んでいた。
並び順番は最初に楽団、次に団員、馬車、団員、楽団となっている。
楽団が一番前、後ろに来ているのは、そうしないと音が全体に響かないからという配慮だ。
一応、魔術道具で演奏は増幅されているが、観衆の声が大きすぎてどうなるか分からない。
新・純潔乙女騎士団団員もきっちりと装備を調えている。
普段の実用的な戦闘衣服ではなく、今回のパレード用に準備した女性騎士団甲冑の姿だ。
甲冑といっても全身を金属で覆っているわけではない。
胸当てや腕、腰回り、足などは金属で覆っているが、ミニスカートで、頭部を保護するヘルムも被っていない。
完全に見た目重視のなんちゃって甲冑である。
オレがデザイン案を出し、メイヤが私費で製造した。
手に持っているのは銃剣付きAK47(一部、軍団旗を持っているが)だが、剣に持ち替えたら漫画やアニメに出てくる女騎士団そのものである。
オークや触手に滅茶苦茶弱いアレだ。
ちなみに新・純潔乙女騎士団団員の全員がパレードに参加する訳ではない。
本来であれば全員を参加させたかったが、エル先生達のお世話や祝砲の準備もあるし、行進する際種族的に難しい面々(ケンタウロス族等)も居た。
結果、基本的に甲冑は着ているが、パレードに参加する団員は全員で100人で、50人ずつに分けて馬車の前後に配置されている。
「私はこの後、仕事があるので後はお任せしますね」
「了解。頼んだ」
ミューアはこの後、結婚式パレードの司会役という仕事があるため、オレ達をグラウンドに残して移動する。
オレはその背を見送りながら、馬車の上部に昇る専用の階段へと足をかけた。
急にならないよう配慮しているため、かなり大きい階段になっている。
オレが最初に上がり、妻達が昇る補助に努めた。
最初にスノーが階段を上がる。
手すりに掴まり、慣れないヒールでゆっくりと一段一段確認しながら登る。
「よっと、この靴で歩くのって意外と難しいね」
「その割には余裕があるじゃないか」
オレは手を伸ばし、彼女の片手を取ってエスコートした。
次はクリスだ。
彼女もスノー同様に階段手すりに掴まりながら、ゆっくりと歩いて登り切る。
当然、途中で手を貸す。
『結構、馬車が高いですね。落ちたら怪我じゃ済まないかもです』
「だな。さらに走っている時は振動もあるだろうから注意しないと」
クリスと話をしていると、リースが階段を上がってくる。
「リースは随分とハイヒールに慣れているんだな」
「実家では散々はいていましたから。これぐらい余裕です――キャッ!」
「ははは! お約束だな」
彼女は最後の一段を踏み外し、危なく階段から落ちそうになる。
オレはリースのドジを予想していたため、余裕を持って彼女の手を掴み引き寄せることに成功した。
昔ほど酷くはないが、彼女のドジは相変わらずのようだ。
続いてはココノだが、彼女の場合は階段を下りて迎える。
あまり運動神経が良くないので、万一を考えてだ。
彼女の場合、左手は階段手すりに、右手はオレを掴み一段ずつ確かめるように上がる。
「も、申し訳ありませんリュートさま、お手数をおかけしてしまって……」
「これぐらいたいしたことないよ。だから気にせず、ゆっくり登っていいんだからな」
「は、はい、あ、ありがとうございます」
ココノは予想以上に着慣れない衣服と靴に足元がおぼつかないようで、意識をそちらへと集中しているためお礼の言葉もしどろもどろになってしまう。
妻達で一番時間を掛けて馬車へと登ると、ココノを一番仲が良いクリスへと預けた。
最後はメイヤである。
「わたくしも怖くて一人では階段を上がれませんわ。あぁ、紳士的で格好良くて、頼れる夫のあの方に手を引いて頂きたいですわぁ」
階段前でメイヤが一人体をくねらせる。
メイヤは普段からヒールを履いているため、この程度の階段なら問題はないはずだ。
どうやらココノのように手を引いて階段を上がりたいらしい。
しかし、意地悪する訳ではないが、メイヤの出した条件『紳士的』、『格好良く』、『頼れて』、『夫』って旦那様のことじゃないか?
旦那様なら当然『紳士』で『格好良く』、『頼れて』、奥様と結婚しているから『夫』である。
条件を満たしているのだ。
とはいえ当たり前ではあるが旦那様はすでに移動しているし、メイヤに突っ込んでも仕方ない。
オレは微苦笑を浮かべてもう一度階段を下りて、メイヤの手を取った。
彼女は若干気持ち悪い『によによ』とした笑みを浮かべながら、階段を上がる。
メイヤはヒールに慣れているためココノの三分の一ほどで登り切ってしまう。
準備完了だ。
ちょうど結婚式パレード開催の時間になる。
魔術道具で増幅され、街全体に広がるように調整された司会役を務めるミューアの声が鳴り響いてくる。
彼女の声に反応して集まった人々の声が津波のように押し寄せてきた。
声だけで本部建物がビリビリと揺れるほどである。
気後れしている場合ではなさそうだ。
出発の合図が送られてくる。
オレは妻達だけではなく団員達、楽団に聞こえるように大きく声を出す。
「合図が来た! 出発するぞ!」
声に合わせて楽団が息を吸い込み――観衆達の声に負けないほどの音楽を奏でだした。
その音に合わさるように新・純潔乙女騎士団本部の正門が開く。
さぁ、結婚式パレードの始まりだ!
ここまで読んでくださってありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!
2月4日、21時更新予定です!
本当ならこの時点で結婚式パレードをするはずが終わりませんでした!
なので追加で1話プラスさせて頂ければと思います。
やはりなかなか予定通りにいかないものですね……。
今回一番頭を悩ませたのは、各ヒロイン達のウェディングドレスデザインです。
明鏡シスイのウェディングドレスデザインなのでそういうモノだと納得して頂けると幸いです。
銃器や兵器関係ならもっと細かく書けるんですけどね(笑)
(1~5巻購入特典SSは15年8月20日の活動報告を、2巻なろう特典SSは14年10月18日の活動報告、3巻なろう特典SSは15年4月18日の本編をご参照下さい。)