表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

243/509

第239話 生夢

 オレに痺れ薬を使った本人であるメリッサに、痺れを取ってもらった。

 その後、皆で魔王が封印されていた地下まで移動しながら、起きた出来事を順序立てて説明する。


 最初、シャナルディアの負傷、ララの裏切りを信じられなかったメリッサ達3人組だったが、封印場所にたどり着き、ノーラの膝枕で横になっている彼女を前に泣き崩れてしまった。


 彼女達を落ち着かせようと歩み寄るが、オレの足が途中で止まってしまう。

 驚きで足が止まったのだ。


 驚きの原因はベッドで未だ眠っている魔王である。

 ララから何かを抜き取られる前は、胸が大きくくびれがある美女だったはずなのに、いつのまにか幼女の姿になっていたのだ。


 最初、別人かとも思ったが――紫色の肌、燃えるような赤髪、頭部から横に生えている黒い角もまんま同じだ。

 着ていた革製の衣装まで一緒に小さく縮んでいた。

 同一人物だと考えるのが妥当だろう。


 しかしなぜ、絶世の美女から、幼女の姿になっているんだ?


 痛む頭を押さえながら、とにかく自分達の出来ることをする。

 まず泣き出した3人の少女達を落ち着かせ、黒の薬師であるメリッサにシャナルディアの治療を任せる。

 傷はノーラが魔術で治癒している。

 メリッサには命に別状が無いか確認してもらっているのだ。


 オレはその間にPEACEMAKER(ピース・メーカー)メンバー達に指示を出す。


 リースには『無限収納』から清潔なシーツ、ベッド、布団、皆が座れる椅子、テーブル、飲料水や食料などを出してもらう。


 シアには皆の気持ちを落ち着かせるため、温かいスープを作らせる。


 スノー、クリス、メイヤには念のため敵や魔物があらわれないかの周辺監視。

 これにギギさんも協力を申し出てくれる。


 旦那様には魔王の側に居てもらう。


 旦那様は、魔王の封印されているこの洞窟入り口を守っていた。

 自身を『守護者』とも口にしていた。

 旦那様が知っていることについて、全てを教えて貰う必要があるからだ。


 一通りの指示を終え、黒の少女達の側へと歩み寄る。

 彼女達はリースが出したベッドで眠るシャナルディアを囲んでいる。

 ベッドで眠るシャナルディアは美しく、まるで童話の『白雪姫と7人の小人』の一シーンのようだった。


 黒の治療担当である薬師のメリッサが、ちょうど検診を終える。


「どうだ、シャナルディアの様子は?」

「……頭部に受けた傷はノーラによって治癒され、呼吸、脈拍ともに安定しています。現状はただ眠っているのと同じです。でも、お姉様が攻撃を受けた箇所が悪く、もしかしたらこのまま目覚めないかもしれません」

「それってどういうことだ?」


 メリッサが気まずい表情で告げる。

 シャナルディアの傷を負った顔――目、鼻、口、耳から赤い血が流れでた光景をつい思い返してしまう。

 メリッサが話を続けた。


「『生夢(せいむ)』と呼ばれる、極希に頭部を強く殴打し、二度と眠りから目を覚まさない病気にかかることがあるんです。生きながらずっと夢を見る病気です。そして、そのまま衰弱していき、最後は……」


 彼女はさすがにそれ以上何も言えず黙り込んでしまう。


 生夢(せいむ)……つまり、脳死のことか。


「メリッサお姉様! どうすればシャナお姉様の病気を治すことが出来るんですか!」

「……ごめんなさい、治療方法は今のところないの。治ったという話も聞いたことがないわ」

「そ、そんな……」


 ノーラはベッドに眠るシャナルディアの名前を涙声で呼び続ける。

 しかし、どんなに声をかけようと彼女が目を覚ます気配は微塵もなかった。

 他少女達も涙を流し、嗚咽を漏らす。


「若様」


 シアがそっと背後から声をかけてくる。

 振り返ると、すでにテーブル、人数分の椅子、温かいスープと軽食、甘い物が準備されていた。

 準備が整ったらしい。


 オレはシアに頷き、黒の少女達に振り返る。


 彼女達の嗚咽が落ち着くのを待って声をかけた。


「とりあえず皆の悲しい気持ちは分かるが、現状を把握するため話し合いがしたい。簡単だが食事も用意したから、食べながら話をしないか?」


 つい先程まで敵対していたが、相手は女の子達。

 しかも、彼女達にとって文字通り自分より大切な人が、二度と目を覚まさないかもしれないというのだ。


 戦力に差がある今、乱暴な捕虜のような扱いなど心情的にも出来ない。


 オレはなるべく優しく声をかける。


 彼女達は泣きはらした赤い眼で逡巡する。

 オレの提案はもっともだし、現状確認の話し合いはするべきだが、シャナルディアから目を離したくないらしい。


「リース、シア、悪いがシャナルディアが眠るベッドの側に新しい机か、テーブルを出してくれないか? そこに食事を置くから食べてくれ。代わりに代表者を1人こちらへ。詳しい話を聞かせてくれ」

「……リュート様、ご配慮ありがとうございます」


 妥協案を提示するとメリッサが代表して感謝を告げてくる。


 リースが新たに出したテーブル、椅子をベッドの脇へ置く。

 黒の少女達も手伝い食事をテーブルへと移す。

 スープは少しぬるくなったが、その分飲みやすくなったし、熱々のお代わりはまだ鍋に沢山ある。

 勝手に食べていいと、邪魔にならない位置へと置いておく。


 そして、黒の代表者として組織の薬師であるメリッサが説明のため、席に着く。


「……改めてまして人種族、魔術師B級、黒の薬師、メリッサです」

PEACEMAKER(ピース・メーカー)代表を務める人種族、リュート・ガンスミスだ」


 互いに挨拶を交わす。


 シアがいつのまにか準備した香茶を注ぎ、背後に控える。

 ここからはメイドとして給仕を勤めるつもりらしい。


 テーブルや食料出しの準備を終えたリースは、スノー達と交替で周辺警戒に勤めてもらう。交互に休んでもらい、彼女達にも軽く食事を摂ってもらうつもりだ。


 その間にオレは『黒が今まで何をしてきたのか?』ということについて、順序立てて話を聞く。

 見張りや休憩をしているスノー達との距離も離れている訳ではないので、彼女達もメリッサとの会話内容を問題なく聞くことができる。


 そして、メリッサは滔々と『黒』が組織された経緯を語り出す。




 まずどうして『ケスラン王国が滅ぼされたのか』理由を告げる。


 天神様が6大魔王によってすでに殺害されていた。

 そのためこの世界は『神無き世界』らしい。

 ケスラン国王に真実を広められる前に、大国メルティアが国ごと滅ぼした。ここまではオレも知っている通りだ。


 話を聞いたスノー達は声には出さないが、驚きを表情で表していた。

 まさか天神がすでに殺され、この世界が『神無き世界』だということに……。


 元日本人であるオレにとっては理解しがたい感覚ではあるが……この世界では神は実在し、その声を伝えるために天神教が存在すると信じられているからだろう。


 この話を獣人大陸に居る天神教、元巫女であるココノが聞いたら、スノー達以上の衝撃を受けるだろう。

 今から頭が痛くなる。

 正直、ココノには知らせたくない話だ。




 シャナルディア母子は滅びる祖国から脱出したが、途中でメルティア兵士に追いつかれる。

 母親を目の前で殺害され、シャナルディア自身も殺される寸前だった。

 ギリギリのピンチに姿をあらわしたのが、ララ・エノール・メメアだ。彼女がシャナルディアを助ける。

 彼女を安全圏に連れ去った後、どうして大国メルティアが攻めてきたのか、ララはシャナルディアに真実を語った。


 結果、理由を知ったシャナルディアは、大国メルティアに復讐を、そして祖国再興と世界を統一し、真の平和を自身の手で作り出すことを誓う。


 ここまではシャナルディア本人から聞いた内容と同じだ。

 スノー達は初耳だったため、それぞれ複雑そうな表情をしていた。


「あの……一ついいですか?」


 休憩中のリースが挙手して、メリッサに声をかける。

 彼女は頷き、リースを促した。


「ララ姉様がシャナルディアさんを救ったのは分かりましたが……どうして彼女を助けたのでしょうか? その動機は?」

「ララお姉様――いえ、ララ本人曰く、『シャナお姉様が世界を統べ、人々を平和に導くと予知夢で視たから』と聞きました。ですが今はそれが嘘だと理解できます」


 メリッサは悔しげに歯噛みする。

 シャナルディア達は今まで彼女の『予知夢』のお陰で多大な益を得ていた。その彼女に『シャナお姉様が世界を統べ、人々を平和に導くと予知夢で視たから』と言われたら、信じてしまうのは当然だろう。


 メリッサが気持ちを落ち着かせて、続きを話す。


 ララに助けられたシャナルディアがまず最初にやったのは、世界を回り仲間と資金を集めることだった。

 そして集められたのが、使い物にならない特異魔術師として疎まれ、爪弾きにされていたノーラ達だった。


「私は魔術師の才能があったのですが、家は貧しくて……。目先のお金に目が眩んだ両親に売り飛ばされました。しかも売られた先が評判の悪い変態貴族で――」


 メリッサが途中で奥歯を噛みしめ、硬く目をつぶる。

 自分自身で体をギュッと抱き締め、胸から湧き上がる憎悪・嫌悪・苦しみに耐えているようだった。


 そんな地獄から救い出してくれたのが、シャナルディアだったらしい。


 こうして人材と資金を調達したシャナルディアは、『黒』を設立。


 まず始めにやったことは、大国メルティアや天神教会、始原(01)と戦うために必要な力になるであろう、封印された魔王達の遺跡について調べることだった。


 しかし、他大陸に封印されていると言われる魔王達は確認した限り全て亡骸しかなかった。


「でもよく魔王達の封印場所に入れたな。確か魔王の封印場所は、強い魔物が溢れていて容易には近づけないはずだろ?」


 北大陸で聞いた話だ。

 北大陸の魔王封印場所も巨人族が徘徊して近付くのすら難しい――みたいな話だったはずだ。


 オレの疑問にメリッサが答える。


「エレナの特異魔術がありましたから」


 エレナ、前髪で目元を隠す少女の特異魔術は、魔力を付与した物体の気配、匂い、振動、存在などを消すことが出来るらしい。

 確かにその力があれば封印場所まで行くのも難しくない。


 生きている魔王捜しと同時並行でおこなわれたのが、『人為的に魔術師を創り出せないか?』という研究だった。

 この研究はララが主導でおこなっていたらしい。


「ノーラがココリ街で魔術師の死体を集めていたのもその研究のためか?」


 シャナルディアの側に居たノーラは自身の名前が挙がると、びくりと肩を振るわせる。


「そ、そうです。ララお姉様の指示で集めていました」


 最初出会った態度が嘘のようにビクビクと怯えながら答える。

 ……別にイジメたりするつもりはないから、あからさまに怯えられると微妙にヘコむなぁ。


 メリッサが話を引き継ぐ。


「ノーラの言葉通り、ララの指示に従い魔術師や魔物の死体などを集めていました。人工的に魔術師を増やして戦力を整え、メルティアや天神教などに勝利しようという計画です。ですが結局、研究は失敗。出来たのは魔力を一時的に上昇させる薬ぐらいです。後の副作用も酷く実用的な物ではありませんでした」


「リュートくん」

『お兄ちゃん……』


 リースと代わって休憩をしていたスノー&クリスが声をかけてくる。

 オレも頷いて、彼女達が何を言わんとしているのか察する。


 ハイエルフ王国、第3王女であるルナ・エノール・メメアが誘拐された。

 彼女を救い出す際、オレを奴隷として売った1人、獣人種族、アルセドと再会。

 彼は懐から緑色の液体が入った注射器を取り出し、使用したのだ。


 この時の話をすると、メリッサは申し訳なさそうに眉根を寄せる。


「はい。恐らく、私達の関係組織です」


 彼女曰く、『黒』にも下部組織というのが存在するらしい。


 彼女達は『黒』のトップ組織メンバーで、主に魔王の封印場所調査や侵入、指示があれば魔術師の死体集めなども手伝う。


『黒』下部組織は、資金調達のための裏仕事、情報収集、他雑務を担当させていた。

 その下部組織のまとめ役、トップを任せていた男が細い針の注射器を開発した人物だ。


 ララが連れてきた人物で、元々薬を売りさばいていた小悪党らしい。


(注射器の開発者か……まさかオレと同じ地球からの転生者か?)


「どうかしましたか?」


 メリッサが考え込んだオレを、怖々と伺うように声をかけてくる。

 自身の不手際で機嫌を悪くさせたのかと、焦ったのだ。

 オレは慌てて微笑みを浮かべ答える。


「うちでも注射器については色々調べていて。……後でその下部組織のまとめ役について詳しく聞かせてくれないか?」

「もちろんです。リュート様になら全てお伝えします」


 彼女達のトップ、シャナルディアの婚約者ということになっているため、外部に知られたらまずい内情も包み隠さず話すつもりらしい。心苦しさもなくはないが……この際そんなことは言っていられない。


 メリッサは話を続ける。


 後はオレ達も知っている話だ。


 オレ達、PEACEMAKER(ピース・メーカー)が魔物大陸で存命している魔王と接触することを予知夢で知った『黒』は、上層部メンバー全員を招集。


 妖精種族のエレナと忍者のように布で顔を隠す少女ニーアニーラの特異魔術を複合させ、馬車を透明化し、特異魔術により強化。

 角馬の代わりにピラーニャが馬車を引いて無理矢理、追跡したらしい。


 よくハンヴィーの速度についてこられたもんだ。


 そして、後を追って洞窟内部に入り、隙を見てオレを確保。一緒に魔王が眠っているこの場所へと連れて行った。


 だが、ララに裏切られて、シャナルディアは負傷。

 もしかしたら『生夢(せいむ)』にかかり、二度と目を覚まさないかもしれなくなった。


 ――これが駆け足気味だったが『黒』設立と現在までの流れだ。


 ここまで黙って話を聞いていた旦那様が口を開く。


「リュート、少々いいか」


 表情はいつもの豪快な笑顔ではなく、今から真剣勝負を始めるような緊迫感があった。

 思わずごくりと唾液を飲み込んでしまう。


「どうかなさいましたか?」

「お嬢さん達の話を聞いていて……ララという御仁が一つ嘘を付いているのが気になってな」

「嘘ですか?」


 ララと旦那様に面識は無いはずだ。

 どうして彼女が嘘を付いていると分かる?


 旦那様は幼女姿になった女魔王をまるで愛娘のように撫で、断言する。


「大国メルティアは、ケスラン王国を『天神様がすでに亡くなっていることを知ったから』攻めたのではない。もっと別の理由で攻めたのだ」


 この言葉に黒の少女達も眠るシャナルディアから目を離し、瞠目する。

 彼女達にとっても、決して聞き逃せない重要情報だからだ。


 旦那様は皆の視線を集めながらも、緊張など微塵もせず『真実』を語りだした。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明日、12月20日、21時更新予定です!


2巻発売12/20までの、連続更新第4弾です!


ついに……ついに軍オタ2巻、明日発売です!


軍オタ2巻の見所は……1巻同様、多数の書き下ろしを加え、新銃器も追加! 旦那様とのバトルも、新しい敵との戦いもパワーアップし、WEB版を読んだ方も楽しめる内容になっております! 硯様の可愛らしいお嬢様のイラスト&旦那様のラスボス風味&巻末の書き下ろしイラスト+4コマも必見です!


また、なろう特典として活動報告には、旦那様が奴隷となりとある鉱山へ送られ、そこでとある筋肉の聖戦が始まる――という、旦那様を主人公にしたなろう特典SSを。


そしてさらに2巻購入者様には、購入者様のみが読めるifシリーズ第二弾『もしもリュートとクリスがメイヤに会わず、2人で同棲生活(仮)を送っていたら!?』も! こちらの内容は、リュートとクリスが甘々(?)な同居生活を送り、反転攻勢の為のお金を貯めていたら、とあるトラブルに遭遇しクリスお嬢様の身を掛けてとあるギャンブルが行われることに――という内容です。クリスとリュートがこの危機をどうやって切り抜けるのか、良かったら是非読んで頂けると嬉しいです!

(ちなみに2巻パスワードを入れることで、1巻のifシリーズも読めるような仕様にしたいと思っております。2巻から買う人はいないと思いますので(多分)。なので1巻のifシリーズを読み忘れてしまった方是非楽しんで頂ければと)


というわけで特典盛りだくさんな軍オタ2巻を、何卒宜しくお願い致します!



さらには、明日はもちろん連続更新第5弾最終日として、本編シナリオも更新致します!という訳で明日は3本同時更新です。どの特典SS・本編シナリオも頑張って書きましたので、読んで頂けると幸いです!


また栄養ドリンクの件、心配していただきありがとうございます! でも大丈夫ですよ、明鏡シスイは、ま、まだまだ若いはずだし(震え声)。……筋肉痛が遅れてやってくるような歳ですが。


また、軍オタ1巻、引き続き発売中です。

まだの方は是非、よろしくお願いします!

(なろう特典SS、購入特典SSは10月18日の活動報告をご参照下さい)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ