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第178話 人質

 事前の話し合いの通り、リースとシアが門の前に立ち、後続の敵を足止めしてくれる。オレ、クリス、メイヤ、アイスはその間に囚われている領主の息子のアムや白狼族、そしてスノーを取り戻すべく城内へと侵入する。


 城を守るはずの衛兵達はスノー処刑の警護のため、殆ど出払っていた。

 そのため最初こそ人の気配はなかったが、連れ去れたスノーの後を追うと、秘密兵士隊の白兵士が待ち構えていた。


 今度こそ、オレ達を逃がさないという意思の表れか、一本道の通路で前後を塞いでくる。

 前方に15人、後方にも15人。

 窓は無く、部屋に続く扉もない一本道の廊下だ。


 さすがに城内では地の利はあちら側にある。

 どうやらオレ達は誘い込まれたらしい。

 あちらはすでに勝った気でいるのか、金属製の指を擦り合わせて『カチャカチャ』と音を立てている。

 こちらの人数は4人。

 敵の秘密兵士隊は30人。

 しかも敵は全員が魔術師だ。さらに相手は、オレ達の攻撃方法を理解している。事実、飛行船襲撃や白狼族村急襲でも、AK47の弾丸は回避された。


 数も、質も彼等が圧倒している。

 勝ち誇るのは理解出来る――が、この状況も予想済みだ。


「メイヤ、クリスにサイガを」

「了解しましたわ、リュート様!」


 メイヤはずっと手にしていた戦闘用(コンバット)ショットガン、SAIGA12Kをクリスへ手渡す。

 代わりに、彼女が手にしていたSVD(ドラグノフ狙撃銃)を、大切に預かる。


 奴等はオレたちを追い込んだつもりだろうが、頭からすっぽりと罠にかかっているのは奴等のほうだ!


 オレは前方を、クリスは後方へ向けてSAIGA12Kを向ける。

 白兵士達はAK47を回避したように、腰を落とし魔力で視覚を重点的に強化。前方から3人の白兵士達が駆け出し、距離を縮めようとしてくる。

 たとえ撃たれても『点』での射撃であるAK47なら回避出来る自信があるのだろう。


 オレは犬歯を剥き出しにした笑みを浮かべ、SAIGA12Kの引き金を絞る!


『……ッ!?』


 突撃してきた3人が、しゃがんだり、半身になったりして弾丸を回避しようとするが――発射された20本の矢、ダーツを避けきれず被弾してしまう。


 3人とも腕や足、胴体などにダーツを受ける。ダーツは甲冑を突き破り、敵の魔術師を負傷させる。

 白兵士達から驚愕の気配が匂うように漂ってくる。


 ショットガン――日本語にすると散弾銃。

 名前の通り種類によって数発から、数百発の鉛玉を発射することが出来る銃だ。

 散弾は発射されると多数のバラ弾が広範囲に拡散するため、近距離、特に狭い室内などでその威力を発揮する。

 今回の戦いにおいて最も適した銃器だといえる。


 しかも、今回オレが装填している装弾(ショットシェル)は、矢弾(フレシェット)と呼ばれる特殊弾だ。


 矢弾(フレシェット)は、ベトナム戦争時にアメリカ軍(M50オントス自走無反動砲等)によって使用されたことで有名なスチール矢弾(今使用しているのは魔術液体金属で作った物だ)である。

 今回使用している矢の重さは0.5g程度で、直径は1mm、長さは2.7cm。

 105mm榴弾砲又は戦車砲で発射した場合、一回で約5000本以上の矢を放つことが可能で(M494 APERS-Tは5000本、M546 APERS-Tは8000本)、ショットガンの装弾(ショットシェル)の場合は約20本ほど入る。


 初速が速く貫通力が高いため、白兵士が装備している甲冑程度なら、問題無く貫通する威力を持つ。


 白兵士達は、オレ達を袋のネズミにするため一本道の廊下で待ち伏せしていた。しかし、どうやらネズミは白兵士達だったらしい。


「クリス! すぐにスノーの後を追いかけたいから、こいつらをさっさと倒すぞ!」


 クリスはオレの台詞に頷く。

 彼女も後方を塞いでいた敵へと向け、SAIGA12Kの引き金を絞る。

 白兵士は咄嗟に抵抗陣を作り出し、矢を防ごうとする。しかし矢は抵抗陣すら貫通して、甲冑に突き刺さった。


 前世、地球の防弾ベストやボディーアーマーすら貫通する特殊弾だ。

 咄嗟に作り出した程度の抵抗陣で防ぐのは無理というものだ。


 オレも容赦なく、目の前の白兵士達へ引き金を絞る。

 彼らは抵抗陣で防げないと知ると、廊下の壁を蹴り立体的な動きで矢弾(フレシェット)を回避しようとする。


 だが、セミオートマチックの戦闘用(コンバット)ショットガン、SAIGA12Kはそれを許さない。


 ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! ダン!


 空装弾がテンポ良く排出される。

 肉体強化術で身体を補助し、三次元運動で回避しようとした白兵士だったが、20×6発――120発の矢弾(フレシェット)を回避しきるのは不可能というものだ。


 空になった弾倉を交換し、さらに引き金を絞る。


『ぐぎゃぁあッ!』


 初めて聞く白兵士達の声音。

 狭い廊下、ショットガンを相手にして気配や魔術の流れを消せるというメリットは何の意味もない。

 ずっとオレ達を苦しめてきた白兵士達が、引き金を絞る度に面白いように倒れていく。

 ある者は足を、腕を、胸を打ち抜かれ、逃げようとして背中に矢が突き刺さった者もいた。


 時間にして3分もかからず、前後を挟んでいた白兵士達――30人が全滅。

 オレは空になった弾倉を新しいのに取り替えながら呟く。


「想像以上の効果だったな。まさかこんな簡単にあの素早い白兵士達を倒すことが出来るなんて」

「当然の結果ですわ! リュート様がお作りになったのですから!」


 メイヤは普段あまり戦闘の現場に出ない。

 そのため実戦で使われた銃器の力を目の前にして、やや興奮気味に鼻息荒くオレを持ち上げてくる。


 オレは適当な愛想笑いを浮かべて、彼女の称賛を受け流した。


「それでアイス、スノーの匂いはどっちに残っている」

「右ね。でも、左からアム様や白狼族のみんなの匂いがしてくる」


 挟撃された廊下突き当たりは左右に分かれていた。


 どうやら、スノーは右に、左へ曲がるとアムや他白狼族が居る場所に繋がっているらしい。

 事前の話し合い通り、オレ達はここで一度別れる。


 オレはスノーを助け出すため、彼女の残り香を追う。


 メイヤは囚われている人達の中に怪我人や病人などが居た場合、魔術で治癒するため同行している。

 アイスはアムや白狼族が囚われている場所への道案内のため、クリスはそんな2人の護衛として付く。

 アイスとメイヤは戦闘力はほぼ無いので、戦闘要員は実質クリス1人だ。


「それじゃオレはスノーの後を追う。クリス、メイヤ、アイスはアムや他白狼族達を解放してやってくれ」

『分かりました!』

「お任せください、リュート様! このメイヤ・ドラグーンが必ず彼らを救い出してみせましょう!」

「リュートも気を付けて」


 オレは手を挙げ、右に曲がると全速力で駆け出す。

 一度振り返ると、クリス達も似たように走り出していた。


 オレは移動をしながら、サブアームであるオート・ピストルの『H&K USP(9ミリ・モデル)』の弾倉を特殊弾に変えておく。




▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼ ▼




 オレはクリス、メイヤ、アイスと別れた後も全力で走り続けた。

 途中、妨害してくるまだ残っていた白兵士や衛兵をSAIGA12Kで無力化していく。

 そして、無力化した彼らにスノーの行き先を尋ねること数回――


 オレはようやく彼女に追いつくことが出来た。


 スノーが連れて行かれた場所は、謁見の間だ。


 謁見の間へと続く扉は、巨人でも通れそうなほど大きくて高い。

 表面には金や銀などをふんだんに使われ、職人が凝った細工を施している。金銭的値段より、芸術的価値の方が高そうな扉だ。


 扉をくぐれば、赤絨緞の先、三段ほど高くなった位置に領主の座がある。しかし、現在は誰も座っていない。

 オールと側近の大臣らしき人物が1人、人質であるスノーの首に尖った爪先を押し付ける白兵士が1人立っていた。


「リュートくん! 助けに来てくれたんだね! 嬉しいよ!」


 スノーは人質の自覚が無いのかと疑うほど、明るい声音でオレが助けに来たことを無邪気に喜んでいた。

 オールがそんなスノーの態度に苛立った声をあげる。


「黙ってろ娘! 今すぐ殺されたいのか!?」


 その血走った目を今度はリュートへと向ける。


「まさか処刑場の警備を抜け、城に配置した秘密兵士隊を倒してしまうとはな……ッ。クソ! どいつもこいつも役立たずが!」

「現状を把握しているなら分かるだろ? オマエの負けだ。観念してスノーを解放しろ」

「お、オール様……」


 側近の大臣らしき人物が縋るような目をオールへと向ける。

 ここは素直に負けを認めて、命だけは助けてもらうと訴えているのだ。

 しかし、彼は――


「黙れ! 黙れ黙れ! まだ負けていない! こちらには人質が居るんだ! この女を殺されたくなければまずはその手にしている武器を手放せ!」

「…………」

「早くしろ! この女を道連れにしたっていいんだぞ!」


 オレは手に持っていたサイガに安全装置をかけ、足下に置く。


「そこじゃない! 蹴ってもっとオマエから遠ざけろ!」

「あんまり銃器が痛むマネはしたくないんだけどな」


 オレは言われた通り、サイガを蹴って明後日の方角へと飛ばす。

 これで肉体強化術を使っても、一息で手にするのは不可能になった。


 オレが武器を手放したせいか、オールはやや余裕を取り戻す。


「よし、よし! どうやら人質は有効らしいな。自分より、女の身柄を心配するなんて。さすが畜生を妻にするだけはある」


 オレはその発言に、怒りが燃え上がる。

 スノーを畜生だと? このボンボンが……こいつの綺麗な顔面を絶対に一発は殴ってやる。


 オールは調子に乗り、さらに要求を突き付けてくる。


「次は白狼族の夫婦から渡された『番の指輪』を渡してもらおうか!」

「……あの指輪はそれほど固執するほどの物なのか? 正直、ただの指輪にしか見えないんだが」

「いいから渡せ! まさかどこかに隠したんじゃないだろうな!」

「…………」


 オレは首に下げていた袋から、スノー両親から渡された指輪を取り出す。


「それだ! その指輪だ! 早く、こちらに寄こせ!」


 オールは興奮した声で告げる。

 オレは先程とは違ってすぐに従うことはなかった。


「スノーと交換だ。まず彼女を解放しろ」

「交渉出来る立場か?」

「でなければこの指輪を破壊するぞ? それじゃオマエの立場が無いんじゃないのか?」

「何度も言わせるな! 早く指輪を寄こせ! この女を殺したら人質がいなくなるから、手を出せないと考えているんだろう!? 人質はただ殺すだけが能じゃないんだぞ。死なない程度に痛めつけることだって出来るんだ。まずはこの女の片耳から削ぎ落としてやろうか!?」


 オールの声に合わせて、スノーの首筋に指先を押し付けていた白兵士が、腕を振って刃を側面から取り出す。

 どうやら交渉の余地はなさそうだ。


 さらに現在、リース&シアは門を死守し追撃者を抑えてくれている。

 クリス、メイヤ、アイスはアムや他白狼族の救助で手一杯だろう。都合良く誰かが助けに来てくれる可能性は薄い。


 オレ個人の独力でスノーを……最愛の妻を助け出さないといけないのだ。


「……スノー、今でも僕のことを信じられるか?」

「今とか関係なく、わたしはずっとリュートくんのことを信じてるよ? それがどうかしたの?」


 スノーは『物を手放せば地面に落ちる』、『夜になっても、また太陽は昇る』、そんな当たり前のことをなぜ聞くの? と言った態度で返答してきた。


 オレはスノーのまったく揺るがない信頼に思わず微苦笑してしまう。


 そんなオレ達のやりとりにオールが激昂する。


「おい、こら! 何をするつもりだ! 下手な動きをしてみろ! 耳どころか、この女の細首を切り落とすぞ! この女の命が惜しくないのか!?」

「落ち着け、指輪はちゃんと渡す。ほら、よ」


 チン!


 オール達に向かって、オレは指輪を親指で弾き渡す。

 彼等の視線は突然、空中で大きく弧を描き弾き渡された指輪に意識が集中する。


 神すら目を奪われる刹那の時間――オレは、練習通りに素早く、正確な動作で腰から下げていたサブアームであるオート・ピストルの『H&K USP(9ミリ・モデル)』を発砲!


 この異世界に生まれ変わり、『S&W M10』リボルバーを作りだし、7歳から練習を繰り返してきた早撃ちだ。

 スノーを人質に取っていた白兵士の肩、腕、腹に3発の発砲音が同時に鳴ったと錯覚するほどの速さで撃ち込まれる。

 肉体強化術で身体を補助しているとはいえ、神業的速さだった。


「ぎゃぁぁあ!?」


 白兵士は弾かれた指輪に意識を集中していたため、自分が何をされたのか分かっていない。

 突然の激痛に面頬兜(フルフェイス)から悲鳴を上げる。


「スノー! 今のうちだ!」

「リュートくん!」


 スノーは手足の間を鎖で繋がれているため、走る速さはとても遅い。

 側にいたオールと大臣らしき側近が腕を伸ばすが、


 ダン! ダン!


「ぎゃあ!」

「がぁあ!?」


 2人は肩を押さえて蹲る。

 オレがUSPを発砲したのだ。


「リュートくん! 助けに来てくれるって信じていたよ!」


 邪魔をしようとした者達を排除し、オレは駆け出しスノーを抱き締める。

 約3日振りに彼女の体温を味わった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明後日、7月25日、21時更新予定です!


いつも読んでくださって本当にありがとうございます!

活動報告を書きました。よかったらご確認ください。

また今回で『北へ』編が一見終わりそうな展開ですが、まだ続きますのでお付き合い頂けると幸いです。

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[一言] 安全装置わざわざかけんなバカ
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