表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

175/509

第171話 銃の扱い方

 会議を終えたオレ達は、割り当てられているイグルーへと戻って来た。

 外は暗く、今にも吹雪きそうな分厚い雲に隠れて星の光さえ遮られている。

 時間的にはもう寝ていてもおかしくないが、オレ達は車座になって意見を交換していた。


 まずはオレが意見を切り出す。


「オレとしてはアムの作戦は反対だ。いくらなんでも作戦が乱暴過ぎる」

「確かに若様の言う通り『陽動』という言葉を使っていますが、作戦内容はあまりにお粗末ですね」


 オレの言葉にシアが同意する。

 シアの指摘通り、『陽動』と言っているが、街中で暴れて注意を引きその隙に城へ侵入しろだなんて乱暴もいいところだ。


 メイヤが口を開く。


「では、わたくし達だけで城を攻めますか? リュート様のお作りになった宝石にも勝る輝く魔術道具の数々を用いれば、あんな田舎大陸の城ひとつ落とすのは容易いですわ」


 確かに無理をすれば落とすのは可能だ。

 飛行船は爆破されたが、元々魔石の魔力消費を抑えるため武器や弾薬、他嵩張る物は全てリースの『無限収納』に入れてある。

 迫撃砲も完成しているから、遠距離からあるだけの弾を撃ち込んで、PKMやオートマチックグレネードで武装し、衛兵達をなぎ倒しながら城へと攻められる。

 火力だけなら、城落としは可能だ。


 しかし、ただの名誉貴族が他国の上流貴族の城を攻め落としてもいいのか?

 外交的にかなり不味い事態になるだろう。

 そして、この方法はあまりに危険度が高すぎる。

 無双ゲームとは違うのだ。相手だってただ攻撃を喰らってくれる訳ではない。混乱が収まればすぐにでも反撃を敢行する。

 わざわざ皆を危険な目に合わせたくはない。


 それにオレ自身、あまり目立ちたくない。

 彼女達には隠しているが、オレは妖人大陸で最大の領地を持つ大国メルティアに滅ぼされた王族の生き残りだ。

 下手に目立って、生き残りとばれたらやっかいだ。場合によっては一生、大国メルティアに追いかけ回される。

 そんなのはごめんだ。


「では、協力依頼をお断りしますか?」

「うぐ……」


 リースが尋ねてくる。

 彼女の問いに喉を詰まらせてしまう。


『スノーお姉ちゃんの一族が困っているのです。見捨てることなんて出来ません!』


 クリスがミニ黒板を主張するように差し出してくる。

 もちろん、オレとしてもクリスと同意見だ。

 初めからスノーの一族やご両親を『見捨てる』という選択肢は無い。


「でも、リュートくんの指摘はもっともだよ。明日明後日にすぐ行動しないといけない作戦じゃないし、少し腰を据えて皆と話し合った方が良いと思うな。ことを急いで失敗したら目も当てられないしね」


 な、なんだと……ッ!? スノーが難しい内容を話しているだと! ――じゃなくて、確かに彼女の言う通り、すぐに行動する訳ではない。


 こちらは好きなタイミングで攻撃をしかけることが出来る。

 それがこちら側の数少ない利点のひとつだ。


 オレは話し合いの意見を纏める。


「それじゃ基本的には白狼族に協力するということで。ただし今日アムが提示したような乱暴な作戦には反対する。ことを急がずじっくり話し合って作戦を立てるべきだ」


 理想を言えば、クリスの母親――セラス・ゲート・ブラッド夫人を助け出した時のように城へ通じる隠し通路があればいいのだが……。

 深夜、その通路を通って城へ侵入し、トルオを襲撃出来るのが理想だな。


 今後の方針を話し終え、そろそろ眠りに就こうとすると――


『オオオォーーーンッ!』


『!?』


 狼の遠吠えに似た雄叫び。

 まるで生物の危機感を直接刺激するような声だった。

 オレ達は反射的に身構える。


 一番始めに状況を察したのはスノーだった。


「なんだろう? なんだか外の様子が騒がしいよ。誰かが争ってる?」

「村の周囲全体で争っているようですね」


 スノーはこの中で一番聴力に優れている。

 次に気配を察知することに長けているシアが、状況を説明してくれた。

 皆の視線がオレへと集まる。


「兎に角、外へ出て状況確認しよう! リースはいつでも皆の武器を出せるよう心構えしておいてくれ」

「分かりました!」


 オレの指示に皆が同意するのを確認して、イグルーを出る。

 時間は夜、空を厚い雲がおおい星々を隠す。

 周囲を照らす光源も無いため、自身の手のひらすら認識し辛いほど暗かった。


 遠く、ぽつ、ぽつと光が灯り、消える。

 魔術の力を感じる。

 恐らくあれは攻撃魔術の光だ。

 やはり白狼族達は現在何かと戦っているらしい。

 しかし、いったい何と戦っているんだ?


 兎に角、戦闘中なら念のため武装を整えておいた方がいいだろう。

 オレはリースに声をかけて、皆に武器を持たせる。


 オレ、スノーがAK47。

 クリスはSVD(ドラグノフ狙撃銃)。

 リースがPKM。

 シアはやっぱりコッファーで、一応メイヤにはオレのサブアームであるオート・ピストルの『H&K USP(9ミリ・モデル)』を手渡す。

 そして皆、ピストルベルトも装備し、予備弾倉もしっかりと準備する。


「一応護身用に渡すが……メイヤは銃器の製造には慣れてるだろうけど、扱いには不慣れだ。危ないから滅多やたらにつかうなよ?」


 メイヤは多才だが、運動神経はあまり良くない。

 発砲にも慣れていないため、仲間に銃弾を当ててしまうフレンドリー・ファイヤーが怖いが、護身として持たせない訳にもいかない。


 メイヤはオレからUSPを受け取り、がっちりと両手で握り締める。その頬は興奮のためか赤く紅潮していた。


「お任せください、リュート様! 不肖一番弟子メイヤ・ドラグーン! 見事リュート様のお背中を守り切ってみせますわ!」


 彼女は安全装置がかかっているとはいえ、引鉄(トリガー)に指をかけ、さらに銃口はオレへと向け続けている。

 オレはすぐにメイヤの手を取り、引鉄(トリガー)から彼女の指を外して、銃口を下へと向けさせた。


「いいか、メイヤ……まず①銃は全て弾薬(カートリッジ)が装填されていると思って扱え。②壊したくない物や人に銃口を向けない。③狙いを付けるまで引鉄に指をかけない。最後、④狙う目標の周囲に何があるか意識する。間違っても仲間を撃つようなマネはするなよ? これが(ハンドガン)を扱うための大原則だ。護身のため(ハンドガン)を渡すが、このルールに従って安全に使用してくれ。頼むぞ」

「わ、分かりましたわ。気を付けます」


 メイヤはさすがに空気を読んだのか、神妙な表情で頷いた。


 銃の取り扱い(ガン・ハンドリング)で妥協出来ない4大原則がある。

 このルールは前世の地球、警察や軍隊の指導教官のみならず、観光客や初心者向けのレクチャーをおこなっているシューティングレンジなどでも広く取り入れられているものだ。

 メイヤにも話したが――


 ①銃は全て弾薬(カートリッジ)が装填されていると思って扱え。

『弾薬が入っていないと思って銃を扱っていたら、突如発砲して大怪我に繋がった』という話を聞いたことがあるだろう。ならば最初から『弾薬が入っていない状態など存在しない』と考えれば良い。そうすれば事故を未然に防ぐことができる。


 ②壊したくない物や人に銃口を向けない。

 人には他者だけではなく、自分自身も含む。銃口が向いていなければ、思わぬトラブルがあったとしても弾が当たることはない。


 ③狙いを付けるまで引鉄に指をかけない。

 引き金に指をかけていると、驚いた拍子に指を動かして引鉄を引いてしまうことがある。人差し指は用心金(トリガー・ガード)等に触れさせ、容易に引き金を引かないような状態に保つのが良い。


 ④狙う目標の周囲に何があるか意識する。

 銃を撃つことによって何が起こるか、周りの物や人に当たってしまわないか、等々を意識し、注意を払わなければならない。


 以上が銃の取り扱い(ガン・ハンドリング)で妥協出来ない4大原則だ。


 メイヤにはずっと銃器製作を手伝ってもらっていたため、本格的な射撃訓練をしてこなかった。

 彼女やオレ達自身の安全のためにも、今後は時間を見繕って射撃訓練をさせた方がいいだろうな。


「ミス・スノー! 皆! 無事かい!」


 オレがそんなことを考えていると、領主の息子のアムが駆け寄ってくる。

 彼の後ろには、実弟のオール、アイス、スノー両親、白狼族の一部子供達がいる。


 アムはすでにレイピアを抜き、後ろにいるアイス達を守るようにこちらへ向かって来た。

 スノー達が周囲を警戒してくれている間に、オレ達は情報を交換する。


「いったい何があったんだ!? あちこちで戦闘が起こってるみたいだけど」

「……どうやら父上の秘密兵士隊が、村を囲って奇襲をかけてきたらしい」

「!? それってつまり、白狼族の村まで後を付けられたってことか!?」

「ありえない。アム様達をご案内する時、私達は周囲を注意して進んだ。いくらあの秘密兵士隊でも、大陸内地で私達を出し抜くなんて不可能」


 オレの言葉をアイスがすかさず否定する。

 白狼族は北大陸内地の専門家だ。彼女達がそういうなら後を付けられた、という訳ではないのだろう。

 では一体、どうやって白狼族の村を特定したんだ?


 飛行船襲撃の時も思ったが、秘密兵士隊は不気味だ。

 不可解な点が多すぎるぞ。


「兎に角、今は避難が優先だ。子供達を安全な場所へ移動させたいし。こういう場合の緊急避難地点があるから、そこへ移動しよう。案内するから付いて来てくれ」

「それに今後の作戦を考えたらアム様達を敵の手に渡すわけにはいきませんものね。なんとしても逃げ延びないと」


 スノーの父クーラと、母アリルが動き出す。


 確かにまずは皆の安全を確保するのが先決だ。

 それに作戦上、アム&オールの身柄安全が最優先なのも確かだ。


 また子供達はこれで全員ではない。

 女性、老人含めて細かく分散して、白狼族の緊急避難地点へと移動する。


 この群れもそのひとつだ。

 オレ達はクーラの先導で暗闇を移動する。

 歩き出す前に、アイスから緊急連絡用の特殊なお香を渡される。もしはぐれた場合、このお香を焚けば居場所を特定することが出来るらしい。

 何でも白狼族の者なら、匂いが風に乗りかなりの長距離でも嗅ぐことが出来る品物だとか。オレ達は有り難く受け取った。


 そして向かう先は奇しくも、オレ自身の過去を聞いた場所だった。




ここまで読んでくださってありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご意見なんでも大歓迎です!

明後日、7月11日、21時更新予定です!


感想ありがとうございます!

最近、家の近くで駄菓子屋を発見しました!

う○い棒が充実していて、『なっとう味』『牛タン塩味』『サラミ味』など初めて現物を見るのが多々ありました。大人なのに、かなり駄菓子でテンションがあがりました。思わず金額を気にせず買いまくりました。それでも500円ちょっとしかかからなかったけど

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ