第118話 秘密の隠れ家
獣人大陸、ココリ街の冒険者斡旋組合は真ん中を十字に切った南側に存在する。
中規模都市なので、竜人大陸の冒険者斡旋組合よりは小さい建物だった。
石造2階建て、裏には訓練所も兼ねた広場があるそうだ。
ここの冒険者斡旋組合の主なクエストはやはり運搬の護衛がメインらしい。
獣人大陸の奥地に荷物を運んだり、逆に奥地から荷物が運ばれてくる。
冒険者達は自分のレベルにあった運搬クエストや周辺の魔物退治などをこなしているようだ。
そんな冒険者斡旋組合関係の商家や、住人達が住む家屋をオレ達が昨夜破壊したのだ。
そのため事情聴取したいと、昨日破壊に関わった関係者が集められる。
全員、PEACEMAKERのメンバーだけどね!
メイヤは当時、純潔乙女騎士団の本部で待機していたため、今回の事情聴取には参加してない。
彼女が居たら話がややこしくなるのは確実だから幸いとも言える。
現在はオレの指示の元、飛行船内にある工房で新型兵器である『対戦車地雷』の開発準備に勤しんでいるだろう。
オレも用件を終わらせて、さっさと参加しないと。
「殺してやる! 魔術師殺しの甲冑野郎は絶対に殺してやる!」
「な、なんだ……っ」
冒険者斡旋組合の内部に入ろうとすると、向かいにある宿屋から1人の男が姿を現す。
昼間から飲んでいるのか顔は赤く、目はドブ底のようにどろりと濁っていた。
酔っぱらい男の登場に、シアが旅行鞄を手に素早く前へ出る。
オレ達の楯になる立ち位置だ。
本当にシアは護衛者として優秀だな。
しかし結局、酔っぱらいは同情の表情を浮かべている連れの男達に肩を掴まれ、言葉をかけられながら宿屋へと連れ戻される。
様子を窺っていた野次馬達にも『お騒がせしてすみません』と丁寧に頭を下げた。
お陰で騒ぎにはならず、野次馬達も再び歩き始める。
先程の男は、甲冑野郎に大切な誰かを殺されてしまったのだろうか。
これ以上さらなる被害を出さないためにも、早急に問題を解決しないとな。
そしてオレ達は改めて冒険者斡旋組合へと足を向ける。
冒険者斡旋組合には何度も出入りしているため、他大陸での街でも物怖じせず建物内に入る。
内部も竜人大陸の冒険者斡旋組合とほぼ変わらない。
規模をそのまま半分ほどに縮小した感じだ。
オレ達は番号札を受け取り呼ばれるまで待つ。
番号札の番号を呼ばれたカウンターへ向かうと、そこには――
「いらっしゃいませ。今日はどういった用件でしょうか?」
『!?』
竜人大陸でいつも担当してくれている受付嬢が居た!
その場に居るオレ達全員が驚きの表情を作る。
その反応に受付嬢も驚き目を白黒させた。
「あ、あのどうかなさいましたか?」
「どうもこうも! どうして貴女がここに居るんですか!? 竜人大陸の冒険者斡旋組合に居た筈じゃ!?」
「竜人大陸ですか? ああ、なるほど……それは私の従姉ですよ」
「い、従姉?」
またこのパターンかよ!?
受付嬢に話を聞くと、彼女はいつも受け付け担当してくれている女性の従姉らしい。
彼女の妹も合わせてこれで3人目だ。
受付嬢は微笑みを浮かべながら説明してくれる。
「なるほど、従姉妹の姉の方だけではなく妹の方にもお会いしたのですか。それなら驚くのも無理はありませんね。私達、子供の頃から姉妹でもないのに似ててよく間違えられていたんですよ」
「そりゃ間違えられますよ、それだけ似ていたら……」
彼女達の見た目は、鏡に映ったように瓜二つで本当によく似ている。
この異世界の遺伝子はどうなっているんだ……?
疑問を抱きつつも、今回訪れた用件を告げる。
「自分達はPEACEMAKERという軍団で、昨夜の件について冒険者斡旋組合へ報告に来たのですが……」
「なるほど、でしたら個室にご案内しますので、詳しい事情をそちらでお聞きしますね。私が冒険者斡旋組合を代表して話を伺いますので」
席を立ち、オレ達を個室へと案内にする。
笑顔を浮かべたまま応対をするのが、無駄に怖い。
そしてオレ達は奥にある個室の扉を潜った。
これから事情聴取を受けるかと思うと緊張する。
こういう詰問系って耐性無いんだよな。
――扉の上に『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』とか書いてないよな?
こうして冒険者斡旋組合への事情聴取が始まる。
個室へと案内される。
オレ達の人数が多いため、机を挟んで向かい合うように置かれたソファーをPEACEMAKERが占領する形になった。
受付嬢はお茶を出した後、真面目な仕事モードに表情を変化させ、下座へと腰掛けオレ達に事情を聞いてくる。
狼剣、百合薔薇との会談中にあの『魔術師殺し』とおぼしき紅甲冑が姿を現した。それを打倒、または捕らえようとした結果、建物などを破壊してしまったと説明する。
オレはPEACEMAKERの代表者として謝罪し、どんなペナルティーを受ける覚悟もあると伝えた。
これに対して冒険者斡旋組合は……
「……なるほど一連の事情は理解しました。本来であれば器物破損ということで罪に問われますが、現在街を騒がしている『魔術師殺し』を相手にした結果ならしかたないですね。今回の賠償金も冒険者斡旋組合から補填しますね」
この対応にオレは安堵から息をつく。
反対に受付嬢は疲れを吐き出すように溜息をついた。
「今後はなるべく周囲に気を配って戦ってくださいね。建物などの損害程度で済んだからよかったものの、怪我人や死者が出てからでは遅いんですから」
「本当にすみませんでした」
オレは改めて謝罪する。
これで冒険者斡旋組合問題は解決だ。
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場面変わって、ココリ街郊外森林。
そこには純潔乙女騎士団本部が危機になった場合、使用する秘密基地的な場所がある。
この場所は代々、団長に就いた者にしか知らされない。
本当に危機へ陥った場合、使用するためだ。
一見、ただの洞窟のようだが中は人の手が入り、保存食、寝具多数、医薬品、装備品、金品、衣類、蝋燭、ランプ等――数ヶ月は暮らせるだけの品々が準備されている。
奥行きもあり広いスペースが確保されていた。
そのスペースに向き合う少女達の姿がある。
1人は純潔乙女騎士団団長、獣人種族、イタチ族のルッカ。
対面には紅甲冑と、その中に入っていた――ゴテゴテとしたフリル、レースをふんだんに使った衣服を身に纏った少女がいた。
「――遅くなったわ」
「まったくよ。それで奴らはまだ街に居るんでしょうね?」
「ええ、PEACEMAKERは引き続き、ココリ街に残るそうよ」
「よかったわ。他軍団のように臆病風に吹かれて逃げられたらどうしようかと思っていたから」
紅甲冑の中に入っていた少女は、残忍な笑みを浮かべる。
その姿は天井から吊された魔術ランプの光りによって、歪な影を作った。
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明後日、3月27日、21時更新予定です!