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098:篩

まず現状を確認しようと、ヴァイスと一緒にサリアル教授に今日あった事を報告した。

もしかすると明日は焼却の確認をするかもしれないので、多分休む事を話すと「今出来る事を全力で頑張りなさい」と励まされてしまった。帰り際に戦闘訓練の事聞きましたよと言われたけど、「あ・・・いや、頑張ります」と言い速やかに撤収した。


その流れで品種改良グループの教室へ向かったら・・・、昨日の見学者よりもっと多くの人数が教室にギュウギュウになっていた。ザクス達基礎薬科グループは前日のうちに見切りをつけて隣の空き教室へ引越しを済ませていたらしい。

「おかえり、二人とも大丈夫だった?」

「ああ、危険はないと言ってたけど、リュージが行くなら何かあると思ったらあったよ」

「え?自分のせい?」

「そうじゃないけど、事件を呼ぶなぁってね」

「そこは全力で否定したい」


レンも基礎薬科グループの教室に避難していたようで、密かにソラを呼び出して状況を確認していた。

「ソラはローラがどこのグループに入るか聞いてる?」

「はい、レンさまと一緒の品種改良グループに入りたいと仰っていました」

「そう、それでまだ数日だけど学園内で護衛が必要だと感じた事はあるかな?」

「いいえ、皆様が普通に過ごして頂ければ問題ないと思います」

「そう、やっぱりみんな浮かれているだけなのね」

「一番近くにいる私がこの件について発言出来ることは少ないので」

「ソラはローラの近くにいてくれると嬉しいな」


レンはゆっくり隣の教室へ行き、ローレル教授が説明しているのを中断させて、ローラにグループへ入る意思を確認した。「是非入りたいです」という返事に、周りが俺も私もと手を上げてくる。

「ローラ、あなたが入りたいってう気持ちはわかったわ。でもね、この人数全員は入れないの。もし自衛が出来るとしたら、このメンバーの半分はいらないわよね」

「なっ、俺達はローラさまの安全を守る義務があるんだぞ」

「そこ、一年目の学生ならまず自分を高める事に努めることね」


レンはローラを呼ぶと実践戦闘グループの訓練場所へ連れ出した。

それに釣られてゾロゾロと後をついていく生徒、心配なのでザクスとヴァイスと一緒に後をついていく。

事前に打ち合わせをしていたかのように、訓練場の1面を借りる事ができた。

「そうね、騎士科のそこの君。ローラを守りたいようだけど実力を見せてくれない?」

「先輩だからって威張りすぎじゃないですか?いいですよ、手加減しないですけどいいですか?」

「言い訳になるなら手加減してもいいわよ」


ザクスに続きレンまで戦えるとは思えなかった。

武器を取っている時に変わろうか聞こうとしたらザクスに止められた。

いずれ決断をしないといけなく、今のままだと今年の学生にとってよくない事は誰もがわかっていた。

ティーナも騒ぎを聞きつけてやってくると、ヴァイスとティーナは大声で宣言した。


「今年の一年のやる気は尊重する。しかし農業科のレンにも負けるようだったら、俺が直々に稽古をつけてやるよ」

「ヴァイスの稽古は厳しいわよ。私かヴァイスか選ばせてあげるから安心しなさい」

どちらにせよ地獄を見るのは確定だった。聖騎士グループと実践戦闘グループのグループ長達も集まり、ローラの取り巻きは後に引けなくなっていた。


騎士科の学生は定石通り木剣と盾を取り、レンは片手棍と盾を手に取った。

隊長が審判を勤め、ヴァイスとティーナが補助を買って出た。

「今回は一本勝負、学園の規定通り急所への攻撃を禁ずる以外は全てありの条件だ。それでは開始線に立って・・・、はじめ」二人とも騎士科の礼を取り戦闘が開始した。


盾を持った戦いで重要なのは、まず相手がどんなタイプか考える事だ。

同じタイプの攻撃手段を持ち防御手段を持つならば、今までの経験と力と技が重要になる。

逆に魔法使い相手なら手数で詠唱を妨害する必要があり、防御を上回る攻撃手段を持つならば盾と鎧と使っていなしながら攻撃しなければいけない。


学生は考えた、伯爵家の令嬢で農業科の特待生をしているお嬢様。魔法を使えるという噂は聞いておらず、特待生寮でレンと一緒に暮らしている。1年という年齢差は男女の筋力差と比べたら微々たるものだ。いや騎士科に入る為に鍛錬を重ねた自分に勝てるはずはないだろう。

問題は大きく恥をかかさずに、どう調整してマイッタを言わせるかだった。


「そろそろいいかしら?時間がおしてるんだけど」

レンの一言に一瞬我を忘れ突っ込んでくる学生に、レンが盾を前に出しつつチャージをかけた。

避けるか下がるかすると思った学生は完全に虚を付かれて両者は交錯した。

弾け飛んだのは学生のほうだった、レンは瞬時に大地に根をはやしたようにしっかり踏みしめていた。

あっけに取られている学生まで歩くと、片手棍をコツンと学生の頭に当てた。

「それまで、勝者レン。お前はまだ強くなる可能性はあるが、まずは体作りからだな」


「お・・・おい、特待生って何か特別な訓練を受けているのか」

「きっと、あのレンって人が特別なんだよ」

「騎士科の名誉が・・・」

観客がざわついていたけど、二年目を迎えた学生にはむしろ当たり前の光景だった。


「ゆ、油断しただけだ」と周囲から声があがり、別の学生が手を挙げて数名前に出てきた。

あれだけゾロゾロと歩いていたような気がするけど、半数以上が諦めたのかもしれない。

手伝いでザクスが手を挙げると、ザクスはトリッキーな動きで、レンは筋力を重視した攻撃で順調に処理していった。


若干嫌な動きがあり、グループ長へ「このままやられっぱなしでいいのですか?」と小悪党のような動きを見せてた新入生もいたけど、各グループ長は悠然と教育方針を模索していた。

「問題ない、この後に地獄の訓練が待ってるからな」

「で・・・でも」

「そう言うならお前が挑戦してみたらどうだ?そうだな、魔法科の特待生は編入だし魔法禁止にすれば勝てる目が出てくるんじゃないか」

「あ・・・いや・・・よし、俺がローラさまの護衛の座を獲得してきます」

「おう、任せたぞ。特別に勝てたら俺から推薦をしてやる。負けたらヴァイスとティーナの二人に訓練をつけてもらうぞ」

「え・・・、いや大丈夫です。多分条件をつければいけます」


騎士科の新入生一卑怯なこの男はヘルツを見つけ、こそこそと耳打ちをした。

全ての挑戦者を二人でやっつけた後は、ローラを相手にヴァイスが稽古をつけていた。

思いの他動けるローラを見て、手を挙げなかった新入生は再び意気消沈した。

そして全てが終わったと思った瞬間、ヘルツが前に出て二人の学生の名乗りを上げた。


「今回は一本勝負で、魔法は禁止・武器は自由だ。学園の規定通り急所への攻撃を禁ずる、どちらかがマイッタを言うまで勝負は終わらない、また特別ルールとしてグループ活動時間が終わるまでに勝負が決しない場合は、新入生の勝利とする。それでは開始線に立って・・・、はじめ」


隊長に代わりヘルツが審判を勤めている、そして結構一方的な条件をつけられていた。

目の前にはフルプレートアーマーを着て、これでもかってくらい大きい木製のタワーシールドを構えている。

木剣がかろうじて戦う意思を示していたけど、これは時間切れを狙う作戦だろう。

こちらはヘルツの指示通り、木製の両手鎌を持っている。

余程午前の戦闘訓練が見られなかったのが悔しかったのだろうか。


はじめの合図が出たので礼をする、相手も慌てて騎士の礼をとったようだけど、若干重量にふらついているようにも見えた。新入生とは言え、勝つ為に努力するのは良い事だと思う。ただ、考えが卑怯と言うか、騎士向きの考えではないと思った。開始線から動かないというか動けない新入生は、じっとこちらを観察していた。

デモンストレーションとして鎌を二回くらい素振りした、ブゥゥンという風切り音を聞いた観客は感嘆の声をあげる。


殺気を込めて正面を見据える、瞬間ガタガタ震えだす対戦相手。

ゆっくり歩き鎌の間合いまで近づくと、その震えが増しているようにも見えた。

後一歩で鎌の間合いで立ち止まると、勿論片手剣では攻撃は届かない新入生は更に守りを固めた。

タワーシールドに向けて刃の背の部分を押し当てると、そこは防御に集中していたのか跳ね返してきた。


逃げたさそうにしている新入生に周囲から慰めの声援が飛ぶ。今までの新入生は戦う意志を示した者は全敗したにせよ、きちんと勝負を挑んだのだ。

ここで逃げるような者は騎士科として相応しくない、そして全ての観客は新入生に同情していた。


ほぼ一振りで素振りを終えると、横薙ぎに鎌を振るう。

木製とは言えタワーシールドが柄の部分を止めようが、刃先が確実にフルプレートの鎧を直撃した。

受け止める事を選んだからよろめくのは仕方がない。新入生は鎌の衝撃を受け流せず、更に追加で来た鎖の重さに受身を取ることも出来ず、陸に上がったマグロ状態になっていた。


「審判が止めてくれないようだから、・・・ごめんね」

「ま・・・ま、マイッタ」

慌ててビタンビタンというかガチャンガチャン暴れている新入生がかろうじて搾り出すと、ヘルツの舌打ちが聞こえたような気がした。

「勝者、リュージ」と一応審判の責任感を持っていたようで、何とか収拾がついたようだった。

ローレル教授がこのタイミングでグループへの参加を募ったが、ローラとソラが届けを出すと何時も通りそんなに多くない人数が入る程度で落ち着いた。



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