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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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078:ワイン騒動

ズザザザザァと馬車でドリフトするような勢いで王都に到着すると、真っ先に到着したのは先代アーノルド家当主のセルヴィスの所だった。
「おやっさーん、元気だせよー。貴族をクビになったって何したんだー」
玄関近くで大声を出すヘルツを庭で素振りしている少年達が奇異の目で見ていた。
ほうほうのていで馬車から重い体を動かすと邪魔にならない位置に座り込む、するとセルヴィスがどこの誰だと文句を言いながらやってきた。

「久しぶり、おやっさん」
「何だヘルツか、まだ若いのに休暇を取っていたらしいな。根性が足りないな」
「おやっさんが元気ありあまってるのさ。ところで貴族をクビになったって何したんだよ」
「それは酒場にでも行けば分かるさ、うちは寛大な処置に感謝しなければいけない立場だから何も言えん」
「そっか、それはそうと喉が渇いた」
「その辺のタルから水でも飲んどけ」
「おやっさーん、今年の葡萄悪かったんだな。悪い事を聞いちまったよ」
「ほう、喧嘩を売ってるなら何時でも買うぞ。お、そこにぐったりしてるのはリュージ君か。彼も連れて中に入りなさい」

まだ日も高いうちからワインが出される、激しい乗り物酔いの後のワインは大丈夫なものか心配になった。
ヘルツが「おやっさん家のワインは酔わないから大丈夫だ」と太鼓判を押していた、それ以前に酔っている事は眼中にないらしい。
そしてワインを飲みながら昔話に入っていった。

セルヴィスは男爵家としては大きな役割を担っていなかった。ただ、代々武家として誉れ高い家柄であり、体に恵まれなかった武家が目指すべき技で有名な家柄であった。今も外で訓練していたが、よく貴族子弟を預かり特訓と称して面倒をみている。
貧しい家の子も見込みがあれば一緒に訓練をしているのが常だった。

スチュアートに稽古をつけていた時代にお世話になったのがマイクロやヘルツだった。
男爵家とは言え懐事情が豊かなはずはない。かろうじてワインには事欠かなかったのでスチュアートをたきつけて、よく盗み飲みをしていたのは良い思いでだと語っていた。その後セルヴィスの特訓でぼっこぼこにされていたそうだ。

奥さんから昼食の残りの野菜スープをもらい、少し時間が過ぎるとワインも美味しく飲めるようになった。
「間もなくオープンですね、セルヴィスさん準備は大丈夫ですか?」
「ああ、手間をかけたね。息子達の足をひっぱる訳にもいかないし、あの子達を投げ出す訳にもいかないからね」
「お、リュージ。こっちでも色々やってるんだな」
「ええ、王都は色々と事件が起きやすくて・・・」

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

それは1月後半の週まで遡る。
ある日学食で食事を取っていると商業ギルドのレイクからの呼び出しを受けた。
どうやら至急コロニッドの元まで向かって欲しいとのことだった。
ザクスに用事で早めに帰ると伝えると急いで向かった。

現場にはレイクとコロニッドがいた、そして調理場の検品担当とギルドの輸送担当者もいた。
届けた荷物はアーノルド家産のワインで、一旦商業ギルドへ納められそこから指定日に指定量を届ける方式だった。
出荷時検品と入荷時検品は万全のはずだった、ところが1樽だけ劣化した白ワインが間違って搬入されてしまったので問題になった。ギルド側では現在担当者に確認しているようで、問題はこのワイン1樽の処遇だった。

「リュージ君、急に呼び出して申し訳ないんだけどこれってあれだよね」
コロニッドが言うワインが劣化してこれがあれとはどういう事だろう?「ちょっと見て貰えるかな?」の言葉に確認してみることにした。
ツーンとお酢の香りがする、まだ悪くなったという程でもないけど、よく攪拌した状態でちょっとだけ試飲してみる。

「ええ、これなら美味しいマヨネーズ作れると思います。確かこちらにも一式魔道具が納入されたようですけど大丈夫ですか?」
「その辺はぬかりないよ。エントさんからも何台か納入してもらったし結構報酬も払ったからね。レシピもまだとってあるから今日にでも試作してみるよ」
「それは良かった」
自分のお墨付きで荷受担当も配達担当も胸をなでおろす、そしてこの件はこれ以上騒がないようにと二人に対してレイクより心付けという名の口止め料が出たほどだった。
品質管理の問題でもあるし、出荷時検査を怠った担当には戻って確認をしないといけないと言い、レイクはギルドに戻り自分もお役御免となった。

その週の週末、たまには街歩きをしようという話になった。
冒険者ギルドに行って依頼書を見たり、買い食いをしたりしながらウィンドウショッピングをしていると、昼食時に話し声が聞こえてきた。

「おい聞いたか、あのワインで有名なお貴族さまが腐ったワインを送りつけたらしいぞ」
「おいおいおい、それってあの家だろう。俺達の姫様・・・おっと、とにかくその家がなんで?」
「わからねぇか、今回至るところで処分が厳しいって声は聞こえてきてる。そして10年はこっちにはこれねぇ。一種の意趣返しだと思うぞ。とにかくやり方が汚ねぇ」
「何でこの国の一番大事な物を奪ったあの家がやるのさ。納得いかねぇよな」

一箇所のテーブルから瞬く間に噂が広がっていく、そしてある男が「俺はもうワインは飲まない、男ならエールだろう」と宣言する。
こちらのテーブルでも「何の事だ」と聞かれたのでこっそり皆に真相を伝えた。
あの後レイクがやってきて、どうしてあんな事件が起きたのか報告があったのだ。

ギルドには先入先出で管理していたワイン倉庫があった。
ところが研修中の新人に指導しながら管理していた樽は、ある時他の入荷品と混在してしまった事があった。
通常はそれでもすぐに出荷されるのが普通だったが、今回に限って指導した人物の上司へと何かしらの介入が発生した。
出荷時に確認した研修中の担当は当然上司へ報告をするつもりだった、その時直属の上司がいなかったようでオロオロしていると、前回介入した人物が声を掛けてきたそうだ。
「ミスは誰でもある、私が処理しておくから今後は気をつけなさい」と暖かい言葉を貰ったと言われたと証言をしている。

そして何故か積み込まれたワインは王宮へ届く、レイクは戻り次第可能な限り口止めをしてギルド内の調査委員会への報告を行った。

「なあ、リュージ。ここで真実を言うのはどうなんだ?」
ヴァイスが聞いてきたけど、噂には尾ひれが付くものだし悪い噂ほどよく広がるものだ。
「ここで訂正は難しいと思うよ、ただ王国が発表してないのに異常な広がり方だよね」
「レイシアさまは人気だったもんね、その分誰かに悪役を求めたい気持ちはわからなくはないわ」
レンの言葉にティーナが頷いていた。

噂を重く見たギルドは「そんな事実はない」と正式に発表し、王国は沈黙を守った。
あまりアーノルド家の肩をもってはいけないし、罰則は年始めに発布されたからだ。
この二つの対応により世論も二つに割れた、すると静かなワインの不買運動に繋がりだす。
追い討ちの罪を禁じる王国だが、住民から始まる不買運動まで禁じる術はない。
次第にアーノルド家別邸に対して石を投げ込むなどの迷惑行為をするものまで現れていった。

貴族への非礼行為や敵対行為に対して、当主又は王国は毅然とした処分をすることが出来る。
ところが家自体は貴族だが王国にある別邸はあくまで先代としての貴族であり役目は既に終えている。
扱いとしては平民の大きな家として王国に住まわせて貰っているという恩赦的なものだった。
商業ギルドは介入した人物を最後まで見つける事が出来ず、レイクが出荷担当者を連れてセルヴィスの元へ謝罪に行った。
するとセルヴィスは「うちのワインは美味いものだ、このワインを飲んで良く覚えておいてくれよ。ワインを嫌いになるなよ、今後とも頑張ってくれ」とにっかり笑ったそうだ。

表面的にはこの騒動は鎮静化したようだった。
ところがワインの消費量は大幅に下がり、再び生まれた不買運動によってアーノルド家の王都へのワイン出荷が止まるようになった。またギルドは代替品としてのワインを他領から入荷したようだが、味と価格の兼ね合いで思うほど売れる事はなかった。

新しい計画を進めるべく、週に一度はガレリアの所に通っていた。
ある時ガレリアからセルヴィスの相談に乗って欲しいとお願いをされる。
学園の教師を含めワインと言ったらアーノルド家と定評はあったし、このままの状況では国民に溜まったやり場のない圧力がおかしな方向に向かってしまうだろうとガレリアは危惧していた。
今進めている計画も秘密裏に行っている事もあり評判は良好とは言えない。
そもそも何故底辺の者ばかりに支援を行うんだという声も上がっているようだ。

王家とガレリアが組んで仕事をする時は国が潤う時が多い。
少しでもお零れを貰おうとする下位貴族は多く、国が潤えば自然と潤う上位貴族は悠然としている。
多くの貴族が色々情報を集めようと様々な所に人を送ってきた。
ガレリアが前面に立って面談者を決めているので、安心して相談に乗ることも出来る。
寮でよく話題になっていたが昨年二人の門出を祝福した者としてセルヴィスの力になってもいいかなと思う。

まずはセルヴィスが何を望むかを聞かなければいけない。
その上で自分の出来る事を超えるようなら素直に周りを頼りたいと思う。
本当はギルド内捜査とかこの扇動しているとしか思えない動きを調べたいけど自分には難しいだろう。
翌日、直接別邸に行くとガレリアに話すと、色々考えながら寮に戻るのだった。


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