挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
79/161

079:ワイン騒動2

翌日アーノルド家別邸へガレリアと行くと、庭では軽装で木剣を振っている10名位の男の子がいた。
先代当主のセルヴィスは冬の収穫祭で会っていて、稽古を見ていた彼はすぐにこちらに気がついた。

「やあ、呼び出してしまって申し訳ない。リュージ君だったかな?一度会ったけど覚えているかい?」
「はい、その節は美味しいワインとジュースをありがとうございました。マイクロさんもお世話になったようで代わってお礼を申し上げます」
「あははは、なかなか面白いな。あの学園に通っているなら稽古を積んでるんだろう?手合わせしていくか?」
「あ・・・、いえ・・・」
「セルヴィスさん、本題を忘れてますよ。リュージ君を連れてきたんだから彼の得意分野の話をしましょう」
「ああ、申し訳ない。では、中で話すことにしよう」

室内に案内されるとガレリアは酒抜きでお願いしますと最初に断りを入れる。
ここに来ると大抵ワインが出されるからだ、少し前の騒動を考えるとこの屋敷の倉庫にもワインが残っているのかもしれない。
セルヴィスと奥さん、ガレリアと自分が席に着くと話を聞くことにした。

内容はこうだった、このアーノルド家では武芸に秀でていて貴族子弟やまだ戦いに慣れていない者などを面倒見ていた。
今年初めの発布により貴族としては引退したが、特に王国での行動にお咎めはなく代替わりした事で罪の清算も出来ている。
数名の貴族子弟は修行を終了したが、それを上回る稽古の依頼があり、見込みがありそうな者だけ面倒を見る事になった。

そしてここに来てあの騒動が起きたのだ、家を頼るのは簡単だが若い二人が新しく歩き始めた矢先の試練である。
足を引っ張るのではなく、少しでも支援したいと考えるのは親心だった。
しかもアーノルド家現当主は王都には来ることが出来ない為、直接の行動で出来る事は少ない。
子供達を預かる金銭面と唯一の武器でもあるワインのどちらかでも解決出来ないだろうかという依頼だった。

現在は商業ギルドで仕入れるワインはストップしている。
この別邸には倉庫があり、相当量のワインが収納されているそうだ。

「ガレリアさん、どうしましょうか?」
「うーん、ワインと言えばこの家だからね。実際入荷が止まって困っている人達は多いよ。問題は大衆酒場で飲むことが出来ないだけで」
「王宮では使う事はできないんですか?」
「難しいだろうね、世論は思いの他無視できないんだ。ある特定の家だけを優遇する訳にもいかないしね」
「では、公然と飲める場所を作りますか?ギルドを通さなければいいんですよね」
「斬新な考えだね、何か考えでもあるのかな?」

今進めている事業をまずセルヴィス夫妻に説明する、そしてこの事業に協賛して貰えるようお願いをした。
何も金銭だけが重要ではない、例えば敷地内で問題があった時の護衛や密偵避けを担当して貰えないかを相談する。
別途、ガレリアに届いている資金でアンテナショップを作る事を考えていた。
そのアンテナショップの計画を少し変え、ワインバーも追加したらどうかと相談してみる。

「ワインバー・・・、それはどういうものだ?」
「2パターン考えています。専用カップを作って飲み放題でそこそこの金額を取る方式と、1杯いくらのお求め易い価格帯でその場で会計をしていく感じです。勿論美味しいツマミもつけてね」
「ほう、それなら樽は置きっぱなしでもいいな」
「はい、なるべく人件費をかけないやり方がいいかと」
「うむ、うちの倉庫には年代によって深みが出るものなども多いぞ。どのワインでも寝かせれば良いというものでもないがな」
「なるほど、場所と建物は今進めている所でいいか。ワインに合うツマミ作りの他、専用カップの工房への依頼や営業許可などか」
「どうしましょうか?セルヴィスさんがやってみたいと思うならこんな感じで協力する事が出来ます」
「是非頼みたい、子供達の面倒を心置きなくみれる程度でいいのだ」
「契約書は後で持ってきますが、母体はガレリア資金でオーナー兼店長はセルヴィスさん、監修は私がします。店の規模はこのくらいなので、店員は最低でも料理が出来る人と給仕が出来る人が欲しいです」
「わかった、大至急手配を取ろう」
「では、細々したものはこちらで進めますね。打ち合わせは随時ということで」

アーノルド家別邸を出るとガレリア邸に戻り打ち合わせをする。
アンテナショップを狙っていた事もあり、結構な街中で大きな土地を確保していた。
それがワインバーに変わる事になる、土地と箱物はガレリアが仕様変更を行い自分が設備面を担当することになった。
商業ギルドのレイクに相談するべく彼の元へ行くことにした。

商業ギルドの応接に通されると、程なくしてレイクがやってきた。
「やあ、リュージ君。この間は迷惑をかけたね」
「いえいえ、あの後コロニッドさんからは何も連絡がなかったからマヨネーズも無事出来たと思います」
「うちの方はもう大騒ぎだよ。うちは結構貴族による介入が入りやすいんだけど、まさか品質についてちょっかいがあるなんてね。こんな事は初めてなんだよ」
「本当ですか?今回の事件も真相は解明してないんでしょ」
「リュージくーん、今日は突っかかるね。恥ずかしながら解明は出来ず、上の方から調査打ち切りの指示まで出てしまってね。代わり出来ることなら何でもするよ」
「その言葉を待っていました」

冒険者ギルドへの依頼の方式として【通常依頼】【緊急依頼】【指名依頼】などがあった。
これとは別に【秘匿依頼】と言うものがある。これは主にギルド長が担当しており、迷宮入りしそうな事件の解決に対する依頼の方式で、直接の依頼主の名前を隠して発注出来るらしい。
これならレイクの名前を隠して依頼出来るはずだ、直接の依頼は自分が担当することにした。
聞き込みでの真犯人を見つける目的ではなく、噂の出所を探り背後にいる貴族や組織の存在を知る目的で依頼書を作成してもらった。

「ここからは商売の話です」
「ああ、良かった、うちも結構打撃を受けてたんだよ。ワインが伸びないと段々酒全体の消費量が下がってね。飲食店の発注量も段々と下がってきているんだ。この短期間にだよ、本当に頭が痛いよ」
「ワインに関してはどうにもならないでしょうからそのままで対応してください、そして焦れてきた所でうちがお店を出しますので」
「リュージ君もなかなかの商売人だね、それでうちにどんなメリットがあるんだい?」
「はい、まずは設備などの相談に乗って欲しいんです。後は各種職人の紹介とお店の許可の問題ですね」
「ワイン専門店かい?」
「いえ、そこはうちにしか出せない物も考えるので」
「わかった、ではそれは私が担当しよう。セルヴィスさんにもお世話になったのに後ろ足で砂をかける真似をしてしまったからね」
「それは心強いです、では早速」

それから打ち合わせをして商品開発部の人達にも加わってもらった。
エントにも備品を担当してもらい、肉屋と契約したガラス工房ともよく打ち合わせをした。
ガレリアとエントに指導を受け、スーパーやコンビニなどにあるアイスを入れるストッカーを作ると、そこに雪を詰めかなり冷たく保管出来る大きな容器が完成した。試作品なので多めに作って貰ったけど問題なく予算は通った。
パンを焼く窯は何箇所かで見せて貰ったけど、こういうバーならピザでも作りたいなと希望を通す。
こうして時間がかかる手配を全て終わらせてラース村へ旅立っていたのだった。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「ほぉぉ、そんな事があったのか」
「ええ、自分はその後に料理や植え替えとかしてたんで事情は確認出来てないですが」
「ああ、あれからの事を話す必要があるな」

セルヴィスの話ではあれからの出荷停止により、徐々に何故ワインが飲めないのか不満が出てきていると商業ギルドから話があった。レイクからは【秘匿依頼】の報告書が出ているので自分が戻ったら報告をして貰える事になっているらしい。
建物は順調に出来て設備面もまもなく整うそうだ。
料理人はギルドの商品開発部より1名とセルヴィスの知り合いで1名、魔道具が使える調理場助手の女性が1名確保出来て給仕もガレリアの紹介で何人か決まったようだ。

「では、後は従業員教育とプレオープンをしてどなたか招きましょうか」
「ああ、うちのワインも寝かしたままじゃ可愛そうだしな」
「まだ戻ったばかりなので少し時間を頂きたいですが」
「本当に申し訳ないな、勿論リュージ君の都合に合わせるさ」
「なあ、リュージ。俺にもおやっさんに出来ることないか?」
「ヘルツさんは騎士ですよね、出来れば今度ワインが飲める所が出来ると宣伝してもらえれば」
「それだけでいいのか?」
「はい、本当は真犯人を捕まえたいのですが、公式に被害が出ていないので・・・」
「本当に足を引っ張るやつは碌な事しないよな」
「ええ、でもこれで勢いが出ればすぐにでもワインが飲めるようになりますね」
「ああ、そうだな」
「リュージ君、例の護衛以外に出来る事はないかい?」
「はい、いや・・・そういえば。ワインって貰えますか?」
「そのワインじゃないものか?隠しているいいものもあるぞ」
「いや、そうではなくて。ちょっと大勢で飲む機会があるので購入出来れば」
「そんなことか、購入なんて言わず1樽でも2樽でも4樽でも8樽でも」
「そんなには必要ないですよ」
苦笑いをして大量の頂き物をを固辞すると赤と白1樽ずつ頂く事にした、最近お金を使ってないなと少し不安になる。

倉庫に寄って最高のワイン2樽を貰うと収納に仕舞う、ヘルツとは別れ10日間の強行軍を癒すべく寮へ戻った。
一晩ぐっすり眠ったらまずはレイクに会いに行こうと思う、その後もやる事が多いけど今は力を溜める必要があるなと思った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ