表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/161

071:ラース暮らしです

あの事件が終わり、年末最終日の朝にはマイクロは消えていた。

長い旅になると言っていたけれど、こちらから会いに行けばすぐに逢えるはずだ。

思えばラース村にマイクロがいたのも騎士達の慰労ではなく、マザーを影ながら見守る役目をしていたのかもしれない。

レンだけは別邸に戻り、他のみんなは年末年始を温室と寮で過ごしていた。


王国の仕事始めで正式にローランド王子の婚約の発表が行われ、某子爵の処分の発表が行われた。

最初、既に解雇している私兵だと関係を否定したが、関係を切った後の事件の当日に金銭の授受を見たものがいたようだ。

その家人があっさり白状した為、罪状確定により当主が変わることになった。


年末に売却した金貨100枚は正直にみんなで分けようと話すことにした。

レンがいらないと言うとヴァイスもティーナも「それはリュージの手柄だから貰っておけば?」と言われてしまう。

ザクスは「うーん、僕はもらってもいいかな」と言うと20枚受け取った。

どうやら臨時収入が入ると実家に仕送りをしているようだった。


ヴァイスとティーナには一緒にいる時、「守って貰う事が多いから武器とか防具は良いものを持って欲しい」とお願いすると、現物ということなら受け取ると言った。

みんなで一緒に鍛冶屋のガンツのところに行くと、「おう、あんちゃん。例のコンロ儲かったぜ」と言ってくる。

今日はお客を連れてきたと話すと、ヴァイスは盾と剣を購入し、ティーナは片手でも両手でも扱える剣を選んだ。

他にもあれこれ必要なものを買ってもらい、合計金貨10枚分の支払いで終了した。


また別の日にレンとティーナにお金を渡し、普段お世話になっている侍女二人と「何か着る物でも買ってきなよ」とお金を預ける。

これも金貨10枚相当の着る物と、執事と寮母向けのお土産を買ってもらい皆からお礼を言われてしまった。

結局金貨60枚も自分の取り分となってしまい、皆にはこれ以上は受け取れないと拒まれてしまった。

ザクスに緊急時のポーション類をお願いしたら、受け取ったお金で十分足りるよとこちらも拒否されてしまった。

生命力が回復するポーションと魔力が回復するポーションを5本ずつ、気付薬に麻痺毒の解毒剤も数本もらった。


学園は1月第二週の月曜から始まる。

年末年始の週は暦の上ではカウントされない為、実に一ヶ月近い休みになっていた。

王国からの発表の通り、王都での凍死による死者数は0になり、ガレリアとダイアナを含め報奨金が出たのだった。

勿論この報奨金も王国で暮らす社会的弱者の為に使えるよう、打ち合わせをして運用してもらった。


他には広大な土地を確保してもらい、食品加工場のようなものを作る予算を組んでもらった。

主にラザーとレイクが指揮を取り、ルオンは雇用の方を管理し、ガレリアが資金を管理していた。

ザクスが設備面で注文を出すと、自分が福利厚生面で補足をする。

するとただでさえ大きな規模に加え、とても作業と住み心地が良い工場になりそうな絵図が出来上がってしまった。


休み期間中は、しばらくガレリアに師事して色々な作業をザクスと手伝った。

たまにエントがやってきて、二人により付与魔術の特訓も平行して行っていた。

さすがサリアルに師匠だけあって魔法の使い方は繊細で上手い、魔法を使い始めて数ヶ月の自分がうまく扱える方がおかしいのだ。同じように隣で特訓しているサリアルを見ると、自然と集中力も増してくる。


そんなサリアルからも宿題代わりに着火の魔法を教わることになった、コツは魔法が苦手な人に魔力を集める事を事前に伝え、瞬間を見極めた時素早く魔力を燃やす事だそうだ。

バーナーで酸素とガスをいじっている対象に、丁度良いタイミングでキレイな火をつけるイメージと言えばいいのだろうか?表現が難しいけどとても繊細な魔法で、この魔法がうまく出来た相手は点火という状態を覚え、魔道具を動かす事が出来るようになる。


ある日は与えられた畑を大きく耕し、ある日は新しく貰える屋敷を下見しにいく。

屋敷は今もらっても困るのでゆっくり探してもらうことにした。

工事は優先的に進めてもらえるようで、3月いっぱいまでには建物が完成するようだ。


この間にオリーブの苗木を大量に用意し、トマトの苗も大量に準備した。

またガラス工房と契約をし、量と密封の仕方を話し合うと作成に入ってもらった。

学園が始まってからも体力作りを中心に訓練を行い、3月上旬の卒業式を終えるとすぐにラース村へ向かった。


王国から荷馬車と御者を一人出して貰うと、10日間の我慢大会だ。

そういえば雪山訓練の送迎ではそんなに酔わなかったということは、やっぱり【平穏な羊】のサヴァンは凄いPTでリーダーだなと思った。

村長に挨拶に行き、孤児院へ顔を出すとマザーを始めみんなから歓迎してもらった。

今日は宿屋に泊めてもらい、荷馬車は代官屋敷へと向かったようだ。


「なんだ、戻ったのか?リュージ」短剣使いさんがこちらにやってきた。

「はい、戻ってきちゃいました。農業指導をしたらすぐ帰るんですけどね」

「はぁ、結局王国に雇われちまったか。マイクロがついていながらなぁ」

「いやいやいや、マイクロさんには本当に助けて貰いましたよ」

「そうか、あいつはほっとくと突っ走っちまうからな」

「昔からなんですか?」

「ああ、昔からだな」


離れたテーブルから「おーい、ヘルツ誰かいるのか?」と短剣使いさんの名前を呼んでいて、逆に呼び寄せたら盛大に囲まれてしまった。

あの代官は実力もないのによく口をはさんできたただの、徴税官は胡散臭さかっただの、私兵が威張り散らしていただの散々な言われ様だった。

「やったぁぁぁ、これで休みだぁぁぁ」宿屋に合流した御者さんは、やはり騎士だったようでラース村での長期休暇に入るようだった。


村長には話をつけていて、明日は朝からラース芋の植え付け作業を行うことになった。

田舎の朝は早い、当然早く寝る必要があったはずなのに「最近メシが改善されたんだよ」と多くの物資により色々改善された騎士を中心に宴会モードになった。


「何故みんなはあれほど遅くまで飲んだのに、もう訓練しているんだろう・・・」とても正直な感想だと思う。

朝は野菜スープがとても胃に優しく、薄く浮いていたベーコンの油が少しの元気を与えてくれた。

食べ終わった後、一気に冷たい水を呷ると以前開墾した6つの畑に向かった。


「おお、随分減ったなぁ」

「来て早々大したもてなしもせずに、農業指導とはすまんの」

「いえいえ、こんな若造の言うことを聞いて貰えるだけでも嬉しいです」

「お主の実績はわかっておるからの」

「ところで、2つの畑で土が減っているようですけど」

「おお、お主の指示通り皆の畑に少しずつ混ぜさせてもらったんだの」

「では、残りの畑を耕して今日はそちらの作業をしましょうか」

「よろしく頼むの」


今日は魔法を使わず人力で耕していく。

孤児院からマザーが例の袋を持って、シスターは子供達をつれてくる。

村から数多くの農家の皆さんが参加して耕す作業を手伝ってくれている。

以前渡した芋の苗を取り出したマザーは、開墾が終わり畝を造る作業が終わった所から子供達と植えていく。


あくまで村人主導の作業にしないといけない、毎年来られるかは分からないし今後はこの芋を使った加工品まで進めてもらいたいからだ。

その間に順番に少し離れた場所で、一人ずつ希望者に自分の所に来てもらえるようにお願いする。

村長と新しい領主代行の方には既に話していて、この村で魔道具を使える人を発掘するのが目的だった。

まず、レジャーシートを敷いて胡坐をかいて座る、最初に来たのは領主代行だった。


「やあ、君がリュージ君だね。前任者が迷惑をかけたようで」

「いえいえ、もう済んだ事です。自分のせいで急な人事になってすいませんでした」

「あはは、こんな成功しか見込めない状態で失敗する方が珍しいんだよ。学園の特待生になるような人材をこの村で囲いたかった気持ちは分からなくはないけどね」

「過大評価しすぎです、お金が欲しかった下心は否定出来ませんでしたけどね。では、そろそろいいでしょうか?」

「ああ、頼む。順番にここに来る事になってるから手早くやろう」


向かい合わせで座ると中央に魔力鉢を出す、お願いしたのはこの植木鉢を持って集中して欲しいという事。

どんなイメージでもいいので、「この植木鉢に何か変化を起こせるようになったら見込みがある」と話すとデモンストレーションとして魔力鉢の中央にピンポン玉くらいの大きさで魔力を発現させる。


領主代行と村長はコツがわからず交代しマザーは辞退した。

シスターが来ると感謝と祈りの言葉を発した後、すぐにチャレンジすることになった。

「女神様、お力添えをお願いします」集中して目を閉じたシスターが魔力鉢を優しく両手を添えると、一瞬キラッと小さい光が灯りすぐに真っ直ぐ上空に飛んでった。

目を開けたシスターは変化が起きてない植木鉢を見てがっかりしたようだ。


昼日中の小さな光に気がついた人はいなく、・・・いや一瞬マザーと目があった。

優しく穏やかな目でこちらを見つめたマザーが一回軽く頷くと、シスターが「次の人呼んで来ますね」とみんなの輪に入っていく。

それから何人か試してみたけど適性がありそうなのはシスターだけだった。

農家の皆さんはやっぱり魔法の存在は慣れないらしく、数人で来ては魔力鉢を見回して「これで作物を作ったら美味いものが出来そうだ」と話していた。

その違った意味の直感はある意味とても大切だと思う。

皆さん期待してますよとこの村の発展を願ってやまない、よく晴れたある一日だった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ