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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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068:王家の珠玉

 王家が集まるテーブルは王妃を中心とした女子会と化していた。
寮母とサリアルが同じテーブルに着き、ワインと食事で会話に花が咲いていた。

 そのすぐ隣では若者の女子会になっている、レンが中心になって会話を進めていて、主に新年度の学園生活について話していた。ローラとソラは新入生としてお互いに挨拶をして、すぐに仲良くなったようだ。
お姉さんチームは恋バナをしているようなので近づくのは危険だ。

 こちらは早速深酒モードである。ヴァイスが「スチュアートさん、本当にいいんですか?俺納得いかないですよ」と一人興奮していて、もう一人の先輩が宥めていた。
マイクロは「ヴァイス、人にはそれぞれ事情があるんだ。スチュアートが納得してるんだからいいじゃないか」と言うと、納得いかないとブツブツ言っていた。

 話に入れない自分とザクスはガレリアとエントに捕まっていた。
「リュージ君とザクス君、この冬休みの予定はあるかね?」
「「いえ、特には・・・」」
「ラザーさん、ちょっといいですか?」
「うむ、例の件だな」

 既にガレリアとラザーは打ち合わせ済みのようで、学園が始まるまでガレリアの仕事を手伝わないか?と打診を受けた。
畑や必要な施設・物資他内容を詰めたりして、自分の仕事を見ることで勉強になるだろうと意見が一致したようだった。
ザクスを見ると軽く一回頷いてくる、冬の間は動ける訳でもなく、暇過ぎると体が鈍るので丁度良い機会だった。
二人して了承すると、女性テーブルで啜り泣くような声が聞こえてきた。
レンの胸で泣くレイシア、何人か動こうとするとマイクロに手で制された。

 状況を見守っていると王妃がレイシアの所に行き、乾いた音の平手打ちをした。
あっけに取られている一同は今度こそ動けなかった。
呆然としているレイシアを抱き寄せる王妃、「少し酔いを醒まさせますね」と言うと木陰までレイシアを連れて行った。
マイクロはさりげなく可能な限りの距離で控えてる。
ラザーはサリアルと寮母の所に行き何かを話していて、スチュアートは心配そうに木陰の方を見守っていた。

 ザクスと一緒にレンの所に行くと何があったのか聞いてみる。
「え・・・わからないわ。レイシアさまは今とても幸せだと言ってたのに急に泣き出して・・・」
ローラはソラに必死で話題を変えようとしていて、セレアもティーナも状況を把握しきれていなかった。

 5分くらいすると王妃と一緒に戻ってくる、そして「場の空気を壊してごめんなさい」と言うとレイシアの方をポンと叩く。
「申し訳ありません、実は年が明けると王家の勤めとして少し長い旅に出る事になります。この時間が楽しすぎて、いつまでもこの時間が続けばいいなと思ったら・・・」
「みなさん、ごめんなさいね。こんな美味しい食事に美味しいワインもあるのに。スチュアートさん、もう一度乾杯の音頭をお願いできないかしら?」侍女と給仕が慌ててグラスのワインを確認して満たしていく。

「本日はお招き戴きありがとうございます、今年一年の感謝と皆様の幸運と健康を祈り、乾杯したいと思います。レイシアさま笑ってください・・・、うん、きっと大丈夫だよ。では、乾杯」優しさが溢れる笑みに思わず笑顔になる一同。
もう一人の先輩は花篭をもってきたようで、スチュアートに王女の所にいって一緒に飲んでこいよと花篭を渡す。
酒に呑まれたヴァイスの面倒はこの先輩が見てくれるようだ。

 それからは座る場所をシャッフルして色々な人と話すことになる。
特待生4名で王妃のところに挨拶に行くと、娘達をお願いするわねと深々と頭を下げられた。
レイシアは二人が友達宣言してるし、ローラはこれからみんなの後輩になる。
楽しい一年になるといいなと願わずにはいられなかった。

 昨日の過大な評価と報酬のお礼を言うと、逆に今日の料理のお礼を言われた。
「ローラに聞いたのだけど、今日もあのデザートはあるのかしら?」
「ええ、昨日はかなりがっかりしていたので、特別に王家の皆様には2個ずつ用意しました」
「あら、昨日から楽しみにしてたのよ。今日の料理もとても美味しいわ、次から次へと何が出るかが分からないびっくり箱のようね」
「多くの人に協力して貰ったので、賞賛ならここにいる全員にお願いします」
「聞いたとおりの謙虚さね、私は見かけより悪女よ」
一瞬妖艶な笑みを見せた王妃に「では、デザートを先にお出ししますね」と言うと少女のような笑顔に変わった。

 かもし出す雰囲気に、あるテーブルは知らず知らずのうちに二人っきりになっている。
幸せオーラとどんよりオーラのアップダウンが人を遠ざけている、そこに空気を読まない風のマイクロが割り込んで話に混ざっていた。
再びガレリアとエントと構想について話しているとワインも進んでいく、レンの兄であるルオンも興味があったようで「僕にも一枚噛ませてくれないかな」と聞いてきた。
秘密裏に進めるには王国とガレリアが組んでいる以上バレやすい、仲間と言える人が増えるのは歓迎だ。
ルオンとしては利益重視ではなく、実績を重ねたいのが目的だった。

 プリンが行き渡ると、ゆるやかな時間へ移行していく。
今日は迎えの馬車を遅めの時間に設定していたようで、王家のテーブルはガーデンティーパーティーへ突入していた。
侍女が予め作っていたクッキーをお茶菓子に、優雅なお茶会を演出している。
レンを中心として女性陣は部屋に移動して、迎えが来るまで楽しい時間を過ごしていた。

 男性陣の集まりでは料理をいったん中に移動し、寮の食堂で二次会をしている。
主にいじられていたのはスチュアートで、マイクロが少し過激ないじりをしていた。
スチュアートに『当主に会って、領の収穫祭に誘われた事』を話すと「是非来て欲しいな、歓迎するよ」と優しい笑顔をうける。
「うわぁ、これはやられるわ・・・」と眩しさに目を覆うような感想が思わず出てしまった。

 少しすると「俺もちょっと年が明けたら旅に出ないとだわ」マイクロが宣言する。
マイクロは半分ダウンしたヴァイスを呼ぶと、「一瞬だけ意識を保て、明日からティーナと年内いっぱい稽古をつけてやる。一刻も早く強くなるんだ。いいか?」と確認する。
「ハ、ハイ」ヴァイスが返事をすると意識がきれたようで突っ伏した。

 十分楽しんだ来賓は歩けるうちに帰宅の徒につく、ヴァイスを自室に放り込み希望者には風呂に入ってもらった。
宿泊者以外、全員帰宅したのは陽が沈んでから少し経ったくらいだった。

 翌朝、早速王家よりお礼状と招待状が届いた。
お礼状には今回の出会いに感謝と報酬についてはガレリアと相談することが記載されていて、年内に収穫出来るトマトは是非冬越しの施設で使いたい旨が記されていた。これもガレリアが窓口になっているらしい。
そして招待状は年末ギリギリに、なるべく良い服を用意して指定された協会に来て欲しいと書かれていた。
この時の衣装代は王国が持つと書かれている、寮母に報告すると大至急仕上げてくれる一軒の仕立て屋を紹介された。

 この世界では通常月は1~12月まで4週あり1週は7日ある。
そして年を送る週と迎える週で1月と12月は1週間ずつ余計にあった。
予定では10日後に協会に招待されている、執事が諸手続きをしてくれるようで、全員で仕立て屋に向かうことにした。

「ヴァイス、大丈夫?」
「ああ、レン。大きな声を出さないでくれ」
「「「いや、十分小さいから」」」
「飲みすぎたなぁ」
「ところで昨日返事した件覚えてる?」
「ん?ザクス。俺何か約束でもしたのか?」
「マイクロさんが年内で旅に出るらしいよ。だからティーナと一緒に稽古をつけてくれるんだって」
「マジかぁ・・・、今日はダメそうだな」

 この日は衣装をお願いして、寮に戻るとマイクロが仁王立ちしていた。
「酒に飲まれるなんてまだまだ子供だな、お前はもうちょっと広い視野が必要だぞ」と説教されたヴァイスは手加減されるわけでもなく徹底的にしごかれたそうだ。
レンは以前から協会に声をかけられていたので奉仕の名目で手伝いに行き、自分とザクスはガレリアと忙しい毎日を過ごしていた。

 トマトの件は了承をすると、金貨100枚がガレリアから渡される。
「多すぎです!」と返そうとすると、「では5人で分けたらいい、それでも多いと感じるなら協会へ寄付でも私が預かるでもいい。その価値がある仕事をしたのだから遠慮なく頂きなさい」と諭されてしまった。

 そして約束の日を迎えることになる。
格式高い集まりでも問題ない衣装に着替えた5名は指示された協会へ向かった。
そこは何の変哲もない小さな協会で、やわらかなステンドグラスが印象的だった。
案内された席に座ると右側の最前列にはアーノルド家の当主と夫人が座り、左側には王妃とローラがいた。
その後ろにマイクロとラザーが座り、正面に協会の司祭が歩いてくると、どこからか音楽が流れてきた。

 バタン、大きな扉が開くと王さまが、花嫁姿のレイシアを伴って前方に揃って一礼する。
正面にはスチュアートが花嫁を迎えるように立ち、二人がやってくるのを待っていた。
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