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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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058:ローラと温室

寮に戻ると大騒ぎになっていた、何が起きたか執事に聞いてみると明日妹王女が視察に来るようだった。
「視察って何を見に来るのかな?」
「あくまで噂なんですが四月からこの寮から学園に通うようです」
「え・・・普通もっと警備しやすい・・・というか王城から通っても問題ない距離ですよね」
「ええ、ただ毎日仰々しい出迎えをするようなら貴族専門の学校のほうが良いはずです」
「確かに」

寮にはまだ空き室が残っていた。ただ貴族でも平民でもこの寮にいる間は平等に扱う事になっていて、侍女を伴っての入寮は禁止されていた。
特待生であっても優遇しない、出来ることは自分でやる。それがこの寮の決まりであり、ここにいる二人の侍女は準特待生扱いなので学業優先であった。執事も侍女も仕事に誇りを持っているので両立しながらうまくやってくれていた。
王女が今後この寮に住むことになった場合、そのバランスが崩れる可能性がある。
今はとにかく王国からの支援もあるので求められたら公開せざるを得なかった。

侍女二人は空き室の清掃を念入りにしていて、公共スペースはみんなで協力して片付けている。
その流れで自室をそれぞれ片付けに入る、気分は年末の大掃除のようだった。
明日の予定では朝一番に王女が来て一緒に朝食を取り、一緒に学園に行ってそのまま学園に挨拶をするようだった。

「おう、リュージ。まだトマトが余ってたらもらいたいんだが」
「あ、料理長。まだあった気がします、後で調理室にもっていきますね」
「うむ、頼んだ。ちなみにあの野菜ってもっと幅広く使えそうな気がするんだが」
「おぉ、わかりますか?」
「絶対量が少ないから試せなくて困るな」
「後で学園の畑で量産してきますよ」
「いいのか?きちんと支払うから多めに作ってくれや」
「わかりました」

確か学園の畑で作ったものは自由にしていいと記憶している。
念の為レンに聞いてみたら売っても食べても大丈夫だと言っていた、ただ多くの人に手伝って貰ったら何かしら返さないといけないようだ。明日学園に行ったら温室の魔法を使って月曜に植えられるように準備したいと思う。
「今回は無難にトマトがいいかな?でも、折角量産した苗があるから煮込み用のトマトを作って一回ケチャップかボロゼーネでも目指したいな」パスタが流行っても良いとは思うけどパン文化が強いようだ。

個人的感想だけど、姉王女が来るよりも入念に準備してるのかもしれない。
思えば山岳訓練に行っていたから前回は王女に会えなかった、焼き芋の件で一回会ってるからフレンドリーさは経験してるけど妹王女がどんな感じか少し興味が沸いてきた。

翌朝は皆いつもより早く起きて準備していた。
昨日渡した食材で料理長は気合が入り、朝から朝食の準備に余念がない。
入れるか分らないけど風呂を準備して、手伝える事がないか聞くと執事も侍女も料理長も準備が出来ているから大丈夫と言われてしまった。
仕方がないので平日やっている朝練を全員でやっていると、体が温まった頃に1台の馬車が現れた。
執事が外の様子を伺っていたのか先に馬車の前まで向かい登場を待っていた。

「本日はお世話になります、ローラと申します」侍女は前回の人と同じ方のようで、今回は一緒についてお世話するそうだ。
執事が丁寧に挨拶をして食堂へ案内すると、朝食を準備するのにもう少し時間がかかるようだった。
寮母が王女と話をする間にみんなは手早く汗を流すことにした。
風呂場から上がると談話室で待機する、すると王女が顔を覗かせてきた。

「皆様おはようございます、この度は無理を言いまして申し訳ございません」
レンが立ち上がり貴族としての礼を取る、そして「ここに居る時は貴族としての立場は忘れていますので」と予め謝罪の言葉を言うと「立場を超えていられる場所は憧れです、私もそれに倣っていいですか?」と聞いてくる。
「「「「「もちろん」」」」」と快く返事をする。

「実は最近、お兄さまもお姉さまも市井を多く周っていて常々ずるいと思っていたのです」
「ずるいですか?」
「ええ、王族は基本的に自由が少ないのです。何処に出かけるにも許可許可許可。学園も貴族が通う学校指定だとか、窮屈な思いに遠回しな付き合い。私はローラ個人として最後の学園生活を送りたいのです」
「周りの反対はないのですか?」ザクスが質問する。
「両親は決まりだから貴族が通う学園に行ったらどうだ?とは言われました。ただ、先日お姉さまがこちらにお邪魔した時に『自分を対等な立場として扱ってくれる』この年代の人ともっと早くに知り合えたなら・・・と少し寂しそうに両親に話したらしく、お前が望むなら好きな学園を選びなさいと言って貰えました」

どうやら食事の準備が出来たようだった、執事が案内に来たので皆で移動する。
朝なので軽めの食事となった、ただスライストマトにサルサソースのようなみじん切りのトマトを使ったサラダが印象的だった。
「このトマト、お姉さまに聞きました」ローラは熱々のパンにも載せていた。
年が明けると14歳になる王女は二個下になる、まだあどけない少女の食べる姿にレンとティーナはメロメロになっていた。

ふと窓の外を見る執事が気になったのでそちらの方向を見てみる、私服警官ならぬ私服の兵士が各所の安全を確認していた。
大体食べ終わるとお茶を楽しむ、そして少し経つと執事と侍女がローラに空き部屋の案内をしていた。
「部屋は狭かったんじゃない?」ティーナが問いかける。
「いいえ、十分な広さでした。お父さまは『もしこの学園に通うなら条件がある、まず自分の身は自分で守ること。そして特待生の扱いまでしか支援しない』と言っていました。表面上は一般の生徒と同じ扱いになるそうです」少しもじもじしながら答える。
「皆様、もし私が学園とこの寮に来たら仲良くしていただけますか?」
「「「「「勿論」」」」」不安そうな顔から一気に笑顔を取り戻したローラ。
寮母が料理長と執事・侍女を呼ぶと「私達も歓迎致します。何かと不便な点が出るかとは思いますが、共に乗り越える事を経験出来れば学園生活も楽しいものになることでしょう」と言い一斉に礼をする。
王女付き侍女も安心した様子で、表情を崩してはいないが零れそうな笑みは雰囲気として出ていた。

それから執事が先行して歩き、8名で学園まで登校する学園だと登園になるのかな?王女付き侍女は最後尾をちょっと離れて付いてきていたけど、後ろから只ならぬ気配を感じていた。
ティーナにこっそり聞いてみると「あの身のこなしは只者じゃないよ、ああいう相手は詮索してはいけない」とこっそり返してくる。
所々にいる私服の男性、違和感がないかと言えばないけど休日に学園に行く用事がある人は少ない。
まるで『はじめての・・・』という番組のカメラマンが所々にいるようだった。

平和な王都の中心部、勿論山賊が出る訳でも誘拐が起きる訳もない。
この状況で王女にぶつかって財布を盗む勇気があるスリがいたら逆に凄いだろう。
王女が財布をもっているかどうかは分らないけどね。
そんな緊張だか警戒だか分らない妄想をしているうちに学園に到着した。

まず王女は執事と王女付き侍女を伴って学園長へ挨拶に行く。
今日は講師陣が全員出勤しているようで盛大な歓迎を行っていたようだ。
ここまでの案内で特待生チームの役目は終わっていた、折角なので畑を見てくると言うと皆見学したいと言ってきた。

畑に到着するとディーワンの先を出して開墾と唱える。
既に耕した後だけど魔法の訓練とかしていたので所々踏み固められていた。
改めてフカフカの土に戻しておく、そして収納からトマトの苗を出すと考え込んだ。
「リュージ、これもしかしてトマトの苗かい?」ザクスが興味深げに聞いてくると皆が覗き込んでくる。
「うん、魔法を使って成長を促すから、今回は早めに収穫したいと思う」
「ねえ、手伝ったら個人的に少し貰える?」ティーナもトマトが大好きなようだった。
「勿論いいよ、多分寮では食べきれない位できる予定だからね」

話している最中でも魔法は順調に動いていた、フカフカの土から畝を作りいつの間にか四隅に鉄筋棒が刺さっていた。
収納から【安寧の腕輪】と【慈愛の腕輪】を取り出すとレンが反応した。
「レン、もう大丈夫だよ。きちんと解呪されてるし、はずす合言葉も覚えてるから」
「ごめんね、お兄さまを長年苦しめたものだと思うとね」
「この道具はこれから皆の為に使うことを決めたからね、今日は実験もしないとなんだ」
「じゃあ、成功させないとね」黄色い魔力が温室を囲むと魔法が完成する

とりあえず【慈愛の腕輪】を左腕に装着すると【安寧の腕輪】を持って考える。
これもうちょっと薄かったらドアをノックする、カツカツって音がする輪になるんじゃないかな?と考えていた。
ヴァイスが心配そうにこちらを見てくると「何か悩んでいるのか?」と聞いてきた。
「これもうちょっと薄かったらいいなぁっと」
「ん?伸縮自在な腕輪じゃないのか?誰の腕にも合うんだろう?」軽く腕輪の特徴を忘れていた。

「リュージー、俺も手伝うから早くあけてー」とザクスが急かすように呼んできた。
「ちょっとまっててー」と一声かけると【安寧の腕輪】に魔力を流す、薄く大きく広がった輪っかになった元腕輪は無造作に握っても十分な大きさになっていた。
出入り口を作りたい場所に立ち輪の一部を温室の黄色い部分につける。
そして離すとそこを起点に輪の全体が黄色い部分にカツンと音を立てて当たった。
すぐ右側に自動扉のような出入り口が発生した。

「お、これって何時でも入れるようになったのか?」
「多分大丈夫だと思うよ、ヴァイスが入ることは少ないんじゃないかな?」
「収穫くらい手伝うさ」

なんとなくだけど魔力はリンク出来ていると思う。
何時もよりこの温室の状態を把握出来ている様な気がしている。
後は火曜日にこの温室が維持されているか確認する必要があった。
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