056:ガレリア
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シスターダイアナは王都の協会の中では決して高い地位に就いていない。
それでも高位の魔法が使える親類や自分の魔法にも『ある一定以上の力』を持っている事を自覚していた。
そして今回相談を受けた関係上、最後まで見守る責任があると考えていた。
「ヴィンターさま、何故焼却の確認をさせて貰えないのでしょうか?」
「ダイアナよ、お主の本分は何かわかっておるのか?市井の民の声を聞き子供達の健やかな成長の手助けをするのがお前の役目ではないのか?」
「それは分かっております、ただこの一件に関わった以上最後まで見守ることも私の責務だと思います」
「ふむ、正直許すことはできない。お主が思ってる以上に協会は独自の分業が進んでしまったのだ」
協会の仕事として基本的に布教がある。布教で大切な事、それは『教義』であり『奇跡』であり『民の心に寄り添う事』であった。
困った時に協会を頼れば何とかなる、そこには自然と汚れ仕事を引き受ける部門が存在するようになった。
公然の秘密とされているアンデットに関わる部門だ。
穢れと向き合うだけで嫌悪感が出る人もいるだろう、子供に対して畏怖の対象としてはゴブリンなどのモンスターが存在する世界では子供の教育にアンデットは必要ない。またアンデットと言っても突き詰めれば誰かの親族で生前人間だったものだ。
アンデットが発生する時点で協会の汚点であり、退治されても表向きは喜ばれるかもしれないが二度も死ぬという不幸が発生する。
切々と説得をされてダイアナは諦めることとなった。
秘密の火葬場は協会関係者なら場所は分かっている、だが決して近寄らず全てを任せる事を厳命された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「○○様、聖火を用いなくていいのですか?」
「△△、お主は準備だけすれば良い。周りへは恙無く処理が終わった事を話せば良いのだ」
「では、私が出来ることは以上となります。これにて失礼します」
厳重に縛られたハチェットだったものは専用の箱に入れられて窯に入っていく。
もう既に事切れたと思っていたが急にバタンバタンと大きな音が聞こえている。
それもしばらくすると静かになった、そして無事焼却が終わり冷めるまで待った。
専用の箱を開けるとトングを使って骨の焼き具合を確かめる、そして心臓があった位置の裏側に数カラットの黒い宝石を見つけた。
「さすがに小さいな、第一報がこちらに入ったなら上質な物が取れただろうに」
横に置いてある小瓶に聖別された手袋をして宝石を取り出すとカランと音を立てて入れた。
「計画はそこら中に張り巡らせている、1個や2個失敗するのは想定内だ」
狂気を孕んだ笑みは遠くからの呼びかけによって柔和な笑顔に変わる、ヴィンターがダイアナを納得させる為に代わりに確認に来たことを詫びると遺骨を見せて貰った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
12月第2週土曜日、学園で待ち合わせをしたサリアル教授と合流する。
さすがにアンデットと戦った一昨日の夜は夢見が悪かったけど、昨日は寮に戻ったので我が家に帰ったようでリラックスできた。今日の別邸は徹底的に片づけを行い修繕・清掃業者も入っているようだった。
二人でしばらく歩くと試験の結果について話があがった。
平均して高得点を獲得しており、今後について基礎は独自で行い学園では専門の講義を受けたほうが良いとアドバイスを貰った。基本的に学園で魔法科の特待生が出ることは少ない、限られた期間のうち手数を増やせる手伝いをするのが学園の講師の務めであった。
話は変わり常春さまについての説明となった。
5名一組の法衣男爵としての称号だった『常春さま』は現在講師だったガレリアが管理団体の代表として引継ぎ、その後貴族の娘さんと結婚して一男一女を儲けている。
5名のうち1名殺害されてしまった為、技術は失われてしまったと公言しているがガレリアが魔法を使えるのは公然の秘密だった。残り3名の氏名は公表されておらず今では別の仕事に就いている。
ガレリアは管理団体を維持しつつ魔道具を普及する為の活動を行っていた。
また、何箇所かの団体の顧問を受け持っていて在宅ワークをメインに忙しい毎日を過ごしていた。
元々サリアル教授は騎士科の生徒だった。
違う科の生徒と手合わせをする中で魔法使いに翻弄され、次第に魔法に魅せられていったのだ。
魔法使いに向かって「卑怯者め、正々堂々と戦え」と言って笑われた事もあったらしい。
周りの生徒から失笑を受け、一部の生徒からは熱狂的な支持を受けた。
その頃、政情が不安定だったのに起因して次第に荒れていった学園の空気を変えるべく立ち上げたのが『聖騎士団』というヴァイスが現在所属するグループだった。
そんな話をしながら歩いていくと屋敷に到着する。
門番などはいなく箒で庭を掃いている庭仕事をするような服を着ている男性がいた。
敷地内に入った瞬間、冬の冷たい空気が柔らかい春の気温に変わる。
「ガレリアさま、言ってくだされば掃除くらいいくらでもやりますのに」サリアル教授が呼びかけると男性はこちらに振り向いた。
「たまには家の用事も済ませないと居場所がないからね、貴族と言っても法衣男爵だから見栄も外聞も関係ないんだよ」
サリアル教授は苦笑してから自分を紹介してくれた、丁寧に礼をしてから手土産に持ってきたトマトを篭ごと渡す。
客間に通されると奥さんがお茶を持ってきてくれた。
トマトは生で食べられる野菜で、冷やしてスライスすると美味しいと伝えるととても喜ばれた。
まだ子供が小さいので奥さんは退出した、隣の部屋にいるので用事があるようだったら呼んで欲しいとガレリアに話していた。
「数年ぶりなのかな?魔法科期待の特待生らしいね」
「そうです、今年は同学年の全科に特待生が揃った特別な年なのです。確か初めて実験が成功したのも全科に特待生がいた時でしたね」
「そうなるかな、特待生を中心に切磋琢磨して全体的に生徒のやる気があがる○○の世代って呼ばれてたね」
「はい、そして多くの事件が起きる時期でもあるのです」
サリアル教授は学園に入った経緯をガレリアに説明すると、新しい魔法を作った事や雪山訓練に行った事、一昨日のアンデット事件に遭遇した事を報告した。
「騎士科に在籍して魔法科の講義をよく受けていた、君に勝るとも劣らない活躍だね」苦笑したガレリアはサリアル教授に「君が生徒を連れてくるなんてよっぽどの事だね」と続けた。
「まず一つずつ解決していこう、リュージ君の覚えている魔法の系統を教えて貰えないかな?勿論言える範囲でいいよ」
「はい、土と水の属性魔法と付与魔法と神聖魔法を少しずつ使えます」
「多芸だね、付与魔法を覚えているという事は鑑定を使えるよね」
「はい、この腕輪の名前も鑑定で知りました」
「ふむ、最近は付与魔法や鑑定の事を教えている講師はどうなってる?」ガレリアはサリアル教授に尋ねた。
学園の講義には『一般的な知識のみ』に落ち着く内容から『実技まで含めた専門的な講義』とコマによっては差が出てしまっていた。ガレリアが講師を務めていた時代は付与魔法に関する講義や考察の授業が多くあった。
サリアル教授は魔法が使えない人が使えるか使えないかのギリギリになるまでの指導がメインだった。
そして全てを踏まえた上で着火の魔法を施すそうだ、これにより魔道具を使える人が増えていく。
魔法が使える人には繊細な魔法操作や集中力等の指導を今までの経験を通してしていた。
土属性の魔法を覚えたサリアル教授は今後教え方が変わってくる事は確実だった。
現在の講師事情をガレリアに説明すると「私も講義をしていいかな?」と簡単に付与魔法について説明してくれた。
まずは魔法の簡単な概念として出来ると思うものしか具現化できない事、付与魔法は特に顕著でコップに水を入れる事は魔法で表現できるがコップに火を注ぐ事はできない。
そして付与された品物はダンジョンから出土された付与方法が不明な物、神聖魔法系の聖遺物・通常の付与品・簡易的な護符等がある。現在流通されている付与品はガレリアが教えていた時代の魔法科の数人が親方となって広めている物だった。
付与された品物にはいくつか傾向がある。
中でも特殊なのは二つに分かれているものが揃った時に効果が変わるものがあった。
ディーワンも二つに分かれていて揃った時には形状が変わる、そしてこの腕輪も二つを一人が装着した時に効果が変わる可能性があると説明された。
「学園にいる教会からの講師には、危険な気配は消えていると報告を受けています」
「では、ちょっとだけ私も見てみるかな。私は魔法の才能に恵まれなかったので魔法を使う時には皆に力を借りているんだ。リュージ君、君の力を貸して欲しい」
「はい、どうすればいいでしょうか?」
「今見につけているマジックアイテムはあるかな?」
「いえ、この腕輪以外ありません」
「では、両手を繋いで輪を作ろう。そして私の魔力を補強するように流して欲しい」
「はい、いつでも大丈夫です」
立ち上がってガレリアと向かい合い両手を繋ぐ。
目を閉じて薄く流れてくるガレリアの魔力を感じながら上乗せしていく、水風船の流量を少し足していく要領だ。
「では、準備はいいかい?いくよ、深層鑑定」
二人の魔力が腕輪を包み込むと、時間が止まったような気がした。