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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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144/161

144:女神の噴水

 午前中に祝福の儀式が終わったので、スチュアートとレイシアに帰還の挨拶をした。
みんな赤子に夢中だったけど、いつまでもこの領にいる訳にもいかない。
ケインとフリーシアには、午後一番に出立する事を伝えてある。
レンとティーナも一緒に王都へ戻る事になった。勿論、王子達にもきちんと挨拶はしておく。

「王都で祭りの準備があるので、それが終わったら、またゆっくり遊びにきますね」
「ああ、待ってるよ。父が迷惑かけて申し訳ないね」
「いえいえ、こちらこそお世話になっています。そうだ、ワインの件はどうしますか?」
「そうだな、出来れば早めに解決したいが・・・」
「王子、申し訳ございません」
「いや、いい。どこからも干渉されないように10年の時を置いたんだ。お前の思うように進めればいいさ」
「ありがとうございます。もし、ここだと思った時があったらすぐにでも・・・」
「期待しているぞ」
ケインとフリーシアに御者をお願いして、アーノルド男爵領を後にした。

 結局王都に戻れたのは、祭りの1週間前である土曜日の午後だった。
先にレンとティーナを寮へ送ると、ケインとフリーシアはそのまま農場へ案内する。
ガレリアが陣頭指揮を執ってくれたので、農場の運営は思いの外順調だった。

「リュージ君おかえり、その方達は?」
「ただいま戻りました。ちょっと旅先で色々ありまして、ここで働いて貰おうかと」
「あの・・・、私達は・・・」
「うん、細かい事は抜きにしましょう。アーノルド男爵領からのお客様ですが、自分がサポートします」
「ふむ、リュージ君が決めたのなら良いと思うよ。ナナに部屋を案内させよう」

 ガレリアがナナを呼ぶと、二人の部屋を案内させる。
今日一日は自由にして良いと話してあるが、手持ち無沙汰になる可能性もあるので、ナナに農場を案内してもらった。入れ替わりにユーシスとナディアがやってくると、二人とガレリアによる報告が始まった。

 まずはグリーンカーテンの依頼がほぼ終わったようだ。
これは王妃さまが話して、発注先が分かった相手にだけ行ったサービスだった。
誰にどのくらい請求しているかは、ガレリアにしか分からないらしい。
ただでさえ独占状態で行っているので、苦情が来ないか少し心配になった。

 調理場の責任者は大忙しだったらしい。
製麺の指導を行い、ユキへのシロップを作り、醤油と味噌を仕上げると量産を進め、ナポリタンの試食を何回も求められた。祭りが終わったら、少し長めの休暇をあげたいと思う。
ナポリタンは3件とも仕上げの段階まで来た、後は自分の試食待ちと言うことで、王都に戻ったら連絡が欲しいと言われたようだ。もう学園も休みに入っているので、月火水で昼食を食べに行くと伝えて貰う事にした。

 ノックの音が聞こえ「どうぞ」と答えると、調理場の責任者が焼きとうもろこしと醤油・味噌・キュウリを持ってきた。
「リュージさん、おかえりなさい。ナディアさんと色々試してみたんですが、ご確認お願いします」
「難しい事ばかりお願いしてすみません」
焼きとうもろこしに齧り付くと、茹でた物にはない香ばしさと醤油の香りが心に響く。
こういう時、「ああぁ日本人なんだな」と思う。
その後にすぐとうもろこしの甘さがやってきて、甘いしょっぱい・甘いしょっぱいと絶妙な追いかけっこが始まった。
「どうです?」
「ええ、最高ですね」
たくさんあったので皆にも勧める、その間に醤油と味噌をキュウリで味見をした。

 醤油・味噌と言っても、正直色々な種類がある。
白味噌や赤味噌、合わせ味噌など前世の物に比べると粗はある。
ただ、初めて作ったにしては、120点をあげたいくらいの出来だった。
増産を進めてくれたのも嬉しい指示だった。

 ガラス工房へ発注したグラスは、無事2種類納品された。
風輪も王妃が気に入ったようなので、多くの増産体制に移っていった。
すると工房長から農場宛に権利料として支払うので、直接販売したいと相談があったようだ。
欲しい量の商品は買えたので、特にこの農場で販売する必要はなかった。
ガレリアに相談すると、権利料を算定して処理を進めてくれるようだった。

 ノックが聞こえ、ザクスがやってきた。
「リュージ、戻ったんだってー?」
「ただいま、色々忙しかった?」
「もう、大変だったよ・・・、っていうのは嘘さ。穏やかな日々を過ごしてたよ」
「そっかぁ、レンとティーナに伝えとくね」
「それはリュージもそういう目で見てたって事かな?」
「お互いに言わない方向で行こう」
「そうだな」

 グリーンカーテンが終わった事にお礼を言うと、ユーシスとワァダが結構手伝ってくれたとザクスは二人を持ち上げた。
最初、物静かに仕事をしていたユーシスだけれど、段々本来のリーダー気質が出てきたようだ。
ユーシスが考えるリーダー像とは、仲間を信じ必要に応じて能力を引き出してあげられる役割分担を促す事だった。
対外交渉でも貴族だからと物怖じせず、概ね良好な評価を貰っていたようだ。

 ユキからの依頼でカキ氷の合うシロップも、早めに対応して貰えたようだ。
農業王国としては暑い時は暑く、寒い時は寒くがその土地で育てている作物には良い。
ユキもその事を理解しているようで、早めに涼しい所で休むと言っていたらしい。
梅シロップとレモンシロップも良い出来のようで大変喜んでいたようだ。

 パリポリとキュウリと食べているみんなにお礼を言うと、かなり恐縮されてしまった。
自分がいなくても、十分農場は進むことが出来る。
来年学園を卒業することは伝えてあるが、籍をここに残した後で冒険に出る予定だった。
この分なら十分利益を確保しながら、事業も拡大出来ると思う。
以前相談があった、ガレリアが協賛や相談役などを務めている施設も、まだ土地が安く近隣の人が少ない今のうちから移設を考えましょうと提案してみた。

 ワインバーも農場も今の所順調だ。自分に下げ渡される屋敷も農場で泊まれるなら必要がない。
そもそも何時までにという約束がないものなので、先にそっちを片付けたいのが本音だった。
「リュージ君、良いのかい?」
「ええ、それで大丈夫です。相談なんですが、ここはちょっと奥まった場所にあるので、馬車の定期運行を考えたいと思うのですが・・・」
「そこまですると、結構多くの参加者が見込めるね」
「応募条件は今のまま変えずに行きましょう。それで、馬車ですがケインさんとフリーシアさんにお願いしようかと」
「その辺は追々検討していこう。彼らも来てすぐだと、何かと大変だからね」

 ユーシスとナディアには、祭りに出せる人員の割り当てをお願いした。
特別手当も出す予定で、折角の祭りを楽しめるよう人数を多く、休憩も多くで希望者を募ってもらう。
ワインバーチームの屋台も一緒に見て貰えるよう併せてお願いをした。

 パンのコンテストは水曜日行われるそうだ。グランプリを取ると女神さまへの捧げ物として献上出来るらしい。
そしてこっそりとだけど、パン教室で学んだ貴族家の料理人達が農場で腕を競い合うらしい。
王妃他いくつかの貴族が参加するようで、場所だけ貸して欲しいと問い合わせがあったのでガレリアが承知した。

「さて、残るは噴水だけだな」
「そうですね。計画ではもう出来ている頃ですよね」
「後は魔法使いの出番を待つだけだね」

 ガレリアとワァダと自分で移動すると、噴水の設置場所に到着した。
物々しい警備体制が敷かれ、エントが最終チェックをしている。
何故かサリアル教授も現場にいて、メフィー宮廷魔術師団副長と協会からヴィンターが来ていた。

 中央広場にどーんと大きい石が円形に並べられていて、その高さは大人の腰くらいあった。
近くまで行って中を覗くと、大理石のような乳白色にマーブル模様があり、見た目はすべすべしていた。
更に中央に目を向けると、腰の高さより若干低い位置に円形の台座があり、そこに像があるはずだけど大きな布が被されていた。

 一先ず関係者全員に挨拶をして、像と噴水の説明を受けることにした。
その像の正面に当たる噴水の外側にも、2m×5mくらいの石が敷かれていた。
噴水に接する位置に小さな石材が置かれてて、そこの下には厚手のマットが敷かれていた。
この石の通路の両脇には金属の柱があり、上部でアーチ上になっている。
ただ、むき出しの骨組みのようで、武骨感が否めなかった。

 エントとヴィンターが人払いをすると、警備が大きく広がり布で噴水を見えないようにガードした。
すると別の警備が像に掛かっていた布を取り込んだ。
そこにあったのは慈愛の微笑を浮かべた、若干セクシー加工された女神像だった。
神託によってWBHを少しだけ修正されたので、誰も文句を言う者はいなかったが、ダボッとした修道服で品位を保とうとした職人の技術は偉大だった。
目を閉じた女神像は自然体で立ち、左手には身の丈を若干超える錫杖を携えていた。

 オブジェクトとしてはこれで完成だった。
後は噴水が出るようにして、その他の安全対策をしないといけない。
そういえば、魔導ラインという技術が必要だと言っていたのを思い出した。

 国家事業とは言え、自分のせいで作業が滞っている事に少し申し訳なくなる。
噴水の件が片付いたら、一度冒険者ギルドと隊長のもとへ報告に行く必要があると思った。
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