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131:思惑

 日曜の朝練に出るのはヴァイスとティーナぐらいだったので、それぞれ別行動で訓練をするそうだった。

ヴァイスは腰に皮袋を下げ、木剣を持ちダールスから誘われていた場所へ向かった。


「すいません、こちらダールスさまのお宅ですか?」

「ああ、そうだ。君は・・・」

木剣を確認すると全てを承知した門番は、訓練を行っているダールスに挨拶するように話した。


 ダールスの屋敷には広い場所があり、そこで十数名の男性達が素振りを始めていた。

先輩の繋がりを辿り訓練をつけてもらっていた人も多く、そんな騎士の先輩達が滝のような汗を流していた。

すぐにダールスを見つけると、ヴァイスはまだ遠い位置から最敬礼し、学園名・所属・氏名を大声で叫んだ。


「よく来た、ヴァイス。お前を歓迎するかどうかはこいつらの血と肉になるかに係っている」

「隊長、脅かしすぎです。訓練に来た少年がすぐに帰っては我らが隊の評判に係ります」

「ヴァイス、程ほどの訓練なら別のところを紹介できるぞ。お前はどうする?」

「ダールスさま、先に差し入れがあるのですが」

「そうか、じゃあ訓練していかないとな」


 ニヤリと笑うダールスに、先輩達は今度の新人はどのくらい持つのか雑談をする。

「お前等、まだ雑談出来る余裕があるようだな。では、今までの訓練をもう1セットやっておけ」

やぶ蛇は大抵この後の新人の訓練に向けられる、ダールスが屋敷へ歩き出すとヴァイスは後をついて歩いた。


「それで何を持ってきたんだ?見たところ木剣くらいしか荷物はなさそうだが」

「はい、今出します」

収納の宝石の場所に触れると、ポンっとスイカが跳ね上がりキャッチする。


「ほう、収納か」

「はい、魔道具の入手手段については聞かないで頂くと助かります」

「土産に免じて聞かないでおこう」

「ありがとうございます、もう一つ出しておきます。これは友人から特別に購入したスイカという果物で、冷やして少量の塩をかけると良いそうです」

「ほう、そうか。では井戸水で冷やす事にしよう」


 家人を呼んで二つのスイカを井戸水で冷やすように指示するダールス。

そして冷やすのに時間がかかるよなと言うと、「ご指導お願い致します」とヴァイスは礼をした。

訓練をしている場へ戻ると、ヴァイスから差し入れがあったとダールスは全員に告げる。

そしてここからハンデ戦のように、体力があるヴァイスを中心に模擬戦が始まった。


 一人目の相手は攻撃が鋭いタイプだった、騎士の訓練なので武器と盾は共通のものを使っている。

見え見えの攻撃でも、受けさせるのが目的ならばやりようがあるという見本だった。

いかにきれいな角度で受け流しても、本気の一撃を受け続ければ腕にダメージが届く。

そして、今更ながらにマイクロの手加減が、更に奥があった手加減かと思い知った。


 ダールスの掛け声で終了の合図となり、すぐさま二人目の相手と対峙する。この相手は守りが堅いタイプだった。

全ての攻撃がまるで気の入らない、又は芯がずれた打点での攻撃だと分かるほどきれいな受け流しであり、盾で強襲をかけても何事もないようにかわされてしまった。


 三人目の相手はトリッキーなタイプで、四人目の相手は最初の二人を足した王道のタイプだった。

どの相手にも惨敗だったが、周りの野次では「子供相手にムキになるな」という声が聞こえていた。

同じような体格の者に当たり負けをするのは、騎士としての修業が大きく足りないと天を仰いで痛感した。

背中に土をつけているから天を見るしかないのだが、ダールスは首元に木剣を突き下ろしてきた。

「訓練で死ぬ事はないが、戦場でいつまでもそのままでいたら死ぬぞ。全てで負けても目だけは相手を射殺す気持ちでいろ」

「はい」

「もっと大きく」

「はい!」

「よし、じゃあ後一人行けるな」


 最後の一人を募るダールスに、後方から休憩の呼びかけが聞こえてくる。

「差し入れのスイカが準備出来ました」

家人と一緒に現れたのは、ブルーローズのマインだった。


 膝立ちになり戦う姿勢を見せると、ダールスは手を叩き休憩に入るように指示をした。

「大丈夫でしょうか?」

「ありがとうございます、マインさん」

「あなたはセルヴィス殿と一緒にお出でになった・・・」

「ヴァイスです」

「そうですか。ダールスの娘のマーリンです、マインという名前は偽名でして・・・」

「マーリンさん、助かりました。正直、後1戦持つかどうか分からなかったもので」

「お父さまは気に入った相手には、まず限界を見たいと思うようです。そして、その相手に足りない物を見せて差し上げるようですが、そこで諦めてしまう方も多く・・・」


「こら、マーリン。余計な事を喋るでない」

「はい、お父さま。それでは皆さん、ヴァイスさんから頂いた差し入れを頂きましょう」

ダールスが片手を出して引き上げるように立たせると、砂を払うにしては力強く背中を叩かれた。


「ヴァイスさん、これはどうやって切れば良いですか?」

「ダールスさま、ひとつ提案があるのですが」

「なんだ、言ってみろ」

「これは友人から聞いた、感と技術と仲間との信頼を示すやり方なんですが」

「ふむ、それならうちの隊にぴったりだな」

「ここに敷物を置いて、その上にスイカを乗せます。少し離れて目隠しをして、10回まわって木剣をゆっくり振り下ろします」

「そんな簡単な事でいいのか?」


「折角の土産をそんな遊びに使うなんて」と、出所を知っているマーリンは考え込む。

多くの者が訓練でフラフラだった事もあり、ダールスが代表でやる事になった。

スイカが割れやすいので粉々にしないよう、くれぐれもゆっくり振り下ろすように伝えると、周りからの助言は必要ないと豪語する。


「いーち、にーい・・・」、10歩くらい離れて目隠しをしたダールスをゆっくりマーリンが回していく。

途中、「隊長も年だからその辺で」とか、「もっと回せー」とか聞こえてくるが、ダールスは回転中でも名指しで注意する。

そして10回目を数え終わった後、正面を向かせて「お父さま、まっすぐです」と伝えるマーリン。


 慎重なすり足で進んだダールスは振りかぶった瞬間、よろけて無様な剣筋をスイカの側面にかろうじて当ててボゴォと砕いた。

まばらな拍手が起こり目隠しを解くと、ダールスは何とも言えない悔しい表情を浮かべていた。

「ダールスさま、お見事です」

そう伝えると、今度は空気を読んだのか隊のみんなが盛大な拍手をした。


 大玉のスイカが2玉もあれば家人も入れて20人弱なら賄える。

マーリンがきれいに切り分けると、家人が塩を少量ふりかける。

一人一人に渡して回るマーリンは良家のお嬢さんのように見えた。


 お店と今のキャラクターが逆なのでは?と思ったが、何か事情があるのだろう。

ここでは女性で稽古を受けている人がいないので、もしかしたらその辺の鬱憤が溜まっているのかもしれない。

「おおぉ、これは良いな」

「甘さがしつこくなくて、水分補給にばっちりだぜ」

「この黒いのは種か、ちょっとめんどいな」

「そういう時は吹いて飛ばせばいいんだよ」

「おい、お前ら。ちゃんと掃除していけよ」

「はっ、隊長!」

「なんか美味くて楽しいな」


 沢山あるので、調子に乗って早食いをし出す隊員もでてきた。

「うん、ヴァイス。土産のセンスもさっきの模擬戦も気に入った」

「そうだな、また来いよ。お前いいものもってるよ」

「ありがとうございます」

「しかも、マイクロさんに習っていただろ。あれは騎士として一つの完成型だから羨ましいわ」

「わかりますか?」

「ああ、ただお前は伸び始めているところだ。体もまだまだ強化出来るな」

「皆さん、今後とも宜しくお願いします」

「「「「任せとけ」」」」


 ダールスにギリギリまで訓練したいとお願いする。

この発言で学園に王子の旅について依頼が行っている事を思い出し、「決して無茶をするなよ」と優しい言葉をもらう。

王子と王子についている2名の近衛は戦闘に関しては問題がないし、余程の大型モンスターでなければ逃げ切れる自信はある。

遠くから見守るだけで、いざとなったらちょっとした手助けをすれば十分だと笑った。


「なあ、ヴァイス。もう一度聞くがお前はこっちの訓練でいいのか?」

「はい、是非ここで学びたいと思います」

「お前が望んでいる理想の騎士像がマイクロだとしたら、セルヴィスの教えも受けることを勧めるぞ」

「セルヴィスさまですか?」

「ああ、どこで学んでも昇華させることは出来る。だが、今目指すべき道が見えているなら奴と同じ道を歩いても良いだろう」

「こちらに来る事は大丈夫ですか?」

「ああ、歓迎するよ。ついでにセルヴィスにマーリンの面倒を見て貰いたいんだが・・・」


 何か上手く誘導されたようで、結局マーリンもといマインの面倒をセルヴィスに任すのがメインの目的なのかと勘繰ってしまう。

「お嬢さまから直接相談されたら、御紹介できるかと・・・」

「そうか、マーリン。こちらに」

早速、深みに嵌りそうな予感に、頭を抱えたくなった。



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