挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

127/161

127:噴水

 魔法使いを雇うのは莫大な費用がかかるようだ。
農場では魔道具を使える人には、多少なりとも給料に上乗せされていた。
農場の朝は早く、魔法に目覚めたワァダは、朝から魔力不足で仕事が出来ない事がないように魔道具を使っていた。

 ここ最近、ずっと冒険科の講義を受けている。
すると教室でタップという、実践戦闘グループの男性が話しかけてきた。
先週のお礼の食事会で、お世話になったお礼が完成したようだ。
学園で自分と行き会えないので、ティーナに聞いて代表して持ってきてくれたのだった。

「先週はありがとな、俺はお裾分けでとうもろこしを貰ったんだけど美味かったよ」
「いやいや、ローラさまは同じ寮に住んでるし王家の宝だからね」
「だからこそ、お礼なんかいらなかったんだけどな。でも、こういうの悪くないと思うぜ」

 貰ったのは小さな宝箱だった。中身は空っぽで、その他に工具箱のような物もあった。
これの使い道を聞くと、どうやらギミックがぎっちり詰まった箱のようだった。
これはトレジャーハンター必須の鍵開けの技能を養う為のセットだった。

「うちは代々細工師をやってるんだよ、細かい細工物だったら是非俺を呼んでくれよな」
「ありがとう、こういうのを見ると早くダンジョンとか行きたくなるよなぁ」
「うんうん、わかる。滅多に見ない宝箱に出会ったら俺だって興奮するさ」
「時間が空いたら特訓してみるよ、ほんっとうにありがとう」

 ぐるっと一周まわしてみると、色々なところにネジや鍵穴やらがあった。
工具箱を開くと、小型ハンマーやら六角やらドライバーなどが入っている。
休み時間なので夢中になって作業をすると、やれ音を聞けだとか反響はどうなんだとか、そこは繊細にとか油どうこうまで多くの指摘を受けて作業どころではなくなってしまった。

 午前の講義が終わると、今日は農場で集合をすることになっていた。
農場でガレリアとエントと合流するとワァダを見つける。
ユーシスにワァダが抜けても大丈夫か確認すると、調整をしてくれるようだった。

 ブルーローズの視察についてユーシスに確認をすると、明日に予約をねじ込んで貰ったみたいだ。
農場まで送り迎えの馬車を出してくれるようで、折角のご好意なので甘えることにした。
セルヴィスが来たら予定を伝えて欲しいとお願いをする。
ラザーが石工職人を連れてくると、農場の馬車で移動した。

 まずはラザーから地図と実測で、どこからどこまでの範囲を使って良いか確認をする。
次に簡易テーブルを出し、深皿を置きその中央にコップを置くとワァダにお願いをする。
「このコップに溢れるくらい水を注げますか?」
「リュージさん、もうそのくらいは出来るようになりましたよ」
ワァダはソフトボールくらいの水の玉を維持しながら、一番下の部分からコップに水を注ぐ。
コップの水が表面張力を超えると深皿に流れ出した。

「イメージは上から注いで零れるタイプが一つ、もう一つはコップから湧き出た水が零れる感じです」
「なるほど、それで風呂みたいに水を貯めるんだな」
「エントさん、イメージは掴めましたか?」
「ああ、石工の棟梁はどうだい?」
「この水は何が目的なんだ?周りに撒くのか?水遊びするのか?浸かるのか?そこが知りてぇ」
「はい、そこは相談になります。ちなみにただダバダバとだらしなく流すだけではなく、勢いをつける事も出来ます」

 収納からジョウロを出すと、先のシャワーノズルのところをはずす。
そしてジョウロの先を真上に向け、大量に水の魔力を流すと勢い良く水が飛び出した。
落ちてきた水をみんなが避ける時、飛び散ったので怒られた。
水の動きとして、さっきのシャワーノズルの先を取り付けてシャワー状にしたり霧状にすることも出来た。

 ベーシックな噴水はさっきの深皿とコップで説明している。
ラザーとガレリアが図案について相談し、石工の棟梁とエントが材質などを相談していた。
ワァダには次の魔法の訓練として、雨のように降り注ぐ動きと、霧のように拡散する動きを説明してみる。

「リュージ君、今ラザーさまと話したんだけど、例えば像から水を出す事は出来るかい?」
「何か噴出口があれば出来ると思いますよ」
「折角、女神さまに捧げる為の祭りで作るから、協会とも連携を取って女神さまの像を作ってそこから水に結び付けたいな」
「そうなると水が流れる斜面が必要だな、神聖な女神さまの像なら近くで見たい人も出るだろうし、素足が望ましいだろうな」
「ほう、エントさんよ。そうなると裸足で歩いても痛くなくて、ひやっとする薄い石を敷き詰めるのはどうだろうか?」

 ラザーは必要な事項をメモしていく。
協会上層部への連絡はラザーが行い、そこから共同制作の名目で図案を考えていく。
石工の棟梁は、神事関連に強い職人がいると言い、エントは総合監修を引き受けてくれるそうだ。
さっきの水の動きとしては、霧状の動きが人気で、水が飲めると嬉しいと棟梁がアイデアを出してくれた。

 一度それぞれが案を持ち帰り、煮詰めてまた打ち合わせを行いたいそうだ。
一つの案として、水のアーチを潜りながら女神さま像の前に行き、水はどこかに貯まる感じもありだなと言っていた。
エントがそれぞれの間に入ってくれるみたいなので、水の魔法付与まで任せても大丈夫かもしれない。

「リュージ君、これだけは言っておくぞ。多分、この一連の設備を安全性まで見たらかなりの魔力を消費するぞ」
「そうだな。そしてそれはタイミングを合わせる必要があるので、魔導ラインの技術を使う必要があるな」
「魔導ラインって言葉、初めて聞きました」
「それは常春さまの技術だからな。細かい事は後で説明してやるよ」
「エント、ちゃんと説明出来るのか?」
「先生それはひどいぜ、これでも付与魔術だけはきちんと学んだんだぜ」
「もっと色々教えたはずなんだがなぁ・・・」

 エントも農場にやってくると、遅めの昼食を取りに食堂へ向かった。
職員のほとんどは休み時間も終わって、食堂にいたのはセルヴィスと調理場の責任者だった。
昨日のサングリアの試飲をして首を捻っている、白の方はそこそこの味に落ち着いたようで、試作を出してもらった。

「ふむ、キリッとして爽やかだな」
「先生、これは酒じゃないんですか・・・」
「エント、お前は酒が飲みたいのか?」
「まあ、夜なら飲みに行きますが、さすがに昼からは考えますね」
「明日、私の代わりに視察に行くか?勿論仕事扱いだぞ」

 ガレリアはどうしても妻の事を考えてしまうと、視察を辞退するようだった。
すると、セルヴィスは付き人と化してる貴族家の三男を見た。

「セルヴィスさん、今回のブルーローズはアーノルド家へのお礼も兼ねているんですよ」
「どうしてもダメなのか?」
「そのサングリアの試飲に協力してもらったらどうですか?もし、話すことがないようでしたら最初の挨拶だけでも良いし、そちらの方を誘っても大丈夫ですよ」
「そうか、じゃあ連れて行くか」

 食事を取った後、赤のサングリアも試してみる。
白もそうだけど、何か今ひとつこれが完成なのか?と考えてしまう。
調理場の責任者が考え方は間違ってないと言うと、セルヴィスの付き人であるベリアが何か言いたさそうだった。

「何か気がついた事があるんですか?」
「ベリア、もし何か気がついたなら教えて欲しい。祭りを成功させたいからな」
「おやっさん、正直言ってワインが完成されすぎているんです」
「と言うと?」
「おやっさんのところのワインはそれだけで芸術品なんです、単独で完成しているから何か混ぜ物をすると、とたんに違和感が出てしまうんです」
「ほう、じゃあ出し物を変え・・・、ん?そうだリュージ君」
「はい、何でしょう?」
「レイク君のところにベリアの家のワインって大量にあったよな」
「ええ、前からどうにか出来ないか打診は来てたんですが・・・」
「今回は、そのワインを使ったらどうだろうか?」

 ワイン騒動で首謀者は貴族家に限りなく近い人物だと噂として流れた。
そして時同じくして、子爵家の事件と処罰があり、「あぁ、そうなんだな」と何となく国民は理解していた。

「セルヴィスさん、今回はアーノルド家のワインの宣伝も考えていたのですが」
「ああ、私もそう考えていたよ。ただな、そもそもワインっていうのは生活に根ざしていて美味いもんなんだ。こいつんとこは美味い葡萄が出来るのは知っている。いずれ当代同士に交流が出来ればお互いの技術があがるだろう」
「つまり、今は多くの人がワインを楽しめる環境の方が必要だと?」
「おやっさん・・・、兄貴が聞いたら喜ぶと思います」
「それは今回のサングリアが上手くいってからだな。今ギルドに在庫されているワインが受け入れられてないなら、何かしら違う手段を取るしかないだろう」

 ガレリアはナナを呼ぶと、レイクに今の話をしてもらえるように伝える。
赤用として蜂蜜の甘みも良いけど、ベリアの家で育てている生食用の甘い葡萄を入れると、美味しいかもしれないとセルヴィスが更に後押しするように提案をした。
ベリアは半泣きだった。普通に考えても自分は犯罪者で、唆されたとはいえアーノルド家のワインを多くの人が飲めなくなったのは自分のせいだと思っていた。

 セルヴィスはベリアの背中を叩き、「背筋を伸ばせ、そしてワインが美味いって事をみんなに分かってもらえ」と言う。
涙でぐちゃぐちゃになったベリアは、「ハァイ」と嗚咽と共にセルヴィスに応えるのであった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ