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124:祭りの計画

 農場の朝は早い、それが恙無く運営されているのは偏に職員の頑張りだった。

前日、ナナに二人の来客の事を伝えると、各所に連絡を取ってくれるようだった。

ユーシスとナディアは『第一回、祭り実行委員会』に参加していた。


 ザクスとヴァイスは瞑想の講義を受けてから農場に来るようで、少し早めに来たのは土日だけではどうしてもタイムリーな対応が出来ないので、時間が空いた時は来るようにしていた。

ガレリアも午後には来てくれる予定だ。ユーシスとナディアに祭りについて聞いても良かったが、二度手間になってしまうと悪いのでガレリアと一緒に報告を聞くことにした。


 農場を一周しようと鍬を持ち、森エリアや精霊さま用の畑を見て回る。

ゴルバに樹木の話を聞くと、最近蜂や蝶なども見かけるようになったくらいで、順調に成長していると報告を受ける。

彼が保護していた木も元気を取り戻したようで、今度は若木がある一定まで成長出来るまでここで育てたいと言ってきた。

生育が難しい木や若いうちにダメになりやすい木等があるらしく、特に問題がないようなので許可を出した。


 精霊さま用の畑では、相変わらず幻想的な光景だった。

水を撒く時だけちょっとずつ移動してくれるようで、突然水をやって蜂や蝶を驚かさないように気を使ってもらった。


 事務棟に戻る途中で、セルヴィスがワイン樽の納入に来ていた。

「セルヴィスさん、今日って時間空いていますか?昨日の会議について聞きたいのですが」

「やあ、リュージ君。配達も忙しくないから、大丈夫だよ」

「多分、間もなくガレリア先生もやってくると思います」

「よし、じゃあ空いてるやつに稽古でもつけて待ってるよ」

「食事も気軽に食べていってください」


 セルヴィスは手伝いの者と一緒に納入を終えると、先に空いてる者を集めて稽古を開始した。

4月の警備体制に比べ、圧倒的にスパイというか怪しい影が少なくなっていた。

セルヴィスは警備体制を緩めていないし、こちらから減らすような要請をするつもりはない。

安定した実地訓練と稽古に食事が加わり、一人一人の戦力は大きく伸びる事になった。


 ガレリアがやってきたので、先に二人で済む打ち合わせをする。

少しするとナディアとユーシスがやってきて、その後にセルヴィスとナナがやって来る。

すると今度は昨日の会議の話に移っていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「以上で、収穫祭の概要の報告を終わりにする。今年は前倒しになるが、神事としてパンとワインの奉納を予定している」

ラザーの発言でメイン会場の候補場所と、毎年やる収穫祭の内容との変更点について説明があった。

夏場に開催という事で、暑さ対策をしなくてはいけない。

「盛り上がる案と予想される問題点・解決策などを、どんどん話し合って欲しい」と話があり議長へ進行を渡した。


 レイクが前に立ち、便宜上議長を受けた事を話すと議事の進行を始める。

例年だと朝から晩までパン屋がフル稼働し、多くの屋台が所狭しと軒を連ねる。

王国からは主にアーノルド家のワインを大量購入し、ワインを振舞っていた。


 今年はその辺どうなっているのか質問があがると、王国からアーノルド家へワインの購入が打診できないらしい。

セルヴィスに注目が集まったが、セルヴィスはそ知らぬ顔をしていた。

勿論、「何故買えないのか?」という質問があがったが、レイクから商業ギルドを通して今年の購入の打診が難しい事が発表された。現在、アーノルド家のワインの輸送はグレイヴの息子がやっている商会が参入している。

極少量のワインはある場所で一時保管され、セルヴィスはそれをワインバーや農場・ブルーローズへ納入していた。


 予算はあるけど購入出来ないなら、直接セルヴィスにお願いすれば良いのでは?と思った参加者から、当然のように質問があがる。

「セルヴィスさん、折角の祭りなんだ。色々あったとは思うが難しいのか?」

「一言で言うならば、すまないとしか言えない。私はもう貴族ではないので、貴族家への打診は出来ないのだよ」

「何が難しいんだ。あんたが育てた貴族家だろう?息子に言えば済む話じゃないのか?」

「子供に代替わりしてすぐに口を出すなんて事は出来ないだろう。お宅ではいつまでも口を出すのかい?」

「そこまででお願いします。商業ギルドを通して購入していたのが今までのやり方です。うちが不甲斐ないばかりに、みなさまが言い争うのは望んでいません。セルヴィスさん、来年以降もし購入出来るなら口添えだけでもお願いできませんか?」

「まだアーノルド家のワインを望まない者もいるようだからな。本当に望む声が大きくなったなら、あいつも考えるだろう」


 暑さ対策としては、早朝や夜に開催してはどうかと案があがる。

1日2日なら警備も問題はないし、盛り上がれば盛り上がっただけ女神さまへの感謝は伝わるものだと共通認識としてあった。

いっそ、女神さまへ捧げるパンもコンテストを開いて1番を決めたら良いとアイデアがあがった。


 最後にどんな出店が出るかレイクから質問をすると、一斉に手が上がった。

「うちは元祖ナポリタンを出すぜ」

「俺のところは本家ナポリタンを予定している」

「私の店は少し変わった、焼きナポリタンを考えています」

立て続けにナポリタンが3軒出ることになった、メニューによって出店の振り分けがあるので問題はないらしい。

他にも串焼きや煮込みの店も出るようで、ユーシスとナディアは状況を見守っていた。


 セルヴィスは少量なら祭りに流せるワインがあったが、多くの参加者に行き渡る程の量は賄えない。

彼もまた板ばさみになりながら、店主として王都の住民として必死に溶け込もうと考えていた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なるほど、天気の事は気になりますが大体予想通りですね」

「リュージ君、次までに開催場所の候補を絞るようだよ。後、大体でいいので何を何店舗出せるか意見が欲しいそうだ」

「また、ラザーさんが来ると言っていたのでそこで考えましょう」

多くの材料は商業ギルドを通して購入される。

今までの話を聞くと、トマトの加工品とオリーブオイルの増産を考える必要がある事だけはわかった。


 ヴァイスとザクスが来たので食事休憩に入る事にした、するとナナからダールスとメフィーの来訪の連絡を受けた。

みんなに職員用の食堂へ向かってもらい、二人を出迎えると「これから食事を取るのですが、お食事はお済ですか?」と尋ねる。

二人は午前中に駆け足で仕事を片付けたようで、食事はまだだったので、「職員用で良ければ」と誘うことにした。


「ダールス・・・」

「セルヴィス、何故お前がここにいる」

「ここはうちのワインバーのオーナーだからな。俺は今、雇われ店長さ」

「セルヴィスさん、ナナさんにきちんと帳簿はつけて貰っていますので、すぐに名実共にあなたの店になりますよ」

「リュージ君、私は今のままで良いと思っているよ」

「その辺はまた後で話し合いましょう。お二人はお知り合いなのですか?」


 若い頃からよく比較されていた二人だったようだ。

技のセルヴィス・力のダールスと言ったところか?二人の教えを受けた3番目の男がマイクロと言われていたが、何故か表舞台に出てこないのを二人はいつも訝しんでいた。ダールスは順調に出世し、今では騎士を束ねる団長の立場にある。

毎年、多くの貴族家子弟や一般の家庭から、腕自慢の者が騎士を夢見て試験に挑んでいる。

基礎を学んだ者はやはり目を見張るものがあるようで、ダールスは師匠の名前を聞くと、苦々しくも嬉しい思いをしていた。


 職員に混ざり多くの者が食事をしている。

あまりの活気にダールスがガレリアに多くの質問をしていたが、その先で王妃が普通に食事を取っているのに驚いていた。

さりげなく護衛もついていたので、特に気にすることもなく、そっとしておいて欲しいとお願いをした。


 パンにサラダにメインにスープ、一般的な食事だったが一つ一つのレベルが桁違いだった。

もうみんな食べ慣れているので、普通に食事をしているが、メフィーはスープを飲んで驚きパンを食べて頬が緩む。

ダールスはもりもり食べていた、警備の者達もセルヴィスのところへ挨拶をしてから食事を取る。

その歩き方を見るだけで、ダールスは「ほう」と声を漏らしていた。


「ヴァイスよ、お前はセルヴィスの指導を受けないのか?」

「ダールスさま、私は学園に通う身です。先輩をはじめ皆さんに稽古をつけて頂きましたが、講師として来てくれたマイクロさんに多くの師を持つのは良くないと言われました」

「ふむ、奴はよく稽古と称して野試合ばかりしてたようだがな」

「やはり、多くの実践を交えた方がいいのでしょうか?」

「一般的に多くの師を求めるのを止めるのは、師によって方針が違う事が多々あるからだ。変な癖とも言うべきか。本人がきちんと飲み込んで昇華出来れば良いのだ」


「ダールスよ。この後、汗を流していくか?」

「ああ、もちろんだとも」

「あの、見学が終わってからにしてくださいね」

二人は再開の喜びに、本来の目的を忘れているみたいだった。


 メフィーは何気なく色々なテーブルを観察していた。

そして、ある一つのテーブルを見つけると、こっそりこちらに確認してきた。

「リュージ君、あの人・・・もしかしてワァダかい?」

「ええ、ワァダさんですね。食事の時は練習としてコップに水を注いでもらっていますが」

「ちょっと待ってくれ、あいつはクラスの落ちこぼれで、最後まで諦めなかったが魔法に縁がなかったはずだ」

「メフィーさんと同じクラスだったんですか?呼びましょうか?」

「いや、大丈夫だ。今会ってもお互い気まずいだろう」


 多分、メフィーは優秀な学生だったのだろう。ワァダとの関係がどれほどのものかは分からないが、お互い気を使いそうな事は確かだ。ワァダは暴走する事もなくなり、初めて望んだ魔法が手に入った時はとても喜んでいた。

水魔法なら自分が少し教えられるし、純粋な魔法科の教師と言えば元だけどガレリアがいる。

少し前にガレリアから援助している魔法使い育成の為の私塾が、土地の関係で立ち退きを迫られていると聞いていた。

他にもガレリアは色々な施設や団体の顧問等も引き受けているので、少し相談したいようだった。


 何が出来るかわからないけど、一つ一つ解決してガレリアの助けになりたいと思った。


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