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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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118:守るべきもの

 笑みは見せても、どこか触れてはいけない雰囲気があるトップ3。
それが、「どうぞ」の一言で相好を崩し、年相応の女の子に戻るから女性とは不思議だ。
ナナは配膳が終わると退出し、アイはお姉ちゃんに軽く手を振ってその場を後にした。

 苦笑している支配人はクッキーを一枚手に取ると、「ほう」と感嘆の言葉をあげる。
女性達はスコーンに夢中で、ゆずのマーマレードに驚き、スコーンにつけたりカッテージチーズにかけたりしている。
一通り味見とは言えない量を食べた後、不意に「あーん」とナンバー1の赤いドレスの女性が、薄切りレモンの蜂蜜漬けをスプーンの上に乗せて差し出してくる。

 あまりの不意打ちに固まる、赤いドレスの女性はスプーンを食べやすい位置にピタリと決めて動かさない。
何かの魔法にかかったのか、吸い込まれるように腰を浮かそうとすると、ノックがしてレンがやってきた。
浮きかけた腰が瞬時に下がり、薄切りレモンの蜂蜜漬けは何事もないように赤いドレスの女性の口におさまっていた。

「失礼します。リュージ、みんな揃ったよ。ちょっとだけ顔を出して貰えるかな?」
「ああ、リュージ君。ここは良いから行って来なさい。こちらの品々のレシピと材料はこちらで進めておくから」
「はい、ではお願いします。季節の果物については、レイクさんを通してご連絡します」

『オープンサロン』まで行く道でレンが、「キレイな人達だったね」と言ってくるので正直に「そうだね」と返す。
「リュージはあの3人の中で、どの人がタイプ?」
「うーん、万人受けするのは赤いドレスの女性だろうね。付き合う訳じゃないから、そういう対象では見てないかな?」
「そっかぁ、ふーん」

 途中でユーシスと合流して、『オープンサロン』に到着するとみんなに挨拶をする。
ローラは声が届く調理場と繋がる通路で待機していて、あまりに多くの人々に見守られていた事に感動していた。
その後ろで、さりげなく同じ感動を味わっている王妃・・・、そんなに王宮を出て大丈夫なの?と少し心配になる。

 調理はある程度終わっているけど、若干収穫がしてない野菜があると告げると、人海戦術で取ってくると言ってくれた。
ユーシスを先頭に季節の野菜を育てている場所へ案内する。
とうもろこしの収穫体験をしてもらうと、さほど時間がかからず一人4~5本抱えてくる。
収穫したものを調理場へ運ぶと、塩を強めにしたとうもろこしが茹で上がった。
席についた総勢30名弱が、「これだけ?」という顔でこちらを見てくる。

 半分に折られたとうもろこしが、各テーブルに山盛りになっている。
「まあ、農場に来たら野菜が出るのが当たり前か」と諦めた極少数の男性が、真っ先にとうもろこしに噛り付いた。
「んんんん・・・、うんめぇ。何だこの甘さは・・・いや、しょっぱ・・・ああ、めんどくせぇ、美味いだ」
「急に叫んでどうした?ただの野菜だろ?」
「何これ・・・、野菜ってこんなに種類があるものなの?甘い野菜って初めて食べた気がする」
手伝いに来てくれた王国マナーグループのみんながフィンガーボールとお手拭を配ってくれた。
ここからがおもてなしの始まりだ。

【本日のメニュー:GR農場 護衛のお礼】
コーンスープ:食べやすいようにカップに入っている。
グリーンサラダ:何の変哲もないサラダ、オリーブオイルとレモンと白ワインビネガーを使ったドレッシングで爽やかさを演出している。
ポテトサラダ:荒く潰した為、ゴロゴロ感が満載である。
ジュージー煮込みハンバーグ:粗挽肉でタネを作った後、表面を強火で炙り、トマトソースでじっくり煮込んだ一品。
プレーンオムレツ:ふわふわに仕上がったプレーンタイプ、お好みで塩かケチャップがつく。
ふかふかパン:篭に山盛りになっていておかわりは勿論自由。
アイスレモンティー:レモンは農場産で茶葉は商業ギルドからそこそこのランクを仕入れている。
プリン/自家製カッテージチーズ:牛乳と酢で作った簡易カッテージチーズ、甘さ控えめのマーマレードがつく。

「まじか、なあティーナ。これ本当にいいのか?」
「大丈夫。リュージは約束を守る男だし、食にはうるさい」
「ねえ、何か悪いわ。ローラさまを護るのだって私達喜んでやってたし」
「私達はそれが嬉しいのよ。うちもこの事業に関わっているから遠慮なく食べて」
「みなさーん、今日取ったとうもろこしは余っていれば持って帰っていいですよ。分ける時はグループ長がちゃんと間に入って仲良くお願いしますね」
「ありがとう、リュージ君。みんな、お礼と共に食事の挨拶をするぞ」
「せーの、いただきまーす」
大勢の「いただきます」で食事が始まった。

 この場にローラがいると、今日参加したメンバーは緊張してしまうだろう。
王妃もいることだし、別室で同じメニューを頂くことにした。
席で待っている間に、ガレリアの来客対応が終わると合流して食事をすることになる。

 食事会が始まり、今日進めた事をガレリアに報告すると、グリーンカーテンについて興味深く質問をしてきた。
今回用意したのはゴーヤとヘチマだ、ゴーヤは好みが分かれると思うけど食用の植物で、ヘチマは化粧水やスポンジ代わりになると話すと、今度は王妃がくいついてきた。
年々暑くなっている王都でも毎年何か対策をしたいと話があがり、考えているうちにその季節が過ぎてしまっていた。

 今回夏に計画している祭りで、王国としてはいったん市民に主導権を渡したが、収穫祭の代わりにもなるイベントなので失敗する訳にはいかない。夏場の暑さとは植物の成長に欠かすことが出来ないものであり、かといって暑さでダレたまま女神さまへ感謝の言葉を言っても不敬になると思う。この暑さ対策が祭りの成否にかかってくるのではないかと結論らしきものが出た。

 祭りの話し合いはナディアに任せた事をガレリアに伝えると、判断の良さを褒められた。
ナナは1から何かを作るのが苦手らしく、今のナディアなら色々な事を吸収している期間なので、どんどん新しい仕事を与えたほうが良いと言う。出来ればサポートでもう一人いると、考えの幅が広がるという話が出たのでユーシスにお願いしようと思った。
王国側はラザーが腹案を用意したいらしい、後でグリーンカーテンを見学に来させたいと言われると勿論OKを出した。

 王妃の食事スタイルは相変わらずスマートだ。
ローラも勿論洗練されているのだが、手が止まる事も会話が遮られることもなく笑みも絶やさない。
その事を指摘すると、あまりにもひどい食事会では身内から笑顔が張り付いていると言われる事もあったらしい。
食事の美味しさに舌鼓をうちつつ、帰りにとうもろこしを持ち帰りたいと言っていた。
ローラも収穫体験をしたいようで、終了時間次第でOKを出す予定だ。
ただ、最後に挨拶をするようにローラには伝えてあるので、それだけは役目を果たしてもらう必要がある。

 レンとティーナがテーブルの各所を周り、王国マナーグループが配膳のサポートをしている。
食事の勢いが普通になると、ローラの護衛方針と快適に過ごせるようにするにはどうしたら良いかの議論になる。
少し慣れたキアラとヴァイスは聖騎士団グループとして、学園の平和維持について語り合う。
ヴァイスは芯が一本通っていて、きちんと『ここは羽目を外していい場面』ではない時はいたって真面目だ。
そんなヴァイスを近くで見ていたキアラは、スイッチが入るとやはり優秀な右腕となる。
食事が一区切りすると、お茶を交えて議論は白熱していった。

 会の終わりには、誰かが声を掛けてくれることになってる。
折角なので、王妃に日本であった祭りの情報を流す事にした。
浴衣に甚兵衛、団扇に扇子に風輪、夜祭に提灯に灯篭など、様々なものを絵に書いて話し、涼を取る方法としての川床や打ち水の事を話す。

 ガレリアから「ナディアに伝えなくていいのかい?」と聞かれたけど、なるべく先入観がない方が良いと思う。
まずは、一回目の話し合いがどんな方向で、誰がイニシアチブを取るか興味が沸いた。
職員用の食堂で食事を済ましたザクスが合流すると、肩の辺りから緑の精霊さまが顔を出してきた。

「さっき作業してたらさ。どこからか迷い込んできた、ちっちゃい子を保護したんだよ。この子って妖精ってやつ?」
「ザクスは知らないで連れてきたんだね。緑の精霊さまだよ」
「へぇぇ、緑の精霊さま。ザクスです、今後ともお願いします」
ザクスが挨拶すると王妃やローラまで頭を下げていた。

 何でも鑑賞用でも食べる用でもない植物を育てて、何をしているんだろうと眺めていたらザクスにご飯に誘われたらしい。ちっちゃい子の希望を聞くと、食堂で食べられそうだと二人で意気投合したそうだ。
お願いしたい事があるらしいので、そういうことならリュージに相談したほうが早いと探し出して来たのだった。

「ねえ、リュージ。みんなからのお願いなんだけど」
「はい、何でしょう?自分に出来ることなら手伝いますよ」
「あのね、この農場にお友達の虫さんを連れてきていいかな?」
「そういや、この農場で虫って見たことないな」
「そういえばそうだね、うんって言いにくい案件だね」
「えーっとね、ある一箇所を開放して欲しいんだ。主に蜂さんが来たいらしいんだけど。お礼に蜜もくれるらしいよ」
「危険がないならいいですよ。場所さえ指定して、みんなに話せば大丈夫だと思います」

 その場でガレリアに話すと、精霊さまの意向なら問題ないそうだ。
きちんとセッティングするまでは待って欲しい事を伝えると、元気良く「お願いね」とにっこにこの笑顔を返してきた。

 あっちの食事会が終わったので、ガレリアとザクスと一緒に行く。
ガレリアにも一言貰い、最後にみんなに挨拶したい人がいると話すとざわざわしていた。
「では、挨拶をお願いします」と通路の方へ声を掛けると、ローラと一緒に王妃がやってきた。

「みなさま、うちのローラの為にほんっとうにありがとうございます」
若干うるんだ目で深々と挨拶をすると、全員が一斉にバッと立って最敬礼をする。
みんなサプライズならローラだと思っていたみたいだ。台詞を取られたローラはプーっと膨れっ面をしていたが、続く王妃の言葉や「王国の未来はみなさんにかかっている」と感情豊かに喋ると、一人二人と感涙している人が出だした。

 心酔した学生達は挨拶の後とうもろこしを貰い、帰る間際に二人の収穫シーンを見ると、穏やかな気持ちと共にこの国ので役に立ちたいと願うのだった。



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