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その鎌で何刈る気 作者:織田 涼一
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110/161

110:満塁

「んんんん、朝だぁ」
一晩くらい寝なくてもなんとかなる。それでも仮眠を取れるか取れないかは、大きな差が生まれると思う。
王子への差し入れと同じような、ファストフード的な料理を作って貰えたので食事時間は短く済んだ。
雪山訓練では救助者がいたので、結果的には初級者コースしか登って降りてない。
撤収準備を完了すると、ペースが掴めるまではゆっくり上級者コースを歩くことにした。

 チェックポントは、前回遭難者があった地点と危険だと思われる地点だ。
後から追いかけてきたマイクロはきちんと仕事を果たしたようで、保全場所は確認だけで済んだ。
上級者コースとは言っても膝にくる腰にくるといった感じで、ワイバーンがいる訳でもトラップがある訳でもない。
毎日の朝練がこのくらいの厳しさなので、順調すぎる下山にお昼休憩を長めにとっても日が沈む前には宿にたどり着いた。

 村長への報告は明日の朝一番でする事になっている。
帰る道すがら花を買える所を探し、宿では汗を拭うためにお湯を借りた。

「なんか、風呂がある生活が当たり前になって困るな」
「ヴァイスは騎士を目指しているなら、こっちが正しいやり方かもね」
「リュージ、騎士の宿舎に風呂作れないか?」
「いや、勝手に作っちゃまずいでしょ」
「それはそうなんだけど・・・」

 宿の1階で食事を頼み、エールが人数分揃うと乾杯をする。
たった二日の距離なのに、季節が半月から一ヶ月くらい違うような気がする。
エールは程よい常温だけど、やっぱり農場で飲むワインが最高だった。まだ酔いが回らないうちに報告書を仕上げてく。

 徐々に増えていく客が、酒場には不似合いな自分達を見つけてきた。
「おう、あんちゃん達・・・ん?何か見覚えあるな」
「はい、学園から来ました」
「ああぁ、思い出した。ノウムを救出してくれた人達だな。あれからすぐに行っちまったようで、ノウムは改めて御礼を言いたいって言ってたんだ。うちらみんな、一回はあの婆さんに世話になってるからな」
「お二人の様子はどうですか?」
「ああ、ノウムも婆さんもピンピンさ」
「それは良かった」
「あんちゃん達は明日朝早く出るのか?そうならノウムを呼んでくるが・・・」
「明日は村長へ報告して、夕方ここで食事した後に少し出掛けるくらいですね。出立はその翌日です」
「おっし、じゃあここは俺が奢ってやるよ。なーに、感謝の印だ、飲め飲め、浴びるほど飲んどけ」

 観光客でもっている村とは言え、豪気にして愉快なおっちゃんである。
山での話や学園での話をおもしろおかしく交えてしていると、こちらに聞き耳を立てている周りのテーブルが徐々に迫ってくるように感じた。後半はもう普通に宴会モードだった。
酒に慣れていないという事で一人抜け二人抜けていくと、自然に会はお開きになっていった。

 翌日の朝はゆっくり起きる、観光地に来てまで朝練をするのは無粋だ。
昨日の下山が朝練のようだった事はなかった事にしよう、朝食を終えると皆でゆっくり村長の家まで歩いて行った。

「如何でしたかな?この季節では救助が必要な者は滅多にいないはずですが」
「ええ、前回保全した場所も特に問題ありませんでした」
「過信はいけない。山は危険が多いし、動物達の縄張りでもある。現に熊がふらふら歩道に来ようとしていた」
「もー、ティーナは脅かしすぎ。でも、もし危険な兆候を見たら注意喚起を早めにしてくださいね」
「ふむ、入山時の受付の者にもよく話しておこう」

 報告書として書き写した物を渡し、熊の爪痕の場所や『グレーナ草』を見つけた場所も地図で説明した。
『グレーナ草』については群生地ではないので、参考にしないように伝えた。
村長からの報告では、10歳前後とマリーという名前をキーワードに見つけたようだった。
そして姉のマーガレットという名前と山の失踪履歴を照らし合わせた所、どうやら数十年前の出来事だと判明した。

 山の失踪履歴は、当時の死亡情報と直結する事がある。
どちらかと言うと上級者コースに『グレーナ草』が咲きやすいという情報を知っていたマーガレットは、迷うことなく上級者コースへ行き、何らかのトラブルでルートを外す事になった。
慌てて組んだ捜索隊が懸命な捜索活動をした結果、頭部を打った少女を発見したのだ。
手に持っていた『グレーナ草』は既に薬効を失い、10台前半のマーガレットは幸か不幸か記憶を失っていた。
家族の記憶を失った少女は、訳も分からず見知らぬ少女の葬儀に出席した。
それからは空虚な日々を送り、たまたま訪れた旅の商人に見初められ行方知らずになった。

「普段はここまで記されている事はすくないのだ。この悲劇を繰り返してはならないと思いながら、この村は良くも悪くも山に頼らなければならなかった」
「マリーちゃん可哀想ですね」
「仕方がないという言葉で片付けるには辛いものがあるな」
「なあ、リュージ。ここで農場みたく『グレーナ草』を育てられないか?」
「ザクス、あまり無理言うなよ。昨日のを見ても難しそうだっただろ」

「村長、ちょっと聞いていいですか?」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「外にあったのは家庭菜園ですか?」
「昔ほんのちょっとだけ、かじった事があるくらいだよ」
「あの場所をお借りしていいですか?」
「ああ、いくらでも使ってくれ。使いを出してお昼に食べられる物も用意するので、ゆっくりしていって欲しい」
「「「「「ありがとうございます」」」」」

 村長はヴァイスとティーナが買い物なら手伝えますと申し出たので、一緒に買い物に出ることにした。
ザクスとレンは自分の後ろで真剣に家庭菜園を見ている。
雑草が多く、知らない小さな花も咲いていた。ただ、このままでは何かを狙って育てる事は出来ないだろう。
雑草も花もない箇所へ鍬を入れる。
土に触れてみたけど、栄養は程ほどで砂利などもなく、可もなく不可もなくといった具合だった。

「リュージ、どうかな?」
「悪くはないかな?ザクスはどう見る?」
「あの生育した環境を考えると、環境適応能力は悪くないと思うよ。リュージの魔法が効きにくいのは、慣れてないからってのが濃厚かな?」
「急に分析が出来るようになったの?」
「まだ上手く引き出せてないけど、魔法で結構色々な情報が入ったんだよ」

 体質改善が必要ということは、漢方的な手法を取るしかない。
持続的に栄養を摂取すれば、安定して育てることが出来るだろう。
家庭菜園に魔力を流し、雑草や花に成長促進の魔法をかけると回収できる種を拾い集める。
残念ながら回収できない雑草は少し移動して貰い、改めてこの家庭菜園を開墾した。

「なあ、見えないように見えて、雑草はいくらでも入ってくるんじゃないか?」
「そうね、この範囲の雑草を取るのは難しくないけど、栄養を取られるのは痛いわね」
土魔法でこの場所を最高のコンディションにもっていくと、畑の真ん中に『グレーナ草』を植え替える。
「ちょっと試してみる、この『グレーナ草』だけにすればいいんだよね」
「「そんな事が出来るの?」」
「魔法は想像力があれば、何でも出来るって言ってたからね」

 家庭菜園の中心にある『グレーナ草』を意識する、このエリアの頂点として君臨する存在となる。
食物連鎖で弱肉強食の動物が頂点として考えられても、植物には植物のピラミッドがある。
土があり陽の光があり水もあるのだ。

「其の存在は至高 立ち塞がる怨敵を許さず 一族の長となり栄光を掴め」
流れるような詠唱が自然と口からこぼれてくる。
『グレーナ草』が光り輝くと、その光が家庭菜園の隅々まで静かな波紋として広がり淡く消えていく。

《New:スペル 草者一草を覚えました》

「出来たかな?」
「おお、今何か凄い事しなかったか?」
「分かる?」
「『グレーナ草』に植物の力が満ち溢れてるし、どんどん色艶が良くなってるよ」
「これなら成長促進かけても大丈夫かな?少し増やして、ここ一面を『グレーナ草』で埋め尽くそう」
「もー、程ほどにね」

 それから成長促進で種を取り、種を撒いて水を遣り成長を促す。
すると狭い範囲でも十分な間隔を取り、一面に『グレーナ草』を育てる事が出来た。
「山に入る目的がこれなら、この村は大分助かるね」
「少し種も取ってあるし、農場でも育てようぜ」
「その辺はザクスに任せるよ。ただ、この魔法を使うとしても限られた場所で、その植物をリンクさせないとだから数は限られるよ」
「その時はここに来るようにするさ、往復でも無理をすれば3日で来れそうだしね」

 買出しチームが戻ると人数が増えていた。
どうやら村長家に向かっていたノウムに出くわし、自分とザクスにもお礼を言いたいとついてきたそうだ。
再開し軽く挨拶をすると、丁寧にお礼を言われる。
ノウムの足も問題なく、お婆さんは元気すぎて困っていると愚痴っていた。

 軽く昼食を取り、今日は夕方まで待って墓参りの予定だ。
そういえばと、家庭菜園の話しになったので現場を見せると村長とノウムが唖然としていた。


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