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109:才能の無駄遣い

「ザクス、さっきの何?」

「あれは芳香剤だよ。自分の縄張りに撒かれたら、逆上するか諦めるか分かれると思うんだけど」

「あの状況なら諦めるよな」

「ヴァイス、正解。あの時点で熊は心が折れてた」


 元の場所に行くと、レンが人数分のお茶を用意してくれていた。

今度はちゃんと休憩を取れそうだったので、ゆっくりお茶を楽しむ事にした。

確かここでノウムを救出して、彼が決死の思いで確保した『グレーナ草』をザクスが受け取り、異変に気がついてすぐに収納に仕舞ったのを思い出す。


 ザクスによる考察では、冬に見つかるのは周囲の草花が眠り、自分の栄養を消費している時にしか生存競争に勝てない種類かもしれない。もしくは極限られた条件でしか生育に向かない種類だと言っていた。

土から抜いた時点で急激な劣化が始まるので、なるべくなら土に埋まった状態で確保するのがベストだった。


「リュージ、何か方法あるか?」

「うーん、とりあえずこれはどう?」

魔力鉢を出すと、4人がこちらをじっと見てきた。


「なあ、リュージ。確かに収納持ちは尊敬するんだが・・・、何で植木鉢をここに持ってきてるんだ」

「普通に考えたらおかしい。武器を持ってこないで、植木鉢を持ってきてる。それともこれは鈍器なの?」

ヴァイスとティーナからツッコミを受けたけど、これは誤解を解いておかなくてはいけない。


「ちょっとみんな聞いて。これは鈍器でもなければ、ただの植木鉢でもないんだ」

「どうみても植木鉢にしか見えないけど」

「これは何て言うかな?そう、魔法を唱える為の杖と同じような働きをするんだ。最初に精霊さまの声を聞いて魔法を教わったのはこの道具を使ってだよ」

「「「「へぇぇぇ」」」」

「精霊さまが言うには、魔法は特別な人にしか使えないわけじゃないんだ」

「うん、それは分かる。まさか私が神聖魔法を使えるとは思えなかったしね」

「でしょ。ただ出来る、使えると思わないとダメなんだ」

「これがねぇ」


 ザクスが魔力鉢を持ち上げ、ぐるぐる見回している。

「『グレーナ草』を見つけておーくれ」

「そんなんで見つかる訳ないじゃない」

ザクスがどこかの龍族にお願いするような口調で言うと、レンが背中をバシッと叩いた。


 魔法とは集中力である、考えないことを考える・・・無理な話である。

自分のように元々魔法の素質を与えられたなら未だしも、集中して魔力を感じてくれと言われても普通の人には難しい。多分フレアなんて最初は何も考えないで魔法を使っていたに違いない。


 ザクスは高価な魔道具を落としてはいけないと、意識を魔力鉢に集中しただけかもしれない。

そして、落とす前に魔力鉢を回収しようと手を伸ばすと、一瞬魔力の反応を感じる事が出来た。

瞬間、ザクスは「えっ」と言いながら手を離し、自分は辛うじて魔力鉢をキャッチする。

ザクスに文句を言おうとすると、ザクスは手を離した姿勢のまま固まってぶつぶつ何かを喋っていた。


「大丈夫?そんなに強く叩いてないよ」

「ザクスがおかしいのはいつもなんだけど・・・おい、大丈夫か?」

考えが終わったザクスはこちらを見た後、おもむろにある一点を指差した。

「あそこに『グレーナ草』がある。そして、あっちにもあるけど元気がない」

「ザクスが壊れた。これ以上連れ回すのは可哀想だから、さっきの熊さんに食べて貰おうか?」

「ティーナ、何でだよ。ちゃんとしっかりしてるよ」

「もしかしてザクス。さっきの適当な魔法で『グレーナ草』の場所が分かっちゃったとか?」

「リュージ、凄いなこの魔法。色々な植物の情報が一気に頭に流れてきて混乱したよ」


 初めて使えた魔法には名前をつけるようにアドバイスをした。

それからはヴァイス・ティーナ・レンが魔力鉢を見ると、とても感心していた。

そういえば新しい植物を育てている時は、この魔力鉢を使っていたとザクスが指摘すると漸く価値が分かったようだ。


 ザクスが指し示した場所は、まだここから離れてたので、また各所をチェックしながら歩いていく。

そして何度目かの『プラントサーチ』と名付けた魔法で距離を測り、一番良い場所でロープ等の備品を取り出すと、ヴァイスとティーナがテキパキと降下の準備を始める。

ロープを使えば斜面は余裕な二人だけど、今回はザクスも貸し出したリュックと魔力鉢を背負って行く予定だ。

自分は今回レンと一緒に上で安全確保の為の警戒だった。

三人が降りていくと、鎌を取り出して刃の部分を地面につけて待機した。


 レンが下を確認して自分が周囲を見回す、そうそう事件や野生の動物が襲ってくるなんて状況は起きない。

「まさかザクスがね」と言ったレンに、「意外かな?」と尋ねると微妙な顔をしていた。


 元々、兄の代わりに領地を治める決意を決めたレンは農業科に入って色々学んでいた。

ただ、品種改良や新種を見つけるなど、この世界では一生かかっても成し遂げるられるか分からないものだ。

しかもレンは民の暮らしを一身に背負う立場を覚悟していた。


 ルオンが再び当主の座を目指した場合、貴族の令嬢としての立場は政略結婚を目指す事になる。

内々に王子の婚約者候補にも上がったらしい。

ただこれは王家からの強制という形ではなく、候補に上がったので立候補しますか?というものだった。

セレーネが正妃となり、数年の猶予の中で嫡子が産まれれば、側妃については王子の自由になる。

王家の勤めとしては、ある一定数の王位継承権を持つ子孫を残さなければならない。


 現王はとても愛妻家でただ一人の女性を愛している、そして家族愛に溢れた一人の男でもあった。

王家で、もし血筋が途絶えそうな場合は、血縁者が多い公爵家からも候補が生まれる事になっていた。


 レンは今の生活を楽しんでいた。

自分で品種改良を行い、自分で領地を治め、好きではない男と政略結婚により結ばれる。

それが全部重荷となって圧し掛かっていたのが、今は何も考える必要はないのだ。

願わくは農業科の特待生として品種改良の実績だけは残したいと思っていた。


 レンは当初、魔法使いに胡散臭いものを感じていた。

これは協会に対する反発もあったが、魔法とは土地を荒らし、民を苦しめるペテン師みたいなものだと思っていた。

ところが魔法科の特待生は鍬を持ち、魔法で土を肥やし、種を植え、緑を育てる、全部自分が欲しかったものだった。

それが今度はずっと一緒にいたザクスにも現れたのだ、正直羨ましくないと言ったら嘘になる。


「ねえ、リュージ。学園に戻ったら魔法教えてくれないかな?」

「え?もう神聖魔法使えるんだよね」

「うん、そうだけど・・・。そうじゃなくて、ほら、ザクスに負けてられないっていうか」

「まあ、ザクスは頑張ってると思うよ。みんなそれぞれ事情抱えてると思うし」

「リュージも何かあるの?」

「自分は・・・ここに居てもいいのかなって・・・、たまに感じる時がある」

「それ何か寂しいな・・・」

「今はみんながいるから、そう思うことも少なくなってるよ」

「それなら、よろしい。あ、ロープで合図があったよ」


 再び周囲の警戒をしてみるけど何も起きてない。

ヴァイスはロープを使ってザクスを背負い、ティーナがリュックに入れた魔力鉢に入った『グレーナ草』を回収してくれたようだ。

何があったか質問すると、調子に乗ったザクスが周りの草花を魔法で調べた結果、魔力切れと情報過多のダブルパンチをくらい、魔力鉢に『グレーナ草』を回収したところで力尽きたそうだ。

「さっきまでザクスを褒めてたのに」そう呟くと、「「「やっぱり、ザクスだね」」」と安定の評価をされていた。


 とりあえず、大分歩き回ったので、今日の調査はここまでで大丈夫だと思う。

ちょっと早めに前回休憩した場所へ行き、寝床と食事の確保をしようということで話は纏まった。

春とはいえ、まだ少しは寒さが残る。しばらく転がしていたザクスも、「あいたたた」と地面が硬い事に文句を言いながら、暖を取り食事を頬張るみんなを見た。すると、待てをされていた犬のように食事を求めてきた。


「なあ、ザクス。最初は加減が分からないと思うから、魔法は帰るまで使わない方がいいよ」

「うん、ちょっと調子乗った」

「いつもだけどね」

「ティーナ、それはないんじゃない?」

「ザクスはね、才能あるのに無駄遣いなんだよ」

「ヴァイス、そんな褒めなくても・・・」

「褒めてねぇよ」


 改めてティーナから受け取った『グレーナ草』を取り出してみる。

「少し元気がなさそうね」

「やっぱり、環境の問題なのかな?」

「ああ、リュージ。農場でやってるように、水とかあげてみたらどうかな?」


 ザクスのアドバイス通り、まずは魔力鉢の中に入っている土に干渉する。

緑の精霊さまからは、植物に急激な魔力を与えるのは良くないと聞いていた。

土に薄く魔力を流し、雨が浸透するように水の魔力を満遍なく注ぐ。


 大抵の植物はこの作業だけで驚く程の成長を見せた、ただ『グレーナ草』は若干元気になったぐらいだ。

これ以上干渉してダメになっても困るので、この時点で収納に仕舞う事にした。


 戻る頃までには村長が色々調べてくれているはずだ。

マリーが心安らかに眠れるように、この山の保全も果たしたいと思った。



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