第二百四十七話 Aランク冒険者
14階層には、これもドランのダンジョンにいたヴェノムタランチュラとポイズンスパイダーが手ぐすね引いて待っていた。
数もさることながら、通路の壁や天井を這い回り気の抜けない階層だ。
しかも、エルランドさんが言うには……。
「このダンジョンでは特殊個体が多いって言いましたけど、当然この階でも出ます」
ヴェノムタランチュラは通常だと黒に近い紫色だが、特殊個体はそれよりもほんの少しだけ赤っぽいそうだ。
それ以外はほぼ変わらず、色の違いも微妙な差しかないらしい。
俺もヴェノムタランチュラは実際に見たことがあるけど、それしか差がないならパッと見ただけでは見分けが付かないだろう。
いざとなれば俺には鑑定があるけど、これだけの数をいちいち鑑定なんてできるわけないし。
その特殊個体は毒性が強く、怖いことに噛まれると数分であの世行きとのこと。
ポイズンスパイダーについても、通常は濃い灰色をしているのだが、特殊個体はほんの少し青みがかかった色をしているとのことだ。
こちらもそれ以外はほぼ変わらず見分けるのが難しいうえに、ヴェノムタランチュラの特殊個体ほどではないが毒性も強く噛まれると2時間から3時間ほどで死に至るそうだ。
毒消しポーションがあれば何とか助かるが、毒消しポーションがなければダンジョンから出るまでの間に死んでしまうだろうとのことだった。
一応毒にも効き目があるスイ特製ポーションを大量に持ってはいるけど、噛まれないのが1番だな。
大量のクモはキモいうえに噛まれたら死ぬとか……何でダンジョンの魔物ってこう凶悪なのばっかなんだろな。
先が思いやられるぜ。
『まったく人間ってのは話し好きだよな。話なんかする前にさっさと倒しゃいいんだよ、倒しゃー』
そう言うと、ドラちゃんが13階と同様に口から火を噴いてヴェノムタランチュラとポイズンスパイダーを焼いていった。
ゴォォォォォ―――ッ。
ヴェノムタランチュラとポイズンスパイダーは生命力が強いのか、ドラちゃんの火魔法をかいくぐって何匹か俺たちに向かってきた。
『スイがやるよー!』
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの放った酸弾が的確にヴェノムタランチュラとポイズンスパイダーを捕らえていく。
『よし、スイ、お前は俺の火魔法から抜け出たヤツを倒せ』
ドラちゃんがそう言うと、スイは『分かったー』とポンポン飛び跳ねた。
『スイ、俺もやるから回してくれよ』
クモはキモいけど、レベルアップのためには仕方ない。
『うーん、じゃあね、あるじには1匹だけね』
スイはたくさん倒したいだけなんだろうけど、却って俺にはありがたいぜ。
俺じゃ何匹も相手に出来そうにないからな。
じっくり確実に倒させてもらいますよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「せいッ」
スイから回ってきたヴェノムタランチュラの脳天にミスリルの槍を突き刺す。
ヴェノムタランチュラが消えると、白い糸の束が残されていた。
「ヴェノムタランチュラの糸が出ましたね」
「はい」
「それにしても、この階でも大量のドロップ品が手に入りましたね。私のアイテムボックスももう満杯に近いですよ」
ドラちゃんもスイもエンカウントした魔物は競うように逃さず殲滅しているから、その分ドロップ品の数がハンパない。
この階では大量のヴェノムタランチュラの糸やら毒袋やらが手に入っている。
この分だとこれからもドロップ品は大量に回収しないといけないし、とりあえずエルランドさんにはあれを渡しておくか。
「それじゃこれを渡しておきますからこれに入れてください」
俺は手持ちのマジックバッグをエルランドさんに渡した。
「マジックバッグですか。それではお借りします」
『おい、腹が減ったぞ』
『スイもお腹すいたー』
『うむ、ドラとスイの言うとおり確かに腹が減ったな。ダンジョンの外も夕刻だろう。夕飯にいい頃合だ』
エルランドさんと話していると、みんなが腹が減ったと言い始めた。
もうそんな時間か。
それなら今日の探索はひとまず終了ってことにしてもいいな。
「エルランドさん、みんな腹減ったみたいなんで、今日の探索はひとまず終わりにしましょう」
「もうそんな頃合ですか。順調過ぎて時間の感覚がおかしくなりますね。ハハハ」
エルランドさんの言うことも分かる。
フェルたちがいるとダンジョンも難なく進んで行くんだから。
このダンジョンも潜って初日にもう半分まで来てるもんな。
「フェル、セーフエリアがどこにあるか分かるか?」
『うむ、ちょっと待て。……そこの角を右に行くとすぐにあるようだ』
フェルの言うとおり行くと、通路を右に曲がった先にセーフエリアの入り口が見えた。
素早くみんなでセーフエリアへと入っていった。
ふぅと一息つきながら広々とした部屋の中へ入ると、そこには先客がいた。
この階で他の冒険者とかち合ったの初めてだ。
人間の男性2人に髭面ドワーフが1人、エルフの女性1人の4人パーティーのようだ。
気になって見ていると、向こうの冒険者たちもフェルたちを伴っていることも気になるのかチラチラとこちらを覗っていた。
「……もしかして、ドランのギルマスか?」
広く静かなセーフエリアにボソリとつぶやいた声がやけに響いた。
「おや? 見た顔ですね。あなたたちは確か…………Aランク冒険者パーティーの”アーク”でしたか?」
「やはりドランのギルドマスターでしたか。俺たちを覚えていてくれたとは嬉しいですね」
ここで出会った”アーク”という冒険者パーティーは、どうやらエルランドさんの顔見知りの冒険者たちのようだった。