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第二百四十四話 アリの集団

 11階で最初にエンカウントした魔物はアリだった。

 全長1メートル近くあるデカい黒アリだ。

「あれはキラーアントです。この階はキラーアントとその上位種が出て来ます」

 あのアリ、なんか口をカチカチ鳴らしてるんだけど……。

「キラーアントはDランクの魔物なので1匹1匹の個の力はたいしたことないんですが、とにかく数が多いんです。囲まれないよう気をつけてください」

 囲まれて食い付かれたら一瞬で骨になるまで食われ尽すそう。

 キラーアントは顎の力が強いから、噛まれると場合によっては腕や足を切断なんてこともあり得るという。

 こ、怖いね。

 とにかく集団で囲まれないように気を付けないと。

 うわっ、今ももう十数匹集まってこっちに向かってきてるよ。

「こういう魔物は囲まれる前に早め早めに攻撃して殲滅していくのが定石ですね。もちろん逃げ切れるだけの魔力と体力は温存しながらですが」

 確かにあんなにわらわら出てきたんじゃ、避けながら進むってことも難しいだろうしな。

『要はいつも俺たちがやってる先手必勝ってことだな。まかしとけ!』

 そう言ってドラちゃんがキラーアントの近くまで飛んでいき雷魔法を食らわせた。

 バチバチバチィィィィッ―――。

 キラーアントの周囲に電撃が走った。

 電撃を受けたキラーアントはひっくり返って息絶えた。

『ヘッ、どんなもんだい』

 はいはい、ドラちゃんの実力は分かってるからドヤ顔しない。

「すごい! さすがドラちゃんっ!」

 エルランドさんが拍手しながらドラちゃんを褒め称える。

『分かってんじゃねぇか、そこのエルフ』

 満更でもないのか、そう言うドラちゃんの念話が聞こえてきた。

 エルランドさんのドラちゃんアゲがひどいぜ。

 はい、さっさと進みますよ。

 通路を進んで行くと、またキラーアントの集団が現れた。

『スイがやるー!』

 ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。

 スイが酸弾を連射していく。

 スイの酸弾はことごとくキラーアントに命中して絶命していった。

『あるじー何か出たよー』

 そう言ってスイがキラーアントのドロップ品を拾ってきた。

「それはキラーアントの顎ですね。硬く丈夫でナイフの素材に重宝されていますよ」

 エルランドさんの話によると、このキラーアントの顎で作ったナイフは鉄のナイフより丈夫で切れ味も良く、錆びないから手入れも簡単で人気の一品なんだそうだ。

 鉄のナイフより丈夫で切れ味もいいのなら、これ取っておいてスイにナイフ作ってもらうのもいいかも。

 ミスリルのナイフだとどうしても目立つから、人目のあるところで使うものとしてキラーアントの顎のナイフを持っててもいいな。

 その後もキラーアントの集団を倒しながら通路を進んで行った。

 キラーアントの集団をいくつか倒し進んでいると……。

『止まれ。この先の角を曲がった先にキラーアントとその上位種の集団がいる』

 フェルの声だ。

 周りに他の冒険者がいなかったのもあってか、念話ではなく声に出して話ていた。

『我が行くぞ』

 そう言ってフェルが颯爽と駆けて行った。

 雑魚は相手にしてられないとか言いながら、どうやら我慢できなくなったみたいだな。

 フェルが駆けて行った方から”ザシュッザシュッ”と何かを斬る音がしたから、風魔法でも使ってキラーアントを始末したんだろう。

 フェルの下へ行くと、既にキラーアントはいなくドロップ品がその場に落ちていた。

「これは……キラーアントナイトがいたんですね」

 落ちていたドロップ品の黒光りした固い殻のようなものを見て、エルランドさんがそう言った。

 キラーアントナイトは、見た目はキラーアントとほぼ同じだが、キラーアントより一回り大きく固い殻のような表皮で覆われているそうだ。

『うむ。それは上位種のドロップ品だ』

「これはキラーアントナイトの外殻ですね。軽くて丈夫なので鎧の素材としては人気の品なんですよ」

 革鎧は軽いが余程いい素材でないと丈夫さには欠け、金属鎧は頑丈だが金属で一番軽いと言われるミスリルを使っていたとしてもある程度の重さがあるうえに動きも阻害される。

 その中間にあるのが、ある程度の軽さと丈夫さを兼ね備えたのが昆虫系の魔物の外殻で出来た鎧なんだそうだ。

 少し懐に余裕も出てきた中級冒険者には特に人気があるとのことだ。

「ナディヤさんがボヤいてましたよ、最近は昆虫系の魔物の外殻が買取に出される数が少ないって。数が少ない今なら、いつもより少し高値で買取してくれるかもしれませんね。これはうちのギルドでも欲しい素材ですよ」

 ほー、エルランドさんとこもか。

 ダンジョンの街は冒険者がわんさかいる街でもあるし、武器防具の素材はいくらあってもいいってことなのかもね。

 まぁ、でもドロップされるかどうかは運もあるからね。

 とにかくどんどん進んでいくとしますか。

 フェルも攻撃に加わったことで、この階の探索は更にサクサク進んでいった。

 他の冒険者とかち合わないようにしながらいくつかの部屋も回り、キラーアントの顎とキラーアントナイトの外殻もそれなりの数手に入れることができた。

 そして、この階のボス部屋の前に俺たちは来ていた。

「あ、前の冒険者パーティーの戦闘が終わったみたいですね」

 エルランドさんがそう言うので、俺もボス部屋を覗いてみた。

 満身創痍のボロボロの冒険者5人組が、ポーションをあおりながらこちらにゆっくりと歩いてきた。

 どうやら先には進まないようだ。

 無言のまま俺たちの脇を通り過ぎていった。

「それじゃ、行きますか」

 そう声をかけみんなでボス部屋の中へ入って行った。

 中にいたのはひしめき合うキラーアントの山だった。

「す、すごい数ですね……」

「ええ。キラーアントナイトもけっこういますね。もしかして奥にキラーアントクィーンがいるかもしれませんよ」

 エルランドさんの話によると、キラーアントクィーンというのはキラーアントの最上位種で、このボス部屋でもめったに出ないということだった。

「キラーアントクィーンがいるなら、幸運ならあれが出るかもしれませんね」

「あれって何ですか?」

 エルランドさんにそう聞いたところで……。

『うわぁいっぱーい。スイね、ビュッビュッてしていっぱい倒すよー!』

『ヒャッハーッ! 俺だって負けないぜ!』

 そう言ってスイとドラちゃんが山のようになった大量のキラーアントに向かっていった。

 そして、スイは酸弾、ドラちゃんは氷魔法を使ってキラーアントの山を削っていった。

 数分も経たないうちにキラーアントの山はきれいに片付いて、残ったのは数匹のキラーアントナイトととんでもなくドデカいアリだった。

「大量のキラーアントに隠れて見えませんでしたが、いましたね。ナイトの奥にいる大きなやつがキラーアントクィーンですよ」

「デ、デカッ」

 キラーアントクィーンは思わずそう言ってしまうくらいのデカさで、普通のキラーアントの3倍近い大きさだ。

 戦闘力はほとんどないが大量のキラーアントを生み出すということで、Bランクに指定されているそうだ。

「めったに出ないキラーアントクィーンが出たということは更に運がよければいい物がドロップされますよ」

 いい物か、さっきも「キラーアントクィーンがいるなら、幸運ならあれが出るかもしれませんね」とか言ってたよな。

 キラーアントクィーンには珍しいドロップ品があるのかもしれない。

 とにかく倒してみないとわかんないか。

『スイがあのデッカイのやるよー』

『おいっ、ズリィぞ。俺がやる!』

『スイがやるのー』

『俺がやるんだ!』

 スイもドラちゃんも一歩も譲らない。

 まったくスイもドラちゃんもやる気満々過ぎるね。

『スイもドラも待て。お主らはさっき黒アリどもをやっただろ。最後は我がやる。異論は認めんぞ』

 フェルはそう言うとすぐに攻撃態勢に入った。

 右前脚を一振り二振り。

 ザシュッ、ザシュッ―――。

 フェルの爪斬撃(そうざんげき)でキラーアントクィーンがナイト共々一瞬で細切れになっていった。

 ……いつものことだけど、あっけないな。

「あっ、出てますよ。運がいいですね~。私が言っていたのはこれですよ」

 そう言ってエルランドさんが拾ったドロップ品を見せてくれた。

 エルランドさんが手にしていたのは、拳大の虹色に輝くオパールのような宝石だった。

「キラーアントクィーンの目です。目と言われていますが、扱いは宝石です。これだけの大きさのものは、私も久しぶりに見ましたよ」

 キラーアントクィーンの目は、その美しさから宝飾品として人気があり、指輪やネックレス、ブローチなどに加工されるそうだ。

 エルランドさんの話では、虹色に輝くそれは貴族にも人気の品で、ここまで大きいものだとすぐに買手がつくだろうとのことだった。

 滅多に手に入らないようだから、運が良かったぜ。

 この他にも、キラーアントクィーンの小ぶりな魔石とそれからキラーアントナイトの外殻をいくつか、それとキラーアントの顎がけっこうな数あった。

 もちろん全て回収して、俺たちは12階へと向かった。






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[一言] 〉『分かってんじゃねぇか、そこのエルフ』 満更でもないのか、そう言うドラちゃんの念話が聞こえてきた。 唯一ドラちゃんが見せた最初で最後のエルランドさんへのささやかな好意 好き好き追いかけ回…
ムコーダさん巨大な蟻の目は大丈夫なんすげー笑 虫苦手な俺としてはそれだけで尊敬
[一言] 息つく間もなく、読み進めました。 今日は、この辺まで。
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