第二百四十二話 ダンジョンで飯
『あるじー、お腹空いたのー』
『うむ。我もだ』
『俺もー』
10階に出たところで、みんなが腹が減ったと伝えてきた。
第一関門の9階を突破したし、ここら辺で休憩入れるのもいいか。
「エルランドさん、第一関門の9階を突破しましたし、ここら辺で飯にしませんか?」
「10階に到達したことですし、この辺で休息をとるのはいいかもしれませんね。そうなると……確かこの階の最初のセーフエリアはここからすぐにあったと記憶してるんですよね。みなさん付いてきてください」
エルランドさんにそう言われて、俺たちはエルランドさんの後に付いていった。
「ホワイトキャタピラーがいますね。私がやります」
エルランドさんが見ている通路の先を見ると、全長1メートル半くらいありそうな白い芋虫がゆっくりとこちらに向かって這って来ていた。
デカい芋虫、気持ち悪ッ。
「ホワイトキャタピラーは動きは遅いですが、粘性の強い糸を吐き出すんですよ。その糸に触れると動きが阻害されるだけでなく、外すのにも厄介なので遠距離から攻撃するのが一番確実です」
ほうほう、勉強になるね。
って、あ、今白い糸吐き出した。
けっこう飛ばすね。
2メートルくらいは糸飛ばしてるぞ。
エルランドさんの言うとおり、近くには寄らずに遠距離から攻撃するのが無難だな。
「それじゃ、いきますね。ウィンドカッター」
ヒュンッ、ヒュンッ―――。
風の刃がホワイトキャタピラーを切り裂いた。
「ピギィィィィィ」
甲高い断末魔を上げた後にホワイトキャタピラーが消えていった。
ホワイトキャタピラーが消えた通路を進んでいく。
「あとこの階にはグレイキャタピラーという魔物が出るんですが、そちらは特に注意ですよ。グレイキャタピラーは、体の表面に毛が生えているんですが、それに触れると触れた部分が痺れて麻痺状態になるんです。しかも、一定の距離に近づくと、その毛を飛ばしてきますから」
毛が生えてるって毛虫か。
デカい毛虫も気持ち悪いな。
エルランドさんの話だと、その痺れは長くても30分程度ということだけど、魔物がわんさかいるダンジョンでは命取りにもなりかねないぞ。
ナディヤさんの話だと、10階から17階の昆虫ゾーンは下に行けば行くほど毒持ちのモンスターも混じってくるって話だったし、ホント状態異常無効化持ってて良かったぜ。
あんな神様たちだけど、そこは感謝だね。
そうこうしているうちにセーフエリアに着いた。
中はけっこう広く、ドランのダンジョンのセーフエリアのように水場はないものの倍くらいの広さがありそうだ。
ここのダンジョンは8階と10階から12階の辺りに冒険者が多いという話だったけど、話に違わずここのセーフエリアにもけっこう人がいた。
それでも部屋が広い分俺たちが休むスペースも十分確保できそうだ。
ちょうど壁際に空いてるスペースがあり、俺たちはそこで休むことにした。
「ふぅ、それじゃ飯にしますか」
『ご飯、ご飯~』
『うむ、早く用意しろ』
『飯だ、飯、飯』
うちの腹ペコ軍団が催促してくる。
はいはい、ちょっとお待ちよ。
えーと、何にしようかな…………あ、これにしよう。
旅に出る前に作り置きした中で残ってた肉巻きおにぎりと豚汁だ。
いつものようにネイホフで買った皿に盛ろうとして止めた。
ここはダンジョンだから床が石で出来ている。
フェルたちの皿を石の床の上に置いて、みんながガツガツ食ってたら陶器の皿が石の床にぶつかって割れるかもしれない。
それに、ここはエルランドさんや他の冒険者もいるし、陶器の皿でフェルたちが食ってたら卒倒されそうだぜ。
惜しみなく金を使って買った皿は、見る人が見ればいい値段するものだって分かりそうだからな。
ここは無難に陶器の皿を買う前に使っていた木皿を使うことにした。
木皿に肉巻きおにぎりを山盛り載せて、深めの木皿に豚汁をよそっていく。
「はい」
フェルとドラちゃんとスイに出してやった。
『む、いつもの皿はどうした?』
『あれは陶器で出来てるから、ここで使うと割れるかもしれないから止めた』
『うむ、確かにこの石の床に置いては割れるかもしれんな。あの皿は気に入っていたのだが仕方ないか』
フェルってば何気にあの皿気に入ってたんだな。
何も言わないから皿なんて何でもいいのかと思ってたよ。
フェルもドラちゃんもスイも腹が減ってたからかガツガツ食っている。
さて、俺たちも食わないと俺たちの分がなくなりそうだ。
俺とエルランドさんの分をフェルたちより一回り小さい木皿に取り分けた。
それからネットスーパーで買った冷えた水の入った陶器製のピッチャーを出して、木のコップに注いでいく。
この陶器製のピッチャーはネイホフで買ったものだ。
ネイホフで借りた屋敷にあったピッチャーを見て、ピッチャー欲しいなって思ったんだ。
焼き物の街なんだし、陶器製のピッチャーならありそうだと思って街を出る前に通りの店に寄って急遽買ったんだ。
それまでは水はペットボトルのままアイテムボックスに入れておいたけど、このピッチャーを買ってからはペットボトルとピッチャーに入れたものを保存しておいた。
用意しておいて良かったぜ。
「エルランドさん、どうぞ」
「おおっ、いい匂いですね~。非常に美味しそうです」
肉巻きおにぎりにはフォークを、豚汁にはスプーンをつけた。
肉巻きおにぎりは本当なら手でつかんで食いたいところだけど、手が汚れてるしここの世界の人に手づかみは難易度が高いだろうからね。
ちょっと食い難いけどフォークで我慢だ。
肉巻きおにぎりをフォークでブスリと刺してかぶりつく。
うむ、美味い。
甘辛いタレと米の組み合わせはいつでもどこでも美味いな。
エルランドさんも俺に倣って肉巻きおにぎりをフォークで刺してかぶりついている。
「はぁ、これは美味しいですね~。この甘じょっぱい味がたまりません。ダンジョンでこんな美味しいご飯にありつけるとは思いもしませんでした」
肉巻きおにぎりはエルランドさんの口にも合ったようで、パクパク食っている。
『『『おかわり』』』
フェルとドラちゃんとスイのおかわりが来た。
『こっちの肉が巻いてある方をくれ』
フェルは豚汁には野菜がたっぷり入ってるから避けたな。
よそってやった分は食ったみたいだけどさ。
豚汁美味いのに。
『俺は両方ともだ。こっちの肉が巻いてる方は多めで、スープの方はさっきの半分でいいや』
ドラちゃんは肉巻きおにぎり多めで豚汁半分か。
ってか注文が多いぞ。
『あるじー、スイもどっちもおかわりー。いっぱいちょーだいねー』
スイも両方おかわりか。
よし、スイは大盛りにしてやるからな。
みんなの分のおかわりをよそって出してやった。
俺も再び食い始める。
あー、豚汁ウメェ。
肉巻きおにぎりと豚汁の組み合わせ最高だな。
「このスープ、具がたくさん入っていて美味しいですねぇ」
エルランドさん、豚汁も気に入ってくれたみたいだね。
野菜もたっぷり入ったけっこう自慢の一品だから、気に入ってもらえてちょっと嬉しい。
「おかわりどうですか?」
「おお、それではいただきます」
エルランドさんに豚汁のおかわりをよそってやった。
ゴクリ……。
誰かが唾を飲み込む音が聞こえた。
さっきからセーフエリア内にいる他の冒険者たちの視線を感じる。
やらんぞ、君たち。
ダンジョン内で飯は貴重なんだから。
飯は死守だ。
冒険者たちの視線もどこ吹く風で、フェルとスイはいつものように何度もおかわりしてたよ。
俺たち一行は、たっぷり飯を食った後に少しの休憩を挟んで10階の探索の開始した。