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第二百三十九話 聖刻印をペタンとな

 いよいよ9階だ。

 初めてアンデッドと対峙することになる。

「次のアンデッド階層はとにかく素早く通り抜けることが肝心です。みなさん後れを取らないよう気を付けてください」

 エルランドさんが珍しく真剣な顔でそう言った。

「いえ、アンデッドも倒していきますよ。実はこういうものを手に入れたんです……」

 俺はエルランドさんに聖刻印を見せた。

「これは聖刻印と言って、教会の聖印の強化版です」

 エルランドさんにそう伝えると目を丸くして驚いている。

「そ、そ、そんなものどこで手に入れたんですかっ?!」

 聖印も教会で使われてるのは複製で、実物はルバノフ教の総本山に置いてあるっていうからね。

 国宝みたいな感じで厳重に保存されているものなんだろう。

 それの強化版っていうんだから、エルランドさんも驚くか。

「えーと、それは秘密です」

 神様からいただきましたとはさすがに言えないからな。

「とにかく、こういうものを手に入れたわけですから、有効に使っていきたいと思います。効果はですね、さっきも言った通り聖印の強化版みたいな感じです。武器などにこの聖刻印を押して、それで攻撃するとアンデッドは消滅します。その効果は丸1日保つようです」

 ヘファイストス様とヴァハグン様から聞いたことをエルランドさんに説明していった。

「いやいやいや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ。な、な、何ですかその効果っ。確かに聖印の強化版ですが、強化され過ぎじゃないですかっ」

 エルランドさんが驚くのも無理ないけど、一応神様が作ってくれたものだからね。

 酒好きコンビ、ホントにグッジョブだぜ。

「武器などにとおっしゃってましたが、裏を返せば武器以外でも効果はあるということですよね? 例えば魔法で攻撃するならば、その魔法を撃つ本人にその聖刻印とやらを押せば、アンデッドに魔法攻撃が効くということですよね? しかも、その効果が丸1日保つですって?!」

 ちょ、ちょっと、エルランドさん迫ってこないでほしい。

 顔、顔が近いから。

「お、落ち着いてくださいよ」

 エルランドさんの肩を押して落ち着くように促す。

「これが落ち着いていられますかっ! 聖魔法以外にアンデッドに有効なものをムコーダさんは手にしているんですよ! しかも、効果は絶大なのにただ押すだけというお手軽なものを! これは国宝級、いやそれ以上の代物ですからね!」

 そう言われればそうなんだけど、神様がくれたんだからしょうがないでしょ。

 良すぎる性能については、神様に文句言ってくださいよ。

「あー、その、これのことは内密に願います」

「当然ですよ! こんな国宝級、いやそれ以上と言っていいものを個人が所有しているなんて怖くて言えませんからね!」

 す、すんません。

「それにしても、フェンリルを従魔にし、さらに魔剣カラドボルグにこの聖刻印という個人では持ちえないものを所有してるムコーダさんはいったい何者なんですか?」

 呆れた顔でエルランドさんがそう聞いてくる。

「何者って、普通の冒険者ですけど……」

 異世界召喚に巻き込まれた異世界の元サラリーマンって肩書もあるけど。

「普通の冒険者って、普通なわけないじゃないですか、まったく……」

 そう言ってエルランドさんが呆れている。

 エルランドさんに呆れられてる俺って……。

 ちょっと納得いかないけど、まぁいいや。

「それじゃ、聖刻印を押して9階を攻略していきましょう。フェルとドラちゃんとスイに直接体に、俺とエルランドさんは武器に……」

「ちょ、ちょっと待ってください。いろいろあったので心を落ち着かせてから」

 そう言いながらエルランドさんがドラちゃんに熱視線を送る。

「ドラちゃんを抱っこさせてください。そうすれば心穏やかになると思いますんで」

 そう言いながら両手をわきわき動かす。

『な、何だコイツは……来んなっ。ってか、俺は誰にでも触らせるほど安くはねぇぞ!』

 そう言ってドラちゃんがエルランドさんから距離をとる。

「あぁっ、ドラちゃぁぁん」

 エルランドさんが離れていくドラちゃんに向かって手を伸ばした。

「しつこくすると嫌われるかと思って今まで我慢してたんですから、ちょっとくらいいいじゃないですかぁぁっ」

 ドラちゃんに熱視線は送るものの大人しくしてたのはそういう理由かよ。

『こいつ、事あるごとに俺のことジーッと見てきて気持ち悪いったらありゃしねぇ。こいつに抱っこされるなんて絶対に嫌だからな!』

 ドラちゃん……。

 ものすごい拒否反応だね。

 気持ち悪いって、エルランドさんが聞いたら号泣するぞ。

『ドラちゃん、抱っこはさせないからさ、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ触らせてやってくんないかな?』

 念話でドラちゃんにそう言うと『えー』と不満げだ。

『この人にはこれからも世話になるんだよ。ちょっとだけでいいから、お願い。ダンジョンから出たら好物のプリンいっぱい食わしてやるからさ』

 エルランドさんには赤竜(レッドドラゴン)のことでお願いしなきゃならんし、あんまり無碍にもできないんだよ。

『チッ、しょうがねぇなぁ。プリンのこと忘れんなよな!』

 プリンで釣ってなんとか触ることだけは了承してもらって、ドラちゃんが渋々だが俺の腕の中に収まった。

「エルランドさん、抱っこは無理ですけど、触るのは了解してもらえましたよ」

「おおっ、おおおぉぉぉっ」

 エルランドさんがすかさずにじり寄ってくる。

 ドラちゃんじゃないけど、キモイです、エルランドさん。

「それでは……」

 エルランドさんがドラちゃんの背中に触れた。

 ナデナデ、ナデナデ。

 ドラちゃんに触れたことがよほど嬉しいのか、端正な顔がニヘラッと崩れている。

 その手が頭に行こうとすると……。

『頭は触んな』

 ドラちゃんがピシャリ。

「あー、エルランドさん、頭はダメです」

「エェーッ」

 エルランドさんも不満げではあるが、従ってくれる。

 仕方がないというように背中を撫で続ける。

 もちろん顔はニヤケているんだけどね。

「抱っこはダメって言いますけど、ムコーダさんは抱っこしてますよねぇ」

「ああ、いや、そこはほら、俺たち従魔契約結んでますから」

「ぐぬぬぬぬ、やはり従魔契約ですか……」

 エルランドさんが悔しそうな顔をする。

 そして小声で「私もいつかドラゴンと従魔契約を結ばねば」とつぶやいた。

 結ばねばって、無理だと思いますけど。

『なぁ、もういいだろう』

 ドラちゃんも限界に近いらしい。

「エルランドさん、もういいでしょう」

「えー、もう少し、もう少しだけ」

「あんまりしつこいとそれこそ嫌われますよ」

「グッ……」

 エルランドさんが渋々という感じで、ドラちゃんから手を退けた。

「それじゃ、聖刻印を押していきましょう。まずは俺の槍に押してみますね」

 俺は聖刻印に魔力を流しながらミスリルの槍の刃の部分に押してみた。

 この世界の文字とも違う、象形文字のようなものが一瞬淡く光りながら浮き出たと思ったら吸い込まれるように消えていった。

 次はフェルたちにと思ったけど、これ、痛くないよな?

 うーん、とりあえず俺自身に押してみて試してみるか。

 なんかあったとしてもスイ特製ポーションもあるし、スイ特製エリクサーも3本ほど作り置きしてあるから大丈夫だろう。

 試しに手の甲に押してみた。

 ちょっと温かくなった感じがしただけで何ともない。

「押したときにちょっと温かく感じるだけで何ともないから大丈夫だ。フェル、ドラちゃん、スイ、押してくよ」

『うむ』

 フェルのもっさりとした毛をかき分けて、首のあたりに聖刻印をペタンと押した。

『お主の言った通り何ともないな。これで、アンデッドを屠れるのか。彼奴らは面倒なだけで避けることが多かったが、ククク、これで思う存分始末できるな』

 なんかフェルが黒いぞ。

 フェルが強いとはいえ、今までアンデッドには分が悪かったんだろうからな。

『次は俺だ』

 ドラちゃんも首のあたりに聖刻印をペタンと押す。

『これでアンデッドに攻撃が効くわけだな。俺だってアンデッド倒しまくってやるぜー!』

 ドラちゃんもやる気満々だ。

『スイもー』

 はいはい。

 スイにはプヨプヨつるつるの頭のてっぺんに聖刻印をペタッと。

『スイもビュッビュッてしていっぱい倒すよーっ!』

 スイもやる気満々だ。

 ってスイはいつもやる気満々か。

「最後は私ですね。私も魔法は得意ですから、手の甲にも押してください」

 エルランドさんの希望で愛用の剣と手の甲に聖刻印を押していった。

「よし、これで準備はいいですね。アンデッドの階層とあって、今までそんなに人の手は入ってないと思うんです。良いものが手に入るかもしれないし、積極的に探索していきましょう」

 俺たち一行は9階のアンデッドがひしめく階層へと踏み込んだ。






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― 新着の感想 ―
ドラちゃんとエルランドさんの関係が キャバ嬢と その嬢を指名するセクハラ常連客の やり取りを見ているみたい。 ムコーダが店長、No1嬢がフェルで、店長のお気に入りの嬢がスイってところか。
エルランドさんは、究極のドラゴン馬鹿なので、ドラちゃんの主であるムコーダさんを裏切らない。良いとこなしだと思ったけど、そこだけは信じても良いと思った。
[一言] いいねボタンを押す間もなく、ここまで読み進みました。
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