第二百三十七話 ダンジョン突入
入り口に立っている兵士にギルドカードを見せてダンジョンの中へと入る。
エルランドさんは厳密に言うと冒険者ではないから、ダンジョンに入る前に登録するともらえるダンジョンカードを見せて入った。
冒険者以外がダンジョンに潜る場合は、登録時にこのダンジョンカードが発行されて、それを見せてからダンジョンに入ることになるんだそう。
中は事前に聞いていたとおり四方を石壁で囲まれた古典的なダンジョンという感じだ。
石壁で囲まれた通路はどういう仕組みなのかは分からないが、明る過ぎず暗過ぎず一定の明度を保っている。
「スイ、ダンジョンの中入ったぞ」
そう言うと、スイが革鞄からピョンっと飛び出してきた。
『ダンジョン、ダンジョン』
スイは楽しそうにポンポン飛び跳ねている。
『最初のうちは雑魚しかおらんようだ。さっさと進むぞ。乗れ』
気配で分かるフェルがそう言った。
フェルはエルランドさんが同行するからか念話を使ってきた。
エルランドさんはフェルが人語を話せるって知ってるけど、ダンジョン内は他の冒険者もいるしね。
「ちょっと待って。エルランドさん、ここのダンジョンは8階層と11、12階層あたりに人が多いみたいですけど、ドロップ品とか宝箱なんかもそのあたりの階層から見込める感じなんですか?」
「そうだね。6、7階層からも見込めるけど、そのあたりのは初級冒険者に譲ってあげた方がいいと思うよ。ムコーダさんもSランクだし私も引退はしたけど元Sランクだからね、本格的に探索するのは13階あたりからでもいいと思うよ」
13階か。
その階層は、確か昆虫ゾーンだな。
その前の9階がアンデッドの階層だから、そこでヘファイストス様とヴァハグン様からもらった聖刻印も試しておきたい。
あと、その聖刻印を試す前に今回のために新調した槍を使って慣れておきたい。
槍を少し振ってみた感触としてはなんとかいけそうな気はするけど、やっぱり使ってみないと分からないからね。
「実を言うと、アンデッドは初めてなんです。だから9階で少し慣れておきたいんです。それと、今回のために槍を新調したんで、それも9階のアンデッド階層の前に使ってみたいんで、8階から探索してってもいいですかね?」
「そういう話でしたらもちろん大丈夫ですよ」
「フェルもそれでいいか?」
『8階か。雑魚の気配しかせんが、まぁいいだろう。一気に行くぞ、乗れ』
乗れって今回は俺だけじゃなくエルランドさんもいるんだよ。
こういうときは……。
『スイ、エルランドさんを乗せてやってくれるか?』
スイに念話でお願いした。
『うん、いいよー』
スイがフェルくらいの大きさになった。
大きくなったスイにエルランドさんが「おおっ」と声を出して驚いている。
「8階まで一気に進んじゃいますんで、エルランドさんはスイに乗ってください」
「え、え、いいのかい?」
「はい、大丈夫です。スイも進化して、大きさもある程度自在に変えることができるようになったんです。だから、人を乗せることもできるようになったんですよ」
俺がそう言うと「ほー」と感心しきりだ。
「スライムも従魔にするとそのような進化をするんですね」
「いや、スイは特殊個体だからだと思いますよ。スライムを従魔にしたからと言って必ずしも進化するとは限らないでしょうし」
「確かに。その前にスライムを従魔にするテイマー自体、私もムコーダさん以外には聞いたことがありませんからね。ハハハ」
そりゃそうだろうね。
スライムって雑魚扱いだし。
うちのスイが特別なんだよね。
『おい、早く乗れ』
早く進みたいフェルに急かされる。
「それじゃエルランドさん、スイに乗ってください」
俺がそう言うとエルランドさんが恐る恐るという感じでスイに乗った。
「お、思ったよりも乗り心地がいいですね」
プニプニしてるからね。
ウォーターベッドに乗った感覚に近いんだよね。
エルランドさんがスイに乗ったのを見届けて、俺もフェルの背に乗った。
『みなに結界をはっておく。それでは行くぞ』
「おう、ありがとな。ドラちゃんとスイは遅れず付いてきてくれよ」
『おうよ』
『分かったー』
俺たち一行はフェルを先頭にダンジョンを進んで行った。
石壁に囲まれた通路をどんどん進む。
聞いていたとおり1階から3階にはビッグラットとジャイアントバットがいたが、元々雑魚なのもあるしフェルの結界もあって「あれ、いたの?」ってくらい難なく突破した。
4階からはゴブリンが出てきたが、これもそのままスルーだ。
時々初心者と思しき若い冒険者たちがいてその横を駆け抜けていくと、みんな俺たちを見てポカンとした顔をしていた。
ま、気持ちは分かるけどダンジョン内で気を抜いちゃダメだぜ。
俺たち一行は、気配察知ができるフェルを先頭にすいすい進んで行った。
ダンジョンに入って約1時間後―――。
『この階段を下った先が8階だ』
フェルにそう言われてフェルの背から降りた。
「いやぁ、驚きですね。ダンジョンをこんなに早く進むなんて」
スイから降りながらエルランドさんがそう言う。
「フェルのおかげですよ。気配察知はお手の物ですからね。な、フェル」
俺がそう言うと、フェルがちょっと照れているのかぶっきらぼうに『我にかかれば造作もないことよ』と返して来た。
「さすがはフェンリルといったところですね」
エルランドさんもさすがにこれには感心しきりだ。
フェルの気配察知は普段からかなり助かってるもんな。
「それじゃ、申し訳ないですけど8階から探索ってことでよろしくお願いします」
「はい」
いよいよ8階。
槍を試すときだ。
スイに作ってもらったミスリルの槍をアイテムボックスから取り出した。
「ほぅ、ミスリルの槍ですか。初めて槍を使うということですが、最初から奮発しましたねぇ。まぁ、ムコーダさん稼いでらっしゃいますからありなんでしょうけど。ハハハ」
俺は曖昧に「いやまぁ……」と答えておいた。
初心者なのにミスリルの槍っていうのは、やっぱりそう思われるか。
でも、実のところ自前だからほとんどかかってないですけどね。
かなりいい出来だけど。
この槍、スイに作ってもらった後に少し改造してもらってるしね。
この槍は柄のところもミスリルで出来てるんだけど、ツルツルして滑りそうだったから柄のところをちょっと改造してある。
滑りにくいように凸凹したエンボス加工をスイに施してもらったんだ。
スイに説明してもなかなか通じなくてどうしようって思ったけど、そういや包丁とかで滑りにくいように柄がエンボス加工のものがあったなって思いだしたんだ。
それでちょっとネットスーパーで探してみたら、そういう包丁を見つけたんだよ。
それを見せてこんな感じにってスイにお願いした。
エンボス加工を施した槍は滑り難くくなって使いやすくなった。
「ちなみに私の武器はこれです」
エルランドさんが腰に下げていた鞘から取り出したのはミスリル製の細身の長剣だった。
「冒険者時代から愛用してます。でも、ムコーダさんから買わせていただいた地竜の牙で作ったドラゴンソードも愛剣になる予定なんですけどね~。ムフフフフフ」
エルランドさん、今問題発言サラッと言ったね。
地竜の牙で作った剣はギルド所有だし、ギルドに飾る予定じゃなかったっけ?
ギルドにとっても冒険者集めの目玉になるからってさ。
「いや、あれギルドの所有じゃ……」
「ゴホンッ、いやですね、も、もちろんそうですよ。時々ほんのちょっと使わせてもらおうと思ってるだけです」
いや今更ダダ漏れの本音を取り繕われてもさ。
ま、まぁ、エルランドさんだしね。
あとはドランの冒険者ギルドで何とかしてください。
「それじゃ、行きますか」
「はい」
『みんな、槍の訓練もしたいから、全部倒さないで俺にも回してくれよ』
フェルとドラちゃんとスイに念話でそう伝えて、俺たち一行は8階の探索へと繰り出した。