第二百三十六話 目立ってます
俺たちはダンジョンに入るための列に並んでいた。
周りがちょっとうるさいのにはうんざりする。
「あれ、ドランの冒険者ギルドのギルドマスターのエルランドだよな?」
「元Sランク冒険者のエルランドだ」
「隣にいる従魔連れの冒険者、最近噂になってるやつだよな?」
「何でドランのギルドマスターがこんなとこにいるんだよ」
「エルランドの隣にいる従魔連れ、最近噂のムコーダとかいう奴だろ?」
等々いろいろ言われてます。
みんなコソコソ言ってるけど、聞こえてるから。
レベルが上がったからなのか知らないけど、耳が良くなってるんだからな。
小声でも結構聞こえるんだぞ。
とは言っても、目立つのは致し方ないか。
フェルたちがいるだけでも目立つっていうのに、今回はエルランドさんまで一緒なんだもんなぁ。
ダンジョン都市ドランの冒険者ギルドのギルドマスターだもんなぁ、ここにいる冒険者の中でもエルランドさん知ってる人多そう。
ドランのギルドマスターがいたらそら目立つわな。
ここは聞こえないふりをしておくのが無難なんだろうね。
聞こえない聞こえない、無視無視。
そう言い聞かせながら周りへと視線を移した。
ここエイヴリングのダンジョンもドランのダンジョンと同じ感じだ。
街の壁の外にあって、その周りには商魂たくましい商人たちの露店がズラリと並んでいる。
ダンジョンの入り口近くには、冒険者ギルドの出張所もあるようだ。
「ドランのダンジョンと似てますね」
「ダンジョンの入り口の周りはたいていこんなもんですよ。この国にはもう1つダンジョンがありますけど、そこもこんな感じです」
へー、そうなんだ。
ダンジョンがあれば人が集まってくるし、商人がそれを逃すわけないか。
ん?あれは……。
「ドランの街発祥の揚げ芋だよ~。ホクホクしてて美味しいよ~」
あれはドランの商人ギルドで俺が披露したフライドポテトやないかい。
その屋台がもうこの街に出来ていた。
伝わるの早っ。
「ああ、あの揚げ芋ってムコーダさんが教えたものなんですよね。ドランの街でも大人気ですよ。ちょっとした子供のおやつにもなるし、酒のつまみにもピッタリだって。私も食べましたよ。あれエールに合いますよね~」
俺が揚げ芋の屋台をジッと見ているのに気付き、エルランドさんがそう言った。
エルランドさんももう食ったのか。
フライドポテトを出す店、そんなに増えたんだな。
まぁ、材料もそんなに必要ないし簡単だもんな。
だから教えたんだけどさ。
普通に食っても美味いし、つまみにも持って来いだしね。
揚げたてのフライドポテトにビール……合わないはずがないな。
って、いかんいかん食いたくなってきたじゃないか。
「あ、そうだ、本当に食料は用意しなくて大丈夫なんですか?」
食い物の話題になったからなのか、エルランドさんがそう聞いてきた。
道すがら、ダンジョンに潜るなら食料が少ないからそれだけは補充したいってエルランドさんが言ってきたんだけど、ダンジョン用の飯なら俺がたっぷり用意してあるから大丈夫だって伝えてたんだ。
「大丈夫ですって。アイテムボックスにたっぷり用意してきましたんで」
昨日一日かけてたっぷり用意してきたからな。
エルランドさん1人加わっても十分賄えるだろう。
もし足りなくなったとしても、俺にはネットスーパーがあるから飢える心配はない。
ま、エルランドさんにネットスーパーを使ってるところは見られないようにしなきゃいけないけどな。
「飢え死にしてアンデッドの仲間入りなんてことだけは勘弁してくださいよ」
「アハハ、そんなことにはなりませんって」
ネットスーパーのスキルがある俺がいて万が一にもそんなことになるわけないね。
「心配無用です。フェルたちがいるのに飯に妥協なんてできないですから、食料は多めに用意してありますからね」
飯なしとかクソ不味い携帯食なんてことになったら俺がフェルたちにボコられちゃうよ。
「そうおっしゃるなら食料のことはお任せしますんで、よろしくお願いしますよ」
エルランドさんもようやく納得してくれたみたいだ。
でもさすが元Sランク冒険者だね。
ダンジョンでの食料の重要性はよくと分かってらっしゃる。
「そうだ、エルランドさんは冒険者時代にここのダンジョンに潜ったことあるんですか?」
「ええ。とは言っても17階までですけどね」
17階までか、やっぱり次の18階がアンデッド階層だからそこで止めったってことかな?
「17階っていうと、18階にアンデッド階層があるからですか?」
「そうです。やはりアンデッドが厄介ですからね。パーティーで話し合った結果、そこまで無理しなくていいだろうってことになって17階までで止めました」
そりゃあ命あっての物種だもんな。
でも、Sランクパーティーでもアンデッドは手こずるもんなのか?
「Sランクパーティーでもアンデッドは遠慮したいもんですか?」
「そりゃそうですね。基本的に物理攻撃も魔法攻撃も効かないですし。アンデッド階層の対処としては、ダメージを与えてその隙に進んで行く感じになりますからね。正直、けっこう面倒なんですよ。しかも囲まれたりなんかしたら消耗戦必至ですし」
そう言ってエルランドさんが嫌そうな顔をした。
アンデッドに囲まれる…………そんな状況になったら生き残れる気がしないぜ。
「アンデッド対策としては一応教会の聖印もありますけど、正直たいした効果じゃないですしね」
教会の聖印ね。
アンデッドに対して10回程度攻撃すると効果が切れるってことだったもんな。
けっこう高い金取られるようなこと聞いたけど、その割には効果がショボいよな。
「でも、今回はみなさんと一緒ですし、踏破間違いなしですね」
そう断言されるのも困るんだけど。
フェルたちもいるし、アンデッド対策に神様からもらったアイテムがあるから一応大丈夫だとは思うけどさ。
ヘファイストス様とヴァハグン様から聖刻印もらっておいて本当に良かったぜ。
とにかく、9階の最初のアンデッド階層で試してみないとな。
「あ、次が私たちの番ですよ。私も久々のダンジョンですから楽しみです。しかも今回はドラちゃんと一緒……ムフフフフフフ」
エルランドさん、気持ち悪いです。
さて、いよいよダンジョンだ。
気合入れて入りますか。