第二百二十一話 サーベルタイガー
掲示板を見ているが、芳しくない。
森側の依頼があんまりいいのないね。
「何だ、依頼受けてくれるのか?」
まだいたのかリア充、もといマルクスさん。
「ええ。フェルたちが運動がてら森で狩りをしたいって言うんで、ついでに受けられる依頼があればと思って」
「森側のかぁ。今のとこ高ランク向けの依頼はねぇな」
マルクスさんの言うとおり、高ランク向けの依頼がほぼない。
低~中ランク向けの依頼はけっこうあるんだけどね。
んー、どうすっかな……ん?
俺は掲示板の端っこに貼ってあった依頼に目を留めた。
「マルクスさん、このサーベルタイガーの依頼って……」
「ああ、それか。それは常時貼り出してあるっていうかなぁ……」
何でもこの街に家督を息子に継いで隠居した伯爵様だか子爵様だかの貴族がいて、そのお方の趣味が剥製を集めることなんだそう。
そのお方がサーベルタイガーを所望されているそうだ。
「急ぎではないって言うしな。そもそもこの辺でサーベルタイガーなんて見ねぇし、依頼の報酬もこの内容にしちゃちょっと低めってのもあって、結局そのまま貼り出されてもう1年くらいになってるな」
報酬は素材込みで金貨70枚。
確かサーベルタイガーってAランクだったよな。
それを考えるとこの報酬は低いってことなんかね。
というか、俺、サーベルタイガー持ってんだけど。
ドランの街にいたときだったかな、フェルとドラちゃんが狩りに行ったときに、ドラちゃんが獲ってきたやつだ。
サーベルタイガーは不味くて食えないってことだったからそのままになってたんだ。
きっとこのままアイテムボックスの肥やしになるだけだし、ここは放出しちゃってもいいような気がする。
「あのー、俺サーベルタイガー持ってるんですけど、それ出したら依頼達成になるんですか?」
「ん? 何だ、お前持ってるのか?」
「はい。旅の途中で狩ったやつがありますんで」
「あれもなかなか狩れるようなもんじゃないんだが、まぁ、お前だからなぁ。持っててもおかしくないか」
え、俺だから何よ?
何かマルクスさんの中での俺の扱いがおかしいと思う。
俺はいたって普通で高ランクの魔物をサクサクッと狩ってくるのは、フェルやドラちゃんやスイですから。
「そのサーベルタイガーを提出してもらえばそれで依頼達成になるぞ。これは討伐系の依頼じゃないからな。討伐系の依頼は討伐して依頼達成となるが、これは素材収集の依頼だ。その素材さえありゃ依頼は達成だ」
「あ、そのサーベルタイガー胴体に穴が開いてるんですけど、大丈夫ですかね?」
ドラちゃんの攻撃でどてっぱらに穴が開いているんだよ。
「剥製にするのは頭だって言ってたから大丈夫だとは思うが……サーベルタイガーを目にするのは久しぶりだし、どれ、俺が見てやる。倉庫行くぞ」
そう言って意気揚々と大股で歩くマルクスさんのあとに付いていった。
「それじゃ出してみろ」
俺はアイテムボックスからサーベルタイガーを出した。
「おお、確かにサーベルタイガーだな。お前の言うとおり腹に穴が開いてはいるが……うむ、大丈夫だろう。それにしても、この穴はどんな攻撃したんだ?」
「いや、これはですね……」
『俺だ! 俺がやったんだぜー』
そう言って俺たちの周りをドラちゃんが飛び回る。
『ドラちゃん、念話は俺とフェルとスイにしか聞こえないからな』
『チッ、そうだったぜ。俺の雄姿を人間に聞かせてやりたかったのに』
まぁまぁ、とにかくドラちゃんは落ちつけ。
「このサーベルタイガーはこのピクシードラゴンが狩ったんですよ」
俺がそう言うとマルクスさんが少し驚いていた。
「見かけによらず、そのちっせぇドラゴンは強いみたいだな」
そうなんですよ。
うちの従魔はみんな強いんです。
あ、倉庫に来たならついでに解体お願いしておくか。
「すみません、別にオークの解体をお願いして大丈夫ですかね? 肉だけ戻してもらって、他の素材は買取でお願いします」
「おう、オークだな。いいぞ」
それじゃということで、俺はアイテムボックスからオークを10体ほど取り出した。
「オークが10か。今日の夕方には大丈夫だろう。おう、オメーら大丈夫だな?」
マルクスさんが解体担当の職員たちに声をかけると「はいっ」と元気のいい返事が返ってきた。
「解体の費用はいかほどになります?」
「何言ってんだ。ここのギルドも散々儲けさせてもらったのに、お前から費用なんか取れないぜ」
おお、費用はかからないのか。
ありがたいね。
「それじゃ、サーベルタイガーの依頼の報酬もそのときに一緒にお願いできますか」
「分かった、用意しておくぜ」
『終わったのか? 早く森へ行くぞ』
フェルが焦れてきたのか、そう声を上げた。
「ああ、今終わったところ。それじゃ、森に行くか。それじゃマルクスさん、森に行って来ます」
「おう。あ、何か大物獲ったらここ持って来いよ。解体費用タダにしてやっから。その代わり肉以外の素材は全部買取させてくれよ」
「分かりました」
さて、森に向かいますか。
こうして俺たちはベルレアンの街を出て森へと向かった。