第二百十三話 こういうものも持ってるんですが……
昼近くまで屋台をめぐり、ようやくフェルとスイが満足した。
『うむ、美味かったぞ』
『美味しかった~。スイ、お腹いっぱーい』
そりゃあんだけ食えばね。
『オメェら食い過ぎ』
ドラちゃんもフェルとスイの食いっぷりにちょっと呆れ気味だ。
とは言っても、ドラちゃんもけっこう食って、腹がポッコリ膨れているけどな。
この分だとみんな昼飯はいらんだろうね。
『あーダメだ、飛ぶのツレェ』
そう言うのと同時にドラちゃんが俺の後頭部にしがみついた。
「ド、ドラちゃん?」
『食いすぎたから飛ぶの大変なんだよ。お前が主なんだから従魔の面倒は見なきゃいけないんだぜ』
だからってね……。
ドラちゃんは俺の後頭部にしがみついて肩に足を乗せて肩車状態で完全に居座る気だ。
「はぁ~、しょうがないなぁ」
『ほれほれ、次はどこ行くんだ?』
「次は冒険者ギルドだよ。昨日のクラーケンとシーサーペントとアスピドケロンの素材の買取代金受け取りにいかなきゃなんないからな」
『んじゃ、冒険者ギルドへ行くぞ』
「はいはい、ってあれ? スイは?」
さっきまで俺の足元にいたスイがいない。
スイを探してキョロキョロしていると『スイならとっくに鞄の中だぞ』とフェル。
鞄の中をそっと覗くと、スイちゃんが寝てたよ。
早っ。
さて、気を取り直して、冒険者ギルドに行きますか。
俺はドラちゃんを肩車したまま、フェルを従え冒険者ギルドに向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドに入ると、ドラちゃんを肩車してるからかジーッと見られたよ。
かまわずそのまま窓口に行くと、受付嬢もギョッとしてたというか、頬がピクピクしてた。
笑いたいなら笑ったらいいさ。
というか、いい加減にドラちゃん降りてくんないかな。
その後、すぐに2階のギルドマスターの部屋に案内された。
「おー、来たか……ってなんじゃそりゃ?」
マルクスさんが机から顔を上げて、俺の姿を見てそう言った。
「いやまぁ、従魔と戯れてるとでも思ってください」
「そ、そうなのか?」
「そうなんです」
うん、そういうことにしといてください。
べ、別にドラちゃんのタクシー代わりになったわけじゃないんだぜ。
「この書類だけ仕上げちまうから、そこに座ってちょっと待っててくれや」
「はい」
俺はイスに座ってドラちゃんに念話を送った。
『ほら、ドラちゃん降りて。俺の横に座って』
『へいへい』
渋々という感じでドラちゃんが俺から降りて俺の隣に座った。
肩の重みがとれてちょっとホッとした。
だってドラちゃん案外重いんだもんな。
職員の人が出してくれた玄米茶に似た香ばしさのあるお茶をすする。
書類と格闘するマルクスさんをそっと見る。
見てくれから察するにマルクスさんも現役時代はブイブイ言わせてたんだろうけど、ギルドマスターになると書類仕事も多そうだし大変だね。
10分くらい待っていると、ようやく書類仕事が片付いたのかマルクスさんが机を離れてこちらにやって来た。
「待たせてすまんな。ギルドマスターになると書類仕事も多いんだが、俺はどうもこういうのが苦手でな。人よりも時間がかかっちまう」
マルクスさん、どう見ても体育会系だもんね。
体動かす方が得意でしょ。
「んじゃ早速だが、昨日のクラーケンとシーサーペントとアスピドケロンの精算だ。まずは、クラーケンだな。目・口・吸盤・魔石諸々あわせて金貨628枚だ」
おおー、さすがSランクだ。
マルクスさんの話を聞くと、やはり魔石の評価が高かったみたいだ。
クラーケンの魔石はけっこうデカかったもんな。
「んで、次がシーサーペントだな。こっちは皮・骨・牙・魔石諸々あわせて金貨659枚だな」
こっちも高額になったね。
シーサーペントもSランクだもんな。
マルクスさんの話では、何といってもシーサーペントは13年ぶりの水揚げだし各素材も高値になったそうだ。
皮と牙は既に買手も決まっているとのこと。
買手は地元の武器商会らしい。
どっから情報を得たのかわからんけど、知るの早過ぎだね。
シーサーペントもクラーケンと一緒で1番評価が高かったのは魔石とのこと。
これの魔石もデカかったからな。
やっぱり魔石はデカければデカいほど高価になるね。
「最後にアスピドケロンだ。これは、鱗・骨・魔石諸々あわせて金貨452枚だ」
アスピドケロンもけっこうな額になったな。
Sランクだけどその中でも下の方って聞いてたから、もっと少ないと思ってた。
それに魔石と鱗に次いで金になる身をこっちにもらっちゃってるからね。
それがあったからあんまり期待はしてなかったんだけど、金貨452枚にもなったんだな。
「買取の合計が金貨1739枚だ。そんで、クラーケンの討伐報酬が金貨400枚。全部で金貨2139枚だな」
おぅ、また金が増えた。
フェルたちのおかげでどんどん金が貯まっていくね。
「ヨーランの爺から聞いているが、大金貨で支払った方がいいんだろ?」
「はい、それでお願いします」
金貨は十分持ってるからね、すぐ使わない分は大金貨でもらった方がありがたい。
「そんじゃ大金貨213枚と金貨9枚だ。確認してくれい」
えーと、大金貨が1、2、3…………213枚と金貨9枚。
うん、OKだ。
「はい、あります」
「そんでこの間話したダンジョン産のもんの話なんだが……」
そうそう、今手元にある分のリストを作成したのにまだマルクスさんに渡してなかったんだ。
「残ってる分のリスト作ったので渡しておきますね」
俺は作成したリストをマルクスさんに渡した。
「おおっ、随分あるな。さすが踏破者だ。というか、ドランで買取してもまだこんだけ残ってんのか?」
「ええ。ドランでは数が多かった皮と魔石を中心に買取っていただいたんで、他のものが大分残っているんです」
「やっぱりその辺は早い者勝ちか。うちも皮は欲しいところなんだがな」
革鎧になる皮の素材はどこでも不足気味って言ってたからな。
ギルドとしちゃ確保したかったんだろうね。
でも……。
「皮ならありますよ。ヴァースキの皮とかマンティコアの皮とかギュスターブの皮とか」
「お前なぁ、そんな高価なもん買ったら1枚買ってそんで終わりになっちまうだろう」
チェッ、ここでも下層階のドロップ品は捌けないか。
捌けてない物って言えば、あれもあるんだった。
地竜の素材。
地竜の血やら目玉やら臓器各種が残ってるんだよね。
皮はちょっと無理にしても、このベルレアンの冒険者ギルドはけっこう大きいし、話を持ちかけてみるだけ持ちかけてみようかな。
「あのー、ダンジョン産の品々以外にもこういうものも持ってるんですが、買取しませんか?」
地竜の素材の一部、血の入った瓶と目玉の入った瓶を出して見せた。
「これは?」
「地竜の血と目玉です」
「ブッ」
あ、噴出した。
そ、そんなに驚かなくてもいいんじゃないんですかね。
「お、お、お、お前、そ、そ、そんなのも仕留めてたのかっ?!」
いや、俺が仕留めたんじゃないですからね。
フェルが仕留めたんです。
「はぁ、地竜か……。見せられると、地竜の素材も手に入れたくなるな。特に血はいろいろと利用価値があるからな。ダンジョン産のものも捨てがたいしな……。もう少しよく考えたいから明後日まで待ってもらえるか?」
マルクスさんにそう言われて、俺は承諾した。
あんまり溜め込むと管理が大変になってくるし、捌けるときに捌けるのはこっちもありがたいしね。
よし、これで用も済んだし、帰りますか。
俺たちはマルクスさんに別れを告げて、冒険者ギルドを後にした。
ただ今のムコーダ所持金額
推定金貨39,800枚