第百九十話 Fランク冒険者
「すんません。ちょっとここで休ませてもらってもいいですか?」
少年少女5人組の中のリーダーらしき少年がそう聞いてきた。
5人とも少年少女の溌剌さなどはなく、見るからに疲れきった様子だ。
「俺はムコーダっていうんだけど、俺も一応は冒険者なんだ。君たちも冒険者だろう? 何があったんだ?」
あまりの疲れた様子の少年少女たちに思わずそう聞くと、リーダーの少年が話し出した。
「ムコーダさんの言うとおり、俺たちは冒険者です。とは言っても、冒険者になってまだ半年だし、この間Fランクに上がったばっかりなんですけど……」
話を聞いていくと、彼らはネイホフの街に住む幼馴染同士で作った冒険者パーティーで”嵐の使者”というのだそうだ。
みんな15歳で、リーダーの剣士の少年がアントン、同じく剣士の少年のフィリップ、弓士の少女のブリジッタ、魔法使いの少年のパウル、同じく魔法使いの少女のリヴィアの5人組。
ようやくこの間みんなFランクに上がり、魔物の討伐の依頼を受けられるようになったということだった。
そこでみんなで受けたのがFランクの依頼のブラウンボアの討伐だった。
ネイホフから歩いて1日のレニエという小さな村からの依頼で、畑を荒らすブラウンボアがここ最近出没するようになったから討伐して欲しいという依頼内容だったそうだ。
「ブラウンボアならこの5人でも十分討伐できると思ったんだ……」
ブラウンボアというのは1メートル弱の猪の魔物で、同じ猪の魔物のレッドボアの半分くらいの大きさだ。
俺もチラっと見たことはあるし、捕獲も難しくないとかでその肉は街でも一般的に売られている。
フェル曰くあまり美味くないということで、うちの食卓には上がったことはないが。
依頼を受けてレニエ村に行ったのだが、出てきたのはブラウンボアだけではなかったそうだ。
「ブラウンボアって聞いてたのに、レッドボアも出てきたんだ」
ブラウンボアが出てきて、それは順調に倒したそうだが、その直後にレッドボアが出てきたんだそうだ。
レッドボアのことは聞いてなかったし、自分たちのランクでは5人力を合わせてもギリギリ倒せるかどうかってところでみんなパニック状態になってしまったそう。
何とかみんなで戦ったそうだけど、やはりFランク。
かなりヤバイ状態だったらしい。
「本当に危なかった。あの時、パウルの機転がなかったら、メンバーの誰かが大怪我してたぜ」
なんでも魔法使いのパウルが機転を利かせ土魔法のピットフォール(まあ簡単に言えば落とし穴だな)を使って、レッドボアを穴に落としたことで何とか難を逃れたそうだ。
あとは穴に落としたレッドボアをみんなでタコ殴りにしてレッドボアを倒したということだった。
「教官や先輩冒険者にさんざん”依頼では予想外のことが起きることもある。それを肝に銘じておけ”って言われてたんだけどな。いざとなるとさ……」
アントンがそう言うと、みんな頷いていた。
「初めての街の外の依頼ってことで、私たち舞い上がってた部分もあったわよね。初めてだからこそ気を付けなきゃいけなかったのに」
そう反省の言葉を口にしたのはブリジッタだった。
なるほどね、思わぬ敵に出会って心身ともに疲労困憊ってことか。
冒険者って言っても俺の場合はフェルとドラちゃんとスイに頼ってる部分が大きい。
だから何も言えないし、言うべきじゃないと思うんだ。
でもさ……。
「なぁ、みんな腹減ってないか?」
そう聞くと、グゥーっと5人の少年少女の腹が盛大に鳴いた。
俺はアイテムボックスから皿を出して、それに焼いた肉やソーセージ、野菜を載せて出してやった。
「ほら、これ食って元気出せ」
俺に出来ることはこんくらいのことだ。
最初は戸惑ってたけど「遠慮すんな」と言うと、みんなガツガツ食い始めた。
「ウ、ウメェッ!」
「美味いッ!」
「ホント、これ美味しい!」
「美味しいですっ!」
「美味しいーっ」
さすが食い盛り。
最初に肉に手を出してガツガツ食ってるね。
うちは肉だけはいいもん使ってるからね。
肉を口いっぱいに頬張るみんなに木のコップに水を注いでそれもみんなに出してやった。
「まだまだあるから、落ちついて食いなよ」
『おい、我もまだ食うぞ』
『俺にも、その肉詰めたのくれよ』
『スイもー』
少年少女の食いっぷりを見て自分たちもと思ったのか、フェルとドラちゃんとスイが催促してくる。
「はいはい」
俺はみんなの皿に焼けた肉とソーセージを載せてやった。
「その魔物って、ムコーダさんの従魔ですか?」
リヴィアが興味深々って感じでそう聞いてくる。
「ああ、俺の従魔だよ。こっちのデカいのがフェルで、小っちゃいドラゴンがドラちゃん、このスライムがスイっていうんだ」
フェルとドラちゃんとスイをみんなに紹介した。
「おおっ、やっぱりドラゴンなんだ! それってドラゴンの子供なんすか?」
ちょっぴり脳筋ぽい風体のフィリップはドラゴンのドラちゃんに興味があるようだ。
「いや、ドラちゃんはこれで成体なんだよ。ピクシードラゴンっていう珍しい種類なんだ」
「へー、ピクシードラゴンなんて初めて聞いたぜ。でも、やっぱドラゴンはドラゴンなんすね。やった! 初めてドラゴン見たぜ!」
初めてドラゴンを見たと言ってフィリップが喜んでいる。
「従魔、従魔を連れた冒険者…………あっ! もしや、あなたは……」
「何だよパウル?」
「いや、僕この間冒険者ギルドで噂を耳にしたんだよ。従魔連れのAランクの冒険者がネイホフの街に来るって……」
「「「「Aランクッ?!」」」」
パウル以外の4人が俺を凝視してハモるようにそう言った。
いや、まあね、一応これでもAランクってことになってるんだよね、俺ってば。
ほぼフェルとドラちゃんとスイのおかげだけど。
その後は、飯を食いながら少年少女たちからいろいろ質問攻めにあった。
俺としては自分の力でAランクになったわけじゃないから、のらりくらりと質問をかわしたけど。
でもちょっと罪悪感。
みんなキラキラした目で見てくるんだもんなぁ。
そんなこんなで飯も腹いっぱい食ったところで飯タイムもお開きに。
「あ、そうだ。この後みんなはどうするんだ?」
そう聞くと、このままネイホフの街まで歩いて帰るとのこと。
「ムコーダさんに美味い飯食わせてもらったから、もうひと頑張りするよ」
「ああ、さっきまではめちゃくちゃ疲れてたけど、美味いもん食ったら元気になったもんな」
「そうね、頑張れば日暮れ前には街に着きそうだし」
「ああ。ダメでも門の前で野営して明日の朝街に入ればいいし」
「ええ。街の前までは行けそうだものね」
うーん、やっぱり歩きだとそれくらいかかっちゃうか。
さすがにみんなフェルに乗るのは無理だし……。
あっ!
「スイ、この5人を乗せられるくらいに大きくなって移動することってできる?」
『うん、大丈夫だよー。ただフェルおじちゃんほど早くは進めないけど』
「そうかそうか。それじゃ、この5人乗せてやってくれるか?」
『いいよー。それじゃ大きくなるねー』
そう言うと、スイがワゴン車くらいのデカさに早変わりする。
「うおっ、スライムが大きくなった」
デカくなったスイをみて5人が驚いている。
「じゃ、5人ともスイに乗って」
「「「「「え?」」」」」
「いや、みんなそんなに疲れてるのに歩いて帰るの大変でしょ。俺たちもネイホフの街に帰ることだし、一緒に帰ろうよ。ささ、乗った乗った」
そういうと、恐る恐るという感じで5人はスイによじ登っていった。
「落ちないように気を付けろよ」
俺はもちろんフェルの背中だ。
「それじゃ、街に帰るぞー」
俺のその言葉とともにネイホフの街へと進んで行った。
5人を乗せたスイは早かった。
もちろんフェルのような速度は出せないものの、馬車の倍はいく速さで進んで行く。
その速さにスイに乗った5人は大はしゃぎしていた。
「おーい、街が見えてきたぞ」
5人とも「え、もう?!」と驚いていた。
スイのおかげで俺たちは明るいうちに街に戻ることができた。
デカくなったスイで門の前まで乗り付けたら、スイのデカさに門番の兵士がちょっとビビってた。
でも、一応Aランクっていうことで俺のことは覚えていてくれたようで問題なく街には入れたよ。
もちろん門の前で5人にはスイから降りてもらって、スイも元の大きさに戻ったよ。
「ムコーダさん、それじゃ明日の昼ごろ、冒険者ギルドの前で待ち合わせってことでいいかな?」
「うん、それでお願いできるかな。でも、悪いね、せっかくの休みに街を案内してもらうことになって」
いろいろ話していて、明日はこの5人に街を案内してもらえることになったんだ。
「うちの実家も客連れてったら喜ぶだろうし」
「うちも冒険者の中でも稼ぎ頭のAランクの冒険者を連れてったら驚くだろうけど喜びそうだわ」
アントンとブリジッタの実家は工房主らしく、そこへも案内してもらう予定になっているのだ。
食器類は色々買いたいし、じっくり見せていただきますよ。
「それじゃ、また明日」
そう声をかけて5人と別れた。
明日は冒険者ギルドで報酬やら買取代金を受け取ったら、5人に案内してもらって街を散策だ。