第百八十六話 キュクロープス
俺たちはキュクロープス討伐のために採掘場に来ていた。
採掘場は元は山なのか、その山が階段状に土が削られていく形で広がっていた。
その採掘場をこっそりうかがうと、いるね。
「あれが、キュクロープスか……」
身長4メートル近くあろうかというキュクロープスがのっしのっしと我が物顔で採掘場を歩き回っていた。
『あいかわらず図体だけはデケェな』
ドラちゃんがキュクロープスを見てそう言う。
『だが、あれはデカいだけでノロマだ。我らの敵ではない。さっさと倒すとしよう。行くぞ、ドラ、スイ』
「あ、ちょっと待ってっ!」
フェルが駆け出しそうになるのを止めた。
『ぬぅ、何なのだ?』
せっかく勢いよく飛び出そうとしたのを止められて、フェルがちょっと不服そうだ。
「キュクロープスは皮が素材になるみたいだから、なるべく傷をつけないように倒してくれな」
ヨーランさんから聞いた話では、キュクロープスの素材は皮と眼球、それからAランクだから魔石だとのことだ。
できればそれも買い取りできればありがたいって話はヨーランさんからされているんだよ。
『傷をつけぬようにか……ううむ』
「難しかったらいいぞ」
『難しいわけがなかろう。分かったぞ、なるべく傷つけないように倒してやろう』
プライドが騒いだのか、フェルがなるべく傷つけないように倒すと宣言した。
『ドラ、スイ、聞いていただろう。キュクロープスはなるべく傷つけないように倒すぞ。行くぞ!』
『おうよっ!』
『うんっ!』
フェルが先陣を切って飛び出すと、ドラちゃんとスイもそれに続いた。
俺は邪魔になるだろうから、もちろん後方から見学だぞ。
「ゴァァァッ」
キュクロープスがフェルたちに気付いて、その太くて大きな足で踏み潰そうと足を上げた。
―――ダンッ。
一呼吸置いて、というか少し間が空いてからキュクロープスが足を踏み下ろした。
……うん、動作が遅いね。
フェルとドラちゃんがノロマって言ってたけど、それは事実だったよ。
このスピードじゃ、フェルにもドラちゃんにもスイにもかすりもしないよ。
『ウォンッ』
フェルが一鳴きし、助走をつけて飛び上がった。
そして、キュクロープスの腕を足場にしてその頭の上まで飛び上がる。
バチンッ―――。
飛び上がったフェルの前足から電撃が繰り出されて、キュクロープスの脳天に直撃した。
強力なスタンガンを脳天に食らったようなものだ。
「ゴアァァァァァァッ」
苦しそうに叫び声を上げてキュクロープスが膝を突いた。
そこへドラちゃんが小さい体と素早さを生かして近付いていく。
キュクロープスの懐に潜り込み……。
ドゴンッ―――。
『ヒャッホウッ! 心の臓めがけて電撃を食らわしてやったぜ!』
ド、ドラちゃん、正常に動いてる心臓に電撃って……。
エグい攻撃だな。
「ゴ……ゴァァ……」
キュクロープスは心臓を手で押さえて前かがみになり虫の息だ。
『次はスイだよーっ』
スイのかけ声と共に、伸ばされた触手の先から酸弾が放たれる。
ビュッ―――。
高速で撃ち出された酸の弾丸がキュクロープスの腹を貫いた。
「ゴ、ァ…………」
ドシンッ―――。
前かがみのまま息絶えたキュクロープスが、その体勢で横に倒れた。
キュクロープス討伐完了だ。
『うむ、やったな』
『ハハッ、やったぜ! 俺たちにかかれば造作もねぇな!』
『わーい、ヤッター!』
フェルは当然だと言わんばかりに深く頷いてるね。
ドラちゃんはドヤ顔で飛び回ってるし。
スイは嬉しそうに高速でポンポン飛び跳ねてる。
それにしても、あっけなかったね。
予想はしてたけどさ。
脳天と心臓に電撃食らって、最後は腹を撃ちぬかれて息絶えるとはね……。
壮絶な死に様だけど、まぁ、ここで働いていた人が何人かキュクロープスの犠牲になったことを考えると、自業自得と言うしかない。
俺はみんなの下へ向かった。
「こんな短時間で倒すなんて、みんなさすがだね」
『我らの手にかかれば、このようなもの木っ端にしか過ぎんわ』
ドヤ顔でフェルがそう言う。
Aランクのキュクロープスを木っ端扱いってね、血の滲む思いをしながらランクを上げている冒険者の人たちが聞いたら泣くぞ。
まぁフェルとドラちゃんとスイがタッグを組んだら、空飛ぶデカいドラゴンでも簡単に狩れそうだけどさ。
実際にフェルは地竜を狩ってきたしね。
ドラゴン好きのエルランドさんから聞いた話だけど、空飛ぶデカいドラゴンには赤竜とか黒竜なんかがいるらしいぞ。
Sランク指定でかなり凶暴だという話だったけど、フェルとドラちゃんとスイのチームならイケるだろう。
まぁ聞いた限りじゃ数は極めて少ないらしいから会うこともないだろうけどね。
さぁてと、キュクロープスを回収しちゃいますか。
キュクロープスを検分してみると、フェルの電撃を受けた脳天に少し焦げた痕があるのと、同じくドラちゃんから電撃を受けた胸に少し焦げた痕があり、スイの酸弾に貫かれた腹に2センチ程度の穴が空いていたくらいだった。
キュクロープスの皮にほとんど傷はない。
すごいな、俺が言ったことちゃんと守ってあるよ。
俺はキュクロープスの亡骸をアイテムボックスにしまった。
「どうする? 早く終わったし、もう街にもどろうか?」
随分早く終わったから、太陽がまだ真上にある時間帯だ。
『いや、帰る前に飯が先だ』
『俺も腹減ったー』
『スイもお腹減ったー』
ああ、そうだったね。
そういう時間帯でもあった。
んじゃ、ここで飯食ってから帰るか。
って、作り置きは全部食っちゃったし、何にしようかな。
アイテムボックスの中を確認してみる。
炊いた米だけはあるんだよな……。
それと当然肉がある。
米、米、米、肉、肉、肉…………あ、あれにしよう。