第百八十二話 初夏のスイーツフェア
「みなさん、いますかー?」
呼びかけるとワッと神様たちの歓声が聞こえた。
「それじゃ、早速みなさんのご所望を聞いていきますので、最初はいつも通りニンリル様ですか?」
こういうことはさっさと聞いて終わらせるのに限るね。
『おおーっ、待っておったのじゃーっ。お主の言うとおり、最初は妾の番じゃ。この前の不三家のケーキは最高に美味しかったのじゃ! もちろん妾にはまた不三家のケーキなのじゃっ、早う早うッ』
早う早うじゃないよ。
送るのはみんなの注文を聞いてからだからね。
「この前の続きからでいいですか?」
確かこの前は不三家のカットケーキのメニューにあるのを最初から順に15個だったんだよな。
その次からとなると……。
カットケーキのメニューにあるの続きからだと8個しかないな。
「ニンリル様、メニュー見えてますか? この前の続きからだと、カットケーキは8個なんですけど、他はどうします? 何か”初夏のスイーツフェア”ってのをやってるみたいなんで、それでいいですか? 限定メニューなんで今の時期だけのケーキみたいですけど」
『なぬッ?! げ、限定メニューだとッ?! 見せてみろッ!』
ニンリル様がそう言うので、スイーツフェアのメニューを見せた。
『むほーッ、ど、ど、どれも美味しそうなのじゃッ! ぜ、全部じゃッ、全部欲しいのじゃッ!!』
こっちを全部選ぶとなると予算オーバーだ。
「こっち全部選ぶとなると、カットケーキ減らさないと予算オーバーですよ。どうしますか?」
『むぅ、そうなのか? 全部欲しいのじゃ、ダメなのか?』
「ダメです。ニンリル様だけ優遇するわけにはいきませんよ」
『ぬぅ~ケチ臭いのう。仕方ない限定メニューを優先でお願いするのじゃ。こっちは今の時期しか食えぬ限定だからのう』
「わかりました」
俺は、”初夏のスイーツフェア”の限定メニューをカートに入れていく。
塩を使った白いロールケーキやモンブラン、果実のジュレのケーキなど涼し気なケーキが並ぶ。
菓子に塩?って最初見たときはびっくりしたけど、塩を使った菓子ってけっこう流行ってたもんな。
ほんのり塩を利かせると甘みが際立って美味いらしいぞ。
残りの予算でカットケーキを7つ選んでいく。
1個分足りなかったね、これは次に持ち越しで。
「次はキシャール様ですか」
順番も覚えちゃったぜ。
『そうよ~。私は今回は化粧水が欲しいわね。前に頼んだのが少なくなってきたの』
前に頼んだ化粧水っていうと、少し高めの化粧水か。
確か前回はそれと同じラインのクリームだったんだよな。
「分かりましたけど、それ以外はどうします? 同じシリーズの洗顔料にでもしますか?」
『それいいわね。それでお願いするわ』
俺は少し高めの化粧水と同じシリーズの洗顔料をカートに入れた。
洗顔料は銀貨2枚だったから、あと銀貨1枚分残ってるな。
「キシャール様、予算があと銀貨1枚残ってますけどどうします? 俺のおすすめだと入浴剤がいいかと思いますけど」
『入浴剤ね、いいわねー。あれ香りもいいけど、あれを入れてお風呂に入ると疲れが取れるのよね』
入浴剤は種類も多いし、見せた方が早いとメニューを開いた。
「見えてますか?」
『ええ、見えてるわよー』
「俺のおすすめは炭酸ガスが出るこの錠剤のタイプですね。香りを楽しむっていうのなら、このハーブの香りの詰め合わせなんてどうですか?」
『いいわね~、それお願い』
「あともう1ついけますね。もう1つはどれにしますか?」
『うーん、肌がスベスベになるようなものはないかしら?』
「そういう効果があるやつなら……この辺のものはそういう効果があるものですね」
『たくさんあるのね。迷うわねぇ。この中でも香りの良さそうなのってどれかしら?』
うーん、そういわれてもねぇ。
「あ、これなんてどうです? 乾燥肌にいいって書いてあって、香りはスウィートフルーティーって書いてあるから果物の香りですね」
『あら、それ良さそうね。それでお願いするわ』
ということで、その入浴剤も購入した。
「えーと、次はアグニ様ですかね」
『おう、オレだ。この前のビールすっげぇ美味かった! 特にあの6本ずつ組みになってるのは美味かったな。あれをまた頼むぞ。それ以外は適当にお前の選んだもんでいいぞ』
おお、この間選んだビール気に入ってくれたみたいだね。
確かA社のプレミアムなビールとK社のプレミアムなビールとYビスビールだったな。
それぞれ6本パックを購入した。
アグニ様はビールが好きとのことだったから、ビールもう少し多めでもいいかも。
お、Yビスのビールで新商品出てるな。
ちょっと高いけど、これも良さそうなのでこれの6本パックもカートに入れる。
あとは黒ビールもいいな。
この間俺が飲んだA社の辛口ビールの黒とK社のビールと言えばこれの黒、それからYビスのクリーミーな泡が特徴の黒とS社のプレミアムな黒を選んでみた。
このほかにもいくつかあるし、国産の黒ってけっこうあるんだね。
最後はチリ産のワインを1本購入して予算使い切ったな。
「次はルカ様ですね」
『あなたの作るご飯も美味しそうだけど……やっぱり不三家のケーキがいい。ニンリルと同じの。私も限定のが欲しい』
ルカ様が珍しく自己主張してくる。
不三家のケーキは相当気に入ったみたいだね。
やっぱり限定メニューは興味をそそられるか。
俺はルカ様の希望通りニンリル様と同じものを選んで購入していった。
最後はあの酒好きコンビだな。
「次はヘファイストス様とヴァハグン様ですね」
『うむ、そうじゃ』
『そうだぜー』
「それで、今回はどうしますか?」
『この前の世界一のウイスキー。あれはびっくりするほど美味かったぞい』
『ああ、あんな美味い酒は初めてだったな』
ああ、国産S社のウイスキーね。
『あれは絶対に入れてくれ。儂ら1人ずつにな』
『ああ、あれは1人で存分に飲みたいからな』
お2人とも国産S社のウイスキーにハマったみたいだね。
「それ以外はどうしますか?」
『ウイスキーがいいのじゃが、そんなに予算は残ってなかろう?』
あのS社のウイスキーってけっこうするからね。
それでもこのラインナップの中では確か一番安い奴だ。
「そうですね。それほど多くは残ってないですね」
『どうする、鍛冶神の』
『それなら、まだ儂らが飲んだことのない物がいいと思うんじゃが、どうだ戦神の』
『それはいいな。新しい味を知るのはいいぞ』
「じゃあ、お2人がまだ飲んだことがないウイスキーですね」
2人が飲んだことないのねぇ。
あんまり覚えてないんだけど……。
あ、これは買ってないような気がするんだけど。
国産K社の山の絵のやつだ。
「これってお2人とも飲んだことありましたっけ?」
メニューにあるK社の山の絵のウイスキーを指さしながら聞いてみる。
『どれどれ、む、これは飲んだ覚えがないのう。なぁ戦神の』
『ああ、この瓶は見覚えねぇな』
「じゃあ、これにしますね」
あともう1本だな。
あ、この薔薇の絵柄のアメリカ産のウイスキーはまだだった気がするな。
「これはどうですか?」
『うむ、これも見た覚えがないのう。な?』
『ああ、飲んでねぇな』
よし、じゃあこれでと。
ギリギリあと1本安いのならいけるかな。
このアメリカ産の黄色いラベルのなら値段的にも大丈夫そうだし、多分買ったことなかったな。
「最後にこの1本になりますが、飲んだことなかったやつですよね?」
『おう、見た覚えねぇな』
『儂もじゃ』
よし、最後はこれで。
これでOKだね。
俺はお馴染みの段ボールの祭壇にそれぞれの分を載せていった。
「皆様どうぞお受け取り下さい」
そう言うと、段ボール祭壇の品々が消えていく。
神々が品物に駆け寄って歓声を上げるのが聞こえた。
は~、終わった。
さて、さっさと寝よう。
そう思って部屋を出ようとしたところで、野太い声が聞こえてくる。
『そうだ、お主、レベルはどうなったんじゃ?』
この声はヘファイストス様か。
「どうって、この前から今までの間に戦闘なんてしてませんから変わってないと思いますけど」
『ぬぅ、そうなのか』
「従魔たちがみんな強いんで私の出番はないんですよ。……あ、でも明日はちょっと試してみたいことがあるんで、少しだけ戦闘するかもしれませんけど」
明日はイビルプラントの討伐の予定だけど、ちょっと考えてることがあるんだよね。
『おお、そうかそうか。がんばるんじゃぞ』
「あのですね、明日ちょっと戦闘しただけじゃレベルは上がらないと思いますよ」
ちょっとー、レベル上げ強要はなしって言ったんだけどな。
『まぁ、お前に言われてるから俺たちもこれ以上は言わないけどな、少しは戦闘した方がいいぞ。いざという時に腕が鈍ってたら命にかかわるからな』
この声はヴァハグン様の声か。
まぁ、確かにそれは一理あるけど。
戦闘はフェルたちに任せっきりだけど、いざというとき自分の身を守れなかったら元も子もないしね。
『まぁ、とりあえずがんばれよ。それじゃあな』
ヴァハグン様のその言葉とともにプツンと通信が切れた。
はぁ、テナントのことなんだろうけど、明日イビルプラント討伐したくらいじゃそんなにレベル上がんないって。
まったくそんなレベルなんてホイホイ上がるわけないのにねぇ。
はー、明日もあるし寝よ寝よ。
(鍛冶神と戦神の会話)
『聞いたか、戦神の』
『ああ。明日戦闘するんだってな』
『ガハハハハハ、どれくらいレベルが上がるのか楽しみだのう』
『アハハハハハ、そうだな。何せ俺たちがこっそり付けたあのスキルがあるからな』
『『獲得経験値倍化がのう(がな)』』
『ガハハ』
『アハハ』
『ガハハハハハハ』
『アハハハハハハ』




