第百四十七話 な、なんかすごいの出た
転移した先の30階層は、石壁に囲まれた半円形の直径300メートルはあろうかという大きな部屋だった。
俺たちがいる場所の反対側には、大型トレーラー並みの大きさの黒っぽくて角の無いサイのような巨大な魔物がいた。
「グルォォォォォォォォッ」
一瞬ビクッとするような雄叫び。
何だよ、あれ…………。
今までの階層主も化け物染みてたけど、あれはスケールが違う……。
『あれがベヒモスだ。みな心してかかれ』
フェルの言うとおり、あれはベヒモスなんだろう。
だけどさ、いきなりベヒモス戦なのか?
今までみたいに階層主がいるところまで進んでーって思ってたぜ。
いきなりベヒモスが出るなら、早く言ってくれって感じだぜ。
今こそネットスーパーの食材でステータス値の底上しておくべき場面じゃないか。
クソッ、今更そんなことを言っても仕方がない。
向かいにいる巨大なベヒモスが闘牛のように前足をかき上げ、今にも突進してきそうな雰囲気だ。
『来るぞ』
「グルォォォォォォォォッ」
ドシンッ、ドシンッ、ドシンッ、ドシン、ドシンッ、ドシンッ。
ベヒモスが雄叫びを上げた後、地響きを立てながらこちらに迫ってくる。
『ドラッ、スイッ、よく聞けッ! ベヒモスには体当たりなどの物理攻撃も魔法による攻撃も効きにくい。だがな、効きにくいというだけで効かないわけではない。防御が出来ぬほどの攻撃を加えればいいことだ。とにかく攻撃あるのみ。ベヒモスが倒れるまで攻撃の手を緩めるな。行くぞッ!』
『とにかく攻撃あるのみかッ、いいじゃねぇか、やってやるぜッ!』
『スイもいーっぱいビュッビュッてやってお水の魔法も使ってやっつけるー!』
フェルとドラちゃんとスイがベヒモスに向かっていった。
ドンッ―――。
『うおッ! クソッ……こいつ固すぎだぜ!』
ドラちゃんが雷魔法をまとって突っ込んでいったが、ベヒモスの固い皮に阻まれた。
ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
『あれー? 溶けないよー』
スイが得意の酸弾を撃ったが、シューっと音を立てて煙は立つがベヒモスの固い皮は溶けず、たいしたダメージも受けていないようだ。
ドッゴーンッ、バリバリバリバリィィィッ―――。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。
フェルが雷魔法と風魔法を連続して繰り出す。
「グルッ、グルォォォォッ」
ベヒモスが嫌がるように体を揺すっているけど、大きなダメージとはなっていないようだ。
『ドラッ、スイッ、攻撃の手を緩めるなっ!』
『おうよっ』
『分かったー』
ドシュッ、ドシュッ、ドシュドシュドシュッ―――。
ドラちゃんの氷魔法、先が尖った氷の柱がベヒモスに向かって撃ち出される。
しかし、氷の柱はベヒモスの固い皮によって粉々に砕かれてしまった。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
スイの酸弾が次々と当たりベヒモスの体に大量の酸がかかり、煙が立ち上る。
ザシュンッ―――。
ベヒモスの酸弾が当たり煙が立ちのぼる部分にスイのウォーターカッターが斬り付ける。
「グルォォォォーーーッ」
フェルやドラちゃん、スイの攻撃をあれだけ防いでいたベヒモスの固い皮がパックリ切れていた。
ベヒモスが前足振り上げ首を振り怒りをあらわにしている。
『ブレスだッ! ブレスを吐くぞッ!!』
フェルがいち早く気付いてそう叫んだ。
見るとベヒモスの口の中が赤々光っていた。
って、ヤバッ、俺のいる場所ってブレスの軌道上じゃねぇか。
俺はすぐさまその場を飛び退いて、ブレスの軌道上から離れた。
「グルァァァァァァァァァァッ」
ベヒモスの口から高火力の炎が放たれた。
火炎放射器のようにベヒモスの口から放たれた炎は凄まじかった。
大分離れた俺のいる場所まで熱く感じる。
あんなのが当たったら骨も残らないぜ。
ベヒモスのブレスが収まると、すかさずフェルから指示がとんだ。
『酸をかけられた皮は攻撃が通りやすくなっているようだッ! スイッ、ベヒモスに酸をたっぷりかけてやれッ! ドラと我は酸がかかった場所に攻撃だッ! ベヒモスを切り刻んでやるぞッ!!』
『おうッ』
『スイ、いっぱいビュッビュッてするー!』
ブルブル震えた後、スイがデカくなった。
そしてその巨体から大量の酸弾をベヒモスに向かって撃ち出した。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
大量に酸がかけられたベヒモスに向かって……。
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ―――。
ザスッ、ザスッ、ザスッ、ザスッ、ザスッ、ザスッ―――。
フェルとドラちゃんの風魔法が炸裂する。
ベヒモスの体が切り刻まれていった。
「グルァッ、グルァァァァァァァッ」
ベヒモスが苦しそうな鳴き声を上げるが、フェルもドラちゃんも容赦しない。
次々と風魔法をおみまいした。
『スイッ、酸弾を撃てッ!』
フェルの指示にスイがその巨体から酸弾を大量に撃ち出した。
ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ、ビュッ―――。
「グルォォォォォォォォォォォッ」
フェルとドラちゃんに切り刻まれた傷にスイの撃った酸弾の酸が入り込んだのかベヒモスの絶叫が木霊した。
ドッゴーンッ、バリバリバリバリィィィッ―――。
ベヒモスの上に青白い稲妻が落ちた。
ドッシーン。
フェルの雷魔法がとどめの一撃となり、ベヒモスの巨体が横に倒れた。
『ヤッターッ! 倒したー!』
スイがその巨体でボンボン跳ねながら喜びをあらわにしている。
『ヒャッホーッ! ベヒモス倒したぜーッ!!』
ドラちゃんも空中で回転しながら喜んでいる。
『フスンッ。当然のことよ』
フェルはドヤ顔。
「おおーっ、みんなすごいよ。あんな化け物みたいなの倒したんだからさ。やっぱみんな強いわ」
こりゃさすがにすごい。
あんな化け物どうやって倒すんだって思ってたけど、みんなが力を合わせればベヒモスも敵じゃなかったね。
というか、最後の方はみんなから手加減なしのフルボッコでベヒモスがちょっと気の毒だったよ。
まぁ、ダンジョンの魔物である以上は倒されてもしょうがないよね。
おっ、ベヒモス消えたな。
ドロップ品は何かなーっと。
特大の魔石と皮、それから……何かきらびやかに装飾された大きめの宝箱があるんだけど。
鑑定してみる。
【 ダンジョンボスの宝箱……ダンジョンボスを倒すことにより稀にドロップされる宝箱。仕掛けはない。 】
おおー、宝箱は宝箱でもダンジョンボスを倒すとドロップされるもんなんだな。
しかも仕掛けなしってのがいいじゃないか。
どれどれ早速開けてみましょ。
中には一振りの剣が入っていた。
取り出してみると……。
「うわっ、この剣重たいな」
とりあえず鑑定だ。
【 魔剣カラドボルグ……雷魔法が付与された魔剣。アダマンタイト製。 】
…………な、なんかすごいの出てきたんだけど。
ま、魔剣だってさ。
しかもアダマンタイト製って。
あわわわわわ。
こ、これ世に出したらもしかして大騒ぎ?
と、とりあえずアイテムボックスに保管だな、うん。
って、あれ?宝箱消えないな。
あっ、この宝箱もドロップ品の一つってことか。
金細工やら宝石やらで装飾されて、これだけでも価値ありそうだもんな。
『おい、さすがに腹が減ったぞ』
『確かに』
『スイもお腹減ったー』
急いでベヒモスのドロップ品の品々をアイテムボックスにしまって、みんなの方へ向き直る。
大きくなっていたスイは元の大きさに戻っていた。
「腹減ったって、ここにいてまたベヒモス出てくることないのか?」
『ダンジョンボスは倒されるとすぐには出てこないぞ。我の経験からだと、ダンジョンごとに多少違いはあるが最低でも1週間は出てこない』
へー、そうなんだ。
さすがに1000年以上生きてるといろんなこと知ってるよなぁ。
って、それは分かったんだけど、こっからどうやって地上に戻るんだ?
もしかして下りてきた分上ってかなきゃいけないとかか?
「なぁフェル、地上にはどうやって戻るんだ?」
『今までと同じく丸い模様に魔力を流すと地上に戻れるぞ』
なるほど、最下層の場合は地上に転移する仕組みなのか。
それはありがたい。
またここから上がっていくんじゃさすがに骨が折れる。
『おい、そんなことより飯を早くしろ』
へいへい。
いつもより、みんな腹減ってるみたいだな。
パッと早く作れるもんだな。
えーと、米は炊いたのがあるし……あ、確か作り置きしてたので、唯一千切りキャベツだけは残ってたんだっけ。
それなら、あれだな。
市販の塩ダレで作るねぎ塩豚丼だ。
まずはネットスーパーで、市販の塩ダレを購入。
熱したフライパンに油をひいて、オークジェネラルの薄切り肉を焼きサッと肉の色が変わったら、市販の塩ダレを加えて塩ダレを絡めながら焼いていく。
飯をよそってその上にキャベツの千切りを載せたら、焼いた肉をたっぷり載せて出来上がりだ。
お好みで白ゴマやブラックペッパーを振りかけても美味いぞ。
「はい、どうぞ」
フェルとドラちゃんとスイに出してやると、余程腹が減ってたのかみんな無言でバクバク食っていく。
すぐにみんなおかわりってことで、すぐにおかわりを作って出してやった。
『プハー、食った食った』
そう言ってドラちゃんは大の字になって寝ている。
フェルとスイはまだまだおかわりしそうだ。
俺も食っちゃおう。
塩ダレも胡椒はきいてるが、俺はさらにピリッとした辛味が欲しいからブラックペッパーを振りかけていただく。
前に買ったミル付きブラックペッパーをガリガリ回してブラックペッパーを振りかけた。
パクリ……うん、美味い。
市販の塩ダレ美味いわー。
レモンの酸味もきいてるし、塩ダレはさっぱり食えるよ。
自分でタレを作るのもいいけど、金がないときとかいろいろ材料を取り揃えるのが面倒なときは市販のタレを使うのが便利だよなぁ。
味も間違いないしさ。
好みはあれど、市販のものは不味いもんってまずないもんな。
『『おかわり』』
あーはいはい。
この後もフェルとスイは何度もおかわりしたよ。
「ふー、フェルもスイもよく食ったなぁ」
『ベヒモス戦の後だからな』
『いっぱいビュッビュッてしたからお腹空いたのー』
確かにね。
それに29階層出るときは夕暮れだったもんなぁ。
「少し休んでから、地上に行くか」
『うむ、そうだな』
って、あらら、先に食い終わってたドラちゃんがグースカ寝てら。
「あードラちゃんが疲れて寝ちゃったみたいだね」
『それならば、ここで寝て明日地上に出るか? ここは最下層だから、ダンジョンボス以外は出ないはずだ。ベヒモスが倒された今は危険はほぼないからな』
それならここで一泊してくのもいいね。
みんな少し疲れてそうだし。
「じゃ、そうするか。 布団出すから待ってて」
この日、俺たちはダンジョンの最下層で一泊した。
フェル曰く危険はないとのことで、おかげさまで久しぶりにゆっくり寝られたよ。
ダンジョンはこれで終わりです。
いよいよ次回は地上に戻ります。