第百三十五話 れっつえんじょいダンジョン
このダンジョンは人型の魔物が多いのか、17階層も16階層と同様に、11階層から15階層に出て来た魔物たちがいた。
フェルが言うにはこの下の階層もそんな感じらしい。
ただ、だんだんと上位種が出てくるようになっているようだ。
まぁ、それでもうちの子たちの敵ではないようだけど。
みんな喜々としてサクサク魔物を倒しております。
ドロップ品もかなりの数集まってる。
1番多いのは皮だけど、これがいくらくらいになるのかはまだわからない。
でも、そんなに単価が高いとは思えないけど。
まぁ、少しでも食費の足しになってくれればいいか。
17階の数部屋を回りドロップ品を回収したところで、ついに宝箱を発見した。
魔物を倒してドロップ品を回収していると、部屋の奥の壁際にポツンと白っぽい箱が置かれていた。
金の縁取りがしてあって、少し宝石の付いた装飾もされている。
「おおっ、ついに宝箱キターッ」
すぐさま開けようとして待てよと思い直す。
このダンジョンって罠とかあってけっこう意地悪い造りしてるよな。
そうなると、この宝箱にも何か仕掛けがしてある可能性が……。
とりあえず鑑定してみる。
【 宝 箱 】
開けると同時に毒ガスが出るよう仕掛けられた宝箱。
……ダメじゃん。
毒ガスって何それ、コワッ。
開けらんないじゃんかそれ。
特に俺はさ、加護があっても(小)だし。
加護(小)だと状態異常無効化の力はあっても即死効果のあるものはダメなんだよな。
毒ガスとか出てるし、これ即死効果ぽいぞ。
ここは加護が万全な皆さんお願いしますぜ。
「なぁ、この宝箱、開けると同時に毒ガスが出るってさ。俺は加護(小)だから誰か開けてくれよ」
『むぅ、仕方がないな』
フェルが開けようと宝箱に近づいたとき、ニンリル様から神託が入った。
『あーあー、異世界人聞こえるか? 妾じゃ、ニンリルじゃ。すっかり伝え忘れとったのじゃがな、お主の加護は(小)だがな、3人の女神が加護を重ねたことにより(小)であっても普通の加護と同じ状態異常無効化の力が発揮されておる。3人が同じ人間に加護を与えるなど珍しいことでのう、確認するのに少しばかり時間がかかったのじゃ。ということで、お主はちょっとやそっとのことでは死なぬから安心せい。れっつえんじょいダンジョン! なのじゃ』
…………早く言えや、駄女神め。
確認するのに時間がかかってたって、ニンリル様のことだから確認してから言うの忘れてたって落ちだろ?
それになにがレッツエンジョイだよ。
ったく、どこでそんな言葉覚えてくんだよ。
「ああ、フェル、俺が開けてみるわ。何か今ニンリル様から神託があって、俺の加護は(小)だけど3人の女神様から加護もらってるから、フェルたちと同じ状態異常無効化の力が発揮されてるから大丈夫だってさ」
『ぬ、そうか。なら頼むぞ』
俺は宝箱に近付いていった。
特に鍵はかかっていなく、留め金で固定されているだけだ。
意を決して留め金を外して宝箱を開けた。
途端にシューッと紫っぽい霧状のものが噴き出した。
「ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ」
これが毒ガスなんだろうけど、少し煙いだけで特に何ともなかった。
状態異常無効化があって良かったぜ。
いつもはうざいと思う女神様たちだが、この時ばかりはちょっと感謝した。
宝箱の中を覗くと、中に入っていたのは薄汚れた袋だった。
「何だこりゃ?」
薄汚れた袋を取り出すと、宝箱は消えていく。
鑑定してみると【マジックバッグ(小)……麻袋(大)が5つ入る大きさのマジックバッグ】と出た。
麻袋(大)って確か縦横1メートルくらいの麻袋だよな?
あれが5つってことはまぁまぁ入るのか?
俺はアイテムボックスがあるから不便はないけど、無い人にとっちゃ喉から手が出るほど欲しいものかもしれない。
薄汚れてて見た目は悪いし大きさも(小)だけど、けっこうイイ値段で買取してもらえそうだ。
そう考えると、最初の宝箱にしてはけっこういいものが手に入ったかもしれないな。
マジックバッグをアイテムボックスにしまった。
次の部屋に向かうと、冒険者が戦闘中だったからそのまま通り過ぎて最後のボス部屋へ。
中を見るとオークキングを筆頭にその周囲を囲むオークジェネラル、そしてその周りには無数のオークたちが。
『フンッ、オークか。オークなどどれほど数がいようと我らの敵ではないわ。行くぞ』
『おうっ』
『スイもいっぱい倒すよー』
そう言ってフェルとドラちゃんとスイはオーク軍団に突っ込んでいった。
そしてオーク軍団を蹂躙していく。
俺は後ろで構えて、みんなが撃ち漏らしたはぐれオークを倒した。
オーク軍団が消えるのに然程時間はかからなかった。
オークたちが落とした肉やら皮やら睾丸やらを拾っていく。
ちなみにオークキングは睾丸を落としていった。
ばっちいけど当然拾ったよ。
これ必ず子が授けられる精力剤の材料になるみたいでけっこう高値だからね。
前にオークキング買取してもらった時に聞いたから覚えてるぜ。
その後の18階層もフェルたちにとっては苦も無くサクッと魔物を倒してた。
もちろんドロップ品はすべて回収したよ。
どんどんといろんな魔物の皮が溜まっていくな。
残念ながら18階層は宝箱がないままボス部屋に。
ここは肌が赤っぽい特殊個体のオーガを筆頭にオーガとオークの混成部隊だった。
ここもけっこうな数いたけど、みんなにとっちゃどうってことないようですぐに戦闘は終わったよ。
19階層も順調というかサクサクッと魔物を倒してドロップ品を回収していく。
5つめの部屋に入り中にいた魔物を倒しきったところで宝箱を発見した。
「おっ、宝箱があるぞ」
また仕掛けがあるかもしれないからな、鑑定だ。
【 ミミック 】
宝箱に擬態したダンジョン産の魔物。倒すと稀に装飾された宝箱をドロップする。
おぅ、これ宝箱じゃなく魔物だったよ。
「これ、宝箱じゃなくって魔物だってさ」
『ああ、ミミックか』
フェルは知ってるみたいだね。
『その魔物は開けようとしたときに襲ってくるぞ』
開けようとしたときか、それなら近づいてミスリルのショートソードでいけるか?
「それなら、俺が倒してみるよ」
そっと近づいていって……。
「せいっ」
「グゲェッ」
スパンッと一刀両断。
本当にこのミスリルのショートソードは良く切れるぜ。
ミミックが消えた後には、小ぶりの宝石箱のようなものがあった。
「おお、ドロップ品落としてった。落とすの稀みたいなのに」
手にとって見ると、小ぶりだが宝石や金の装飾が施されていてなかなか綺麗なものだ。
これもいい値で買取してくれそうだな。
俺はホクホク顔で宝石箱をアイテムボックスにしまった。
その後は2つの部屋を回り、ボス部屋へ。
そこにはオーガキングを中心としたオーガとトロールの混成部隊がいた。
2メートルくらいあるオーガと更に大きいトロールがけっこうな数いるのを見たら腰が引けた。
そんな俺をよそに、フェルもドラちゃんもスイも嬉々として突進してったよ。
もちろんあっさり撃破。
皮や魔石のドロップ品を拾いながらふと思った。
「そう言えばまだダンジョン入って1日目なんだけど、次はもう20階層なんだよなぁ。みんな強いからサクサク進むな」
『まぁ、我らは強いからな。ここらの階層の魔物では相手にならんだろう』
『ふはは、俺の強さ見直したか? じゃんじゃん倒してくぜー』
『あるじー、スイ強いー? スイ、もっともーっといっぱい倒すよー』
みんなまだまだ元気で超ヤル気です。
俺は張り切るみんなを見て苦笑いした。
俺、ダンジョン探索に10日程度の日程予定してたんだけどな。
もしかしなくても、そんなかかんなそうな気がしてきたぜ。
元気一杯のみんなとともに20階層、21階層と探索をすすめた。
どちらの階層とも16階層から19階層と同じで、11階層から15階層に出て来た魔物たちが混成して出てきた。
フェルが言ってたとおり上位種が出てきたけど、みんなにサクッと始末されていた。
20階層と21階層でも多くのドロップ品を獲得して、俺たちは22階層へと下りていった。
今1番先行している冒険者パーティーが探索中だという22階層へと。